ツルハホールディングスは、1929年に北海道旭川市創業の、全国展開するドラッグストアチェーン。ドラッグストア業界では、店舗数(2,420店)、営業利益(48,377百万円)などで業界首位(2020年度)。売上高(919,303百万円)はウエルシアホールディングス(東証プライム 3141)に次ぐ2位。売上構成比は医薬品が21.1%、化粧品が14.5%、日用雑貨が28.3%、食品が23.1%、その他が12.6%(2021年5月期)。医薬品をコアとしつつも、地域の需要に即して幅広い商品を展開している。売上総利益率は医薬品が42.2%、化粧品が33.3%と高く、日用雑貨が26.9%、食品が14.4%と相対的に低い。医薬品や化粧品の「目的買いの取り込み」と、日用雑貨や食品を通じた「来店頻度の向上」のバランスが業界上位の地位を支えている。
同社はドミナント戦略を軸とした積極出店で店舗網を広げ、2021年5月期末の店舗数(国内直営)は2,420店に及ぶ(その他、国内FC店4店、連結対象外の海外22店を展開)。ターゲット地域においてドミナント化することにより、1)出店候補地の情報が集まりやすい、2)消費者の認知度が高まり消費者にとって身近な存在になる、3)管理コストが低下するなどを通じて、収益力の向上を図っている。過疎化の進む地域では、食品を含めて生活に必要な物を幅広く品揃えした大規模店舗とする一方、都市部では医薬品、化粧品、日用雑貨などを軸とした小規模店舗で展開するなど、地域の特性に合わせて出店している。地域別の販売構成比(2021年5月期)をみると、関東甲信越が16.8%、中部・関西が18.0%と大都市での売上構成が相対的に低く、北海道が17.1%、東北が19.7%、中国が14.6%を占めるなど、地方に軸足を置いた地域構成となっている。
主な店舗ブランドは、「ツルハドラッグ」「くすりの福太郎」「ドラッグストアウェルネス」「ドラッグストアウォンツ」「くすりのレデイ」「杏林堂スーパードラッグストア」「B&D ドラッグストア」「ドラッグイレブン」。同社は、地域密着で成長志向の強いドラッグストアチェーンを子会社化してきた。同社の経営理念である「お客様の生活に豊かさと余裕を提供する」ことを共通目標としつつ、子会社化の後も原則として店舗ブランドを変更せず、一定の経営の自由度を与えている。その一方、ツルハグループの調達力や価格交渉力など共有できるものを積極的に活用。子会社化の後も各社は売上高を伸ばし、利益率を高めている。M&Aは、これまで同社の成長ドライバーの一つとなってきた。
ドラッグストア業界(売上規模は8.0兆円、2020年度)は一般用医薬品(OTC)や調剤をコア商品としつつ、化粧品、日用雑貨、食品などの品揃えを拡充し、百貨店(同4.5兆円、2020年度)やスーパーマーケット(同15.1兆円、2020年度)などのシェアを奪って成長してきた経緯がある。今後も特定の医療機関への依存度が高い所謂「門前薬局」など調剤(同7.5兆円、2018年度)からのシェア獲得や他業態からの需要のシフトが注目される。これまでドラッグストア業界では大手ドラッグストアチェーンが中小を傘下に収める形で業界再編が進んできた。2021年10月にはマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合してマツキヨココカラ&カンパニー(東証プライム 3088)が誕生するなど、メーカーとの交渉力強化を目指した大手同士の再編気運も高まっている。
2021年5月期通期の売上高は919,303百万円(前期比9.3%増)、営業利益が48,377百万円(同7.5%増)、当期利益が26,283百万円(同5.8%減)。年間配当金は167円/株(配当性向は30.8%)。既存店売上高が前期比1.1%増と伸びたこと、販管費を抑制したこと、子会社化したJR九州ドラッグイレブンの業績を反映したことが業績の拡大に繋がった。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、同社グループでは、カウンセリングを主体とした接客サービスの徹底を継続して行うとともに、生活スタイルの変化に対応する施策に取り組んだ。商品展開では、プライベートブランドの商品開発・販売体制を強化し、同社グループの新たなプライベートブランドの刷新と展開拡大を図った。新型コロナウイルスの感染拡大により、感染予防関連商材の需要増、緊急事態宣言等による外出自粛に伴う日用品、消耗品、食品等の需要増があったものの、インバウンド需要の剥落や化粧品等の需要減、さらに下期においては風邪薬を中心とした季節品の売上不振などの成長阻害要因が見られた。店舗展開については、ドミナント戦略に基づく地域集中出店および既存店舗のスクラップアンドビルドを推進したことにより、期首より138店舗の新規出店と75店舗の閉店を実施したほか、2020年5月に子会社化したJR九州ドラッグイレブンなど207店舗がグループに加わり、当期末のグループ店舗数は直営店で2,420店舗となった。なお、タイ国内の同社グループ店舗については、2店舗の新規出店と2店舗の閉店を実施し、同国内における店舗数は期末時点で22店舗となった。
2022年5月期通期の会社予想は、売上高956,000百万円、営業利益51,200百万円、経常利益51,367百万円、当期純利益28,280百万円を見込む。なお、2022年5月期の期首より「収益認識に関する会計基準」等の適用を開始するため、当該会計基準等適用前の実績値に対する増減率は記載していない。当該会計基準適用前の会社予想は、売上高975,700百万円(前期比6.1%増)、営業利益51,200百万円(同5.8%増)を見込む。新型コロナウイルスの感染拡大状況が不透明な中においても、同社はカウンセリングサービスの充実に引き続き取り組むとともに、PB商品をはじめとする良質で購入しやすい商品の品揃えによる利便性の提供に努める。また、新たなライフスタイルに対応すべく、精肉・青果や100円均一の導入によるワンストップショッピングの実現を目指すとともに、ドラッグストア業界最大の店舗網を背景としたID-POSデータを活用したマーケティング施策の推進、ドラッグストア併設型を中心とした調剤薬局の新規開局を進める方針。出店については、ドミナント展開による店舗網の拡充を図るべく、新規エリアを含めた地域集中出店により158店舗の出店を計画する。年間配当金予想は167円/株(会社予想基準の配当性向は28.6%)。
中期目標として同社は「2024年5月期の店舗数3,000店、売上高1兆円」を掲げる。基本戦略は、1)専門性・利便性の追求、2)ドミナントエリア戦略に基づく店舗展開、3)PB商品の展開拡大・商品力の向上、4)グループの組織力と収益力の強化。長期のビジョンとして目標は「世界20,000店、売上高6兆円」を掲げる。尚、2022年5月期通期の決算発表に合わせて、2023年5月期から2027年5月期の5カ年の新中期経営計画を発表する予定である。戦略の方向性は大きくは変わらない見込みで、売上高や店舗数だけではなく、営業利益を含む損益目標、財務指標、海外展開や調剤比率など事業面での目標値なども織り込むとみられる。
SRでは、同社の強みを、1)地域に密着した商品・店舗展開でシェアを拡大する力、2)M&Aを成長ドライバーとして活用する能力、3)ドラッグストアとしての事業規模が大きく調達面での優位性を発揮していること、と捉えている。
一方、同社の弱みとしては、1)差別化や収益性向上の源泉となるPBの育成が十分ではないこと、2)最新技術と顧客データの活用の遅れで需要を取りこぼしていること、3)「ツルハ」ブランドの認知度が低いこと、が挙げられよう。(後述の「SW(Strengths, Weaknesses)分析」の項参照)
株式会社ツルハホールディングスは2022年4月の月次売上高を発表した。
(月次売上高へのリンクはこちら)
売上高:691,890百万円(前年同期比1.2%増)営業利益:34,050百万円(同14.3%減)経常利益:33,925百万円(同13.8%減)親会社株主に帰属する四半期利益:18,903百万円(同16.2%減)
同社は当第1四半期より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日)等を適用した。商品販売に伴い顧客に付与するポイント、消化仕入取引等の計上基準を変更した。新会計基準の適用による影響は、売上高が19,565百万円減、売上総利益が14,703百万円減、販管費が5,012百万円減であった。
2022年5月期第3四半期累計期間(当第3四半期累計期間)の売上高は、前年同期比1.2%の増収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同2.9%増)であった。前年同期の巣ごもり需要の反動減、風邪薬や化粧品など季節品の不振により、既存店売上高は前年同期比0.8%減となったものの、新店効果や子会社化したドラッグイレブンの業績も寄与して増収となった。
営業利益は前年同期比減少した。売上総利益率は上昇したが、人件費、地代家賃、水道光熱費等の販管費が前年同期比で増加した。
売上総利益は205,399百万円、前年同期比3.7%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは200,141百万円、同4.8%増)、売上総利益率は29.7%(同0.7ポイント上昇、ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同0.4ポイント上昇)であった。前年同期は衛生用品やマスクなどの利益率の低い商品の構成比が上昇して売上総利益率が低下した反動、利益率が高い医薬品の販売構成比の上昇、グループ全体で仕入を見直したことによる調達価格の低下等が寄与した。また、売上総利益率の高いプレミアム商品の販売が好調であった日用雑貨等の商品利益率が上昇した。
販管費は171,349百万円、同8.2%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同9.8%増)、販管費率は24.8%(前年同期比1.7ポイント上昇、ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同1.5ポイント上昇)であった。
