同社は後発医薬品(以下、ジェネリック)で国内1~2位を争うメーカーである(2021年3月期末同社推定シェア約11%)。ジェネリック(2021年3月期連結売上高構成比75%)、長期収載品(新薬上市から長期間経過した特許満了後の医薬品、同4%)を、主に医薬品卸売企業(医薬品卸)への販売を通して国内の医療機関に供給している。また、2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保と注射剤領域におけるプレゼンス確立を図るために、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を完全子会社化した(2021年3月期連結売上高構成比19%)。Sagent社が出資するSterRx社において、FDA規則に適合したコンパウンド製剤*1も生産している。
*1 薬剤師が患者のニーズに合わせて濃度の調整、添加剤の除去など投与形態の変更を行った薬剤。
ジェネリックとは、最初に開発された医薬品である新薬(先発品)と同じ有効成分が同じ分量で含まれたものである。承認に必要となるのは小規模の臨床試験(生物学的同等性試験)などであり、先発品と比べて簡素な申請データ、短い研究開発期間、低開発コストが特徴である(2010年の医薬産業政策研究所資料では新薬1品目あたりの開発コストは資本コスト10%の場合、自社品目で48,400百万円である。一方、同社によればジェネリックの開発コストは50百万円~100百万円)。
厚生労働省によるデータから、SR社が推定した2020年の国内ジェネリック市場は約1兆6,100億円(前年比2.6%減)となった。市場拡大の主な背景には、政府が推し進める医療費抑制策の一環として、厚生労働省が医療機関に対し、薬価が安いジェネリックの使用を促進させていることがある。政府は、ジェネリックの数量シェア(以下、普及率、2015年9月薬価調査で56.2%)を2020年9月までに80%とする方針を掲げていたが、2020年7~9月の実績は78.9%と若干未達に終わった(2020年10~12月79.4%;出所:ジェネリック製薬協会)。2021年4月、厚生労働省は新たな目標として、2023年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上とするとした。尚、ジェネリックの金額シェア(薬剤料ベース)は21.5%(2021年2月)に止まる(出所:厚生労働省「最近の調剤得医療費」)。
同社の特徴は、広域医薬品卸による販売ルートの比率がジェネリック大手の中で最も高い(2021年3月期は受託生産販売などを除いて84.4%)ことである。同社は広範囲の販売ルートを持つ広域医薬品卸との関係の強化を戦略的に進め、国内におけるシェアを拡大させてきた。また、高い病院カバー率(2021年3月期:同社は99.0%、沢井製薬(東証1部4555)は97.3%)、上市品目数が多いこと(同社は2021年7月時点で1,236品目、沢井製薬は約800品目)も同社の主な特徴である。
同社の戦略は、シェアの拡大にある。政府が目標としている「全都道府県ジェネリック普及率80%以上」までは市場拡大が続くと想定し、規模を重視する戦略をとっている。これは、海外進出に向けての基盤構築と、メーカー集約化の際にシェアが高いことによる優位性を確保するためである。持続的成長に向けて、新製品の開発が鍵を握ると同社は考えており、参入社数の少ないジェネリック医薬品の開発やオーソライズドジェネリック(AG)*2での市場参入の機会などを図る。フォーミュラリー*3への対応、連携協定先の自治体でのジェネリック医薬品の啓発活動に注力するほか、自社グループ工場への内製化や岐阜工場での特殊剤型の受託などの強化を図っていく。
*2 先発医薬品を製造販売する製薬会社から特許権の許諾(オーソライズド)を得て、後発医薬品メーカーが販売するジェネリック医薬品のこと。特許権の許諾を受けているため、先発医薬品の特許が切れる前に発売することができる。*3 有効性、安全性と経済性を総合的に評価策定された医薬品の使用指針
同社はこれまでM&Aと卸との関係強化でシェアを拡大させてきた。2010年には、仏医薬品大手サノフィと提携し、日本で初のAGの販売を開始し、シェアを拡大させた。また、同社はバイオ医薬品市場に着目し、バイオシミラー(BS:バイオ医薬品の後続薬)の開発にも取り組んでいる。また、上述の通り、2016年8月には、Sagent社を買収し、事業領域の拡大と米国バイオシミラー市場における開発のスピードアップを図っている。
更に、2018年3月には、エーザイ株式会社(東証1部4523)と、戦略提携およびエルメッド エーザイの株式譲渡について契約を締結した。同年4月以降、当該株式譲渡、領域エコシステム構築に向けた協業、医薬品原薬(API)事業における提携などが順調に進捗した。2019年4月、エルメッド エーザイは同社100%子会社(新社名「エルメッド株式会社」)となった。2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。
国内でインフリキシマブBSを2017年11月に、2019年11月にはエタネルセプトBSを上市した。また、ベバシズマブBSをmAbxience Research,S.L.から導入し、2020年11月に国内で製造承認申請を行い、同社では2022年の上市を見込んでいる。米国でインフリキシマブBSの第III相臨床試験が2020年に完了しInterchangeabilityのデータを確保した。当初は、2021年の承認申請を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響によりテックトランスファーおよび韓国の提携工場のFDA認定対応が遅延したため、2023年にFDA承認申請を行う予定である。
同社グループでは、富山第一工場製造品で試験方法や製造方法が適切でなかった製品について、自主回収を実施し、2021年3月に富山県より「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく行政処分を受けている。再発防止に向けて、製造管理体制、品質管理体制の改善に向けた5つの取り組みを進めている。具体的には、富山第一工場におけるGMP(医薬品の製造管理および品質管理の基準)遵守の強化、データインテグリティ(データが完全で一貫性があり正確であること)の確保と試験の同時性および適時性確保に取り組んでいる。また、製造販売業者として各製造所の監査を徹底し、法令遵守体制を強化している。更に、全役職員に共有する『安心と信頼への約束《日医工グループ品質方針》』を2020年7月15日に策定し、製剤技術本部を2021年4月に、経営改革本部を2022年5月に新設した。
