同社は、がん疾患、リウマチなどの免疫炎症疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患をはじめとする、これまで有効な治療法がない分野での画期的な低分子の新薬を研究開発し、創薬パイプラインを大手製薬企業に導出すること(特定の医薬品、医薬品候補化合物を開発、販売するために必要な知的財産権について、相手方による権利使用を許可し収益を計上すること)を目指しているバイオベンチャー企業。ブロックバスター候補の導出によるライセンス収入獲得が同社最大の目標である。
Life Sciences Tools & Services
要約
事業概要
カルナバイオサイエンス株式会社(以下、同社)は、がん疾患、リウマチなどの免疫・炎症疾患をはじめとする、これまで有効な治療法がない、アンメット・メディカル・ニーズの高い分野での画期的な低分子の新薬を研究開発し、創薬パイプラインを大手製薬企業に導出すること(特定の医薬品、医薬品候補化合物を開発、販売するために必要な知的財産権について、相手方による権利使用を許諾し収益を計上すること)を目指しているバイオベンチャー企業。ブロックバスター(年商10億ドル以上の大型医薬品)候補の導出によるライセンス収入獲得が同社最大の目標である。
同社の特徴は、細胞内の情報伝達をつかさどるキナーゼと呼ばれる酵素を標的とした新薬の研究開発を行っていることである。同社は、がんやリウマチなどの疾患では、それらの細胞の中にある特定のキナーゼが異常に信号を伝えることが原因となっていることに着目し、創薬事業においてその異常なキナーゼの信号を抑えるキナーゼ阻害薬を研究開発している。キナーゼ阻害薬は、従来の医薬品と比べて治療効果が高く副作用が少ない分子標的薬の1つである。また、キナーゼ阻害薬は低分子で化学合成可能であることから、同じ分子標的薬である抗体医薬との比較で、製造コストおよび患者の通院に伴う身体的負担が抑えられることが主な特長である。
キナーゼ阻害薬を研究開発している製薬企業やバイオベンチャーは同社以外にも多数存在するが、同社はキナーゼの製造・販売とその阻害薬の研究を同時に行っていることに大きな特徴があり、他社に例がない。具体的には、キナーゼ阻害薬の創薬事業のほかにも、キナーゼ阻害薬の研究プロセスに必要となるキナーゼタンパク質(事業内容にて詳述)の製造・販売および、キナーゼ阻害効果を調べる受託試験(プロファイリング・スクリーニング)サービス等を他の製薬企業や研究機関へ提供する等の創薬支援事業を行っている。
同社のビジネスモデルは、日本ではめずらしいが北米のバイオテック企業では一般的で、創薬支援事業において生み出したキャッシュ・フローを、創薬事業の先行投資(研究開発)に振り向けることにその特徴がある。同社はキナーゼタンパク質のメーカーであり、トップクラスの品揃えを誇る。同社の主力ユーザーは、米国のGilead Sciences, Inc.(NASDAQ、GILD、以下、ギリアド社)やPfizer Inc.(NYSE、PFE、以下、ファイザー社)などの数多くのグローバルプレイヤーである。これが示しているように、同社のキナーゼタンパク質の品質とプロファイリング能力に対する信頼性は高い。こうしたキナーゼに関する豊富な知見と創薬基盤技術をもとに、同社はキナーゼ阻害薬の研究を行っている。
2019年6月24日、同社はギリアド社との間で、同社が新規がん免疫療法として研究開発中の低分子化合物プログラムに関するライセンス契約を締結した。同社は、次世代の創薬標的として脂質キナーゼを標的とした創薬プログラムの開発に取り組んできたが、その成果として、ギリアド社に当該プログラムの開発・商業化にかかる世界での独占的な権利を供与することとした。その対価として、同社は契約一時金20百万米ドル(約2,100百万円)を受領したほか、開発状況や上市などの進捗に応じて追加的に最大で450百万米ドル(約47,200百万円)を受け取ることになる。加えて、当該プログラムにより開発された医薬品の上市後の売上高に応じたロイヤリティを得る。また同社は、ギリアド社による当該プログラムの開発をサポートするため、同社が開発した脂質キナーゼ阻害剤に関する創薬基盤技術をギリアド社に一定期間、独占的に供与する。2021年12月にはギリアド社が次の開発ステージに進めることを決定し、最初のマイルストーン1,128百万円を受領した。
同社の導出戦略の特徴は、日本やアジアなど限定された地域におけるライセンスの供与ではなく、全世界を対象としたグローバルな導出契約を締結することにある。実際、日本のバイオベンチャーで、このようなグローバルな導出契約の実績を有している企業は数少なく、その多くが日本や中国、韓国、台湾など、東アジア地域でのライセンス供与である。同社は、上記のギリアド社などの北米企業と導出契約を締結している点が注目できる。なお、同社の吉野公一郎社長は、これまで導出の条件として、契約一時金とマイルストーン収入の合計で10,000百万円以上が最低条件であるとコメントしている。
BTK阻害剤AS-0871は、2020年2月にオランダ当局及び倫理委員会により臨床試験実施の承認を受け、2020年8月に、健康成人を対象としたフェーズⅠ臨床試験における被験者への投与が開始された。フェーズⅠ臨床試験では、単回投与用量漸増試験(SAD試験)と反復投与用量漸増試験(MAD試験)の2つを実施している。2020年中に健常人を対象としたSAD試験の投与が完了し、すべての用量で安全性および忍容性が確認された。この試験結果を基に、2021年12月にMAD試験*のうち、新たに開発したカプセル製剤を用いたBA(バイオアベイラビリティ**)パートを開始した。今後タブレット製剤を開発し、カプセル製剤との比較も行う計画である。
2022年2月には、同社が創製した新規STINGアンタゴニストの全世界における開発及び商業化の権利を、米国ブリッケル・バイオテック社(Brickell Biotech, Inc.(NASDAQ、BBI)、以下、ブリッケル社)に導出する契約を締結した。これに伴い契約一時金2百万米ドル(227百万円)と、開発や申請・承認などの進捗に応じたマイルストーン収入および販売マイルストーンを最大で258百万米ドル(約28,300百万円、100円/米ドル換算)受領する。さらに同社は、上市後の売上高に応じた1ケタ半ばから10%の段階的ロイヤリティを受領することとなる。
業績動向
2021年12月期実績は、売上高2,018百万円(前期比78.0%増)、営業損失531百万円(前期は1,057百万円の損失)、経常損失523百万円(同1,077百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は534百万円(同1,111百万円)となった。1株当たり当期純損失は42.10円、配当金は無配であった。創薬事業はギリアド社からマイルストーンを受領したことで、大幅な増収となった。創薬支援事業では国内売上が低調で、計画未達となった。
2022年12月期会社予想は、BTK阻害剤AS-1763の中華圏における開発・商業化に関する権利の導出先であるバイオノバ社から、同年3月にマイルストーン58百万円を受領したことから、2022年5月10日付で上方修正された。売上高1,186百万円(前期比41.2%減)、営業損失1,672百万円(前期は531百万円の損失)、経常損失1,685百万円(同523百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失1,740百万円(同534百万円の損失)、1株当たり当期純損失は128.46円。創薬事業では新規STINGアンタゴニストの導出に伴う契約一時金227百万円と、創薬支援事業の売上900百万円を見込んでおり、創薬支援事業の業績予想に変更はない。