人件費は86,786百万円、同7.1%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同5.8%増)であった。店舗数の増加、最低賃金の上昇等により増加した。シフト作成システムの導入(詳細後述)により残業時間やパート労働時間が減少し、計画対比では抑制できた。特に当第3四半期は、各店舗における人員配置を見直したほか、各店舗でもコスト管理意識が高まり、人件費の増加幅を抑制できた。
販売促進費は2,990百万円、同29.4%減(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同84.8%増)であった。顧客への商品販売時に付与するポイント相当額を、従来はポイント引当金として販管費で計上していたが、新会計基準の適用により販売時に売上高から控除する形となったことで減少した。
地代家賃等は37,635百万円、同5.9%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同4.5%増)であった。店舗数の増加に伴って増加したが、予算の範囲内である。
その他経費は43,935百万円、同17.2%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同15.2%増)であった。新型コロナウイルス対策として配布する従業員へのマスクや、店頭に設置する消毒剤等の費用が嵩んだほか、店舗数の増加などにより減価償却費も増加した。また、キャッシュレス決済を利用する顧客が増加傾向にあり、カード会社等への支払手数料が増加した。その他、世界的な原油高の影響で電気料金が値上がりしており水道光熱費が7,000百万円(前年同期比で900百万円増、当第3四半期だけでも同社500百万円増)まで増加した。
当第3四半期累計期間における2022年5月期通期会社予想に対する進捗率は、売上高が72.4%(前年同期における前期通期実績に対する進捗率は74.4%)、売上総利益が71.7%(同74.2%)、営業利益が66.5%(同82.1%)、経常利益が66.0%(同82.5%)、親会社株主に帰属する四半期純利益が66.8%(同85.8%)であった。売上高が計画を下回ったため、全ての利益段階で会社予想を下回った。
売上高は、期初時点ではワクチン接種の普及により、当下期には新型コロナウイルス感染症の流行前のライフスタイルに戻るとみて、医薬品や化粧品などの販売増加を織り込んだ予算とした。しかし、新型コロナウイルス感染症の再拡大により、期初想定ほどには売上高は回復しなかった。また当第2四半期以降の季節品の不振、当第3四半期には北日本において降雪に伴う客数減の影響もあった。
営業利益も会社予想を下回った。減収に伴って売上総利益が想定を下回ったこと、電気料金が値上げしたこと等が要因であった。
通期会社予想は据え置いた。会社予想の達成は困難とみるが、適時開示規則にある「公表された直近の業績予想値(予算)から、売上高においては±10%、経常利益又は当期純利益においては±30%の乖離が見込まれる場合」には当てはまらない見込みである。また、新型コロナウイルス感染症の流行状況、相次ぐ値上げ報道による消費マインドへの影響、世界情勢、電力料金や物流費の上昇幅など、不確定要素が多く、当第4四半期の業績を合理的に見積もることが困難であることも据え置いた要因である。
当第1四半期:売上高は235,684百万円、前年同期比4.9%の増収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同2.2%増)となった。前年同期の巣ごもり需要、マスクや消毒薬の特需の反動で既存店売上高は前年同期比1.2%減となったものの、子会社化したドラッグイレブンの連結効果、店舗数の増加、前期に出店した新店の寄与等により前年同期比増収となった。営業利益は12,889百万円、前年同期比15.0%減(ドラッグイレブンを除いた旧会計基準では同15.3%減)となった。店舗数の増加に伴って人件費や地代家賃等が増加したほか、支払手数料も増加した。
当第2四半期:売上高は226,827百万円、前年同期比0.9%の減収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同3.0%増)となった。前年同期の特需の反動減がみられたほか、風邪薬やドリンク剤、化粧品の季節品の販売が伸び悩んだ。営業利益は9,820百万円、前年同期比23.5%減(ドラッグイレブンを除いた旧会計基準では同21.5%減)であった。人件費、地代家賃、支払手数料の増加や、寄付金・租税公課などにより、販管費が増加した。
当第3四半期:売上高は229,377百万円、前年同期比0.5%の減収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同3.4%増)となった。コロナ禍において医薬品や化粧品の販売が伸び悩んだ上、北日本を中心に降雪の影響を受けて客数が前年同期を下回った。営業利益は11,340百万円、前年同期比3.2%減(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同5.7%減)であった。商品ミックスで売上総利益率は改善し、人件費も抑制したが、水道光熱費の増加や除雪費の発生などにより、販管費が増加した。
出退店、改装ともに計画通り進捗した。
出店:ドミナント戦略に基づき北海道、東北、関東甲信越、中国・四国地方へ集中出店した。通期では過去最高水準の159店舗(期初計画対比1店舗増加、2021年5月期は138店舗、2020年5月期は129店舗)を出店する計画である。同業他社の出店強化により、同社のシェアが低下しているエリアがあり、そうしたエリアで攻勢をかける。
退店:退店は期初計画対比9店舗多い57店舗となる見通し。ドラッグイレブンの不採算店舗の閉鎖を進める。
スクラップ&ビルド:スクラップ&ビルドを強化した。退店のうち概ね半数がスクラップ&ビルドのための退店である。老朽化した郊外の小型店舗を退店し、大型店に建て変えて出店している。
調剤薬局:62店舗開局した。今期はドラッグストア店舗内の併設店舗を中心に91店舗開局する計画で、過去実績と比較しても高水準である。調剤薬局を併設するドラッグストアの店舗数は558店舗、併設率は22.5%に上昇した。目標とする50%に向けて、採算の確保が見込まれるドラッグストア店舗内に出店する。
改装:197店舗で実施した。調剤併設店舗への改装、精肉・青果や100円均一商品を導入するための店内レイアウトの変更が中心に、通期で290店舗改装する計画(例年では通期で200店舗程度)である。
タイ:ロックダウンや観光客減少の影響で売上高が低迷していた店舗を中心に5店舗退店した。タイでは出退店を繰り返しながら、20店舗前後で推移しているが、中長期的には店舗数を増やす方針。
既存店売上高は前年同期を下回った。当第3四半期累計期間は前年同期比0.8%減であったが、当第3四半期は0.3%減と改善傾向にある。
客数は前年同期を下回って推移した。前年同期はコロナ禍でマスクや消毒剤などの感染予防関連商材を求める顧客が多かった。今期はこうした反動や、巣ごもり需要の一巡により客数が減少した。
客単価は前年を上回って推移している。質の良い商品を求めるトレンドに合わせて高単価商品の取扱いを強化したほか、大容量で高単価な商品の販売が好調であった。また、新型コロナウイルス感染症の検査キットなどの高単価商品の販売が伸びた。
会社別では、展開エリアにおける外部環境よりも、商品の販売構成比の影響を受けた。比較的好調な調剤・食品の販売構成比の高い子会社が好調に推移した一方、苦戦しているOTCや化粧品の販売構成比が高い子会社の販売が低迷した。
調剤と食品は増収となったが、カイロなどの季節商品、風邪薬、化粧品の販売が伸び悩んだ。
四半期別にみると、当第1四半期は、日用品、消耗品、食品等が前年同期の巣ごもり需要の反動で低迷した。当第2四半期は、風邪薬などの季節品が不振であった。当第3四半期は制度化粧品が前年同期並みまで回復した。
医薬品:145,240百万円(前年同期比6.0%増)
OTC(市販薬):70,256百万円(同0.2%減)であった。ワクチン接種の副反応に備えて解熱鎮痛剤の需要は伸びたが、皮膚関連商品(虫刺され薬、水虫薬等)などの季節性商品、風邪薬やドリンク剤の販売が低迷し、前年同期並みとなった。当第3四半期は、前年同期に低迷した反動や、ドリンク剤の需要回復、解熱剤や検査キットの伸長など、回復傾向がみられた。
調剤:74,984百万円(同12.5%増)、処方箋枚数は6,946千枚(同13.2%増)、単価は10,795円(同0.6%減)であった。店舗数の増加や、前年同期の受診抑制の反動増、既存店売上高の増加により増収となった。前年同期はコロナ禍の受診抑制の影響により処方箋枚数が減少した一方で、長期処方により単価が上昇していた。当第3四半期累計期間は受診抑制が緩和して単価は低下したものの、処方箋枚数が増加して調剤全体では増収となった。また、門前薬局から住居近隣のドラッグストア内の調剤薬局へと需要が流れており、こうした外部環境も増収に寄与した。
(調剤の同業他社)調剤を扱う大手企業の多くは、店舗数の増加により増収傾向にある。調剤を強化する同業他社のウエルシアホールディングス株式会社(東証プライム 3141)およびスギホールディングス株式会社(東証プライム 7649)の直近決算をみれば、両社とも処方箋単価は前年同期をやや下回るが、店舗数の増加や処方箋枚数の増加により増収となり、同社と類似トレンドで推移した。調剤専門薬局最大手の株式会社アインホールディングス(東証プライム 9627)は店舗数、処方箋枚数、単価ともに前期を上回り増収となった。日本調剤株式会社(東証プライム 3341)は、処方箋枚数は減少したが、店舗数の増加や単価の上昇により増収となった。
化粧品:94,286百万円(同0.8%増)であった。外出抑制、マスク着用の常態化、インバウンド需要の消滅等により販売額は低水準にある。同社はカウンセリングや化粧品台帳を活用した顧客管理により固定客を囲い込み、高価格帯の化粧品の販売に強みを有する。こうした背景から高価格帯の化粧品はコロナ禍においても落ち込み幅は小さいが、中価格帯の戻りが悪い。中価格帯の化粧品を購入していた顧客が低価格帯にブランドスイッチしている可能性がある。四半期別にみれば、当第1四半期は、猛暑の影響もあり制汗剤や日焼け止めなどの季節品、韓国コスメが好調で、前年同期並の水準に戻った。当第2四半期は天候不順の影響で前年割れととなった。当第3四半期は、ファンデーションなどのベースメイクは回復が遅れるが、ポイントメイクが前年並みまで戻った。
