同社は、病気や事故などで失われた神経機能を再生させる細胞(神経再生細胞)を、医薬品(再生細胞薬)として開発しているバイオベンチャーである。再生医療といっても、創薬企業、製造専門企業、関連機器・サービス企業など様々なプレーヤーが存在するが、同社は「他家移植」を使った「新薬(細胞薬)」の開発・製造を行っている。特に、臨床開発において、同社は中枢神経系疾患の再生医療分野で最も先行している企業である。同社のビジネスモデルは、医薬候補品を基礎段階から初期臨床試験までは自社で開発し、グローバル展開している製薬企業などにライセンスアウトして収入を獲得するというものである。
Biotechnology
要約
事業概要
サンバイオ株式会社(以下、同社)は、病気や事故などで失われた神経機能を再生させる細胞(神経再生細胞)を、医薬品(再生細胞薬)として開発するバイオベンチャーとしてスタートした。再生細胞薬「SB623」をはじめとしたパイプラインの事業化を目指し、日米を中心に開発を進めている。主力の「SB623」には慢性期外傷性脳損傷(TBI)、脳梗塞、脳出血などの疾患を対象とした8つのプログラムがあり、慢性期外傷性脳損傷プログラムが最も先行している。同社は2022年3月、国内で慢性期外傷性脳損傷(TBI) を対象とした再生細胞薬「SB623」について、同社初となる再生医療等製品製造販売承認申請を完了した。
2019年4月には、慢性期外傷性脳損傷を対象とした再生細胞薬SB623が、厚生労働省「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定された。これにより、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から薬事承認に係る優先的な審査、ならびに対面助言と事前面談を受けられることになった。また、2020年6月には厚生労働省より、外傷性脳損傷における後遺症の改善を効能として「希少疾病用再生医療等製品」に指定された。米国では、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)よりRMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy:再生医療先端治療)の対象品目に指定されている(2019年9月公表)。同社はSB623の国内上市を契機に、開発・製造・物流・販売などバリューチェーン上の全ての機能を兼ね備えた製薬企業への脱皮を図ろうとしている。また、2025年までにグローバルリーダーを目指すとしている。
同社は2018年3月、SB623上市後のサプライチェーン(製造・物流・販売体制)の構築を見据えて、日立化成株式会社(現・昭和電工マテリアルズ株式会社(非上場、昭和電工株式会社(東証プライム、4004)子会社、以下、昭和電工マテリアルズ社)との間でSB623の製造に関する業務提携を開始した。また、2019年8月には株式会社スズケン(東証プライム、9987、以下、スズケン社)と、SB623の流通における業務提携を開始し、「R-SAT®」(Regenerative Medicine, Safety, Accuracy, Traceability:再生医療等製品物流管理システム)を構築している。
慢性期脳梗塞を対象とした「SB623」のプログラムについては、2009年に締結した帝人株式会社(東証プライム、3401、2021年1月末現在、同社株式を1.9%保有、以下、帝人社)との日本における開発・販売に関する独占的ライセンス契約を解消し、2018年2月14日付で同社に当該権利が返還された。北米においては、同社グループと住友ファーマ株式会社(旧・大日本住友製薬株式会社、東証プライム、4506、2021年1月末現在、同社株式を5.4%保有、以下、住友ファーマ社)で行ったフェーズ2b臨床試験(同163名)では、主要評価項目において統計学的な有意差を示すに至らなかった。続く2019年12月には、住友ファーマ社との共同開発の中止およびライセンス契約の解消に至った。同社は今後、慢性期脳梗塞プログラムの開発を単独で継続する方針である。
再生医療には、創薬企業、製造専門企業、関連機器・サービス企業など様々なプレーヤーが存在するが、同社は「他家移植」を使った「新薬(細胞薬)」の開発・製造を行っている(次図参照)。特に、臨床開発において、同社は中枢神経系疾患の再生医療分野で最も先行している企業である。同社の強みの1つは、骨髄液提供者から採取した細胞を加工・培養して大量に製造する量産ノウハウを確立している点にある。同社は再生細胞薬を患者に確実に届けるノウハウも確立している。また、再生細胞薬「SB623」は、前臨床における動物モデルへの移植で、がん化のリスクや無制御増殖が認められず、良好な安全性分析の結果を得ている。さらに、「SB623」の動物実験では免疫抑制剤は全く必要とされなかったことは特筆される。
業績動向