同社の強みと弱み
SR社では、同社の強みを、キナーゼに関する豊富な知見、ゼロから医薬品候補化合物を創製できる高い技術力、アカデミアとのネットワーク、の3点と考えている。一方、弱みに関しては、人的資産の分散、同社が開発した薬剤における臨床実績が少ないこと、にあると考えている。
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
直近更新内容
譲渡制限付株式報酬としての新株式発行
カルナバイオサイエンス株式会社は、 譲渡制限付株式報酬としての新株式発行に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、2022年4月21日開催の取締役会において、譲渡制限付株式報酬として新株式発行を行うことを決議した、と発表した。譲渡制限付株式報酬制度の導入については、同社の取締役および従業員を対象として、同社の企業価値の持続的な向上を図るインセンティブの付与、および株主との価値共有を目的として、2018年2月に決議されている。今回同社は、今後3年間の譲渡制限付株式報酬として、割当予定先である同社の取締役4名および従業員6名に対し、金銭報酬債権を付与し、普通株式42,900株の割り当てを決定した。議決権、配当等については、普通株式と同一となる。株式割当契約には、譲渡制限の解除や無償取得などの条件が含まれる。詳細はリリースを参照。
(監査等委員である取締役および社外取締役を除く)
導出した新規DGKα阻害剤に関するギリアド社の発表について
カルナバイオサイエンス株式会社は、導出した新規DGKα阻害剤に関するギリアド社の発表に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
米国ギリアド社は、2022年4月14日(現地時間)に開催した投資家向けイベント「Oncology Deep Dive」において、同社が2019年6月にギリアド社に導出した新規DGKαキナーゼ阻害剤(ギリアド社における開発コード:GS-9911)を、ファースト・イン・クラス*になる可能性のある新薬候補化合物として紹介した。同社は、同社の創薬部門が創製した、DGKαキナーゼを標的としたがん免疫療法の低分子化合物プログラムに関する全世界における開発・商業化の独占的な権利を、ギリアド社に供与している。
同社はギリアド社から契約一時金20百万米ドル(約2,100百万円)を受領したほか、開発状況や上市などの進捗に応じたマイルストーン・ペイメントを最大で450百万米ドル(約47,200百万円)を受け取ることになっている。2021年12月には、ギリアド社が次の開発ステージに進めることを決定し、最初のマイルストーン・ペイメント1,128百万円を受領した。なお、同社によれば、本件が2022年12月期の連結業績予想に与える影響はない。
BTK阻害剤AS-1763に関するアメリカ癌学会年次総会での発表
カルナバイオサイエンス株式会社は、BTK阻害剤AS-1763に関するアメリカ癌学会年次総会での発表に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、2022年4月11日(現地時間)に米国ルイジアナ州ニューオリンズで開催中のアメリカ癌学会年次総会(AACR Annual Meeting 2022)において、同社が開発中の次世代型BTK阻害剤AS-1763の創薬研究およびフェーズ1臨床試験SADパートの結果に関する発表を行った、と発表した。
同社は、リード化合物から構造最適研究を実施してAS-1763を創出した。AS-1763は野生型およびC481S体制変異を持つBTKの両方を強く阻害し、高いキナーゼ選択性を有する経口可能な化合物である。イブルチニブの長期間の使用により薬剤耐性が発生したり副作用のある慢性リンパ性白血病(CLL)などのB細胞リンパ腫患者にも有効な治療薬として、開発を進めている。フェーズ1臨床試験を行った結果、有害事象の発現はなく、再発/難治性CLLおよびB-cell NHL患者を対象としたフェーズ1b臨床試験において、AS-1763タブレット製剤の1日2回投与レジメンが推奨された。詳細はリリースを参照。
AS-1763(BN102)の中国におけるIND申請承認およびマイルストーン・ペイメント受領
カルナバイオサイエンス株式会社は、AS-1763(BN102)の中国におけるIND申請承認およびマイルストーン・ペイメント受領に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、ライセンス導出先の中国バイオノバ社が、AS-1763 (バイオノバ開発番号BN102)の新薬臨床開始申請(IND申請)について、中国国家薬品監督管理局(NMPA)から治験開始の承認を取得したことを公表した、と発表した。本IND申請承認により、バイオノバ社は中国において、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)およびB細胞性非ホジキンリンパ腫(B-cell Non-Hodgkin Lymphoma)の患者を対象とした臨床試験の実施が可能となった。
同社は2020年3月に、バイオノバ社とAS-1763(BN102)の中華圏における開発・商業化に関する権利についてライセンス契約を締結しており、本IND申請承認を受けてバイオノバ社からマイルストーン・ペイメント50万米ドルを受領することとなった。当マイルストーン収入は2022年12月期第1四半期に計上されるが、同年2月10日に公表した2022年12月期の連結業績予想には含まれていない。
AS-1763は、同社が創製した、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を標的とする高選択的かつ強力な阻害剤である。同社はAS-1763について、中華圏を除く全世界における権利を保持しており、現在オランダにおいて第1相臨床試験を実施している。同社は、2022年12月期下期に、慢性リンパ性白血病およびB細胞リンパ腫の患者を対象とした第1b相臨床試験を米国で実施する計画で、第2四半期中にIND申請を米国FDAに提出する予定である。
事業計画及び成長可能性
カルナバイオサイエンス株式会社は、事業計画及び成長可能性に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年12月期第1四半期実績(2022年5月10日発表)
2022年12月期第1四半期(2022年1月~3月)実績
創薬事業において、2022年2月にブリッケル社とSTINGアンタゴニストに関するライセンス契約を締結して契約一時金227百万円を受領し、同年3月に中国バイオノバ社からマイルストーン収入58百万円を受領した。創薬支援事業は、自社開発品のキナーゼタンパク質が、北米及び中国において好調であった。
創薬支援事業が好調に推移していること、創薬事業で売上計上したことから売上総利益が増加し、営業利益と経常利益は黒字化した。研究用機器の減損により特別損失15百万円を計上したことで、四半期損失となったものの、赤字幅は縮小した。
創薬事業
当第1四半期には、2022年2月に締結したブリッケル社とのSTINGアンタゴニストに関するライセンス契約を締結したことに伴い、契約一時金227百万円を受領した。また、中国におけるAS-1763のIND承認取得を受けて、バイオノバ社から同年3月にマイルストーン収入58百万円を受領した。臨床試験費用を中心に研究開発へ積極的な投資を行い、営業損失となったが、赤字幅は縮小した。