日用雑貨:188,318百万円(同0.6%増)であった。巣ごもり需要は一巡したが、在宅時間の増加に伴って、高単価でも質の良い日用雑貨を求める傾向が続いており、ライフスタイルの変化に対応して高単価・高品質な商品や大容量商品の取扱い強化、棚割の見直し等を行い、需要を確保した。
食品:168,592百万円(同7.5%増)であった。前年同期は巣ごもり需要で前々年同期比10.3%増加したが、当第3四半期累計期間も更に増収となった。全商品カテゴリーの中で最も堅調である。在宅需要で冷凍食品やインスタント食品の販売が伸びているほか、家飲み需要を確保して酒類の販売も高水準で推移する。
その他:78,135百万円(同3.9%減)であった。その他商品には健康食品、医療用品、育児用品が含まれる。前年同期はコロナ禍においてマスク、消毒剤、体温計、ハンドソープなどの販売が前年同期に増加した反動で、今期は低迷した。
同社では、カウンセリングを主体とした接客サービスの徹底、生活スタイルの変化への対応に取り組んだ。具体的には、利便性の向上を図るため、精肉・青果の導入をはじめとする既存店舗の改装を推進した。また、店舗運営業務の効率化を目的とした人員配置・在庫管理等の支援システムの導入店舗拡大に取り組んだ。
デジタルツールの導入や活用を通じて、店舗業務の簡素化と接客機会の確保を図った。
化粧品台帳のデジタル化:従来は各店舗で紙で管理していた化粧品台帳のデジタル化を推進している。約90万人の化粧品会員のデータを、全子会社が同じシステムで一元管理することを目指す。今期はツルハの店舗を中心に累計1,400店舗に導入し、2021年11月から本格的に稼働し始めた。固定客へダイレクトメールを効率的に送付できるようになるほか、アプリと連携し消耗のタイミングに合わせてクーポンを配布するなど、販売促進に活用する方針。また、紙ベースの台帳と比較して、台帳管理に要する時間が削減されるため、販売員の接客時間を確保できるようになり、新規会員の獲得につなげる考え。化粧品台帳のデジタル化を同社の水準で進めているドラッグストアチェーンは少なく、将来的には差別化要因となる見込み。
人員配置の支援システム:2021年5月期にツルハの全店舗、2021年10月にはレディ薬局の全店舗、合計1,760店舗に同システムを導入した。子会社への導入を順次進めており、来期上期には福太郎の全店に導入し、来期中にドラッグイレブンでテスト運用を開始する予定。これまで人員配置のシフト表は、店長の経験と感覚を頼りに作成していたが、システムの導入により、売上予測等を勘案した適正な人員配置、1日単位での人時管理が可能となり、店舗運営業務が効率化した。社員やパート・アルバイトの勤務時間の適正化等によるコスト削減効果のほか、シフト作成時間の短縮で空いた時間で接客の強化など販売の増加につなげる。
アプリ会員の獲得:顧客接点拡大のためにアプリ会員の獲得に注力しており、2022年2月末の累計アプリダウンロード数は570万人(2022年5月期末の目標は700万ダウンロード)となった。紙媒体のチラシを削減する一方で、来店頻度等に応じてアプリ会員向けにクーポンやお勧め商品の案内を送付するなど1to1マーケティングの実現に向けて取り組んでおり、増収効果・コスト削減効果がみられる。2022年末にはアプリに自社決済サービスを導入する予定で、アプリの利便性が向上するほか、カード会社への支払手数料が減少する見込み。また、化粧品台帳とアプリの連携も展望しており、デジタル化を加速する。
実店舗の強みを活かしてワンストップショッピングの利便性を高めることで、消費者行動の変化に対応する。
精肉・青果の取扱い強化:精肉・青果をはじめとする生鮮食品の取り扱い店舗数は当上期末までに859店舗となった。来店頻度の向上、「ついで買い」の誘発などによる精肉・青果以外の商品の売上増加にも寄与した。
100円均一商品の導入:当上期末までに52店舗に100円均一商品を導入した。一定の店舗面積を必要とするため、大型店のみの導入となるが、導入店舗数を増やす方針。
Eコマースの推進:2021年11月にEC商品の物流拠点「関東出荷センター」が稼働した。これまではオンライン注文された商品の配送は、島根県内の自社物流センターのほか、「Wolt」や「foodpanda」に外注してきたが、出荷能力の増強、配送コストの削減につながる見込み。また、オンライン注文した商品を駐車場などで受け取れるサービス「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」を実験導入するなど、多様化する購買スタイルに対応する。
PB商品の開発・販売体制を強化する。「くらしリズム」と「くらしリズムMEDICAL」という高品質で割安なシリーズを中心に展開してきたが、「くらしリズム」への集約を進めた。当第3四半期には「くらしリズム」は876SKUと、2022年5月期末の目標としていた850SKUを前倒しで実現した。特に食品カテゴリーを強化し、大手食品メーカーと管理栄養士の共同商品開発も進んだ。食品の販売構成比が上昇するためPB商品の売上総利益率は低下する見通しだが、NB商品と合わせた商品全体でみれば売上総利益率は上昇する見通し。
各事業子会社への導入も計画通り進んでいる。「くらしリズム」を含むPB商品の売上高目標として通期で70,000百万円(当第3四半期累計期間は56,705百万円)、中長期的にはPB商品の販売構成比15%(当第3四半期末は9.0%)を目指す。
既存店舗への併設を中心に新規開局を推進する。通期では期初計画であった91店舗を上回る95店舗を開局する見込みで、当第3四半期累計期間は62店舗開局し、計画通り進捗した。調剤店舗比率は30%を超える見通し。
投資家のESGやサスティナビリティへの関心の高まりを受けて、同社の重要課題を特定した。1)お客様の生活に「豊かさと余裕」を提供、2)従業員一人一人の働きやすさと働き甲斐のある環境を提供、3)次世代への地球環境を考える 、4)お取引先様との連携、5)ガバナンスの推進、である。今後、関連するKPIについても公表する予定。
2022年5月期の期首より「収益認識に関する会計基準」等の適用を開始するため、当該会計基準等適用前の実績値に対する増減率は記載していない。収益認識基準の変更による主な影響としては、委託販売は手数料の純額を売上高として認識するようになるほか、ポイントは付与時に売上収益から控除(従来はポイント使用時)するようになることが挙げられる。
出店については、ドミナント展開による店舗網の拡充を図るべく、新規エリアを含めた地域集中出店を行う。出店は158店舗と、過去最高水準を計画する(2021年5月期は138店舗、2020年5月期は129店舗)。主に北海道、東北、北関東、中国、四国地方のドミナント強化、シェア拡大のための出店となる。コスモス薬品やクスリのアオキをはじめとする同業他社が郊外を中心に出店を強化しており、同社のシェアが低下しているエリアがみられるようになっている。こうしたエリアにおいて攻勢をかける。但し、シェアを確保するための無理な出店はしない。新規店舗の採算確保は勿論のこと、各エリアで自社競合が発生しないよう、各エリアの利益を勘案し、出店を判断する。
調剤薬局は、ドラッグストア店舗内の併設店舗を91店舗出店する予定(2021年5月期は68店舗の純増)。過去の出店実績と比較しても高水準である。ドラッグストアへの調剤薬局の併設率は28%と、目標の50%を大きく下回る。競合環境などを勘案しつつ、処方箋枚数を確保できそうなドラッグストア店舗内に出店する。介護施設などに出向いて処方箋を応需するなど、在宅患者訪問管理指導を推進して処方箋枚数を確保するほか、調剤機器の導入やシステム化による業務効率を図り、採算を改善し、これまで出店できていなかった立地への出店を進める。尚、薬剤師は順調に採用が進むようになっており、出店に支障をきたすことは少なくなっている。
既存店売上高は会計基準変更前との比較で前期比2.3%増(上期は0.4%増、下期は4.3%増)を見込む。
上期は、依然として新型コロナウイルスの影響が残り、経済情勢は不安定な状態が続くと想定。また、前年の新型コロナウイルス関連用品(マスクや消毒関連商品、ハンドソープなど)の特需が発生した反動減が見込まれる一方、減収が一巡した化粧品の販売が回復することを織り込んだ。
下期は、前期においては、新型コロナウイルス関連用品の特需が一巡したほか、インバウンド需要が剥落して化粧品等の販売は低迷し、感染対策の強化で風邪薬の販売も低迷するなど、全体的に販売が伸び悩んだ。今期は前期の反動が期待されること、ワクチン接種の広がりによる経済の回復が見込まれること、雑貨については高品質・大容量な商品の取り扱い強化に伴って単価上昇が期待されること、などを織り込んだ。
改装は290店で実施する予定。合計5,000百万円程度の予算を見積もっている(2021年5月期は例年並みの200店舗強、約3,000百万円)。
収益認識基準の変更前ベースでの売上総利益率は29.5%と、2021年5月期対比0.5ポイント上昇する見込み。売上総利益率の高い化粧品や調剤の需要回復に伴う商品ミックスの改善、JR九州ドラッグイレブンなどにおける調達面でのシナジー効果、等を織り込んだ。
収益認識基準変更前ベースでの販管費率は24.2%と、2021年5月期対比0.5ポイント上昇する見通し。
出店や改装を積極化させるため、設備投資に伴う減価償却費の増加や、人員の増加に伴う人件費の増加が見込まれる。顧客のキャッシュレス払いの傾向は続くとみており、支払手数料が増加する見込み。尚、キャッシュレス払いの比率が2-3%上昇すると手数料は数億円増加し、業績に与える影響も小さくない。上期(6-12月)までは新型コロナウイルスの影響が残るとの前提で、従業員用のマスク、顧客用の消毒液などの感染対策費用も織り込んでいる。人件費は、最低賃金の改定が行われる見通しで、増加するとみて費用を予算に組み込んでいる。
2021年5月期にツルハに導入したシフト管理等の新システムを、他の子会社にも導入する。ツルハでは人材配置の最適化による効果が200-300百万円程度みられた。今期は、他の子会社における効果、ツルハでの更なる活用も期待している。