2022年1月期通期の連結業績は、事業収益は計上されず、営業損失6,621百万円(前期は5,802百万円の損失)、経常損失は4,580百万円(同6,530百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は4,678百万円(同3,386百万円の損失)となった。事業費用は研究開発費4,955百万円(同21.7%増)、販売費及び一般管理費1,665百万円(同3.7%減)、合計6,621百万円(同14.1%増)となった。SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの国内製造販売承認申請に向けた製造関連費用の増加に伴い、研究開発費が増加した。為替レートは、1米ドルあたり110.73円(前年は106.34円)であった。
2023年1月期の通期会社計画では、事業収益なし(前年もなし)としている。同社は2022年3月7日付でSB623の慢性期外傷性脳損傷(TBI)プログラムの承認申請を行ったが、薬価については未定であることから、事業収益は見込んでいない。営業損失5,858百万円(前年は6,621百万円の損失)、経常損失5,991百万円(同4,580百万円の損失)、親会社株主帰属当期純損失5,997百万円(同4,678百万円の損失)。為替レートは、1米ドルあたり115.00円(同110.73円)を想定。SB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築を進めており、承認関連費用を含めた事業費用は5,858百万円(前年比11.5%減)、そのうち研究開発費は4,088百万円(同17.5%減)を予定している。
同社は上記の予想について、2022年3月に申請を行ったSB623の慢性期外傷性脳損傷プログラムが承認されるまでの見通しであり、承認が見越せる段階で承認後の事業計画を織り込んだ見通しに修正する、としている。今後は、SB623の脳梗塞プログラムと脳出血プログラムの国内における開発を優先する方針である。両プログラムの具体的な臨床試験デザインや開発内容については、確定次第速やかに公表する、としている。
パイプラインの動向
同社の現在の主力開発品は、脳梗塞や外傷性脳損傷に起因する、慢性期の運動機能障害等を治療の対象とした再生細胞薬「SB623」である。「SB623」を脳に直接投与することによって、機能不全を引き起こしている損傷部分の細胞の再生を促進する。同社は「SB623」について、慢性期外傷性脳損傷に加え、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、パーキンソン病、骨髄損傷、アルツハイマー病などへの適用範囲拡大(研究・非臨床試験)を進めている。これらのうち、2022年3月に製造販売の承認申請を完了した慢性期外傷性脳損傷プログラムが、最も先行している。同社は「SB623」のほか、末梢神経障害などを対象とした「SB618」、筋ジストロフィーを対象とした「SB308」、がん疾患を対象とした「MSC1」、視神経炎等の炎症性疾患を対象とした「MSC2」の合計5本のパイプラインを有する。
同社は「SB623」の慢性期脳梗塞用途について、米国・カナダにおける共同開発・販売権を2010年に住友ファーマ社に導出した。米国では、18名の慢性期脳梗塞の患者を対象にした米国食品医薬品局(FDA)制度下のフェーズ1/2a臨床試験を終え、「SB623」の安全性と機能障害からの回復を示唆する有効性のデータを確認している(2014年)。
住友ファーマ社と共同で行っていた、米国におけるSB623慢性期脳梗塞プログラムでは、フェーズ2b臨床試験の被験者163名の組み入れが2017年12月に終了した(組み入れ開始:2016年3月)。163名の被験者は、本剤250万細胞投与群、本剤500万細胞投与群、Sham手術群(コントロール群)の3群に割り当てられた。しかし、投与6ヶ月後にFugl-Meyer Motor Scale(FMMS*)がベースラインから10ポイント以上改善した患者の割合(主要評価項目)について、本剤投与群は、安全性はクリアしたものの、コントロール群と比較して統計学的な有意差を示さず、主要評価項目を達成できなかった。2019年12月には、住友ファーマ社との共同開発及びライセンス契約の解消に至った。しかし、同社は2020年9月14日、単独で行ったフェーズ2b臨床試験の追加解析において統計学的に優位な結果を得たことを発表した。
慢性期外傷性脳損傷(TBI)用途の再生細胞薬「SB623」に関しては、米国FDAとの交渉によってフェーズ1臨床試験をスキップし、2016年7月にフェーズ2臨床試験における米国での最初の被験者の組み入れを開始した。また、2016年4月に日米グローバル治験として独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に同用途の治験届が受理され、2016年10月にはフェーズ2臨床試験における日本での最初の被験者組み入れを開始した。2018年4月に、予定組み入れ被験者数52名のところ最終的には61名の被験者を組み入れて組み入れが完了した。同年11月1日には、「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」という良好な結果が公表された。