同社は2022年5月、産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続(事業再生ADR*手続)を一般社団法人事業再生実務家協会**に申請し、同年5月13日付で受理された。同社によれば、申請にあたっては主要取引金融機関との協議を行い、メインバンクである株式会社三井住友銀行から十分な融資枠を確保されている。また、より強固な収益体質の確立と財務体質の抜本的な改善、および持続的成長を目的として、同日付でジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第三号投資事業有限責任組合(以下、JIS)との間で最大20,000百万円の出資に関する基本合意書を締結した。
*事業再生ADR制度は、「裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律」に基づく認証ADR制度で、「産業協競争力強化法」で規定されている。経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することにより、過大な債務を負った事業者が法的整理手続きによらず、債権者の協力を得ながら事業再生を図る取り組みを円滑化する制度。企業の早期事業再生を支援するため、中立な立場の専門家が金融機関などの債権者と債務者間の調整を実施し、双方の税負担を軽減するとともに債務者に対するつなぎ融資の円滑化などを図る。**事業再生実務家協会は、法務大臣から認証紛争解決事業者として、経済産業大臣から特定認証紛争解決事業者として認証を受けている団体。
2022年3月期実績は、売上収益179,060百万円(前期比4.9%減)、コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)16,776百万円(前期は977百万円の利益)、営業損失109,970百万円(同107百万円の利益)、税引前損失107,761百万円(同1,068百万円の利益)、親会社の所有者に帰属する当期損失104,878百万円(同4,179百万円の損失)。
売上収益については、日医工グループでは、岐阜工場製品が売り上げに寄与(約32,700百万円)したものの、薬価改定による薬価引き下げや、製造委託先である小林化工株式会社(非上場、以下、小林化工社)における生産・出荷停止に起因するエルメッド製品の売上減少による影響、富山第一工場製造品の出荷再開の遅れによる影響などから、同8.8%減収。米国市場(Sagentグループ)は、新型コロナウイルス関連製品が前期に引き続き好調だったことやカナダ市場での売上伸長により、同10.4%増収となった。
コア営業利益については、日医工グループは、減収と同様の要因により14,017百万円の損失(前期は2,995百万円の利益)。Sagentグループは、SterRxでの生産設備見直しによる工場の稼働停止や、主力品の販売単価下落などの影響からコア営業損失2,759百万円(同2,017百万円の損失)。
2023年3月期会社予想は、事業再生ADR手続きを正式申請し、当該手続きの中で関係各社との協議を進める予定であることから、未定としている。
日医工株式会社は、減損損失・棚卸資産評価損の計上、通期連結業績予想と実績値との差異及び 個別業績の前期実績値との差異に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
日医工株式会社は、事業再生ADR手続の正式申込及び受理に関して発表した。
日医工株式会社は、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合との出資に関する基本合意書の締結に関して発表した。
日医工株式会社は、サンド株式会社と、同社が2022年1月20日に承認取得していた抗悪性腫瘍剤/抗 VEGF*ヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ BS 点滴静注 100mg/400mg「日医工」(開発:マブサイエンス社/スペイン、先行バイオ医薬品:アバスチン®)に関する販売権許諾契約書を締結したと発表した。(リリース分へのリンクはこちら)
両社は、安定供給および情報収集・提供の体制を確保し、本剤による抗がん剤治療への貢献に取り組んでいくとしている。
日医工株式会社は、中外製薬株式会社(東証1部:4519)より提起されていた、同社が製造販売する骨粗鬆症治療剤エルデカルシトールカプセル 0.5μg、0.75μg「日医工」(先発名:エディロール®カプセル)に対する特許権侵害訴訟について、2022年2月24日付で、東京地方裁判所が中外製薬の請求を棄却する旨の判決を言い渡したと発表した。(リリース文へのリンクはこちら)
本訴訟は、上記同社製品の有効成分が、中外製薬が保有する物質特許(特許第 3429432号)を侵害しているとして、2021年2月17日付で、中外製薬が東京地方裁判所に損害賠償等を求めたものである。
売上収益179,060百万円(前期比4.9%減)、コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)16,776百万円(前期は977百万円の利益)、営業損失109,970百万円(同107百万円の利益)、税引前損失107,761百万円(同1,068百万円の利益)、親会社の所有者に帰属する当期損失104,878百万円(同4,719百万円の損失)。
2022年3月期会社予想(2021年11月11日公表値*)に対する売上収益の達成率は96.8%(2021年3月期予想に対する前期実績の達成率99.1%)となった。各利益実績・通期計画は損失計上。
*2022年3月期会社予想(2021年11月11日修正)▷売上収益:185,000百万円(前回予想:195,000百万円)▷コア営業損失:11,900百万円(同:コア営業利益700百万円)▷営業損失:17,100百万円(同:営業利益500百万円)▷親会社株主に帰属する当期損失:18,600百万円(同:当期純利益200百万円)▷1株当たり当期純利損失:275.39円(同:1株当たり当期純利利益 3.12円)<公表および修正の理由>上半期会社予想は、富山第一工場製造品において厳密な品質リスク評価とリスク低下策を実施し、当局と協議しながら出荷再開を進めていること、後発薬市場の状況から生産再開品目の優先度を見直したことなどから、富山第一工場の生産・出荷再開スケジュールに当初予定より遅れが生じ、市場への出荷品目数・数量が当初見込みとなり売上収益コア営業利益予想を下方に修正した。営業損失・親会社の所有者に帰属する四半期損失については、売上高の計画未達に加え、上述のとおり棚卸資産評価損を計上したことなどにより前回予想を下回る見込となった。通期会社予想については、富山第一工場における生産・出荷が第3四半期以降に漸増し、業績は改善傾向に向かっていくものと見込まれる。ただし、上半期までの生産・出荷スケジュールからの遅れ、上半期業績が大幅減収減益となった影響は通期業績に影響する。また、売上総利益率の高い品目の生産・出荷再開遅延が見込まれることから、売上収益・各利益ともに前回予想を下方に修正した。
売上収益は、179,060百万円(前期比4.9%減)となった。
Sagentグループは前期比10.4%増収となったものの、日医工グループの同8.8%減収により、同4.9%減収となった。