新型コロナウイルスの感染拡大状況が日々変化する中、先行き不透明な状況が継続する中においても、同社はカウンセリングサービスの充実に引き続き取り組むとともに、PB商品をはじめとする良質で購入しやすい商品の品揃えによる利便性の提供に努める。また、新たなライフスタイルに対応すべく、精肉・青果や100円均一の導入によるワンストップショッピングの実現を目指すとともに、ドラッグストア業界最大の店舗網を背景としたID-POSデータを活用したマーケティング施策の推進、ドラッグストア併設型を中心とした調剤薬局の新規開局を進める方針。前期は新型コロナウイルスの影響が長期化する中、生活や消費の変化に対応する店舗やサービスのあり方を追求した。
デジタルツールの導入・活用を通して、店舗業務の簡素化と接客機会の確保・本部業務の効率化を図る。
アプリ会員数の増加:アプリ会員数を増やすことに注力する。2021年5月末の会員数は350万人だが、今期末までには700万人を目指す。アプリ会員は通常のポイントカード保有者と比較して、来店頻度が50%増、購入金額が10%増といったデータもある。また、顧客データを収集し、来店頻度や購入商品の傾向等の特徴に応じて顧客を30以上のクラスターに分類して管理する方針。顧客特性に応じて、最適できめ細かな販促活動を展開していく。2022年5月期は実験段階で、2023年5月期以降からの売上貢献を期待している。
店舗業務のデジタル化:ツルハで先行導入していたシフト作成の新システムを、事業会社に導入していく。また、従来紙で管理していた化粧品台帳をデジタル化にすることで店舗運営を効率化する。
デリバリー事業「Wolt」を展開するWolt Japanと提携した。同社商品の配達サービスを2021年5月から北海道7店舗で開始しており、順次他のエリアへの拡大を進める。
JR九州ドラッグイレブンのPMIとして、精肉・青果の導入による客数増加、PB商品「くらしリズム」の導入、改装とスクラップ&ビルドによる既存店の活性化、仕入れ統合による粗利率の改善、といった取り組みを継続する。2022年5月期は全面改装を10店舗、スクラップ&ビルドを7店舗で実施する計画である。今期を含めて3年間で、60-70店舗の全面改装およびスクラップ&ビルドを実施する予定。今後1-2年は業績は踊り場状態となる見込みだが、改装等を実施した店舗から徐々に業績の改善傾向がみられる。
取扱商品を拡大し、客数、購買点数を増加させる。精肉・青果の導入店舗数は合計で740店舗になる見通し。加えて、売場面積が広い店舗には100円均一商品も導入する。子会社であるピー・アンド・ディーでの販売が好調に推移しており、他の子会社にも展開していく。
PB商品については、売上高を70,000百万円(前期比8%増)、PB商品の販売構成比8.5%を目指す。中でも同社PB商品の中で高品質なシリーズである「くらしリズム」は、今期末までに850SKU(前期比14%増)まで増やす。
現中期経営計画は、2018年6月に開催された2018年5月期の決算説明会で発表されたものである。2024年5月期を最終年度とし、目標値は店舗数3,000店(6年間の平均成長率7.6%)、売上高が1兆円(同6.8%)。
同社は、2022年5月期の決算発表に合わせて、2023年5月期から2027年5月期の5カ年の新中期経営計画を発表する予定である。2021年5月期の売上高は919,303百万円と、売上高目標の1兆円が前倒しで達成される見込みであることなどを踏まえた。戦略の方向性は大きくは変わらないが、売上高や店舗数だけではなく、営業利益を含む損益目標、財務指標(資本効率、株主還元など)のほか、海外展開や調剤比率など事業戦略の目標値なども織り込んだものとなる見込み。
同社の2021年5月期末の店舗数は2,420店(国内直営店)。3,000店の達成には2022年5月期以降に580店の純増が必要である。2022年5月期は158店舗出店予定で、2022年5月末には2,578店舗となる見込み。毎期の新規出店に加え、「(縁があれば)M&Aで補っていきたい」との考えである。なお、2020年6月に社長に就任した鶴羽順氏は「M&Aについてはドラッグストアだけでなく、スーパーなど異業種についても否定はしない」としており、M&Aの選択肢を広げている。
売上高1兆円の目標については、2017年9月に子会社化した杏林堂、2018年5月に子会社化したビー・アンド・ディー(B&D)、2020年5月に子会社化したJR九州ドラッグイレブンの効果で、前倒しで達成される見込みである。特に、杏林堂は地域の食品需要を取り込んでいること、店舗面積が広いことなどから、1店舗当たりの売上高が1,347百万円(2021年5月期)と全社平均の380百万円よりも大きいことが寄与している。
なお、同社では、明示的な利益目標やROE目標を定めていない。売上総利益率については30%程度を、売上高営業利益率については6.0%以上を一つの目途にしているとみられる(2021年5月期の売上総利益率は29.0%、営業利益率は5.3%)。
目標達成に向けて、方針として掲げるのは、1)専門性・利便性の追求:医薬品・化粧品・調剤を核とするカウンセリング力強化、及び、小商圏対応の店舗づくり、2)ドミナントエリア戦略に基づく出店:既存グループの出店推進、及び、M&Aによる店舗展開、3)PB商品の展開拡大・商品力向上:高品質のPB商品の開発を通じたブランド価値の向上、4)グループの組織力と収益力の強化:スケールメリットの拡大、及び、グループシナジーの最大化、の4点である。
専門性の追求は、医薬品や化粧品の売上拡大、利益率の向上が念頭にある。調剤においては、調剤併設店を増やし薬剤師の確保を通じて処方箋枚数の増加、特定の医療機関からの処方箋受付比率が高い所謂「門前薬局」からのシェア獲得を通じて売上高を伸ばす計画。一般用医薬品(OTC)については、社員教育を通じて販売担当者の商品知識の向上やカウンセリング能力を向上させ、PB商品等を安心して購入してもらえる体制とする計画である。化粧品については、メーカーとタイアップした商品を中心に商品知識を高め、グループ全社を挙げて販売の増加、ひいては利益率の向上を図る。
食品については、出店した地域特性に合わせて品揃えを強化する方針。基本的には、商品アイテム数を増やすよりも、日々の生活に必要不可欠な商品や、冷凍食品など加工食品を中心とした品揃えとして、利便性の向上(買い回る必要をなくし、短時間で必要な物が揃う)を図る計画。品質管理に手間のかかる鮮魚や総菜については、最低限度にとどめることが念頭にあるとみられる。人口密度の低い地域においても、食品を通じて需要の深掘り(他業態からのシェア獲得)を進めることで、小さな商圏であっても十分な利益を確保できる体制とするのが狙いである。
同社は、現在の枠組みの中で、年間100店程度のペースで店舗純増を進める計画である。出店地域の選定において、ドミナントエリアの形成を意図したものとする考え。同社の出店している地域の中には、複数店舗を集中的に展開し、50%超のシェアを有している都市もある。これらの地域の収益性は、他地域に比べて高いという。同社は、中期計画においても、ドミナント化を強く意識した出店とする意向である。また、同社は「縁があればM&Aを進めたい」との意向を持つ。これまでのM&Aも、特定の地域でのシェアが高い中堅ドラッグストアチェーンを子会社化することが多かった。M&Aにおいても、ドミナントエリア戦略が基礎になるとみられる。
同社は、過去にもPB(プライベートブランド)商品を強化した実績があるが、現在は再構築の段階にある。同社のPB商品には、他社にないもの、NB(ナショナルブランド)商品よりも品質面で特徴のあるものもあるが、一部の商品は様々な経緯から「安かろう、悪かろう」の商品と位置付けられるものとなっていた(一部の商品は子会社化したチェーンで展開しているPBよりも商品的魅力が乏しかった)。同社は2018年から新ブランド「くらしリズム/くらしリズム Medical」シリーズを展開。同シリーズでは、NB商品よりも品質面で優れている、もしくはNB商品と品質面は同等だが価格が安い商品に絞って展開し、グループ全体での販売を通じて、規模のメリットも取り込む考えである。
PB商品、化粧品、一般用医薬品、日用雑貨(特にシャンプーなどトイレタリー)などの商品は、販売量がまとまるとメーカーからのリベート、販売促進サポート、調達価格の低減が期待できる。新しくグループ会社となったチェーンも含めたスケールメリットを活用し、M&Aによる相乗効果を最大化し、収益力の強化を図る計画。
同社には中期計画とは別に「長期ビジョン」の目標値がある。「グローバル店舗数2万店、売上高6兆円」である。これは、1985年に設定した旧来の長期ビジョン「全国1,000店、売上高2,000億円」を達成した2012年頃から同社で謳われている。具体的な達成の道筋がある訳ではない。しかし、同社では、大きなビジョンを掲げることにより現状に満足せず、「革新」を繰り返すことにより目標に近づくことができるとして、長期ビジョンを掲げている。
なお、同社は店舗数が5店舗(旭川4店、札幌1店)だった1975年に「北海道に100店つくりたい」との目標を掲げた。そして、店舗数が50店、売上高85億円に達した1985年に「全国1,000店、売上高2,000億円」へ目標を引き上げた。同社は、これまで、20倍目標を掲げ(公言し)、達成してきた会社と言える。
要約
事業概要
ツルハホールディングスは、1929年に北海道旭川市創業の、全国展開するドラッグストアチェーン。ドラッグストア業界では、店舗数(2,420店)、営業利益(48,377百万円)などで業界首位(2020年度)。売上高(919,303百万円)はウエルシアホールディングス(東証プライム 3141)に次ぐ2位。売上構成比は医薬品が21.1%、化粧品が14.5%、日用雑貨が28.3%、食品が23.1%、その他が12.6%(2021年5月期)。医薬品をコアとしつつも、地域の需要に即して幅広い商品を展開している。売上総利益率は医薬品が42.2%、化粧品が33.3%と高く、日用雑貨が26.9%、食品が14.4%と相対的に低い。医薬品や化粧品の「目的買いの取り込み」と、日用雑貨や食品を通じた「来店頻度の向上」のバランスが業界上位の地位を支えている。