創薬支援事業
キナーゼタンパク質の販売、アッセイ開発、プロファイリング・スクリーニングサービス及びセルベースアッセイサービスの提供などにより、売上高は268百万円となった。利益率の高いキナーゼタンパク質が、北米及び中国において好調であった。
2019年6月に締結したギリアド・サイエンシズ社との新規がん免疫療法の創薬プログラムに関するライセンス契約に関連し、同社による当該プログラムの開発をサポートするため、同社の脂質キナーゼ阻害剤に関する創薬基盤技術を一定期間、独占的に同社に供与することになっており、これに関連した売上が含まれている。地域別売上高の内訳は、次の通りである。
2022年12月期会社計画
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年12月期会社予想は、BTK阻害剤AS-1763の中華圏における開発・商業化に関する権利の導出先であるバイオノバ社から、同年3月にマイルストーン58百万円を受領したことから、2022年5月10日付で上方修正された。
2022年12⽉期通期業績予想(2022年5⽉10⽇発表)
なお、同社はロシアおよびウクライナでの販売・研究開発は行っておらず、同社によれば、当第1四半期におけるロシア・ウクライナ情勢の変化による直接的な影響はないものの、欧州における物流の混乱により、欧州向けの製品出荷に影響が出ている。また、中国において新型コロナウイルス感染症の再拡大で外出制限が続いており、4月以降の出荷に影響が出ているとのことである。欧州および中国の顧客や代理店からの受注は順調であり、輸送手段や輸送ルートの変更などにより、第2四半期以降の売上への影響を最小限に抑える対策を講じている。
創薬事業
2022年12月期における創薬事業の売上は、マイルストーン収入と一時金収入により、286百万円を予想している。今期の予想には、2022年2月にSTINGアンタゴニストに関するライセンス契約を締結した、米国ブリッケル・バイオテック社との契約一時金と、同年3月にバイオノバ社から受領したマイルストーン収入を含んでいる。BTK阻害剤AS-0871およびAS-1763とCDC7阻害剤AS-0141の臨床試験費用として積極的に先行投資を行うことから、2022年12月期の創薬事業に係る研究開発費は、2,033百万円(前年比18.7%増)を計画している。
パイプラインの状況
AS-0871(BTK阻害剤)
2020年8月からオランダにおいてフェーズⅠ臨床試験を開始し、2020年12月中に健常人を対象とした単回投与用量漸増(SAD)試験が完了、2021年7月9日に治験報告書を受領した。同社によれば、すべての用量で安全性および忍容性を確認し、薬物動態も良好であった。加えて、AS-0871が炎症・免疫をどの程度抑えられるかとの予備検討を実施するため、投与後の被験者の血液を用いて検討した。その結果、経口投与において炎症性免疫疾患の治療薬としての効果が期待される抑制効果が示された、と同社は発表している。
この試験結果を基に、同社は反復投与用量漸増(MAD)試験のうち、新たに開発したカプセル製剤を用いたBA(バイオアベイラビリティ)パートを2021年12月に開始した。タブレット製剤も開発中であり、カプセル製剤との比較も行う計画である。AS-0871のライセンス活動について同社は、MAD試験の3つのパート*(BAパート、MADパート、SPTパート)のデータをもって、本格的な活動を行う方針である。
AS-1763(BTK阻害剤)
2020年中に前臨床試験を完了させ、2021年1月にCTA(欧州における臨床試験許認可申請)の申請書類をオランダ当局に提出した。オランダ当局による審査が完了し、2021年2月18日付けで倫理委員会がAS-1763の臨床試験計画を承認した。これを受けて、同社は2021年4月、オランダにおいて健康成人を対象としたフェーズⅠ臨床試験の単回投与用量漸増試験(SAD)部分の投与を開始し、延べ56人の被験者を対象に、同年7月中にSADパートのすべての投与を完了し、安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルを確認している。同社は、2021年12月に新製剤を用いたBAパートを開始した。これらの結果に基づいて、慢性リンパ性白血病及びB細胞リンパ腫の患者を対象に、2022年からフェーズⅠb試験(反復投与用量漸増試験)を米国において実施する予定である。試験の実施に必要なIND(新薬臨床試験開始届)の提出に向けて、Pre-IND(FDAとの事前相談)を実施、その助言に基づいてIND申請を行った。
同社は中国圏の権利を導出したバイオノバ・ファーマシューティカルズ(BioNova Pharmaceuticals (Shanghai) Ltd.(非上場)、以下、バイオノバ社)が、今後中国において行う臨床試験から得られる治験データを活用して、効率化を図る計画である。バイオノバ社は中国における臨床試験の実施について、2022年1月に中国国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration, NMPA)にIND申請を提出し、承認取得を受けて同年3月にマイルストーン収入を受領した。中華圏における開発の進捗に伴い、将来的にはバイオノバ社から最大で約205百万米ドル(約21,500百万円)のマイルストーン収入と、上市後の売上に応じた最大2桁%の段階的なロイヤリティ収入を同社は見込んでいる。
AS-0141(CDC7阻害剤)
日本国内における、固形がん患者を対象としたフェーズⅠ臨床試験のプロトコルに対するPMDAの調査は、2021年2月に終了した。同社は同年6月に、切除不能進行・再発または遠隔転移を伴う固形がん患者を対象としたフェーズⅠ臨床試験を開始した。フェーズⅠ臨床試験は用量漸増パートと拡大パートの2段階で行われ、安全性や最大耐用量などを評価するとともに、フェーズⅡ臨床試験の推奨用量を決定する計画である。同社によれば、これまでの症例で用量制限毒性は発現しておらず、コホート5(容量レベル5、250㎎BID)に移行している。
創薬支援事業
2022年12月期における創薬支援事業の売上は、安定的な売り上げの維持を図り、900百万円を見込んでいる。利益面では、新製品・サービスの開発費用は一定程度あるものの、安定的な利益を確保する計画である。地域別では、市場規模が大きくバイオベンチャーが次々と誕生するなど、成長を続ける北米における中期的かつ持続的な売上増と、日本国内における売上の維持拡大を同社は重視している。また、その他地域において急拡大している中国の売り上げ拡大にも注力していく。地域別の売上計画は、以下の通り。
同社の脂質キナーゼ阻害剤に関する創薬基盤技術を一定期間、独占的にギリアド社に供与することになっており、これに関連した売上も含まれている。北米では、ギリアド社向けの売上に加え、新興バイオベンチャーからキナーゼやNanoBRET™の受注増が見込まれる。
製品別では、同社のみが販売している機能性キナーゼタンパク質製品のビオチン化タンパク質や、変異体キナーゼタンパク質の品揃えをさらに強化する方針である。プロメガ社のNanoBRET™テクノロジーを用いて細胞内でのキナーゼ阻害剤の作用を評価する受託試験サービスは、ターゲットとなるキナーゼ数を追加し、サービスを拡大させる計画である。さらに、同社の顧客はがんの研究グループの比重が高いとの認識から、免疫炎症、中枢神経等、他の疾患領域の研究者へも引き続き拡販を図り、売上の拡大を図る。