米国市場(Sagentグループ)は、SterRxにおいて生産設備見直しによる工場の稼働停止があったものの、新型コロナウイルス関連製品の売上高が引き続き好調であったことや、カナダ市場での売上高増加(プロポフォール特需の発生)により、増収となった。
コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)は、日医工グループ、Sagentグループとも減益となり、16,776百万円(前期は977百万円の利益)となった。日医工グループは、国内薬価改定の影響(薬価引き下げ率10.7%)や富山第一工場の出荷数量減により、コア営業損失は14,017百万円(前期は2,995百万円の利益)となった。Sagentグループは、コア営業損失2,759百万円(前期は2,017百万円の損失)。
営業損失は、下記の減損損失や評価損の計上により、109,970百万円(前期は107百万円の利益)となった。
売上総利益率は前期比9.1ポイント低下の2.2%、販管費率は同1.2ポイント上昇の15.6%、売上高研究開発費比率は同0.1%ポイント上昇の2.4%。その他営業収益は前期比11,194百万円減少、その他営業費用は同80,851百万円増加した。
富山第一工場生産再開に伴う棚卸資産評価損(7,389百万円)、固定資産減損損失(25,309百万円)、連結子会社Sagent Pharmaceuticals社株式に係る関係会社株式評価損(38,496百万円)を計上した。
2022年3月期において、新型コロナウイルス感染症に関連して大きな影響は出ていない。患者の受診抑制、手術延期、営業活動制限による売上高へのネガティブ影響や、米国において調達先からの一部製品についての資材供給が滞るなどのネガティブ影響があった。一方、新型コロナウイルス関連製品の売上高が伸長するなどのポジティブ影響もあった。
同社グループでは在宅勤務、時差出勤、各部署の執務場所分散等の実施、加えて、富山本社、富山第一工場、岐阜工場において職域接種を実施するなど、引き続き感染拡大防止に努めている。
売上収益139,027百万円(前期比8.8%減)、セグメント損失(コア営業損失)14,017百万円(前期は2,995百万円の利益)。
富山第一工場製造品について安心と信頼の医薬品を顧客に届けるべく、厳重な品質管理を行ったうえで順次生産・出荷を再開するとともに、安定供給体制構築を見据えたグループ全体での生産体制の最適化に向けた取り組みを進めている。
岐阜工場品の売上高への寄与(約32,700百万円)があったものの、以下の要因により、前期比8.8%減収、コア営業損失8,657百万円の計上となった。
2021年4月薬価改定による薬価引き下げ
製造委託先(小林化工株式会社)での生産・出荷停止に起因するエルメッド製品の売上減少
富山第一工場では品質を担保したうえで順次出荷を再開しているものの、厳重な品質チェックなどを実施していることもあり、想定よりも出荷再開に時間を要していること など。
売上収益40,056百万円(前期比10.4%増)、セグメント損失(コア営業損失)2,759百万円(前期は2,017百万円の損失)。
Sagentグループにおいては、コスト競争力・安定供給能力の強化を目指し、Sagent・ローリー工場、Omega・モントリオール工場、SterRxにおける内製化・自社製造能力の拡充に向けた体制強化を進めている。また、日本向け製品の製造や、Sagent開発品の日本・東南アジア市場への導出に向けた取り組みを進めている。一方、米国市場への上市を目指して開発中のバイオシミラー、オーファンドラッグについては、承認申請が予定より遅れることが確実となり、今後の開発計画全体についてあらためて検討を行うこととなった。
当期においては、SterRxにおいて生産設備見直しによる工場の稼働停止があったものの、新型コロナウイルス関連製品の売上高が引き続き好調であったことや、カナダ市場での売上増加などにより、同10.4%増収となった。利益面では、SterRxにおける生産設備見直しによる工場の稼働停止や、主力品の販売単価下落などの影響から、前期と比べ赤字幅が拡大した。
同社は2021年4月以降、富山第一工場において厳しい品質チェック等を行いながら、順に生産・出荷を再開しているが、一部の製造予定品目について出荷再開には至っていない。加えて、薬価改定による薬価引き下げや製造委託先での生産・出荷停止などに起因した製品売上の減少が続いている。主力工場である富山第一工場での製造品について、適正な生産体制・規模適正化を目的とし、製造再開に時間を要する製品の識別、同種同効成分製剤への統合、改善措置を図る製品の整理などの施策を実施している。2022年3月期には、今後廃棄となる可能性が高いとみられる原材料や仕掛品について評価損を計上し、開発投資の見直しとそれに伴う海外子会社ののれん減損、および国内固定資産の減損処理を行った。
事業面では、今後富山第一工場製造品の生産・出荷を順次再開させるとともに、引き続きグループ全体での生産体制の最適化を進め、収益力改善に取り組む。全社レベルでの経費削減や物流コストの抑制、在庫・仕入れ管理の徹底により、キャッシュ・フローの改善に向けた施策を講じている。さらに、国内・海外生産拠点の最適化による工場稼働の効率化によるコスト低減など、構造改革の加速化に取り組む。
資金面では、金融機関等との財務制限条項に関連する事項および2022年3月返済期限の長期借入金の期限延長について、合意を得ている。今後事業を円滑に推進するためのプレDIPファイナンスを含め、事業再生ADRの手続きの中で関係各社との協議を進める。
2021年4月より続いている富山第一工場における製品供給体制の遅延については、同社は2021年4月より供給体制が立ち上がるとの想定でいた。製品毎に評価し、当局との相談を得て製造に着手し、試験もクリアした製品が出荷される流れであったが、当局との相談の時間軸が読めない面があった。結果として第1四半期は出荷に至らなかった部分が大きく、月平均約60ロットに留まった。当第2四半期については、2022年8月10日時点での会社予想は月平均約200ロットであったが、実績は同約90ロットに留まった。
2022年8月10日時点での会社予想では、第3四半期は同約240ロット、第4四半期は同約270ロットに増加する(2021年12月期の月間生産ロット数は約250~300ロットとなる)と同社は見込んでいた。しかし、当上半期末時点の会社予想では、リスク評価は全項目で完了しているが、各手順書および生産品目の確認に予定以上の時間を要しており、前回予想(2022年8月10日時点での予想)を下回る見込みであると変更している(具体的数値は非公表)。
尚、前回予想発表時には、2021年3月期の月間平均生産ロット数は約500ロットであったが、人員数に対して適正な生産量でなかったため、人員数に見合った生産ロットである月平均約250~300ロットに抑制し、生産ロットの適正化を図っているとしていた。製造部門の人員数は前期比ほぼ横ばいであるが、品質管理の人員は前期比58%増、品質保証は同43%増、品質保証部は同26%増となる増員を実施したとしていた。