日本において、慢性期外傷性脳損傷用途の再生細胞薬「SB623」は、2019年4月に再生医療等製品として厚生労働省より「先駆け審査指定制度」の対象品目の指定を受けた。続いて2020年6月には、厚生労働省より外傷性脳損傷における後遺症の改善を効能として「希少疾病用再生医療等製品」に指定された。これらの指定により、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から優先的に薬事承認に係る対面助言を受け、事前相談を行ってきた。2022年1月31日付でPMDAから「申請確認文書」を受領したことを受けて、同社は厚生労働省に対し2022年3月7日付で再生医療等製品製造販売の承認申請を行った。
同社は2022年4月、1年間の最終解析を行った結果、慢性期外傷性脳損傷患者を対象に実施したSB623のフェーズ2臨床試験では主要評価項目を達成し、運動機能と日常動作に改善傾向が認められた、と発表した。この結果については、同年4月の米国神経学会(American Academy of Neurology, AAN)年次総会のプレナリーセッションで発表された。SB623が損傷後の脳を再生する可能性を再認識するデータが得られたことで、同社は今後、脳梗塞と脳出血のプログラムの国内臨床試験を優先的に行う計画である。
海外においてSB623は、外傷性脳損傷プログラムとして欧州で2019年4月に欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)より先端医療医薬品の指定を受けた。また米国では、2019年9月に米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)よりRMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy:再生医療先端治療)の対象品目に指定された。RMATは、FDAによる再生医療の実用化推進制度であることから、同社はSB623が今後米国での早期承認を得られるように事業戦略性を高めていく方針である。
SB623の適応疾患の拡充として、2020年3月に、中国のOcumension Therapeutics, Limited(1477、Hong Kong)以下、Ocumension社)と業務提携を行った。今後、中華圏(中国本土、香港、マカオ、台湾を含む)で網膜色素変性症及び加齢黄斑変性症(ドライ型)等を適応疾患としたSB623及びMSC2細胞薬の開発を共同で行う予定である。また、2021年11月には米国の再生医療企業D&P Bioinnovations, Inc.(非上場、以下、D&P社)と、MSC2細胞を利用したヒトの食道組織の再生を目的とする食道再生インプラントの開発および商業化について、業務提携契約を締結した。
同社の強みと弱み
SR社では同社の強みを、再生医療業界の重鎮を集結させた創業者の吸引力、免疫拒絶が稀な領域を事業対象としていること、神経再生細胞の基本シーズの独占保有と、薬として広く普及させるための必須要件(他家移植、量産化など)の確立、の3点と考えている。一方、弱みに関しては、「SB623」の自社開発・販売が同社ではじめての試みであること、再生細胞薬「SB623」の成功に対する依存度の高さ、上市実績の未保有、の3点にあると考えている。
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
*FY1/12~FY1/13は米国SanBio, Inc.の連結業績と単独業績を1米ドル118.25円で換算、NAは上場前の非開示データ
脳損傷
(慢性期)
(慢性期)
臨床試験を計画*(米国、EU、中国)
(慢性期)
加齢黄斑変性
*自社開発またはパートナーリング等のオプションを検討
**SB623の慢性期脳梗塞および慢性期脳出血の臨床試験はフェーズ2bまたはフェーズ3からの開始を構想中(日本)
***OCUMENSION (HONG KONG) LIMITED社と共同開発ならびに中華圏における業務提携
直近更新内容
株式会社スズケンと共同開発した再生医療等製品における流通管理・投与スケジュールサポートシステム「R-SAT」に関する特許取得
サンバイオ株式会社は、株式会社スズケンと共同開発した再生医療等製品における流通管理・投与スケジュールサポートシステム「R-SAT®」に関する特許取得に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、2022年3月に厚生労働省に対して再生医療等製品製造販売承認申請を実施した、国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムについて、上市後におけるSB623の流通(商流)に関する取引基本契約を株式会社スズケン(東証PRM 9987、以下、スズケン社)と締結している。SB623上市後は、同社とスズケン社が共同開発した、再生医療統制品における流通管理・投与スケジュールサポートシステム「R-SAT®」を活用する予定。取得した特許の概要は、「再生医療等製品の管理システム及び、再生医療等製品の管理方法(特許第7061762号)」、特許取得日は2022年4月21日。