同社はドミナント戦略を軸とした積極出店で店舗網を広げ、2021年5月期末の店舗数(国内直営)は2,420店に及ぶ(その他、国内FC店4店、連結対象外の海外22店を展開)。ターゲット地域においてドミナント化することにより、1)出店候補地の情報が集まりやすい、2)消費者の認知度が高まり消費者にとって身近な存在になる、3)管理コストが低下するなどを通じて、収益力の向上を図っている。過疎化の進む地域では、食品を含めて生活に必要な物を幅広く品揃えした大規模店舗とする一方、都市部では医薬品、化粧品、日用雑貨などを軸とした小規模店舗で展開するなど、地域の特性に合わせて出店している。地域別の販売構成比(2021年5月期)をみると、関東甲信越が16.8%、中部・関西が18.0%と大都市での売上構成が相対的に低く、北海道が17.1%、東北が19.7%、中国が14.6%を占めるなど、地方に軸足を置いた地域構成となっている。
主な店舗ブランドは、「ツルハドラッグ」「くすりの福太郎」「ドラッグストアウェルネス」「ドラッグストアウォンツ」「くすりのレデイ」「杏林堂スーパードラッグストア」「B&D ドラッグストア」「ドラッグイレブン」。同社は、地域密着で成長志向の強いドラッグストアチェーンを子会社化してきた。同社の経営理念である「お客様の生活に豊かさと余裕を提供する」ことを共通目標としつつ、子会社化の後も原則として店舗ブランドを変更せず、一定の経営の自由度を与えている。その一方、ツルハグループの調達力や価格交渉力など共有できるものを積極的に活用。子会社化の後も各社は売上高を伸ばし、利益率を高めている。M&Aは、これまで同社の成長ドライバーの一つとなってきた。
ドラッグストア業界(売上規模は8.0兆円、2020年度)は一般用医薬品(OTC)や調剤をコア商品としつつ、化粧品、日用雑貨、食品などの品揃えを拡充し、百貨店(同4.5兆円、2020年度)やスーパーマーケット(同15.1兆円、2020年度)などのシェアを奪って成長してきた経緯がある。今後も特定の医療機関への依存度が高い所謂「門前薬局」など調剤(同7.5兆円、2018年度)からのシェア獲得や他業態からの需要のシフトが注目される。これまでドラッグストア業界では大手ドラッグストアチェーンが中小を傘下に収める形で業界再編が進んできた。2021年10月にはマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合してマツキヨココカラ&カンパニー(東証プライム 3088)が誕生するなど、メーカーとの交渉力強化を目指した大手同士の再編気運も高まっている。
業績動向
2021年5月期通期の売上高は919,303百万円(前期比9.3%増)、営業利益が48,377百万円(同7.5%増)、当期利益が26,283百万円(同5.8%減)。年間配当金は167円/株(配当性向は30.8%)。既存店売上高が前期比1.1%増と伸びたこと、販管費を抑制したこと、子会社化したJR九州ドラッグイレブンの業績を反映したことが業績の拡大に繋がった。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、同社グループでは、カウンセリングを主体とした接客サービスの徹底を継続して行うとともに、生活スタイルの変化に対応する施策に取り組んだ。商品展開では、プライベートブランドの商品開発・販売体制を強化し、同社グループの新たなプライベートブランドの刷新と展開拡大を図った。新型コロナウイルスの感染拡大により、感染予防関連商材の需要増、緊急事態宣言等による外出自粛に伴う日用品、消耗品、食品等の需要増があったものの、インバウンド需要の剥落や化粧品等の需要減、さらに下期においては風邪薬を中心とした季節品の売上不振などの成長阻害要因が見られた。店舗展開については、ドミナント戦略に基づく地域集中出店および既存店舗のスクラップアンドビルドを推進したことにより、期首より138店舗の新規出店と75店舗の閉店を実施したほか、2020年5月に子会社化したJR九州ドラッグイレブンなど207店舗がグループに加わり、当期末のグループ店舗数は直営店で2,420店舗となった。なお、タイ国内の同社グループ店舗については、2店舗の新規出店と2店舗の閉店を実施し、同国内における店舗数は期末時点で22店舗となった。
2022年5月期通期の会社予想は、売上高956,000百万円、営業利益51,200百万円、経常利益51,367百万円、当期純利益28,280百万円を見込む。なお、2022年5月期の期首より「収益認識に関する会計基準」等の適用を開始するため、当該会計基準等適用前の実績値に対する増減率は記載していない。当該会計基準適用前の会社予想は、売上高975,700百万円(前期比6.1%増)、営業利益51,200百万円(同5.8%増)を見込む。新型コロナウイルスの感染拡大状況が不透明な中においても、同社はカウンセリングサービスの充実に引き続き取り組むとともに、PB商品をはじめとする良質で購入しやすい商品の品揃えによる利便性の提供に努める。また、新たなライフスタイルに対応すべく、精肉・青果や100円均一の導入によるワンストップショッピングの実現を目指すとともに、ドラッグストア業界最大の店舗網を背景としたID-POSデータを活用したマーケティング施策の推進、ドラッグストア併設型を中心とした調剤薬局の新規開局を進める方針。出店については、ドミナント展開による店舗網の拡充を図るべく、新規エリアを含めた地域集中出店により158店舗の出店を計画する。年間配当金予想は167円/株(会社予想基準の配当性向は28.6%)。
中期目標として同社は「2024年5月期の店舗数3,000店、売上高1兆円」を掲げる。基本戦略は、1)専門性・利便性の追求、2)ドミナントエリア戦略に基づく店舗展開、3)PB商品の展開拡大・商品力の向上、4)グループの組織力と収益力の強化。長期のビジョンとして目標は「世界20,000店、売上高6兆円」を掲げる。尚、2022年5月期通期の決算発表に合わせて、2023年5月期から2027年5月期の5カ年の新中期経営計画を発表する予定である。戦略の方向性は大きくは変わらない見込みで、売上高や店舗数だけではなく、営業利益を含む損益目標、財務指標、海外展開や調剤比率など事業面での目標値なども織り込むとみられる。
同社の強みと弱み
SRでは、同社の強みを、1)地域に密着した商品・店舗展開でシェアを拡大する力、2)M&Aを成長ドライバーとして活用する能力、3)ドラッグストアとしての事業規模が大きく調達面での優位性を発揮していること、と捉えている。
一方、同社の弱みとしては、1)差別化や収益性向上の源泉となるPBの育成が十分ではないこと、2)最新技術と顧客データの活用の遅れで需要を取りこぼしていること、3)「ツルハ」ブランドの認知度が低いこと、が挙げられよう。(後述の「SW(Strengths, Weaknesses)分析」の項参照)
主要経営指標の推移
注:表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注:同社は2014年5月16日付で1対2の株式分割を実施している。
注:決算日は5月15日。
注:同社は2022年5月期に「収益認識に関する会計基準」等の適用を開始するため、2022年5月期会社予想の当該会計基準等適用前の実績値に対する増減率は記載していない。
直近更新内容
2022年4月の月次売上高を発表
株式会社ツルハホールディングスは2022年4月の月次売上高を発表した。
(月次売上高へのリンクはこちら)
業績動向
四半期実績推移
注:決算日は5月15日。表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注:2021年5月期第2四半期よりドラッグイレブン(6月1日~5月15日)の実績を含む
注:2021年5月期第2四半期よりドラッグイレブン(6月1日~5月15日)の実績を含む
注:2021年5月期第2四半期よりドラッグイレブン(6月1日~5月15日)の実績を含む
注:2021年5月期以前はイレブンの実績を含まない。
2022年5月期第3四半期累計期間実績
<決算サマリー>
売上高:691,890百万円(前年同期比1.2%増)
営業利益:34,050百万円(同14.3%減)
経常利益:33,925百万円(同13.8%減)
親会社株主に帰属する四半期利益:18,903百万円(同16.2%減)
同社は当第1四半期より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号2020年3月31日)等を適用した。商品販売に伴い顧客に付与するポイント、消化仕入取引等の計上基準を変更した。新会計基準の適用による影響は、売上高が19,565百万円減、売上総利益が14,703百万円減、販管費が5,012百万円減であった。
2022年5月期第3四半期累計期間(当第3四半期累計期間)の売上高は、前年同期比1.2%の増収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同2.9%増)であった。前年同期の巣ごもり需要の反動減、風邪薬や化粧品など季節品の不振により、既存店売上高は前年同期比0.8%減となったものの、新店効果や子会社化したドラッグイレブンの業績も寄与して増収となった。
営業利益は前年同期比減少した。売上総利益率は上昇したが、人件費、地代家賃、水道光熱費等の販管費が前年同期比で増加した。
売上総利益は205,399百万円、前年同期比3.7%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは200,141百万円、同4.8%増)、売上総利益率は29.7%(同0.7ポイント上昇、ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同0.4ポイント上昇)であった。前年同期は衛生用品やマスクなどの利益率の低い商品の構成比が上昇して売上総利益率が低下した反動、利益率が高い医薬品の販売構成比の上昇、グループ全体で仕入を見直したことによる調達価格の低下等が寄与した。また、売上総利益率の高いプレミアム商品の販売が好調であった日用雑貨等の商品利益率が上昇した。
販管費は171,349百万円、同8.2%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同9.8%増)、販管費率は24.8%(前年同期比1.7ポイント上昇、ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同1.5ポイント上昇)であった。