2021年10月25日、サノフィ株式会社と同社との合弁会社である日医工サノフィ株式会社(2010年に設立;解散前の出資比率はサノフィが51%、同社が49%)を解散することに両社で合意した。日医工サノフィ株式会社が有するオーソライズドジェネリック(AG)品目(以下、参照)、その他品目について同社が製造販売承認を承継する契約を合わせて締結(製品供給はサノフィから受ける)。
日医工サノフィの設立当初の目的は、国内でオーソライズドジェネリックを軸として、ジェネリックの市場を拡大することであった。オーソライズドジェネリックを上市し、当初の目標ラインは達成し、市場が拡大し継続が可能と判断したため、合弁会社を解散したとのこと。これまでも国内での販売は同社が独占的に行っていたため、製造販売承認を承継するだけで、商品の供給には変更ない。
2021年12月10日に薬価収載された製品は、下表の通り、7成分17品目。デュロキセチンカプセル20mg/30mg「日医工 G」以外は、薬価収載後に発売開始となった。尚、デュロキセチンカプセル20mg/30mg「日医工 G」については、発売準備が整い次第、2022年1月の発売予定。下表のうち、ソリフェナシンコハク酸塩錠とソリフェナシンコハク酸塩OD錠はオーソライズドジェネリック(AG)。
2021年2月15日に承認を受けたものが、ソリフェナシンコハク酸塩錠、ソリフェナシンコハク酸塩OD錠、エスゾピクロン錠、デュロキセチンカプセル、パロノセトロン静注、ペメトレキセド点滴静注用。同年8月16日に承認を受けたものが、ジルムロ®配合OD錠、レベチラセタム錠、レベチラセタムドライシロップ。
ベバシズマブBS:日本において、海外データを用いて2020年にPMDA承認を申請。2022年の上市を同社は見込んでいる。主な対象疾患は大腸がん(国内市場規模は95,000百万円、出所:同社;BS参入メーカ数2社)
インフリキシマブBS:米国において、2020年に第III相臨床試験を完了し、Interchageability(「戦略と長中期見通し」の章の「バイオシミラーの海外展開」の段を参照)のデータを確保した。2023年にFDA申請を行う予定。原薬はAprogenオソン工場(FDA認定対応の準備中)、製剤化はSagentローリー工場(テックトランスファー中)で行う。
カモスタットメシル酸塩を対象成分とする希少疾患治療薬の第II相臨床試験(目標症例数260名;患者組み入れ予定数米国130名、欧州130名)を2021年9月に完了した。2022年3月期上半期末現在はデータのクリーニング作業を進めており、間もなくデータベースロックする見込み。ロック後は解析に回し、申請のデータ整理を行う。申請は2023年3月期第2四半期末までに行う予定であるとしている(ファーストトラック指定)。
同社グループは、サステナビリティ(持続可能性)が長期的な企業価値の向上に欠かせないとの認識のもと、2021年8月17日に、同社グループのSDGs宣言を行った。本業を通じてESG(環境、社会、ガバナンス)への取り組みを行うとともに、SDGsを推進し、製薬企業として「健康で豊かな社会の実現」に努めていく。
同社の基本戦略は、シェアの拡大にある。政府が目標としているジェネリック普及率(2023年度末までに全都道府県ジェネリック普及率80%以上)達成以降も持続的成長が可能であると考えている。
政府の政策は、ジェネリックメーカーにとって、ジェネリック需要拡大を促す診療報酬改定を行う一方で、薬価制度改革における価格引き下げでジェネリックメーカーの収益性を押し下げるという「アメとムチ」の政策となっている。こうした政策によって収益性が悪化することで、安定供給体制をとることができなくなる下位メーカーが増加し、上位ジェネリックメーカーへの集約化に向かう可能性が高い。こうした中では、同社のようにシェアが高いほうが、販売政策などで主導的立場をとれるため、合従連衡が起こった時には有利に働くと考えている。また、収益性に関しては、規模の効果によって生産効率化も並行して行い改善させる計画である。
2000年2月に田村友一社長が就任して以来、同社は卸との関係強化でシェアを拡大させてきた。卸との関係を強化するために、これまでM&A(事業買収)を積極的に行ってきた。同時に、他社との事業提携を積極化させ、現在では、これらの事業提携の成果としてシェア拡大と品質向上、新製品の開発などに取り組んでいる。また、製造委託から内製化への転換を進めることにより、供給安定化と同時に採算向上を図りつつある。
具体的には、2010年の仏医薬品大手サノフィとの資本業務提携による日本で初のオーソライズドジェネリック(先発品メーカーが、特許満了前にその特許使用をジェネリックメーカーに許諾して発売するジェネリック)の販売、韓国Aprogen社、Binex社との資本業務提携によるバイオシミラー(バイオ医薬品の後続薬)の研究開発・製造などである。
さらに、2016年8月にジェネリック注射剤で米国市場9位のSagent社を買収し、事業領域の拡大と米国バイオシミラー市場へのプラットフォーム構築を計画している。2018年3月には、エーザイ株式会社(東証1部4523)と戦略提携およびエルメッド エーザイの株式譲渡の契約を締結し、今後、エーザイが進める領域エコシステムの構築に向けた協業、ならびにエーザイがインドバイザッグ工場を中心に推進する医薬品原薬(API)事業における提携を進めていく(後述)。2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。
こうしたアクションはすべて同社の事業戦略に基づくものである。以下は、田村友一社長が就任以来、同社が行ってきた9のM&Aと11の事業提携である。
同社の田村友一社長は、第7次中期経営計画「Obelisk」の公表時、「米国Sagent社買収により、同社の米国バイオシミラー開発のスピードアップ、製品ラインナップの拡充などを図り、少なくとも2020年までに世界ジェネリック医薬品メーカートップ10入りを達成させたい」と語っていた。2014年時点では、同社とSagent社の単純合算売上高は13億ドルとなり、15位のCiplaに次ぐ16位であった。
抗リウマチ薬レミケード(一般名:インフリキシマブ*)のバイオシミラーである「インフリキシマブBS」**の製造販売承認を、2017年9月、同社と同社の100%子会社であるヤクハン製薬株式会社が取得。同年11月に上市した(同社バイオシミラーとしての初の上市)。販売権許諾契約に基づき、インフリキシマブBS点滴静注用100mg「あゆみ」については、あゆみ製薬株式会社が販売している。