創薬支援事業の研究開発では、新たなキナーゼタンパク質製品の開発ならびにキナーゼタンパク質やプロファイリング・スクリーニングサービスの品質と作業効率の向上が主要なテーマとなっている。一層の品質向上に取り組むとともに、顧客ニーズに基づく新製品の開発、収益力の強化を目指した作業工程の改善を図る。2022年12月期の創薬支援事業の研究開発費は、新規製品・サービスの開発及び既存製品・サービスの品質向上を目的として、133百万円(前年比3.9%増)を予定している。
資金調達
同社は、2019年7月に発行した行使価額修正条項付き第18回新株予約権(第三者割当て)について、残存する新株予約権の全部を取得するとともに、取得後直ちに本新株予約権の全部を消却することを発表した。取得および消滅する新株予約権は373個、取得価額は3,080,234円(新株予約権1個あたり8,258円)。第18回新株予約権については、同社の株価が下限行使価額である1,683円を下回って推移していたことから行使が進んでいなかった。第18回新株予約権の発行によって調達した資金については、BTK阻害剤(AS-0871およびAS-1763)の前臨床試験費用及び臨床試験費用、ならびに新規パイプラインの創製に充当された。
第18回新株予約権の消却と同時に、第19回新株予約権の発行と、割当予定先との第三者割当て契約の締結を発表した。資金調達の目的は、2つのBTK阻害剤(AS-0871およびAS-1763)とCDC7阻害剤AS-0141の臨床試験費用、ならびに新規パイプラインの創製および導入のための費用に充当することである。当初行使価額に基づく資金調達額は約3,600百万円(差引手取概算額)、潜在株式数は2,487,300株となる。今回調達する資金の使途については、2022年1月から2023年12月までの2年間で、開発化合物の臨床試験に2,211百万円、新規パイプラインの創製および導入に1,388百万円、としている。
割当先である米国の証券会社Cantor Fitzgerald & Co. (非上場)は、第19回新株予約権の行使により取得した同社株式を海外機関投資家に売却するが、同社の事前の書面による承諾がなければ市場での売却が禁止されているという特徴がある。このため、必要な資金を調達しながら株価への影響を抑制するとともに、海外投資家からの投資を同社は期待している。2022年1月末時点における未行使の新株予約権は、14,978個(1,497,800株)である。
過去の会社予想と実績の差異
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
**2014年12月期~2016年12月期は期初業績予想を公表していない。
2020年12月期までの同社の期初予想と実績との乖離は、創薬事業におけるライセンス契約に係る収入の有無と、創薬支援事業における見通しの難しさによるものである。ライセンス契約に係る売上高については、まだ上市した製品がないことから、契約一時金かマイルストーン収入に限られるが、期初時点で事前に予想することは困難である。また、創薬支援事業の売上は、納品までのリードタイムが短いものが多く、顧客の研究開発の進捗に左右される。
2021年12月期については、第4四半期にギリアド社からマイルストーンを受領したことで、売上高は期初予想を大きく上回って着地した。営業利益については、マイルストーン収入に加え、創薬支援事業において利益率の高いキナーゼタンパク質の売上が増加したことも、赤字幅の縮小に寄与した。
創薬パイプライン
主要パイプラインの概況
活況を呈する分子標的薬の研究開発
世界の製薬業界では、低分子のキナーゼ阻害薬を含めた分子標的薬の研究開発は活況を呈している。その成果として、FDAにより承認された新薬のうちBreakthrough Therapy(画期的治療薬)の指定を受けたものが近年増加傾向にあり、有効性の高い新薬の承認が相次いでいる。特に、がん領域においては、免疫チェックポイント阻害薬の相次ぐ承認や適応疾患領域の拡大に加え、免疫チェックポイント阻害薬とキナーゼ阻害薬などとの併用療法による治験が活発に行われており、がんを標的とした分子標的薬の研究開発から画期的な新薬が生み出されることが期待されている。
ギリアド・サイエンシズへの導出
新規がん免疫療法の創薬プログラムの権利を供与
同社は、2019年6月に米国ギリアド社と、同社が研究開発した新規がん免疫療法の創薬プログラムの開発・商業化にかかる全世界における独占的な権利を供与する契約を締結した。同社はその対価である契約一時金20百万ドル(約21億円)を2019年12月期第2四半期に計上した。
同社は今後、開発状況や上市などの進捗に応じて追加的に最大で450百万米ドル(約472億円)のマイルストーンペイメントを受け取ることとなり、当該プログラムにより開発された医薬品の上市後の売上高に応じたロイヤリティを受領する。また、上述のライセンス契約とは別に、ギリアド社による当該プログラムの開発をサポートするために、同社が開発した脂質キナーゼ阻害剤に対する創薬基盤技術を有償で、ギリアド社に一定期間独占的に供与する。
AS-0141(CDC7阻害剤)
AS-0141は、同社が創製した選択的で強力にCDC7キナーゼを阻害する経口投与可能な低分子化合物である。様々ながん種の細胞の増殖を強く阻害し、各種ヒト腫瘍移植動物モデルにおいて、優れた抗腫瘍効果を示している。
同社はCDC7阻害剤AS-0141に関して、2016年5月26日付でSierra Oncology, Inc.(NASDAQ、SRRA、以下、シエラ・オンコロジー社)とライセンス契約*を締結していた。しかし、シエラ・オンコロジー社がmomelotinib(モメロチニブ)のフェーズⅢ臨床試験に経営資源を集中的に投資する決定を行ったことから、同社は2020年6月25日付でシエラ・オンコロジー社とのライセンス契約を終了し、同剤の開発・販売・製造に関する全権利を再取得した。AS-0141は、シエラ・オンコロジー社によって、米国におけるIND申請(新薬臨床試験開始届)が2018年12月期第3四半期に完了していた。同社は、シエラ・オンコロジー社が多額の研究開発費を投じて実施した全ての前臨床試験**データ、原薬及び治験薬等を譲り受けて解析を行い、米国での新型コロナウイルスの感染状況などを考慮し、日本国内で臨床試験を行うこととした。先行品の臨床試験成績及び科学的エビデンスに基づき、同社はより成功確度の高い新たな開発戦略を策定したとしている。
同社は固形がん患者を対象に、世界で初めて人に投与するファースト・イン・ヒューマン試験としてフェーズⅠ臨床試験の治験計画届を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、2021年2月にPMDAによる調査が終了しており、同社は同年6月に、切除不能進行・再発または遠隔転移を伴う固形がん患者を対象としたフェーズⅠ臨床試験を開始した。フェーズⅠ臨床試験では、安全性や最大耐用量などを評価するとともに、第Ⅱ相試験の推奨用量を決定する計画である。
CDC7キナーゼ阻害剤
CDC7(cell division cycle7)は、セリン/スレオニンキナーゼの一種であり、細胞周期において染色体複製開始の制御に重要な役割を果たしている、がん細胞では、細胞周期の制御に異常をきたしているため、CDC7を阻害すると、不完全なDNA複製が引き金となって、染色体の不安定化を引き起こし、がん細胞に細胞死を誘導する。一方で、正常細胞は、細胞周期の制御が正常であるため、CDC7活性が阻害されても細胞は死ぬことはなく、この点からCDC7阻害剤は非常に副作用の少ない新しい治療薬になると期待されている。近年、様々ながんでCDC7が過剰発現していることが報告されており、CDC7阻害薬は、がんの新しい治療薬として期待が寄せられている。