人件費は86,786百万円、同7.1%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同5.8%増)であった。店舗数の増加、最低賃金の上昇等により増加した。シフト作成システムの導入(詳細後述)により残業時間やパート労働時間が減少し、計画対比では抑制できた。特に当第3四半期は、各店舗における人員配置を見直したほか、各店舗でもコスト管理意識が高まり、人件費の増加幅を抑制できた。
販売促進費は2,990百万円、同29.4%減(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同84.8%増)であった。顧客への商品販売時に付与するポイント相当額を、従来はポイント引当金として販管費で計上していたが、新会計基準の適用により販売時に売上高から控除する形となったことで減少した。
地代家賃等は37,635百万円、同5.9%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同4.5%増)であった。店舗数の増加に伴って増加したが、予算の範囲内である。
その他経費は43,935百万円、同17.2%増(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同15.2%増)であった。新型コロナウイルス対策として配布する従業員へのマスクや、店頭に設置する消毒剤等の費用が嵩んだほか、店舗数の増加などにより減価償却費も増加した。また、キャッシュレス決済を利用する顧客が増加傾向にあり、カード会社等への支払手数料が増加した。その他、世界的な原油高の影響で電気料金が値上がりしており水道光熱費が7,000百万円(前年同期比で900百万円増、当第3四半期だけでも同社500百万円増)まで増加した。
通期会社予想に対する進捗
当第3四半期累計期間における2022年5月期通期会社予想に対する進捗率は、売上高が72.4%(前年同期における前期通期実績に対する進捗率は74.4%)、売上総利益が71.7%(同74.2%)、営業利益が66.5%(同82.1%)、経常利益が66.0%(同82.5%)、親会社株主に帰属する四半期純利益が66.8%(同85.8%)であった。売上高が計画を下回ったため、全ての利益段階で会社予想を下回った。
売上高は、期初時点ではワクチン接種の普及により、当下期には新型コロナウイルス感染症の流行前のライフスタイルに戻るとみて、医薬品や化粧品などの販売増加を織り込んだ予算とした。しかし、新型コロナウイルス感染症の再拡大により、期初想定ほどには売上高は回復しなかった。また当第2四半期以降の季節品の不振、当第3四半期には北日本において降雪に伴う客数減の影響もあった。
営業利益も会社予想を下回った。減収に伴って売上総利益が想定を下回ったこと、電気料金が値上げしたこと等が要因であった。
通期会社予想は据え置いた。会社予想の達成は困難とみるが、適時開示規則にある「公表された直近の業績予想値(予算)から、売上高においては±10%、経常利益又は当期純利益においては±30%の乖離が見込まれる場合」には当てはまらない見込みである。また、新型コロナウイルス感染症の流行状況、相次ぐ値上げ報道による消費マインドへの影響、世界情勢、電力料金や物流費の上昇幅など、不確定要素が多く、当第4四半期の業績を合理的に見積もることが困難であることも据え置いた要因である。
四半期業績
当第1四半期:売上高は235,684百万円、前年同期比4.9%の増収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同2.2%増)となった。前年同期の巣ごもり需要、マスクや消毒薬の特需の反動で既存店売上高は前年同期比1.2%減となったものの、子会社化したドラッグイレブンの連結効果、店舗数の増加、前期に出店した新店の寄与等により前年同期比増収となった。営業利益は12,889百万円、前年同期比15.0%減(ドラッグイレブンを除いた旧会計基準では同15.3%減)となった。店舗数の増加に伴って人件費や地代家賃等が増加したほか、支払手数料も増加した。
当第2四半期:売上高は226,827百万円、前年同期比0.9%の減収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同3.0%増)となった。前年同期の特需の反動減がみられたほか、風邪薬やドリンク剤、化粧品の季節品の販売が伸び悩んだ。営業利益は9,820百万円、前年同期比23.5%減(ドラッグイレブンを除いた旧会計基準では同21.5%減)であった。人件費、地代家賃、支払手数料の増加や、寄付金・租税公課などにより、販管費が増加した。
当第3四半期:売上高は229,377百万円、前年同期比0.5%の減収(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同3.4%増)となった。コロナ禍において医薬品や化粧品の販売が伸び悩んだ上、北日本を中心に降雪の影響を受けて客数が前年同期を下回った。営業利益は11,340百万円、前年同期比3.2%減(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベースでは同5.7%減)であった。商品ミックスで売上総利益率は改善し、人件費も抑制したが、水道光熱費の増加や除雪費の発生などにより、販管費が増加した。
2022年5月期上期実績の詳細
出退店
出退店、改装ともに計画通り進捗した。
出店:ドミナント戦略に基づき北海道、東北、関東甲信越、中国・四国地方へ集中出店した。通期では過去最高水準の159店舗(期初計画対比1店舗増加、2021年5月期は138店舗、2020年5月期は129店舗)を出店する計画である。同業他社の出店強化により、同社のシェアが低下しているエリアがあり、そうしたエリアで攻勢をかける。
退店:退店は期初計画対比9店舗多い57店舗となる見通し。ドラッグイレブンの不採算店舗の閉鎖を進める。
スクラップ&ビルド:スクラップ&ビルドを強化した。退店のうち概ね半数がスクラップ&ビルドのための退店である。老朽化した郊外の小型店舗を退店し、大型店に建て変えて出店している。
調剤薬局:62店舗開局した。今期はドラッグストア店舗内の併設店舗を中心に91店舗開局する計画で、過去実績と比較しても高水準である。調剤薬局を併設するドラッグストアの店舗数は558店舗、併設率は22.5%に上昇した。目標とする50%に向けて、採算の確保が見込まれるドラッグストア店舗内に出店する。
改装:197店舗で実施した。調剤併設店舗への改装、精肉・青果や100円均一商品を導入するための店内レイアウトの変更が中心に、通期で290店舗改装する計画(例年では通期で200店舗程度)である。
タイ:ロックダウンや観光客減少の影響で売上高が低迷していた店舗を中心に5店舗退店した。タイでは出退店を繰り返しながら、20店舗前後で推移しているが、中長期的には店舗数を増やす方針。
既存店売上高(ドラッグイレブンを除く)
既存店売上高は前年同期を下回った。当第3四半期累計期間は前年同期比0.8%減であったが、当第3四半期は0.3%減と改善傾向にある。
客数は前年同期を下回って推移した。前年同期はコロナ禍でマスクや消毒剤などの感染予防関連商材を求める顧客が多かった。今期はこうした反動や、巣ごもり需要の一巡により客数が減少した。
客単価は前年を上回って推移している。質の良い商品を求めるトレンドに合わせて高単価商品の取扱いを強化したほか、大容量で高単価な商品の販売が好調であった。また、新型コロナウイルス感染症の検査キットなどの高単価商品の販売が伸びた。
会社別
会社別では、展開エリアにおける外部環境よりも、商品の販売構成比の影響を受けた。比較的好調な調剤・食品の販売構成比の高い子会社が好調に推移した一方、苦戦しているOTCや化粧品の販売構成比が高い子会社の販売が低迷した。
商品別売上高(ドラッグイレブンを除く旧会計基準ベース)
調剤と食品は増収となったが、カイロなどの季節商品、風邪薬、化粧品の販売が伸び悩んだ。
四半期別にみると、当第1四半期は、日用品、消耗品、食品等が前年同期の巣ごもり需要の反動で低迷した。当第2四半期は、風邪薬などの季節品が不振であった。当第3四半期は制度化粧品が前年同期並みまで回復した。
医薬品:145,240百万円(前年同期比6.0%増)
OTC(市販薬):70,256百万円(同0.2%減)であった。ワクチン接種の副反応に備えて解熱鎮痛剤の需要は伸びたが、皮膚関連商品(虫刺され薬、水虫薬等)などの季節性商品、風邪薬やドリンク剤の販売が低迷し、前年同期並みとなった。当第3四半期は、前年同期に低迷した反動や、ドリンク剤の需要回復、解熱剤や検査キットの伸長など、回復傾向がみられた。
調剤:74,984百万円(同12.5%増)、処方箋枚数は6,946千枚(同13.2%増)、単価は10,795円(同0.6%減)であった。店舗数の増加や、前年同期の受診抑制の反動増、既存店売上高の増加により増収となった。前年同期はコロナ禍の受診抑制の影響により処方箋枚数が減少した一方で、長期処方により単価が上昇していた。当第3四半期累計期間は受診抑制が緩和して単価は低下したものの、処方箋枚数が増加して調剤全体では増収となった。また、門前薬局から住居近隣のドラッグストア内の調剤薬局へと需要が流れており、こうした外部環境も増収に寄与した。
(調剤の同業他社)調剤を扱う大手企業の多くは、店舗数の増加により増収傾向にある。調剤を強化する同業他社のウエルシアホールディングス株式会社(東証プライム 3141)およびスギホールディングス株式会社(東証プライム 7649)の直近決算をみれば、両社とも処方箋単価は前年同期をやや下回るが、店舗数の増加や処方箋枚数の増加により増収となり、同社と類似トレンドで推移した。調剤専門薬局最大手の株式会社アインホールディングス(東証プライム 9627)は店舗数、処方箋枚数、単価ともに前期を上回り増収となった。日本調剤株式会社(東証プライム 3341)は、処方箋枚数は減少したが、店舗数の増加や単価の上昇により増収となった。