*インフリキシマブは、関節リウマチ(RA)やクローン病などの病態形成に密接に関与している腫瘍壊死因子α(TNFα)の作用を阻害するヒト/マウスキメラ型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体である。インフリキシマブは、可溶性TNFαへの結合によりTNFαの生物活性を中和し、またTNFα受容体に結合したTNFαの解離、TNFα産生細胞に対するアポトーシスの誘導、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)を引き起こすと考えられている。インフリキシマブは,米国で開発され、日本においては、2002年5月にクローン病治療薬として先行バイオ医薬品が発売された。その後、RA、乾癬、潰瘍性大腸炎などの効能・効果を取得している。**インフリキシマブBS点滴静注用100mg「日医工」はAprogen Inc.(本社:韓国デジョン)によりインフリキシマブ製剤のバイオ後続品として創製され、日本において日医工株式会社およびヤクハン製薬株式会社が共同で開発した。2015年9月、先行バイオ医薬品の効能・効果のうち、再審査期間が満了しているものを効能・効果として製造販売承認申請を行った。先行バイオ医薬品と比較し、品質試験および非臨床試験において高い類似性が認められたこと、国内の健康成人を対象とした単回投与試験において、薬物動態の同等性が確認されたこと、国内のRA患者を対象とした第Ⅲ相試験において、同等の有効性と同様な安全性プロファイルを有していることが示されたため。2017年9月に関節リウマチ、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、クローン病、および潰瘍性大腸炎の効能・効果で、インフリキシマブ(遺伝子組換え)[インフリキシマブ後続2]として承認された。承認当時は乾癬に対する投与量の増量や投与間隔の短縮及びクローン病に対する投与間隔の短縮の用法・用量を取得していなかったが、2018年6月に乾癬に対する効果不十分または効果が減弱した場合の投与量の増量や投与間隔の短縮及びクローン病に対する効果が減弱した場合の投与間隔の短縮の用法・用量の承認を取得した。また、2020年4月にベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎、2020年10月に強直性脊椎炎に対する効能・効果および用法・用量の承認を取得した。尚、先行バイオ医薬品が有する「腸管型ベーチェット病、神経型ベーチェット病、血管型ベーチェット病」および「川崎病の急性期」に対する効能・効果は取得していない。(以上、出所は同社)先発品である田辺三菱のレミケード点滴滴静注用100mgの薬価が75,009円(100mg1瓶)であるのに対し、同社の田辺三菱のレミケード点滴滴静注用100mgの薬価は43,229円(100mg1瓶)。
抗リウマチ薬エンブレル*(一般名:エタネルセプト)のバイオシミラーである「エタネルセプトBS」**の製造販売承認を共和薬品工業株式会社が2019年3月に取得(同社が継承)。2019年11月に発売を開始した(同社として発売開始2番目となるBS)。本剤は、共和薬品工業が製造し、同社が独占的に販売している。
*エンブレルは、1998年に米国において世界で初めて認可された生物学的製剤(バイオ医薬品)。国内では2005年から使用が始まった。TNF受容体とヒト免疫グロブリンの一部を結合させた製剤で、完全ヒト型製剤(マウスなどの異種タンパクを含まない)。エンブレルは、レミケードと同様に、炎症反応に関与する生体内物質(サイトカイン)であるTNFαの働きを抑える。しかし、レミケードが抗体製剤であるのに対し、エンブレルは受容体製剤であり、TNFとの結合の仕方に違いがある。この違いにより、エンブレルは他のTNF阻害薬に比べて、結核や悪性リンパ腫などの発症リスクが低い可能性が報告されている(出所:東京女子医科大学)。(以上、出所は同社)先発品であるファイザー=武田のエンブレル皮下注50mgペン1.0mL(50mg1mL1キット)の薬価は25,171円であるの対して、同社エタネルセプトBS皮下注50mgペン1.0mL「日医工」の薬価は17,025円である。
抗悪性腫瘍剤アバスチン(一般名:ベバシズマブ)のバイオシミラー(ベバシズマブバイオシミラー*)をmAbxience Research,S.L.(マブサイエンス社、スペイン)から導入することを2020年1月に発表。mAbxience Research, S.L.と合意している国内独占販売契約に基づき、ベバシズマブバイオシミラー(標準品名:アバスチン®)の製造販売承認申請を2020年11月にPMDAに行った。2022年に上市を同社は見込んでいる。マブサイエンス社が欧州において実施した非小細胞肺癌(NSCLC)の第III相臨床試験データなどに加え、同社が国内で実施している臨床薬物動態(PK)試験データを併せて承認申請を行った。
* ベバシズマブバイオシミラー:抗悪性腫瘍剤/抗VEGF*1ヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ(遺伝子組換え)製剤のバイオシミラーであり、標準品のアバスチン®は国内医薬品売上上位のバイオ医薬品*1 VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor(血管内皮増殖因子)
同社は、米国で抗リウマチ薬レミケード(一般名:インフリキシマブ)のバイオシミラーに関わる第Ⅲ相臨床試験(Phase3)(2016年10月に開始)を2020年に完了しInterchangeability*のデータを確保した。当初は、2021年の承認申請を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響によりテックトランスファーおよび韓国の提携工場のFDA認定対応が遅延したため、2023年にFDA承認申請を行う予定である。米国での臨床開発をSagent社主体に変更し、承認のスピードアップを図っている。
* FDAの「バイオシミラー製品の参照製品との互換性の証明に関する企業向けガイダンス案」(2017年1月)において示された、バイオシミラーまたは互換性生物薬品に関する簡素化承認審査手順。基準に適合していることが示された生物薬品に関してinterchangeableまたはinterchangeabilityであれば、参照製品を処方する医薬関係者の関与なしに、参照製品に置換することができるというもの。
同社は抗がん剤ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)のバイオシミラーに関わる第I相臨床試験(Phase1)を米国で開始した。2020年3月期にグローバル第III相臨床試験(Phase3)を開始し、2022年3月期の承認取得を目指していた。しかし、承認に向けて開発を行っていたトラスツズマブBS(バイオシミラー)の第I相臨床試験終了時点で、今後の市場環境などを精査・検討した結果、当該製剤の開発を中止し、2020年1月、開発データを共同開発パートナーのAprogen Inc.に譲渡した。トラスツズマブBSから戦略的に撤退した。
ジェネリック注射剤に強みを持つ同社子会社Sagent Pharmaceuticals, Inc.が、米国市場を担っている。米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保および注射剤領域におけるプレゼンスの確立を図るべく、2016年8月に買収。米国市場でのバイオシミラーの上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。