R-SAT®は、Regenerative medicine(再生医療薬)、Safety(安全性)、Accuracy(正確)、Traceability(トレーサビリティ)の頭文字をとったもの。厳格な品質管理が求められる再生医療等製品を投与される患者の登録から、再生医療等製品の輸配送、投与および投与後のフォローまでの情報を一元管理し、製薬企業、製造業者、輸配送業者、医療機関などの関係者全員が、それらの情報をクラウドで共有できる流通管理・投与スケジュールサポートシステムである。
SB623が慢性期外傷性脳損傷患者において、48週時点まで持続する運動機能障害の改善と、運動機能と日常生活動作の改善傾向
サンバイオ株式会社は、SB623が慢性期外傷性脳損傷患者において、48週時点まで持続する運動機能障害の改善と、運動機能と日常生活動作の改善傾向に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、慢性期外傷性脳損傷患者を対象に実施したSB623のフェーズ2臨床試験(STEMTRA試験*)の最終解析を1年間行った結果、主要評価項目を達成し、運動機能と日常生活動作に改善傾向が認められた、と発表した。この結果については、現地時間2022年4月5日に米国ワシントン州シアトルで開催される米国神経学会(American Academy of Neurology, AAN)年次総会のプレナリーセッションで発表される予定である。
SB623は骨髄液由来の間葉系幹細胞からなる開発中の製品で、頭蓋内の損傷部位周辺に移植される。本臨床試験では合計61名の患者を対象に、46名にSB623を投与し、15名が対照群として偽手術を受けた。本臨床試験の主要評価項目である24週時点のFugl-Meyer Motor Scale (FMMS)のベースラインからの改善量の測定を行った結果、対照群と比較して優位な改善が認められた。運動機能障害の改善はSB623投与群で48週時点まで維持され、Action Research Arm Test (ARAT:上肢機能評価)や歩行速度などの測定の結果、SB623の移植との関連性が認められた。また、これまでの試験と同様にSB623は良好な忍容性を示し、新たな安全性の懸念はなく、有害事象による治療中止などもなかったとのことである。
同社は本試験結果に基づき、外傷性脳損傷に起因する慢性期の運動機能障害に対する治療薬として、先駆け審査指定制度の枠組みの中で、SB623の承認申請を2022年3月に完了している。SB623は厚生労働省からは先駆け審査指定制度の対象品目指定に加え、希少疾病用再生医療等製品の指定を、また米国食品医薬品局(FDA)からはRMAT(Regenerative Medicine Advanced Therapy:再生医療先端治療)の指定を受けている。同社は現在、外傷性脳損傷の患者が多く存在する米国において、SB623のフェーズ3臨床試験開始に向けた準備を進めている。
国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラム製造販売承認申請の完了
サンバイオ株式会社は、国内SB623慢性期外傷性脳損傷プログラム製造販売承認申請の完了に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
同社は、慢性期外傷性脳損傷プログラム「SB623」について、国内における製造販売の承認申請を完了したと発表した。外傷性脳損傷用途の「SB623」は、2019年4月に厚生労働省から「先駆け審査指定制度」の対象品目として指定され、2020年6月には「希少疾病用再生医療等製品」に指定されていた。先駆け審査指定制度は、承認申請後の審査を短縮し、承認までの期間を6か月とすることを目標とした制度である。同社は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との対面助言・事前相談を行ってきたが、2022年1月31日付でPMDAから「申請確認文書」を受領し、承認申請を準備していた。
なお、同社は本件による2023年1月期の業績予想への影響について、現在精査中である。
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
2022年1月期通期実績
2022年1月期通期(2021年2月~2022年1月)実績
事業収益は計上されず、事業費用は研究開発費4,955百万円(同21.7%増、期初予想3,820百万円)、販売費及び一般管理費1,665百万円(同3.7%減)、合計6,621百万円(同14.1%増)となった。SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの国内製造販売承認申請に向けた製造関連費用の増加に伴って研究開発費が増加し、期初予想を1,135百万円上回った。