BTK阻害剤
同社では、2つのBTK阻害薬プログラムが臨床試験段階にある。
BTK(Bruton’s Tyrosine Kinase:ブルトン型チロシンキナーゼ)は、抗体を作るB細胞*1および抗原を認識するマクロファージ*2のシグナル伝達に重要な役割をしていることが知られている。関節リウマチなどの自己免疫疾患は、自己の組織に対する異常な免疫応答によって引き起こされる炎症が原因と考えられている。BTK阻害薬はそうした炎症の過程で活性化されるマクロファージやB細胞のシグナル伝達を直接阻害するため、既存薬とは全く異なる作用機序を持つ新規関節リウマチ治療薬として期待されている。
BTKは、血液がんの重要な治療標的として認識されている。世界で最初に承認され、2013年に発売されたBTK阻害剤であるイブルチニブは、白血病の治療薬として使用され、その高い治療効果が示されている。2019年の売上高は5,600百万米ドル、2020年には8,400百万米ドルに達している。また、2017年にはアカラブルチニブが白血病治療薬としてアストラゼネカ社より発売され、2019年の売上高は160百万米ドル、2020年には520百万米ドルに達している。
イブルチニブは、BTKの481番目のシステイン残基(C481S)に共有結合することでBTKの酵素活性を阻害しているが、最近の研究から、一部の患者で、このC481Sに変異が生じてイブルチニブ耐性になっていることが報告されている。このC481S変異は、イブルチニブだけでなく、開発が進んでいる第2世代の共有結合型BTK阻害剤の阻害活性も低下させると考えられていることから、非共有結合型のBTK阻害剤の開発が非常に望まれている。また、イブルチニブはBTK以外にも他のキナーゼを阻害することが知られており、報告されている副作用の一部はこのキナーゼ選択性が原因であると考えられている。
2019年1月に、非共有結合型BTK阻害剤LOXO-305を含むキナーゼ阻害剤を有する米・Loxo Oncology社が、米イーライリリー社に約8,000百万米ドル(当時約870,000百万円)で買収された。また、2019年12月には非共有結合型BTK阻害剤ARQ531を開発中の米ArQue社が、米メルク社に約2,700百万米ドル(当時約290,000百万円)で買収されたことから、非共有結合型BTK阻害剤の市場価値は非常に高いと同社は考えている。
臨床開発中の非共有結合型BTK阻害薬の主な競合薬
Fenebrutinib(GDC-0853)
開発:ロシュ/ジェネンテック
臨床試験:フェーズⅢ・多発性硬化症適応
AS-0871の競合薬候補。2021年7月末時点で、慢性特発性蕁麻疹を標的疾患とした、開発中の非共有結合型BTK阻害剤は存在しない。
ARQ531
開発:メルク(ArQule)
臨床試験:フェーズⅡ
AS-1763の競合薬候補。
LOXO-305
開発:Loxo/イーライリリー
臨床試験:フェーズⅢ
AS-1763の競合薬候補。
J&J社にライセンスを供与し、後に返還
同社は、過去に、BTK阻害薬プログラムに関するライセンス(全世界での独占的な開発・販売権)をJ&J社(ヤンセン社)に供与した後に、ヤンセン社における戦略上の理由により、その権利の返還を受けた経緯がある(「ところで」を参照:供与は2015年6月、終了は2016年8月)。戻ってきたあと、同社では本プログラムの開発を継続し、2017年5月に、前臨床試験段階の創薬パイプラインとして再掲載した。
ヤンセン社においては、低溶解度のため、毒性試験において十分な安全域を取って評価することが難しいという開発上の課題があり、ヤンセン社の想定より時間がかかるということであった。しかし、同社において様々なフォーミュレーション技術を検討することで溶解度が大幅に向上し、毒性試験の実施が可能となった。
AS-0871(非共有結合型BTK阻害剤)
AS-0871は、同社が創製した非共有結合型BTK阻害剤であり、BTKに対して非常に高い選択性を示すことから、現在、免疫・炎症疾患を対象に開発を進めている。
2020年8月にフェーズⅠ臨床試験を開始
AS-0871は、GLP基準に基づく各種の前臨床試験を終え、2019年12月にオランダ当局にCTA(Clinical Trial Application、臨床試験許認可申請)を提出し、2020年2月にオランダ当局及び倫理委員会により臨床試験実施の承認を受けた。これにより、オランダでの同社初となる自社臨床試験を開始した。当初は2020年12月期第1四半期にフェーズⅠ臨床試験を開始する予定であったが、欧州における新型コロナウイルス感染症の拡大により治験開始が延期され、2020年8月25日に、健康成人を対象とした被験者への投与がオランダで開始された。第I相臨床試験では、安全性、忍容性、薬物動態及び副次的に薬力学を評価する。
単回投与用量漸増(SAD)試験では、延べ53名の健康成人男女を対象とし、プラセボ対照無作為化二重盲検の経口投与試験を行い、初回投与量5mgから最大用量900mgまでの安全性および忍容性が確認された。全ての用量において重篤な有害事象はなく、報告された有害事象のすべては軽度で、一過性のものであった。加えて、どの程度炎症・免疫を抑えることができるかという、薬力学的評価として実施したB細胞及び好塩基球の活性化も100mg以上の用量で強力に阻害した。今回の臨床試験において、B細胞および好塩基球の作用を抑制するのに十分な血中薬物濃度を示したことから、AS-0871は経口投与によって免疫・炎症疾患の治療に効果が期待できることが示された。同社は2021年7月に治験報告書を受領しており、その結果に基づいて新製剤を用いた反復投与用量漸増(MAD)試験のBAパートを2021年12月に開始した。
同社は、MAD試験の3つのパートすべての終了後に、ライセンスアウトもしくは共同開発を目指してパートナリング活動を本格的に開始する計画である。MAD試験の終了後は自社で治験を継続せず、パートナリング活動に専念する、としている。契約締結までには、一般的に交渉開始から半年~1年かかることから、同社は2023年以降に導出を行うと予想している。フェーズⅡ臨床試験では、慢性特発性蕁麻疹を適用として試験期間の短縮を図り、その後リウマチや全身性エリテマトーデス、多発性硬化症などの自己免疫疾患等に適応拡大を行っていく考えである。
キナーゼ選択性が高い低分子化合物
BTK阻害剤AS-0871は、リウマチやアレルギーなどの免疫・炎症疾患を適応疾患とした医薬品候補化合物である。BTK阻害薬として血液がんを適応疾患とした先発薬はあるものの、本疾患領域のBTK阻害剤では上市されたものはまだ存在しない。
既に血液がんの治療薬として、BTK阻害剤イブルチニブが上市されている。しかし、イブルチニブは共有結合型の低分子化合物であり、一度BTKに結合すると離れないタイプのもので、キナーゼ選択性の問題もある。従って、リウマチやアレルギーなどの免疫・炎症疾患の治療薬として開発することは安全性の観点からむずかしいとされている。現在開発中の他社のBTK阻害剤は共有結合型の化合物がほとんどである。
同社のAS-0871は非共有結合型であり、化合物(AS-0871)とキナーゼ(BTK)が一度結合しても時間の経過により離れるという可逆性があり、投与サイクル等により薬剤の効果をコントロールできる。この離れる速度もゆっくりであることから薬剤の効果が持続的であるとのことである。また、キナーゼ選択性が高く(BTK以外には同じTECファミリー*のキナーゼであるTECとBMXのみを阻害)、安全性が高い。