低分子ジェネリックについては自社工場(Omega・モントリオール工場、Sagentローリー工場;後段参照)において内製化を推進している。バイオシミラーについてはインフリキシマブBSのFDA申請に注力しながらも、ラインナップ拡充のためパイプライン候補品を選定中である。新規参入のオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)については、カモスタットメシル酸塩を対象成分とした第II相臨床試験を米国(患者組入れ予定数130名)と東欧(同130名)で行っている。2022年の申請を予定している。オーファンドラッグはPriority Reviewの指定も取得するため、米国においは独占販売権が7年間付与される。承認となれば収益寄与が大きいと同社は考えている。コンパウンド製剤については、着実にラインナップが増加しており、増産のための設備投資を行う。2022年3月期に15~20品目の上市を目指している。
Sagentは、2017年9月、ニューヨーク州に本社があるスターレックス(SterRX, LLC)*1社に25%の資本出資を行い、薬剤師が患者に合わせた既存品の薬剤濃度調整、添加剤の除去などの投与形態の変更を行った薬剤を販売するコンパウンド製剤事業*2にも参画している。
*1 FDA規則503B(※)に適合したコンパウンド製剤の製造を主な事業とする。2013年にWyeth(現Pfizer)の工場を取得し、完全自動化ラインで無菌担保を実現し、バイアル、点眼、バッグ、シリンジの製造が可能である。同社によれば、米国最大の生産能力(150百万ユニット/年)。※FDA規則503Bとは、FDAから認定された厳格なcGMP準拠の製造所において、特定の患者の処方箋なしにコンパウンド製剤を製造販売できることを定めた規則。また、FDAが発行した欠品製品リストに記載されている製品についても製造することが認められる。*2 米国において既に承認されている薬剤では治療が難しい患者のために調合される。製品ごとにFDA承認を取得する必要がない。
現在、開発を進めているバイオシミラー事業、さらにオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)についても開発を進め(上述)、段階的に結実させていく。
2019年3月、Sagentは、米国ノースカロライナ州ローリー(Raleigh)にあるFDA認定薬品工場(製造承認を受けた低分子医薬品およびバイオ医薬品の注射剤工場)に係る医薬品製造事業をXellia Pharmaceuticalsから取得した。製造能力は年間400万バイアル。工場面積6,000㎡。従業員約120名。バイオシミラーおよびジェネリック注射剤の製造を行う。また、バイオシミラー製品の凍結乾燥製剤の製造も可能。現在開発中のインフリキシマブBSを製造する予定であるほか、他社委託品の内製化も予定している。
Sagentの子会社であり、同社の海外子会社でもあるOmega Laboratories, Ltd.が、モントリオールに液剤の製造工場(カナダ向けに出荷するための工場)を有しており、当工場は米国向けにも出荷できるようFDA認定を取得した。同社によれば、Omegaモントリオール工場でジェネリック注射剤を、Sagent・Raleigh工場でバイオシミラー製剤を製造する製薬メーカーとしての体制を整えるとしている。
Sagentはこれまで外部パートナーに製造を委託していたが、自社供給体制の構築により、外部委託コストの削減や、安定供給の推進などが期待でき、米国での競争力強化が見込めるとしている。また、日医工の静岡工場にてオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の製造を行う予定である。更に、前述の通り、SterRxの資本出資により、コンパウンド製剤の製造手段も獲得している。
同社とエーザイ株式会社(東証1部4523)は、2018年3月28日、資本業務提携に関する戦略提携とエルメッド エーザイ(エーザイの完全子会社)*1の普通株式に関する株式譲渡について、契約を締結した。エーザイから日医工に対して、エルメッド エーザイの全株式を戦略提携の進捗に応じて段階的に譲渡した。両社はエーザイが進める領域エコシステムの構築に向けた協業、ならびにエーザイがインドのバイザッグ工場を中心に推進する医薬品原薬(API)事業における提携を行った。
*1 エルメッド エーザイ:高齢者医療の自己負担を見越し、低価格、高品質の医薬品の必要性を考え、1996年にエーザイ100%出資の子会社として設立された。社名の由来は、Eldery Medicine 高齢者向け製剤の開発・販売。2017年3月期売上高28,026百万円(国内ジェネリック市場同社推定シェア3.6%)
エルメッド エーザイに対する同社の出資比率は、2018年4月20%、2018年10月33.4%、2019年10月100%となり、2019年3月期は同社の持分法適用会社であった。2019年4月に、同連結子会社(新社名「エルメッド株式会社」)となった*2。
エーザイのバイザック工場(インド)から、高い技術力と柔軟な価格対応を兼ね揃えた原薬調達を行うことが可能となった。エーザイの管理下に置かれた工場であるため、安定供給が期待できるのと同時に、価格面でも優位性がある。また、バイザック工場に対して、同社の新規製剤の製造を委託することも可能となった。
エーザイは、患者のTrue Needs(真のニーズ)を引き出す力、その解決策をDesign(デザイン)する力、臨床試験やリアルワールドデータなどのメディカルデータをもとにアウトカム(治療成果と経済性)やアクセス提案をする力などをコアとするプラットフォームを構築する。そのプラットフォームの上に様々なコンテンツを載せ、患者をはじめとする各ステークホルダーに、薬剤をはじめとする必要なソリューションを届ける領域エコシステムを拡充していく。広範なジェネリック医薬品などを有する同社がコンテンツ提供パートナーとして加わり、認知症・肝臓病の領域*3をはじめとする領域エコシステムの拡充および地域医療における患者貢献の拡大に寄与することとなる。同社においては、地域包括ケアをはじめとする新たな市場への「開拓力」の強化となる。
*3 肝臓領域におけるエーザイの代表的製品には、レンビマ(抗悪性腫瘍剤)、イオメロン(非イオン性造影剤)、ディーシービーズ(中心循環系血管内塞栓促進用補綴材)などがある。エルメッド エーザイの代表的製品には、エンテカビル「EE」(抗ウイルス化学療法剤)がある。一方、同社の代表的製品には、シスプラチン(抗悪性腫瘍剤)がある。
ジェネリック事業を統合することによって、ラインナップの充実とシェア上昇と同時に、業務効率化や生産効率化がもたらされると考えられる。
2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。経緯は、以下の通り。
同社は、2020年7月30日、テバ・ファーマスーティカル・インダストリーズ社(本社:イスラエル)、武田薬品工業株式会社(東証1部、4502)および武田テバファーマ株式会社(以下、武田テバ)との間で、以下の合意に至った。