経常損失が縮小したのは、営業外収支がプラスになったためである。営業外収益は、2,096百万円(前期は9百万円)となった。これは、為替相場の変動により、連結子会社に対する外貨建て貸付金から1,962百万円の為替差益が発生したほか、債務免除益*128百万円などが発生したことによる。為替レートは1米ドルあたり110.73円で、前年より4.39円の円安となった。営業外費用は、銀行からの借入に伴う支払利息45百万円、資金調達費10百万円(取引銀行3行との貸出コミットメント契約に係る手数料)を計上し、55百万円(同738百万円)となった。これらのことから、経常損失は前期比1,951百万円改善し、4,580百万円となった。
事業概況
同社は、日本国内における先駆け審査指定制度の枠組みにおいて、国内製造販売にかかる承認申請後の審査期間短縮のためPMDAとの協議を進め、2022年1月31日付でPMDAから「申請確認文書」を受領した。研究開発費は主に、SB623慢性期外傷性脳損傷プログラムの承認申請に向けた製造関連費用などの計上により、前年同期比884百万円増加し、4,955百万円(同21.7%増、期初予想3,820百万円)となった。
2021年11月15日、同社はMSC2細胞を利用した食道再生インプラントの開発および商業化に関して、米国D&P社と業務提携契約を締結した。本契約に基づき、同社はD&P社が研究している食道再生インプラントの開発及び商業化のため、MSC2細胞を非独占的かつ譲渡不可の条件でD&P社に供与する。その対価として、同社は将来的な日本における食道再生インプラント商業化の権利と、アジア地域における商業化の優先交渉権を得る。また、日本国外でD&P社による販売が実現した際には、その売上高に応じた段階的なロイヤルティ(最大2.5%)をD&P社から受領することとなる。そのほか、D&P社が食道再生インプラントのライセンスアウトを実施した場合は、導出により得た収益に対して一定の利益配分(最大20%)を受領する。なお、主な費用負担については、MSC2細胞の製造プロセスの開発にかかる費用は同社が負担し、食道再生インプラントの日本以外における各地域での開発にかかる費用はD&P社が負担する。
2023年1月期会社計画
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
2023年1月期(2022年2月~2023年1月)会社計画
同社は3月7日付でSB623の慢性期外傷性脳損傷(TBI)プログラムの承認申請を行ったが、薬価については未定であることから、事業収益は見込んでいない。営業損失5,858百万円(前年は6,621百万円の損失)、経常損失5,991百万円(同4,580百万円の損失)、親会社株主帰属当期純損失5,997百万円(同4,678百万円の損失)。米ドルレートは115.00円を想定。SB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築を進めており、承認関連費用を含めた事業費用は5,858百万円(前年比11.5%減)、そのうち研究開発費は4,088百万円(同17.5%減)を予定している。
同社は上記の予想について、2022年3月に申請を行ったSB623の慢性期外傷性脳損傷プログラムが承認されるまでの見通しであり、承認が見越せる段階で承認後の事業計画を織り込んだ見通しに修正する、としている。今後は、SB623の脳梗塞プログラムと脳出血プログラムの国内における開発を優先する方針である。両プログラムの具体的な臨床試験デザインや開発内容については、確定次第速やかに公表する、としている。
同社は2022年2月に、第三者割当による行使価額修正条項付き第32回新株予約権の発行について発表した。SB623の承認直後から着実に国内で製品の普及ができるよう体制を整備し、製品需要に応じられる製造体制と在庫の積み上げに投資を行うため、資金調達を行うこととした(資金調達額(差引手取り概算額)は、約8,259百万円)。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大に関しては、同社の運営には現時点では影響は出ていない。
経営戦略および中長期見通し
事業戦略
同社は、既存の医療・医薬品では対処できず、有効な治療法が存在しない「アンメット・メディカル・ニーズ」の高い中枢神経系疾患を中心に、再生細胞薬の開発を進めている。
主力開発品「SB623」に経営資源を集中
同社では、主力の再生細胞薬「SB623」の他にも再生細胞薬である「SB618」「SB308」など、合計5本のパイプラインを有している。しかし、同社は主力製品候補の「SB623」に当面は資源を集中させることを考えている。SB623慢性期脳梗塞プログラムとSB623慢性期外傷性脳損傷プログラムに加え、2019年1月、同社は「SB623」の新規適応症として、慢性期脳出血プログラムを追加することを決定した。
従来:ライセンスアウト価値の最大化
同社の基本方針は、従来、自社で製造技術開発、非臨床開発、初期臨床試験を実施した後、ヒトでの安全性と有効性を確認するPOC*取得まで進めたうえで、グローバル展開している製薬企業に開発・販売権をライセンス許諾することであった。