そのため、リウマチ、慢性蕁麻疹、全身性エリテマトーデスなどのアレルギー・自己免疫疾患の治療に新たな選択肢をもたらすものとして期待されている。コラーゲン誘発関節炎マウスモデルにおいて、経口投与で関節炎スコアが1/2以下となる優れた治療効果を実証している。
AS-0871は、高いキナーゼ選択性から、同社は免疫・炎症疾患の治療薬として研究開発を進めている。同社のBTK阻害剤AS-0871は、非共有結合型の低分子化合物で、一度BTKに結合しても離れるタイプ(下図参照)である。さらにキナーゼ選択性も非常に高い(下図参照)ことから、リウマチやアレルギーなどの免疫・炎症疾患の治療薬として開発がおこなわれている。
したがって、製薬企業等からの注目は高く、同社の臨床試験の成果を待っているものと思われる。同社によると、免疫炎症疾患をターゲットとしたBTK阻害剤には競合は存在するものの、選択性の高さや非共有結合型でゆっくりターゲットキナーゼから離れる性質などから優位性が高いものと考えている。
AS-1763(BTK阻害剤)
イブルチニブ耐性の血液がんを治療標的とした次世代BTK阻害剤AS-1763*については、2020年中に臨床試験開始に向けて全ての前臨床試験が終了した。2021年1月にCTA(欧州における臨床試験許認可申請)をオランダ当局に提出し、2021年2月にオランダ当局および倫理委員会から臨床試験計画についての承認を得ている。適応疾患として、血液がんに加え、自己免疫疾患に拡大が可能と同社では考えている。
オランダでの臨床試験
同社は2018年5月に独エボテック社(Evotec AG)と契約し、エボテック社のINDiGOプラットフォームを活用して、前臨床試験を行い、フェーズⅠ臨床試験に必要な全てのGLP試験が終了している。米国での抗がん剤の臨床試験実施については、患者のリクルートに関する競争が激しくなっている状況を踏まえ、2020年5月に開発戦略を変更した。具体的には、同社が既にAS-0871のCTA(臨床試験許認可申請)を行ったことにより、欧州での自社臨床試験の基盤が整ったことから、米国でのIND申請の計画を変更し、2021年1月に欧州(オランダ)でCTA申請を行った。オランダ当局による審査が完了し、2021年2月には倫理委員会がAS-1763の臨床試験計画を承認した。これを受けて同社は、2021年4月、オランダにおいて健康成人を対象としたフェーズⅠ臨床試験の単回投与用量漸増(SAD)試験部分の投与を開始した。このSAD試験は最大で延べ56名の被験者を対象に、プラセボ対象無作為化二重盲検で行われ、安全性および忍容性の確認と、薬物動態および薬力学の評価を主要目的としている。同社はこのSAD試験の終了後、2022年から米国において、慢性リンパ性白血病(CLL)/B細胞リンパ腫の患者を対象としたフェーズⅠ臨床試験の経口投与用量漸増試験を開始する予定で、IND申請の準備を進めている。
バイオノバ社に中華圏のライセンスを導出
2020年3月、より多くの患者をリクルートしやすい中国に注目し、中華圏(中華人民共和国及び台湾)における開発・商業化の権利を中国バイオノバ社に供与する契約を締結した。今後、中国においてはバイオノバ社が臨床試験を実施することになる。同社は、バイオノバ社が実施したAS-1763に関するより多くの臨床試験データを収集・利用することで、AS-1763の治験を加速できるとともに、その価値をより早期に最大化できると考えている。バイオノバ社は中国における臨床試験の実施について、2022年1月に中国国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration, NMPA)にIND申請を提出した。受領済みの契約一時金に加え、今後、中華圏におけるAS-1763の開発進捗に伴うマイルストーンに応じ、バイオノバ社から最大で約205百万ドル(約215億円)を受け取ることになる。さらに同社は、AS-1763の中華圏における上市後の売上高に応じて、最大2桁の料率の段階的ロイヤリティを受け取ることになる。中国においては、中国圏の権利を導出したバイオノバ社が臨床試験を実施する。同社では、バイオノバ社が実施した多くの臨床試験データを収集・利用することで、AS-1763の治験を加速できると考えている。
イブルチニブ耐性の血液がん患者を対象とした次世代型BTK阻害剤
BTK阻害剤AS-1763は、上記のAS-0871のバックアップ化合物として研究が進められてきたものであるが、BTK阻害薬において血液がんを適応疾患とした化合物として急速に研究が進展したことにともない、前臨床試験段階として2017年11月にパイプライン表に掲載された。
同社が創製したAS-1763は、野生型BTKだけでなく、変異型BTKにも高い阻害効果を示すことから、イブルチニブ耐性の血液がん患者を対象とした次世代型BTK阻害剤として開発を進めている。AS-1763*は、AS-0871と同様にキナーゼ選択性に優れており、また非共有結合型可逆的阻害剤であることから、免疫・炎症疾患(リウマチ、アレルギー等)の治療薬としても適用拡大が可能である。
このAS-1763は、野生型およびC481S変異型Bruton’s Tyrosine Kinase(BTK)の両方を阻害する高選択性、非共有結合型で経口投与可能な化合物であり、血液がんの次世代型のBTK阻害剤として研究開発が進められている。最初に承認されたBTK阻害薬であるイブルチニブは、慢性リンパ性白血病をはじめとするB細胞性腫瘍の治療薬として使用され、その高い治療効果が示されている。EvaluatePharma®のWorld Preview 2019 Outlook to 2022によると、2024年における全世界での売上高は9,514百万米ドルと予想されており、本疾患領域でのBTK阻害薬のマーケットサイズは大きいものと考えられる。
同社は、2018年12月期決算説明資料において、AS-1763の説明をおこなっている。上記のAS-0871と同様、非共有結合型の低分子化合物であることを説明し、さらにイブルチニブとBTK阻害活性およびキナーゼ選択性について比較した試験データを公表している(下図参照)。それによるとAS-1763はイブルチニブと比較して、C481S変異型BTKへの効果およびキナーゼ選択性においても優れた結果が得られたとのことである。以上から、イブルチニブ耐性の血液がん治療薬としても高い治療効果が期待されており、今後の製薬企業からの注目度は高いものと考えられる。
大日本住友製薬との共同研究プログラム
2018年3月に同社は、大日本住友製薬株式会社(東証1部、4506、以下、大日本住友製薬社)と精神神経疾患を標的とした共同研究契約を締結した。順調に共同研究を進めており、精神神経疾患領域の新薬候補に関するデータや、新しい知的財産が生み出されている。その進捗状況から2021年12月に、本契約の共同研究機関を2025年3月27日まで延長することを両社で合意した。本共同研究により見出されたキナーゼ阻害剤については、同社が、がんを除く全疾患を対象とした臨床開発及び販売を全世界で独占的に実施する権利を有する。同社は大日本住友製薬社から契約一時金および研究マイルストーンとして、最大80百万円を受領し、その後の研究開発の進展に伴い、進捗に応じて追加的に最大約10,600百万円のマイルストーンおよび売上高に応じたロイヤリティを受領することになる。
STINGアンタゴニスト(阻害剤・拮抗剤)