同社は、武田テバが保有するジェネリック医薬品および高山工場*に係る事業を譲り受けることを目的として新たに設立される株式会社の全株式を取得し、同社の子会社とした(株式譲渡実行日:2021年2月1日)。
買収の目的は、①内製化などによるグループ生産体制の最適化(原薬の統一、日医工・エルメッド・武田テバでの重複品目の見直し、特殊製剤の内製化、生産体制の適正化)と、②品質体制の強化(武田テバのグローバル品質管理体制、人材・ノウハウの獲得、品質管理600名体制の実現、受託事業から得られる外部ノウハウ)。
*敷地面積118,599㎡、延床面積119,282㎡。製造棟(固形剤5棟・注射剤3棟)、品質管理棟、原材料倉庫、配送センターで構成されており、従業員は744名(2020年6月末時点)在籍。生産能力は40億錠、注射剤1.1億本(2019年度生産実績:27億錠、45.4百万本)。日医工グループに、新たな製造ラインナップが加わる。具体的には、抗がん剤(高薬理活性棟の活用)、抗生物質(セフェム系抗生物質の製造が可能となる)、シリンジ製剤(特殊製剤の製造が可能となる)、バッグ製剤(特殊製剤の製造が可能となる)。特殊製剤ラインを活用し、外部委託先からの内製化や、日医工グループの生産体制の適正化を図り、シナジー効果を発揮させる。
政府目標である2020年9月「後発医薬品使用割合80%」が到来した*。同社は、以下のリスクと機会を勘案し、今後(ポスト80%時代)も売上収益の持続的成長が可能であると考えている。収益性を向上させるために、自社グループ工場への内製化や岐阜工場での特殊剤形の受託についても積極的に取り組む。
従来概ね2年に1度であった薬価改定が2020年以降は毎年実施される予定である。後発医薬品業界において一層の収益力強化が求められる状況となっている。一方、薬価改定による同社薬価(平均)へのインパクトは、2018年4月が前回比12.6%減、2019年10月が同7.6%減、2020年4月が同3.1%減、2021年4月は同9.4%減であった。
目標達成時期(2020年9月)を迎えた*。
* 政府は、ジェネリックの数量シェア(以下、普及率、2015年9月薬価調査で56.2%)を2020年9月までに80%とする方針を掲げていたが、2020年7~9月の実績は78.9%と若干未達に終わった(2020年10~12月79.4%;出所:ジェネリック製薬協会)。2021年4月、厚生労働省は新たな目標として、2023年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上とするとした。尚、ジェネリックの金額シェアは(薬剤料ベース)は21.5%(2021年2月)に止まる(出所:厚生労働省「最近の調剤得医療費」)。
2021年3月期~2023年3月期に、大型先発薬の特許切れが続く(下枠囲み内参照)。同社が製造販売承認を取得あるいは今後取得予定のジェネリックに対応する先発薬の市場規模(薬価ベース)は、2021年3月期440,000百万円、2022年3月期220,000百万円、2023年3月期290,000百万円と同社は試算している(注:プレガバリンを含まない)。
従前は1成分に20~30社が参入していた時代があったが、先発医薬品メーカーがジェネリック事業から撤退し、後発品メーカーも単独では製造が困難となるような市場環境を背景に、最近では後発品への参入社数が減少している。エルデカルシトール(エディロール)*1の製造販売承認取得企業は、同社と沢井製薬株式会社(東証1部、4555)の2社であり、ピルフェニドン錠(ピレスパ錠)*2では同社のみである。参入社数減少に伴い、価格競争は緩和の方向へ。
*1 例えば、同社が2020年2月17日に製造販売承認を取得したジェネリック医薬品11成分21製品のうち、先発薬の市場規模が最も大きい骨粗鬆治療剤エルデカルシートル(エディロール)については、薬価ベースで76,000百万円程度の市場規模であると同社は推定している。尚、中外製薬株式会社(東証1部4519)の2019年12月期のエディロール売上高実績は36,700百万円(出所:中外製薬のIR資料)、大正製薬ホールディングス(東証1部4581)の2020年3月期のエディロール売上高は27,000百万円(出所:大正製薬のIR資料)である。ジェネリック医薬品としてエディロールの製造販売承認を取得しているのは、同社と沢井製薬株式会社(東証1部、4555)の2社である。*2 ピルフェニドン錠(ピレスパ錠)の市場規模(薬価ベース)は7,000百万円程度と同社は推定しているが、ジェネリック医薬品として承認を取得しているのは同社1社のみである。今後も、例えば、薬価ベースで100,000百万円規模の神経障害性疼痛治療薬であるファイザーのリリカ(一般名:プレガバリン)の物質特許については既に特許期間が終了している(用途特許は2022年まで;出所:日刊薬業)など、大型先発薬の後発品が世に出てくる可能性がある。
2020年12月発売のプソフェキAG(ディレグラ®配合錠)、 ロレアスAG(コンプラピン®配合錠)の2品目をラインナップに加え、同社のAGは2021年3月期末現在、合計で5品目となった。今後も市場でのAG販売の実績を積み上げ、ラインナップの拡充に努めるとしている。
地域型や医療機関型のフォーミュラリー(患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用における指針)が普及すると、実績や価格において信頼があり一定規模の供給体制を持つ製薬メーカーがリストに入り易くなると同社は考えている。また、同じ有効性を安価な製剤によって実現していくという趣旨の中で、ジェネリック製剤を選択する際の指針に関する各地域の医療機関関係者による合意形成において、上位ジェネリックメーカーは有意性を発揮できると同社は考えている。
政府は、ジェネリックの数量シェア(以下、普及率、2015年9月薬価調査で56.2%)を2020年9月までに80%とする方針を掲げていたが、2020年7~9月の実績は78.9%と若干未達に終わった(2020年10~12月79.4%;出所:ジェネリック製薬協会)。2021年4月、厚生労働省は新たな目標として、2023年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上とするとした。実際、数量シェアは最高の沖縄県と最低の徳島県では10%ポイント以上の地位差がある*3。同社は包括連携協定先の自治体と、医療費の伸びの適正化のためのジェネリック医薬品の啓発活動などを実施していく。
*3 沖縄県89.5%、徳島県78.5%(出所:厚生労働省「最近の調剤医療費(電算処理分)の動向」)。ジェネリック製薬協会の数字とは若干の差異がある。「新指標」に基づく数字。2020年9月の全国平均値81.3%、2021年2月同82.1%。
2019年5月13日に、同社は2022年3月期を最終年度とする第8次中期経営計画「Nexus∞」を発表した。
最終年度となる2022年3月期の数値目標などは、以下の通り。
海外収益:60,000百万円(2019年3月期実績35,515百万円)
※国内事業は薬価改定によって収益・利益が影響を受けることが避けられないため、海外収益の目標を掲げている