同社はこれまで、脳梗塞用途の再生細胞薬「SB623」については、臨床試験を開始する前にライセンスアウトをしてきている。具体的には、日本では臨床試験開始の承認取得前に脳梗塞に関する開発・販売権を帝人社に、米国・カナダでは脳梗塞に関する共同開発・販売権を住友ファーマ社にそれぞれライセンスアウトしてきた(注:帝人社および住友ファーマ社とは既に契約を解消)。また、2020年3月31日、眼科領域における再生細胞薬の研究・開発・商業化を目的として、同社はOcumension社と業務提携を開始した。本提携では、網膜色素変性症と加齢黄斑変性症(ドライ型)と網膜色素変性を適応疾患としたSB623細胞薬の開発と、視神経炎を適応疾患としたMSC2細胞薬の開発を共同で行う計画である。2021年11月には米国の再生医療企業D&P社)と、MSC2細胞を利用したヒトの食道組織の再生を目的とする食道再生インプラントの開発および商業化について、業務提携契約を締結した。
これらは、同社のライセンス許諾における基本方針(POC段階まで開発を進めたうえで許諾)とは異なるが、パートナーの意向や資金調達ニーズなどを総合的に踏まえ、ケース・バイ・ケースで経営判断を行っていく方針である。
同社では、主力開発品「SB623」がPOCを得た実績と上場による資金調達などによって、当面必要な開発費の資金は手当てされている。CRO(Contract Research Organization、受託臨床試験実施機関)を活用し、できる限り臨床開発を自社主導で行い価値を高めた後に、地域毎もしくはグローバルで株主価値が最大となるような良い条件でライセンスアウトする戦略であった。
今後:製薬企業への脱皮(日本での自社開発・販売)
日本
帝人社との再生細胞薬「SB623」の日本における脳梗塞疾患の開発・販売に関する独占的ライセンス契約(契約締結日:2009年12月22日)を解消し、同社へ当該権利が返還された(同解消日2018年2月14日)。これを受けて、同社は、日本における当プログラムおよび外傷性脳損傷プログラムについては、上市後の収益最大化を目的に、同社グループが単独で開発する方向へ舵を切った。
また、前述の通りSB623外傷性脳損傷プログラムでは、日本の再生医療等製品に対する条件・期限付き販売承認制度の活用(後段参照)により、世界中のどこよりも早く日本での実用化を目指している。2019年4月8日、慢性期外傷性脳損傷を対象とした再生細胞薬SB623が、厚生労働省「先駆け審査指定制度*」の対象品目に指定された。当該指定により、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から薬事承認に係る相談・審査の優先的な取扱いを受けることが可能となった。
同社は2022年3月7日付で、SB623慢性期外傷性脳損傷(TBI)プログラムに関して、国内における再生医療等製品製造販売承認申請を行った。慢性期外傷性脳損傷(TBI)用途のSB623は、2019年4月に厚生労働省より再生医療等製品として「先駆け審査指定制度」の対象品目の指定を受けた。また、2020年6月には厚生労働省より、外傷性脳損傷における後遺症の改善を効能として「希少疾病用再生医療等製品*」に指定された。
希少疾病用再生医療等製品に指定された場合、一般的には、1)希少疾病用医薬品等の指定を受けた日から製造販売承認申請までに行われる試験研究費の一部に対し助成金の交付や税額控除が受けられること、2)厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)および医薬基盤・健康・栄養研究所による指導・助言や優先審査を受けられること、3)本対象製品の再審査がされる場合には、再審査期間が最長10年間に延長される等のメリットを受けることができる。
同社は懸案事項となっていた、1)新規のCMO(医薬品製造受託機関)への技術移転、2)商業生産に必要な管理体制の構築、3)規格試験の要件確立の3点に関しては、PMDAとの対面助言・事前相談を行う中で解決し、2022年1月に「申請承認文書」を受領して2022年3月の承認申請に至った。
海外
海外において、自社で販売するかパートナーとの提携によるかはケース・バイ・ケースである。自社でアップサイドを取るか、パートナーとの提携によりスピード感をもって進めていくかについて、いずれも良し悪しがあるので、地域によって最適な方法を選択していくとしている。
日本の再生医療等製品の早期承認制度の活用
日本では、2014年11月25日に新たに施行された医薬品医療機器法(薬機法、旧薬事法)において、再生医療等製品が新たに定義されている。従来の薬事法では、人の細胞を用いることから、有効性を確認するためのデータの収集と評価に多大な時間と開発資源を要していた。改正後の薬機法では、条件期限付き承認の場合、有効性や安全性に関して、副作用などの評価期間は短縮できないものの、日本における医薬品承認に要する費用と時間は大幅に削減されている。