STING(Stimulator of Interferon Genes)はタンパク質の一種で、自然免疫において中心的な役割を担っており、STING経路からの過剰なシグナル伝達は、全身性エリトマトーデスやリウマチなどの自己免疫疾患をはじめとするアンメット・メディカル・ニーズが高い疾患を引き起こしている。同社は新たな試みとして開始した非キナーゼ標的プロジェクトから、新たなSTINGアンタゴニストを創製し、2021年12月に前臨床試験段階にステージアップした。
2022年2月には、同社が創製した新規STINGアンタゴニストの全世界における開発及び商業化の権利を、米国ブリッケル・バイオテック社(Brickell Biotech, Inc.(NASDAQ、BBI)、以下、ブリッケル社)に導出する契約を締結した。これに伴い契約一時金2百万米ドル(227百万円)と、開発や申請・承認などの進捗に応じたマイルストーン収入および販売マイルストーンを最大で258百万米ドル(約28,300百万円、100円/米ドル換算)受領する。さらに同社は、上市後の売上高に応じた1ケタ半ばから10%の段階的ロイヤリティを受領することとなる。本契約については免疫・炎症疾患領域に限られ、同社は引き続きSTINGモジュレーター(アゴニスト(作動剤)・アンタゴニスト)の研究を、独自に継続可能となっている。ただし、アンタゴニストについては新規骨格・がん領域に限定される。
創薬パイプラインの一覧表
出所:会社資料よりSR社作成
がん併用療法
現在、医薬品開発の方向性として、がんの領域では延命ではなく治癒を目的とする医薬品の開発が進んでいる。その重要な方法の1つとして、併用療法が注目されている。例えば、小野薬品工業株式会社(東証1部、4528、以下、小野薬品工業社)の抗PD-1抗体である免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ®」(一般名:ニボルマブ))と米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(Bristol Myers Squibb(NYSE、BMY)以下、ブリストル・マイヤーズ社)の「ヤーボイ®」(一般名:イピリムマブ)との併用療法や、エーザイ株式会社(東証1部、4523)の経口キナーゼ阻害剤「レンビマ®」(一般名:ペムブロリズマブ)と独メルク(The Merck Group(ETR、MRK)以下、メルク社)の抗PD-1抗体「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ)との併用療法などである。
キナーゼをターゲットとした治療薬はオプジーボ®やキイトルーダ®などとの併用で効果を増す可能性があるため、同社のパイプラインのなかにも、がん免疫に関連するものが複数存在する。同社のパイプラインのうちがん免疫を対象疾患とするパイプラインは、併用療法の作用も確認されており、がんの治癒を目指したものとして将来性が大きいと同社は考えている。
経営戦略および中長期見通し
基本方針
創薬ビジョン2030
同社は「創薬ビジョン2030」に基づき、がんや免疫・炎症疾患など、まだ有効な治療方法が確立されていない疾患を重点領域とし、「画期的な新薬を持続的に生み出すリーディング創薬企業」を目指して研究を行う方針である。自社臨床試験の実施が可能となったことから、重点領域の創薬プログラムについては、自社臨床開発パイプラインを充実させ、事業価値の最大化を目指す。探索段階にある創薬プログラムに関しても、画期的な新薬創製を目指し、共同研究先と連携して早期ステージアップを目指して研究を推進する。
中期展望(2022年~2026年)
同社は、従来の中期経営計画に替えて、2022年2月10日に「事業計画及び成長可能性に関する事項」を公表した。2022年12月期の計画に加え、2023年から2026年の見通しが示されている。
同社の目標は、アンメット・メディカル・ニーズの高い、未だ有効な治療方法が確立されていない疾患を中心に、特にがん、免疫・炎症疾患を重点領域として、画期的な新薬を⽣み出すことである。創薬標的から新薬の研究開発を行い、継続的に創薬パイプラインを創製可能な技術力を有し、革新的な医薬品を次々と上市させることによる飛躍的な成長を目指す、としている。
同社は創薬支援事業において、製薬企業等にキナーゼ阻害薬研究のための製品・サービスを提供し、安定した収益を得ることによって財務基盤を安定化させることに加え、自社における創薬ツールの提供も行っている。創薬事業においては、キナーゼ創薬基盤技術によってがん、免疫・炎症疾患などの治療薬の研究開発を進め、先行投資を行っている。
成長戦略
同社は、創薬パイプラインの臨床開発を進め、クリニカル・ステージ・カンパニーとして企業価値を大きく向上させることを基本戦略としている。年度ごとの計画は以下の通り。
自社創薬研究開始(2010~2015年)
創薬力の具現化(2016~2020年)
パイプライン価値の最大化(2021~2025年計画)
持続的な利益の創出(2026~2030年計画)
上記の成長戦略に基づき、創薬事業では既存パイプラインの臨床試験を進めて導出価値の最大化を図るとともに、次期開発パイプラインを創出することにより、マイルストーンやロイヤリティ収入の獲得を目指す。
創薬支援事業においては、北米・アジア地域を中心とした自社開発製品・サービスの売上拡大、ならびに新規顧客開拓、新製品・サービスの持続的な投入による売上の維持・拡大で安定的な収益を確保し、自社創薬開発への資金供給を行っていく、としている。
なお、研究開発費については、2022年は2,166百万円、2023~2026年には将来の成長のために年間1,000百万円~2,500百万円の継続的な投資を行う。設備投資については、2022年は124百万円、2023~2026年には研究開発用機器、情報システム機器の新設・更新などに年間20百万円~100百万円を計画している。
複数の創薬パイプラインの導出
多くの製薬企業と積極的に情報交換
同社は、複数のパイプラインの研究開発成果をたずさえ、北米、欧州、日本などで定期的に開催されるBIO International Conventionなどのライセンス交渉を行なう場で、多くの製薬企業等と積極的に情報提供、意見交換を行い、新たな導出に向けた取り組みを行っている。
創薬パイプラインの導出価値最大化を目指した自社臨床試験の開始
臨床試験の戦略策定から試験実施を自社で行う体制の整備
同社では、2003年の設立時から10年以上にわたり、自社臨床試験に至った医薬品候補化合物が存在しなかった。しかし、2020年8月よりBTK阻害薬AS-0871の臨床試験が開始され、同社において初めての臨床試験段階の医薬品候補化合物となった。これにより、同社の創薬事業は新たな段階に入ることになる。
臨床開発体制の確立
同社創薬事業の研究開発体制は、継続的に新薬候補化合物を創出できる研究技術レベルに達した。従来の導出実績は、前臨床段階のプログラムであったが、今後さらに同社の創薬パイプラインの導出価値を高めるためには、ヒトでの有効性、安全性が確認されたものであることが重要である、と同社は考えている。そのため、がん領域については最大でフェーズⅡ臨床試験まで、がん以外の領域については最大でフェーズⅠ臨床試験まで自社で進めて導出することを視野に入れ、自社臨床試験の開始に向けた開発体制を整備している*。
そこで、同社は、2018年7月には研究開発本部内に臨床開発部を新設し、2019年2月には米国で臨床試験を実施する拠点として、米国サウスサンフランシスコに臨床開発オフィスを新設した。これらにより、同社は、臨床試験の戦略策定から試験実施をコントロールすることが可能となった。