化粧品:94,286百万円(同0.8%増)であった。外出抑制、マスク着用の常態化、インバウンド需要の消滅等により販売額は低水準にある。同社はカウンセリングや化粧品台帳を活用した顧客管理により固定客を囲い込み、高価格帯の化粧品の販売に強みを有する。こうした背景から高価格帯の化粧品はコロナ禍においても落ち込み幅は小さいが、中価格帯の戻りが悪い。中価格帯の化粧品を購入していた顧客が低価格帯にブランドスイッチしている可能性がある。四半期別にみれば、当第1四半期は、猛暑の影響もあり制汗剤や日焼け止めなどの季節品、韓国コスメが好調で、前年同期並の水準に戻った。当第2四半期は天候不順の影響で前年割れととなった。当第3四半期は、ファンデーションなどのベースメイクは回復が遅れるが、ポイントメイクが前年並みまで戻った。
日用雑貨:188,318百万円(同0.6%増)であった。巣ごもり需要は一巡したが、在宅時間の増加に伴って、高単価でも質の良い日用雑貨を求める傾向が続いており、ライフスタイルの変化に対応して高単価・高品質な商品や大容量商品の取扱い強化、棚割の見直し等を行い、需要を確保した。
食品:168,592百万円(同7.5%増)であった。前年同期は巣ごもり需要で前々年同期比10.3%増加したが、当第3四半期累計期間も更に増収となった。全商品カテゴリーの中で最も堅調である。在宅需要で冷凍食品やインスタント食品の販売が伸びているほか、家飲み需要を確保して酒類の販売も高水準で推移する。
その他:78,135百万円(同3.9%減)であった。その他商品には健康食品、医療用品、育児用品が含まれる。前年同期はコロナ禍においてマスク、消毒剤、体温計、ハンドソープなどの販売が前年同期に増加した反動で、今期は低迷した。
当期の取り組み
同社では、カウンセリングを主体とした接客サービスの徹底、生活スタイルの変化への対応に取り組んだ。具体的には、利便性の向上を図るため、精肉・青果の導入をはじめとする既存店舗の改装を推進した。また、店舗運営業務の効率化を目的とした人員配置・在庫管理等の支援システムの導入店舗拡大に取り組んだ。
デジタル戦略
デジタルツールの導入や活用を通じて、店舗業務の簡素化と接客機会の確保を図った。
化粧品台帳のデジタル化:従来は各店舗で紙で管理していた化粧品台帳のデジタル化を推進している。約90万人の化粧品会員のデータを、全子会社が同じシステムで一元管理することを目指す。今期はツルハの店舗を中心に累計1,400店舗に導入し、2021年11月から本格的に稼働し始めた。固定客へダイレクトメールを効率的に送付できるようになるほか、アプリと連携し消耗のタイミングに合わせてクーポンを配布するなど、販売促進に活用する方針。また、紙ベースの台帳と比較して、台帳管理に要する時間が削減されるため、販売員の接客時間を確保できるようになり、新規会員の獲得につなげる考え。化粧品台帳のデジタル化を同社の水準で進めているドラッグストアチェーンは少なく、将来的には差別化要因となる見込み。
人員配置の支援システム:2021年5月期にツルハの全店舗、2021年10月にはレディ薬局の全店舗、合計1,760店舗に同システムを導入した。子会社への導入を順次進めており、来期上期には福太郎の全店に導入し、来期中にドラッグイレブンでテスト運用を開始する予定。これまで人員配置のシフト表は、店長の経験と感覚を頼りに作成していたが、システムの導入により、売上予測等を勘案した適正な人員配置、1日単位での人時管理が可能となり、店舗運営業務が効率化した。社員やパート・アルバイトの勤務時間の適正化等によるコスト削減効果のほか、シフト作成時間の短縮で空いた時間で接客の強化など販売の増加につなげる。
アプリ会員の獲得:顧客接点拡大のためにアプリ会員の獲得に注力しており、2022年2月末の累計アプリダウンロード数は570万人(2022年5月期末の目標は700万ダウンロード)となった。紙媒体のチラシを削減する一方で、来店頻度等に応じてアプリ会員向けにクーポンやお勧め商品の案内を送付するなど1to1マーケティングの実現に向けて取り組んでおり、増収効果・コスト削減効果がみられる。2022年末にはアプリに自社決済サービスを導入する予定で、アプリの利便性が向上するほか、カード会社への支払手数料が減少する見込み。また、化粧品台帳とアプリの連携も展望しており、デジタル化を加速する。
利便性向上への取組み
実店舗の強みを活かしてワンストップショッピングの利便性を高めることで、消費者行動の変化に対応する。
精肉・青果の取扱い強化:精肉・青果をはじめとする生鮮食品の取り扱い店舗数は当上期末までに859店舗となった。来店頻度の向上、「ついで買い」の誘発などによる精肉・青果以外の商品の売上増加にも寄与した。
100円均一商品の導入:当上期末までに52店舗に100円均一商品を導入した。一定の店舗面積を必要とするため、大型店のみの導入となるが、導入店舗数を増やす方針。
Eコマースの推進:2021年11月にEC商品の物流拠点「関東出荷センター」が稼働した。これまではオンライン注文された商品の配送は、島根県内の自社物流センターのほか、「Wolt」や「foodpanda」に外注してきたが、出荷能力の増強、配送コストの削減につながる見込み。また、オンライン注文した商品を駐車場などで受け取れるサービス「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」を実験導入するなど、多様化する購買スタイルに対応する。
PB商品
PB商品の開発・販売体制を強化する。「くらしリズム」と「くらしリズムMEDICAL」という高品質で割安なシリーズを中心に展開してきたが、「くらしリズム」への集約を進めた。当第3四半期には「くらしリズム」は876SKUと、2022年5月期末の目標としていた850SKUを前倒しで実現した。特に食品カテゴリーを強化し、大手食品メーカーと管理栄養士の共同商品開発も進んだ。食品の販売構成比が上昇するためPB商品の売上総利益率は低下する見通しだが、NB商品と合わせた商品全体でみれば売上総利益率は上昇する見通し。
各事業子会社への導入も計画通り進んでいる。「くらしリズム」を含むPB商品の売上高目標として通期で70,000百万円(当第3四半期累計期間は56,705百万円)、中長期的にはPB商品の販売構成比15%(当第3四半期末は9.0%)を目指す。
調剤事業戦略
既存店舗への併設を中心に新規開局を推進する。通期では期初計画であった91店舗を上回る95店舗を開局する見込みで、当第3四半期累計期間は62店舗開局し、計画通り進捗した。調剤店舗比率は30%を超える見通し。
重要課題(マテリアリティ)の特定
投資家のESGやサスティナビリティへの関心の高まりを受けて、同社の重要課題を特定した。1)お客様の生活に「豊かさと余裕」を提供、2)従業員一人一人の働きやすさと働き甲斐のある環境を提供、3)次世代への地球環境を考える 、4)お取引先様との連携、5)ガバナンスの推進、である。今後、関連するKPIについても公表する予定。
2022年5月期会社予想
2022年5月期の期首より「収益認識に関する会計基準」等の適用を開始するため、当該会計基準等適用前の実績値に対する増減率は記載していない。収益認識基準の変更による主な影響としては、委託販売は手数料の純額を売上高として認識するようになるほか、ポイントは付与時に売上収益から控除(従来はポイント使用時)するようになることが挙げられる。
売上高
出店:158店舗、閉店:48店舗
出店については、ドミナント展開による店舗網の拡充を図るべく、新規エリアを含めた地域集中出店を行う。出店は158店舗と、過去最高水準を計画する(2021年5月期は138店舗、2020年5月期は129店舗)。主に北海道、東北、北関東、中国、四国地方のドミナント強化、シェア拡大のための出店となる。コスモス薬品やクスリのアオキをはじめとする同業他社が郊外を中心に出店を強化しており、同社のシェアが低下しているエリアがみられるようになっている。こうしたエリアにおいて攻勢をかける。但し、シェアを確保するための無理な出店はしない。新規店舗の採算確保は勿論のこと、各エリアで自社競合が発生しないよう、各エリアの利益を勘案し、出店を判断する。
調剤薬局は、ドラッグストア店舗内の併設店舗を91店舗出店する予定(2021年5月期は68店舗の純増)。過去の出店実績と比較しても高水準である。ドラッグストアへの調剤薬局の併設率は28%と、目標の50%を大きく下回る。競合環境などを勘案しつつ、処方箋枚数を確保できそうなドラッグストア店舗内に出店する。介護施設などに出向いて処方箋を応需するなど、在宅患者訪問管理指導を推進して処方箋枚数を確保するほか、調剤機器の導入やシステム化による業務効率を図り、採算を改善し、これまで出店できていなかった立地への出店を進める。尚、薬剤師は順調に採用が進むようになっており、出店に支障をきたすことは少なくなっている。
既存店
既存店売上高は会計基準変更前との比較で前期比2.3%増(上期は0.4%増、下期は4.3%増)を見込む。
上期は、依然として新型コロナウイルスの影響が残り、経済情勢は不安定な状態が続くと想定。また、前年の新型コロナウイルス関連用品(マスクや消毒関連商品、ハンドソープなど)の特需が発生した反動減が見込まれる一方、減収が一巡した化粧品の販売が回復することを織り込んだ。
下期は、前期においては、新型コロナウイルス関連用品の特需が一巡したほか、インバウンド需要が剥落して化粧品等の販売は低迷し、感染対策の強化で風邪薬の販売も低迷するなど、全体的に販売が伸び悩んだ。今期は前期の反動が期待されること、ワクチン接種の広がりによる経済の回復が見込まれること、雑貨については高品質・大容量な商品の取り扱い強化に伴って単価上昇が期待されること、などを織り込んだ。
改装
改装は290店で実施する予定。合計5,000百万円程度の予算を見積もっている(2021年5月期は例年並みの200店舗強、約3,000百万円)。
売上総利益
収益認識基準の変更前ベースでの売上総利益率は29.5%と、2021年5月期対比0.5ポイント上昇する見込み。売上総利益率の高い化粧品や調剤の需要回復に伴う商品ミックスの改善、JR九州ドラッグイレブンなどにおける調達面でのシナジー効果、等を織り込んだ。
販促費
収益認識基準変更前ベースでの販管費率は24.2%と、2021年5月期対比0.5ポイント上昇する見通し。
増加要因