再生医療等製品は、人や動物の生きた細胞・組織を用いた製品や遺伝子治療用の製品であることから、従来の医薬品や医療機器とは異なる性質を持っている。生きた細胞を用い、製品の品質が不均一となる場合は、有効性が推定され、安全性が確認されれば、条件および期限付きで特別に早期に承認できる仕組みとして「条件および期限付き承認制度」が導入されている。
2014年9月と10月にそれぞれ製造販売承認申請をしたJCRファーマ株式会社(東証プライム、4552、以下、JCRファーマ社)の他家骨髄由来間葉系幹細胞と、テルモ株式会社(東証プライム、4543、以下、テルモ社)の骨格筋細胞シートに対し、厚生労働省が2015年9月にこれを承認している。テルモ社の骨格筋細胞シートに関しては、テルモ社が行ったわずか7人の患者の治験データをもとに、一定の有効性が期待できるとして、承認されている。
同社は、外傷性脳損傷プログラムの日米グローバルフェーズ2臨床試験において、「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」したことを発表した(2018年11月)。2019年4月8日、慢性期外傷性脳損傷を対象とした再生細胞薬SB623が、厚生労働省「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定された。当該指定により、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から薬事承認に係る相談・審査の優先的な取扱いを受けることが可能となり、PMDAによる対面助言・事前相談を行うこととなった。
先駆け審査指定制度
「先駆け審査指定制度」は、2014年6月に、厚生労働省における「世界に先駆けて革新的医薬品等の実用化を促進するための省内プロジェクトチーム」において発表された「先駆けパッケージ戦略」に基づき新たに設けられた制度である。2015年に試行的実施という形で創設され、2020年の医薬品医療機器等法(薬機法)改正に伴い法制化された。世界に先駆けて日本で開発され、早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる革新的な新薬、医療機器、再生医療等製品、体外診断用医薬品について、優先審査をする制度である。相談の枠組みを優先的に適用し、かつ優先審査を適用することにより、審査期間を6ヶ月まで短縮することを目指す*。
指定の要件
指定を受ける医薬品は、以下の4つの全ての要件を満たす必要がある。
治療薬の画期性:原則として、既承認薬と異なる新作用機序であること(既承認薬と同じ作用機序であっても開発対象とする疾患への適応は初めてであるもの、革新的な薬物送達システムを用いているものなどで、その結果、有効性の大幅な改善が見込まれるものも含む)
対象疾患の重篤性:以下のいずれかの疾患に該当するものであること
対象疾患に係る極めて高い有効性:既承認薬が存在しない又は既存の治療薬若しくは治療法に比べて有効性の大幅な改善が見込まれること(著しい安全性の向上が見込まれる場合も含む)
世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思:日本における早期からの開発を重視し世界に先駆けて日本で申請される(同時申請も含む)予定のものであること。なお、国内での開発が着実に進んでいることが確認できる以下のいずれか若しくは両方に該当する治療薬であることが望ましい。
指定制度の内容
先駆け審査指定制度の対象品目における措置は、以下の通り。
財務戦略
第三者割当による行使価額修正条項付第13回新株予約権の発行
同社は2018年3月、第三者割当による行使価額修正条項付き第13回新株予約権を発行した(調達手取額概算15,290百万円:新株予約権の行使期間は2021年4月9日まで)。調達資金の使途はSB623市販後の製造・物流・販売体制構築8,000百万円(支出予定期間:2018年4月~2022年1月)、日本での慢性期脳梗塞プログラムに係る開発および将来の販売に向けた地域拡大のための研究開発4,000百万円(支出予定期間:2018年4月~2022年1月)SB623の新規適応拡大と新規物質の導入のための研究開発3,290百万円(支出予定期間:2018年4月~2022年1月)であった。当該新株予約権の発行により、同社は2019年1月期において11,058百万円を調達した。
コミットメントライン契約
同社は取引銀行3行、株式会社三井住友銀行(非上場、株式会社三井住友フィナンシャルグループ(東証プライム、8316)子会社)、株式会社三菱UFJ銀行(非上場、株式会社三菱UFJフィナンシャルグループ(東証プライム、8306)子会社)、株式会社みずほ銀行(非上場、株式会社みずほフィナンシャルグループ(東証プライム、8411)子会社)とコミットメントライン契約をそれぞれ締結し、今後の成長投資のための資金を確保している。2021年1月末時点の貸出コミットメント契約の総額は7,600百万円で、借入実行残高は4,800百万円であった。2021年12月には、株式会社りそな銀行(非上場、株式会社りそなホールディングス(東証プライム、8308)子会社)とコミットメントライン契約を締結した。調達額は1,000百万円、返済期日は2023年6月で、SB623の製造販売が承認され、上市された後の製造、物流、販売体制構築の費用に充当する予定である。