事業内容
概要
同社はがん疾患、リウマチなどの免疫・炎症疾患をはじめとする、これまで有効な治療法がない分野で画期的な新薬を研究開発し、創薬パイプラインを大手製薬企業に導出し、収益を獲得することをビジネスモデルとしているバイオベンチャー企業。ブロックバスター(年商10億米ドル以上の大型医薬品)候補の導出に基づく、全世界を対象とした各種ライセンス収入獲得が同社最大の目標である。
同社のキナーゼ阻害薬の研究開発は、がん疾患と免疫・炎症疾患を重点領域としている。現時点における同社のパイプラインの医薬品候補化合物は、主にがん疾患を中心とした疾患領域となっている。
がん患者を対象とした抗がん剤市場における同社の差別化・優位性のポイントを以下にまとめる。
キナーゼの製造・販売とその阻害薬研究の両方を行っている世界で唯一のバイオテック企業であり、豊富な知見を有すること。
大手製薬企業への全世界を対象とした導出実績を持ち、かつ有望な医薬品候補化合物の開発パイプラインを持つこと。
アカデミアとの強いネットワークを持つとともに、自社内に化学合成チームを整備し、自社パイプラインの創出を行っていること。
同社は創薬事業、創薬支援事業という2つの事業セグメントを有する。創薬事業では自社でキナーゼ阻害薬の研究開発を行い、創薬支援事業では製薬企業や研究機関に対して創薬研究(下記で記述)に必要となる製品とサービスを提供している。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
同社の特徴は、細胞内の情報伝達をつかさどるキナーゼと呼ばれる酵素を標的とした新薬の研究開発を行っていることである。同社は、がんやリウマチなどの疾患では、それらの細胞の中にある特定のキナーゼが異常に信号を伝えることが原因となっていることに着目し、創薬事業において、その異常なキナーゼの信号を抑えるキナーゼ阻害薬を研究開発している。
また、キナーゼ阻害薬は、同じ分子標的薬である抗体医薬との比較で製造コストが抑えられるために薬価が低いことが主な特徴である。
創薬研究とは
創薬研究とは、新薬の研究開発における初期段階のプロセスである。創薬研究では、疾患に関連すると想定される遺伝子やキナーゼなどのタンパク質を標的(ターゲット)として、創出した薬剤が疾患を改善、緩和することが可能かどうか、副作用がないかどうか等を確認し、前臨床試験に進める医薬品候補化合物が選び出される。同社は、キナーゼを創薬ターゲットとし、低分子の経口薬(飲み薬)の研究開発を行っている。
大学をはじめとするアカデミア等における疾患に関する基礎研究段階で、特定のキナーゼなどが創薬のターゲットとなりうることが確認されると、低分子の創薬の場合は、そのターゲットに対してHTS(ハイスループットスクリーニング、多くの化合物から必要な性質を有するものだけを選び出す作業)を実施して、保有する化合物のなかからヒット化合物(一定の基準をクリアした化合物)の抽出を行う。通常は数千から数十万ある医薬品候補化合物の中から、病気の改善に最も効果のある化合物2~3種類を選び出す。
そのヒット化合物の中から、さらに医薬品になる可能性のある構造を持った化合物をリード化合物として絞り込む研究をする。このリード化合物の構造を、試験管内でのターゲットに対する薬効や、疾患モデル動物の治療効果を評価する薬理試験や毒性試験を通して最適化する。このとき、経口吸収性、体内での安定性、蓄積性などを評価する薬物動態研究も実施し、ターゲットへの効果だけでなく薬としての特性も同時に高める。そして、前臨床試験段階に進めるべき化合物を特定する。
キナーゼとは
キナーゼとは、細胞内の情報伝達に必要な酵素である。細胞の表面には様々な情報伝達に必要なアンテナのようなもの(受容体)があり、細胞間で信号のやり取りをしているが、キナーゼはこれらの細胞外からの信号を細胞内に存在する細胞核、その中にある遺伝子に伝達している。ヒトの体は約60兆個の細胞から構成されており、その細胞内に518種類のタンパク質キナーゼが存在する。細胞を構成している主成分はタンパク質である。このタンパク質にリン酸*を付加するキナーゼをタンパク質キナーゼと呼ぶ。また、脂質にリン酸を付加するキナーゼを脂質キナーゼという。細胞内ではキナーゼはリン酸が付加された状態とリン酸が付加されていない状態を繰り返している。なお、同社では、キナーゼ自体がタンパク質触媒であることから、キナーゼタンパク質と呼んでいる。
正常な細胞では、キナーゼは上流から信号(刺激)を受けることで別のタンパク質や脂質等にリン酸を付加して、細胞の増殖、分化、細胞死等を正確に調節している。これに対してがん等の異常細胞では、キナーゼは外部からの刺激に関係なく働きだし、リン酸を過剰に付加することで、過剰なシグナル伝達が生じたりして、細胞を異常に増殖させたりする。こうした異常なキナーゼの働きにより、がん細胞は、必要以上に増殖する。
キナーゼ阻害薬とは
キナーゼ阻害薬とは分子標的治療薬の1つである。分子標的治療薬とは病気の原因となる特定の分子の機能を抑制する薬のことをいう。現在、医薬品として認可され販売されている分子標的薬には、同社が研究開発を行っている経口(飲み薬)の低分子キナーゼ阻害薬のほか、注射により患者に投与される高分子の抗体医薬などがある。バイオ医薬品としての抗体医薬は主に細胞で培養し製造されることから、大型の設備と複雑な製造工程を要するために比較的薬価が高いものが多く、また、注射剤であるために患者は投与を受けるために通院などの負担を強いられる。しかし、同社によれば、低分子のキナーゼ阻害薬は医師による処方により患者自身が任意の場所で飲み薬として服用できることから身体的負担が比較的少ない。さらに、化学合成により比較的安価に製造されるため薬価を低く抑えることができる。また、キナーゼ阻害薬は、細胞内にある異常キナーゼに選択的に結合して酵素活性を抑制するため、従来の抗がん剤と異なり、特に副作用が少ない。
ビジネスモデルの概要
同社は、2つの事業セグメントのうち、創薬事業において革新的な医薬を生み出すことを目標に、これまで全社売上高の50%を超える研究開発費を投入してきた。こうした先行投資が、会社設立から2014年12月期まで営業損失を計上してきた主な理由である。一方、創薬支援事業では、キナーゼ阻害薬の研究プロセスに必要となるキナーゼタンパク質の製造・販売や、プロファイリング・スクリーニングサービスを他の製薬企業や研究機関に提供して安定したキャッシュ・フローを創出している。同社のビジネスモデルは、この創薬支援事業において生み出したキャッシュ・フローを、創薬事業の先行投資に振り向け、導出契約にもとづく将来の大きな収益リターンを獲得することである。
創薬事業
創薬事業の業績
2019年12月期は、ギリアド社への創薬プログラム導出による契約一時金収入が貢献し、創薬事業の売上高は2,128百万円、セグメント利益は577百万円であった。2020年12月期は、バイオノバ社とBTK阻害剤AS-1763の中華圏におけるライセンス契約を締結したことにより契約一時金を受領し、売上高は53百万円、セグメント損益は1,515百万円の損失となった。2021年12月期には、ギリアド社が次の開発ステージに進めることを決定し、最初のマイルストーンペイメントを受領したことで、売上高は1,128百万円(前年比約21.3倍)となった。臨床試験費用を中心に研究開発へ積極的な先行投資を継続していることから、セグメント損失は820百万円となった。
なお、2015年12月期には導出一時金収入により、615百万円の売上を計上し、セグメント営業損益として初の黒字60百万円を達成している。