出店や改装を積極化させるため、設備投資に伴う減価償却費の増加や、人員の増加に伴う人件費の増加が見込まれる。顧客のキャッシュレス払いの傾向は続くとみており、支払手数料が増加する見込み。尚、キャッシュレス払いの比率が2-3%上昇すると手数料は数億円増加し、業績に与える影響も小さくない。上期(6-12月)までは新型コロナウイルスの影響が残るとの前提で、従業員用のマスク、顧客用の消毒液などの感染対策費用も織り込んでいる。人件費は、最低賃金の改定が行われる見通しで、増加するとみて費用を予算に組み込んでいる。
減少要因
2021年5月期にツルハに導入したシフト管理等の新システムを、他の子会社にも導入する。ツルハでは人材配置の最適化による効果が200-300百万円程度みられた。今期は、他の子会社における効果、ツルハでの更なる活用も期待している。
今期の取組み
新型コロナウイルスの感染拡大状況が日々変化する中、先行き不透明な状況が継続する中においても、同社はカウンセリングサービスの充実に引き続き取り組むとともに、PB商品をはじめとする良質で購入しやすい商品の品揃えによる利便性の提供に努める。また、新たなライフスタイルに対応すべく、精肉・青果や100円均一の導入によるワンストップショッピングの実現を目指すとともに、ドラッグストア業界最大の店舗網を背景としたID-POSデータを活用したマーケティング施策の推進、ドラッグストア併設型を中心とした調剤薬局の新規開局を進める方針。前期は新型コロナウイルスの影響が長期化する中、生活や消費の変化に対応する店舗やサービスのあり方を追求した。
デジタル戦略の推進
デジタルツールの導入・活用を通して、店舗業務の簡素化と接客機会の確保・本部業務の効率化を図る。
アプリ会員数の増加:アプリ会員数を増やすことに注力する。2021年5月末の会員数は350万人だが、今期末までには700万人を目指す。アプリ会員は通常のポイントカード保有者と比較して、来店頻度が50%増、購入金額が10%増といったデータもある。また、顧客データを収集し、来店頻度や購入商品の傾向等の特徴に応じて顧客を30以上のクラスターに分類して管理する方針。顧客特性に応じて、最適できめ細かな販促活動を展開していく。2022年5月期は実験段階で、2023年5月期以降からの売上貢献を期待している。
店舗業務のデジタル化:ツルハで先行導入していたシフト作成の新システムを、事業会社に導入していく。また、従来紙で管理していた化粧品台帳をデジタル化にすることで店舗運営を効率化する。
デリバリー事業「Wolt」を展開するWolt Japanと提携した。同社商品の配達サービスを2021年5月から北海道7店舗で開始しており、順次他のエリアへの拡大を進める。
JR九州ドラッグイレブンのPMI
JR九州ドラッグイレブンのPMIとして、精肉・青果の導入による客数増加、PB商品「くらしリズム」の導入、改装とスクラップ&ビルドによる既存店の活性化、仕入れ統合による粗利率の改善、といった取り組みを継続する。2022年5月期は全面改装を10店舗、スクラップ&ビルドを7店舗で実施する計画である。今期を含めて3年間で、60-70店舗の全面改装およびスクラップ&ビルドを実施する予定。今後1-2年は業績は踊り場状態となる見込みだが、改装等を実施した店舗から徐々に業績の改善傾向がみられる。
商品施策
取扱商品を拡大し、客数、購買点数を増加させる。精肉・青果の導入店舗数は合計で740店舗になる見通し。加えて、売場面積が広い店舗には100円均一商品も導入する。子会社であるピー・アンド・ディーでの販売が好調に推移しており、他の子会社にも展開していく。
PB商品については、売上高を70,000百万円(前期比8%増)、PB商品の販売構成比8.5%を目指す。中でも同社PB商品の中で高品質なシリーズである「くらしリズム」は、今期末までに850SKU(前期比14%増)まで増やす。
期初会社予想と実績
中期目標
中期目標
現中期経営計画は、2018年6月に開催された2018年5月期の決算説明会で発表されたものである。2024年5月期を最終年度とし、目標値は店舗数3,000店(6年間の平均成長率7.6%)、売上高が1兆円(同6.8%)。
同社は、2022年5月期の決算発表に合わせて、2023年5月期から2027年5月期の5カ年の新中期経営計画を発表する予定である。2021年5月期の売上高は919,303百万円と、売上高目標の1兆円が前倒しで達成される見込みであることなどを踏まえた。戦略の方向性は大きくは変わらないが、売上高や店舗数だけではなく、営業利益を含む損益目標、財務指標(資本効率、株主還元など)のほか、海外展開や調剤比率など事業戦略の目標値なども織り込んだものとなる見込み。
同社の2021年5月期末の店舗数は2,420店(国内直営店)。3,000店の達成には2022年5月期以降に580店の純増が必要である。2022年5月期は158店舗出店予定で、2022年5月末には2,578店舗となる見込み。毎期の新規出店に加え、「(縁があれば)M&Aで補っていきたい」との考えである。なお、2020年6月に社長に就任した鶴羽順氏は「M&Aについてはドラッグストアだけでなく、スーパーなど異業種についても否定はしない」としており、M&Aの選択肢を広げている。
売上高1兆円の目標については、2017年9月に子会社化した杏林堂、2018年5月に子会社化したビー・アンド・ディー(B&D)、2020年5月に子会社化したJR九州ドラッグイレブンの効果で、前倒しで達成される見込みである。特に、杏林堂は地域の食品需要を取り込んでいること、店舗面積が広いことなどから、1店舗当たりの売上高が1,347百万円(2021年5月期)と全社平均の380百万円よりも大きいことが寄与している。
なお、同社では、明示的な利益目標やROE目標を定めていない。売上総利益率については30%程度を、売上高営業利益率については6.0%以上を一つの目途にしているとみられる(2021年5月期の売上総利益率は29.0%、営業利益率は5.3%)。
目標達成に向けて、方針として掲げるのは、1)専門性・利便性の追求:医薬品・化粧品・調剤を核とするカウンセリング力強化、及び、小商圏対応の店舗づくり、2)ドミナントエリア戦略に基づく出店:既存グループの出店推進、及び、M&Aによる店舗展開、3)PB商品の展開拡大・商品力向上:高品質のPB商品の開発を通じたブランド価値の向上、4)グループの組織力と収益力の強化:スケールメリットの拡大、及び、グループシナジーの最大化、の4点である。
専門性・利便性の追求
専門性の追求は、医薬品や化粧品の売上拡大、利益率の向上が念頭にある。調剤においては、調剤併設店を増やし薬剤師の確保を通じて処方箋枚数の増加、特定の医療機関からの処方箋受付比率が高い所謂「門前薬局」からのシェア獲得を通じて売上高を伸ばす計画。一般用医薬品(OTC)については、社員教育を通じて販売担当者の商品知識の向上やカウンセリング能力を向上させ、PB商品等を安心して購入してもらえる体制とする計画である。化粧品については、メーカーとタイアップした商品を中心に商品知識を高め、グループ全社を挙げて販売の増加、ひいては利益率の向上を図る。
食品については、出店した地域特性に合わせて品揃えを強化する方針。基本的には、商品アイテム数を増やすよりも、日々の生活に必要不可欠な商品や、冷凍食品など加工食品を中心とした品揃えとして、利便性の向上(買い回る必要をなくし、短時間で必要な物が揃う)を図る計画。品質管理に手間のかかる鮮魚や総菜については、最低限度にとどめることが念頭にあるとみられる。人口密度の低い地域においても、食品を通じて需要の深掘り(他業態からのシェア獲得)を進めることで、小さな商圏であっても十分な利益を確保できる体制とするのが狙いである。
ドミナントエリア戦略に基づく出店
同社は、現在の枠組みの中で、年間100店程度のペースで店舗純増を進める計画である。出店地域の選定において、ドミナントエリアの形成を意図したものとする考え。同社の出店している地域の中には、複数店舗を集中的に展開し、50%超のシェアを有している都市もある。これらの地域の収益性は、他地域に比べて高いという。同社は、中期計画においても、ドミナント化を強く意識した出店とする意向である。また、同社は「縁があればM&Aを進めたい」との意向を持つ。これまでのM&Aも、特定の地域でのシェアが高い中堅ドラッグストアチェーンを子会社化することが多かった。M&Aにおいても、ドミナントエリア戦略が基礎になるとみられる。
PB商品の展開拡大・商品力向上
同社は、過去にもPB(プライベートブランド)商品を強化した実績があるが、現在は再構築の段階にある。同社のPB商品には、他社にないもの、NB(ナショナルブランド)商品よりも品質面で特徴のあるものもあるが、一部の商品は様々な経緯から「安かろう、悪かろう」の商品と位置付けられるものとなっていた(一部の商品は子会社化したチェーンで展開しているPBよりも商品的魅力が乏しかった)。同社は2018年から新ブランド「くらしリズム/くらしリズム Medical」シリーズを展開。同シリーズでは、NB商品よりも品質面で優れている、もしくはNB商品と品質面は同等だが価格が安い商品に絞って展開し、グループ全体での販売を通じて、規模のメリットも取り込む考えである。
グループの組織力と収益力の強化
PB商品、化粧品、一般用医薬品、日用雑貨(特にシャンプーなどトイレタリー)などの商品は、販売量がまとまるとメーカーからのリベート、販売促進サポート、調達価格の低減が期待できる。新しくグループ会社となったチェーンも含めたスケールメリットを活用し、M&Aによる相乗効果を最大化し、収益力の強化を図る計画。
長期ビジョン
同社には中期計画とは別に「長期ビジョン」の目標値がある。「グローバル店舗数2万店、売上高6兆円」である。これは、1985年に設定した旧来の長期ビジョン「全国1,000店、売上高2,000億円」を達成した2012年頃から同社で謳われている。具体的な達成の道筋がある訳ではない。しかし、同社では、大きなビジョンを掲げることにより現状に満足せず、「革新」を繰り返すことにより目標に近づくことができるとして、長期ビジョンを掲げている。
なお、同社は店舗数が5店舗(旭川4店、札幌1店)だった1975年に「北海道に100店つくりたい」との目標を掲げた。そして、店舗数が50店、売上高85億円に達した1985年に「全国1,000店、売上高2,000億円」へ目標を引き上げた。同社は、これまで、20倍目標を掲げ(公言し)、達成してきた会社と言える。