海外募集による新株式発行
同社は2019年5月、海外募集による新株式発行を行った。当該新株式発行により調達する資金7,317百万円については、日本市場・欧米市場でのSB623の販売需要を見越したもので、SB623の量産化能力の向上と安定供給体制確保が目的である。製造委託先企業の複線化を図り、SB623の在庫を確保する。なお、この在庫は、国内の慢性期外傷性脳損傷用途として販売される予定である。
第三者割当による行使価額修正条項付第32回新株予約権の発行
同社は2022年2月に、第三者割当による行使価額修正条項付き第32回新株予約権の発行について発表した。SB623の承認直後から着実に国内で製品の普及ができるよう体制を整備し、製品需要に応じられる製造体制と在庫の積み上げに投資を行うため、資金調達を行うこととした(資金調達額(差引手取り概算額)は、約8,259百万円)。
資金調達の背景
2022年3月のSB623の製造販売承認申請を踏まえ、同社グループはSB623上市後の製造・物流・販売体制を見据えた準備を速やかに進める必要性が生じている。係る取り組みの一環として、同社は2018年3月、昭和電工マテリアルズ社との間で、再生医療薬「SB623」の製造に関する業務提携を開始した。また、2019年8月にはスズケン社と、SB623の流通における業務提携を開始し、「R-SAT®」(Regenerative Medicine, Safety, Accuracy, Traceability:再生医療統制品物流管理システム)を構築している。
開発パイプラインの拡充
再生細胞薬「SB623」の適応拡大
同社では再生細胞薬「SB623」に関して、慢性期脳梗塞用途と外傷性脳損傷用途のほか、2019年1月、同社は「SB623」の新規適応症として、慢性期脳出血プログラムを追加することを決定した(前段参照)。
更にパーキンソン病、脊髄損傷、アルツハイマー病への適応拡大を計画している。いずれも既存の医療・医薬品では対処できない中枢神経系領域の疾患である。同社によれば、現在の米国における対象患者数は、加齢黄斑変性が207万人、パーキンソン病が150万人、アルツハイマー病が510万人存在しており、大きな市場規模となっている。
共同研究
同社によれば、脳梗塞および外傷性脳損傷の再生治療薬としてのSB623の開発段階において蓄積したデータによると、SB623は認知症にも大きな可能性があると感じており、同社の創業科学者である慶応義塾大学の岡野教授と認知症(アルツハイマーも含む)の共同研究を開始した。共同開発ではSB623の持つポテンシャルを認知症の動物モデルで評価し、早期にデータを取得して治験を開始したいとしている。
間葉系幹細胞由来の細胞治療薬に関する「MSC1」および「MSC2」の特許取得
SB623による中枢神経系疾患領域に加えて、炎症性疾患領域およびがん領域への開発パイプライン拡充
2018年9月、MSC1、MSC2という間葉系幹細胞*1由来の細胞治療薬に関する特許ポートフォリオを獲得した。間葉系幹細胞の細胞膜上に存在する特定のToll様受容体(TLR*2)を刺激することで、間葉系幹細胞の特徴である安全性及び忍容性を維持したまま抗炎症機能を増強する技術および炎症機能を増強する技術に関するものである。当技術により得られる抗炎症機能を増強した細胞(MSC2)および炎症機能を増強した細胞(MSC1)は、通常の間葉系幹細胞と比較して、障害部位への遊走性が高い、均質性が高い、という特徴を有しており、高い安全性と有効性が期待できると同社では考えている。
SB623は中枢神経系疾患に幅広く応用が効くのに対し、当特許は、炎症性疾患およびがん領域に可能性のある細胞に関するものである。当技術は、間葉系幹細胞をもとに、TLRを刺激することで、MSCのもっている抗炎症作用を高める技術である。また、違う刺激を与えると、逆に炎症作用も高める細胞を創り出すことができるユニークな技術であり、大きな可能性を感じているとしている。また、MSC1・MSC2はSB623と大きなシナジーがあると同社は考えている。再生医療の事業化でこれまでに苦労してきたのが製造面での量産化の技術確立であるが、MSC1・MSC2は間葉系幹細胞であるため、SB623と製造プロセスの大部分を共有できる。そのため、MSCの事業化の際には速やかに量産化ができるため、加速度的に治療を進めることができるとのこと。
2020年3月、同社は、眼科領域における再生細胞薬の研究・開発・商業化を目的として、Ocumension社と業務提携を開始した。本提携では、SB623細胞薬の開発に加え、視神経炎を適応疾患としたMSC2細胞薬の開発を共同で行うことが決定した。また、2021年11月には米国D&P社と、MSC2細胞を利用したヒトの食道組織の再生を目的とする食道再生インプラントの開発および商業化について、業務提携契約を締結した。