※米国におけるインターチェンジアビリティ(先発品に極めて近いことの証明を米国食品医薬品局から得る手続き)でのバイオシミラー承認および発売が大きなウェイトを占める(前章における「バイオシミラーの海外展開」の段を参照)
PMP(Profit Management Plan)8によるコスト削減:累計15,000百万円以上
配当性向:引き続き25%~30%の配当性向を維持(2019年3月期実績26.0%)
女性管理職比率:15%以上(同11.5%)
原薬複数化比率:自社製品の70%(同45%)
ネットD/Eレシオ:1.0倍程度を維持(同0.8倍)
研究開発費:2022年3月期末までの3年間で累計33,000百万円
設備投資:同19,000百万円
テーマは『無限大の連繋力で今を超える』とし、グローバル総合ジェネリックメーカーへの進化を図るとしている。
3つのシナジー(「領域/地域」・「コスト」・「人財」)を最大化し、4つの基本戦略(「事業領域のさらなる深化/進化」「徹底したオペレーション最適化の追求」「グローバル水準の品質確保、競争力強化」「ESG活動を基盤としたライフサイエンス企業の信頼確保」)に取り組む。
テーマは『無限大の連繋力で今を超える』。シンボルとなるマーク(下図)は、第8次と無限大を表している。
同社グループと様々なビジネスパートナーと連携、拡大、成長する中で創出される3つのシナジー(「領域/地域」・「コスト」・「人財」)を最大化させていく。
上図のうち、一番大きな〇が「領域/地域」、左側の〇が「コスト」、右側の〇が「人財」を表している
無限大の交わり部分(色が薄くなっている部分)に、「患者とその家族」が位置する
「グローバル総合ジェネリックメーカー」への進化を図る。
政府目標である国内市場におけるジェネリック数量シェア80%は2021年3月期中に達成されると同社では想定している。
しかし、日本では、数量でシェア80%を超えても金額ベースではシェア50%程度(分母は後発品と後発品のある先発品の合計)に過ぎない。欧米では金額ベース、数量ベースともに高い比率でジェネリックへの置き換えが進んでいる。今後は国としても、経済効果が明確となる金額べ―スでの目標設定がされるであろうと同社は考えている。
開発力・生産能力を持つ競争力のあるジェネリック医薬品を、一定数量販売できるメーカーのみが、市場を支えていくと考えている。
最近の市場動向として、卸・薬局傘下のジェネリックメーカーの台頭、新薬メーカーによるオーソライズドジェネリック*の積極展開、異業種の医薬品業界の参入などが顕著になっている
* 先発品メーカーが、特許満了前にその特許使用をジェネリックメーカーに許諾して発売するジェネリック
「事業領域のさらなる深化/進化」「徹底したオペレーション最適化の追求」「グローバル水準の品質確保、競争力強化」「ESG活動を基盤としたライフサイエンス企業の信頼確保」の4つ。
特許期間が満了した医療用医薬品について、より広範な疾病領域や地域をカバーする。
患者とその家族の負担軽減および医療費削減に貢献するため、バイオシミラー、抗がん剤ジェネリックなどの製品ラインナップを拡充する
地域社会に貢献する包括的な支援・サービス提供体制(「地域包括ケアシステム」)への取り組みを促進する
医療用医薬品メーカーとして、患者とその家族のために、ビジネスパートナーとの戦略的提携を促進する
同社はエーザイ株式会社以外のビジネスパートナーとも戦略的提携を進めていきたいとしている。特に、「地域包括ケアシステム」については、ジェネリックメーカーだけでは成し遂げられない、そして、先発メーカーだけでも成し遂げられない部分があるということを、エーザイとの提携で強く感じたとのこと。可能であれば、他のビジネスパートナーとの提携も推進していきたいとのこと。
バリューチェーンにおける全てのオペレーションを最適化し、盤石な事業基盤を確立する。
患者とその家族のニーズ(生の声)へ迅速に応える製品開発・製品改良を行う
国内最大のジェネリックメーカーとしての調達力・生産力を活かした原価低減や製造内製化を促進する
エルメッドとの統合効果(前述)を追求する
エルメッドとの統合による重複品目があるため、薬価改定をチャンスと捉えて、製品の統一を進めていく。原薬調達や生産に加え、最終的には品目も統一することで、利益率を改善できるため、今後3年間で品目の統一を進めていくとのこと。
世界中の患者とその家族に「超品質(SR社注:同社独自の品質基準であり、高品質を超える信頼のある品質を超品質としている)」を安定的に届ける
Sagentの強みであるジェネリック注射剤に加えて、バイオシミラーの拡充、コンパウンドビジネスおよびオーファンドラッグの強化により、米国市場での事業規模を拡大させる
アジアにおける日医工ブランド製品の規模を拡大させる
世界各国の品質基準を満たすグローバルな開発体制を推進し、製品ラインナップを拡充させる
積極的なアライアンス提携などにより、新たなビジネス圏への展開を図る
現在、日本、米国、東南アジアで事業を展開しているが、それ以外の地域での事業展開も目指す。バイオシミラー(インフリキシマブなど)についても、米国、東南アジアに加えて、それ以外の地域においてもグローバルに展開していきたいとのこと。
経営の健全性や透明性を維持し、社会的使命を果たすことで、患者を含むステークホルダーからの継続的な信頼を確保する。
健全な経営基盤を支えるガバナンス体制、コンプライアンス体制を堅持、向上させる
健康や生命に関わる製薬企業としての誇りを持ち、社会貢献活動に積極的に取り組む
社会的責務の1つとして、事業活動に伴う環境負荷の低減と改善に向けた取り組みを継続的に推進する
従業員の個々の強みや能力を最大限に生かす多様な成長の機会を従業員に提供しつつ、従業員の柔軟な働き方を促進することで、働きやすい環境づくりに努める
製薬企業だからこそできる社会貢献を考え、実施していきたいとのこと。
同社は、後発医薬品(以下、ジェネリック)の国内トップメーカーである。ジェネリック(2021年3月期連結売上高構成比75%;IFRSベース)、長期収載品(新薬上市から長期間経過した特許終了後の医薬品、同4%)を、主に医薬品卸売企業(医薬品卸)への販売を通して国内の医療機関に供給している。また、2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保と注射剤領域におけるプレゼンス確立を図るために、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を完全子会社化した(2021年3月期連結売上高構成比19%)。米国市場でのバイオシミラー上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。
薬効分類別の売上高構成比(2021年3月期)は、循環器官用薬が19%、血液・体液用薬18%、神経系用薬が12%、消化器官用薬が11%となっており、多くの薬効分類を取り扱っている。全国平均と比較すれば、血液・体液用薬と循環器官用薬の比率が高い。
ジェネリック(後発品)とは、最初に開発された医薬品である新薬(以下、先発品)と同じ有効成分が同じ分量で含まれた医療用医薬品である。承認を得るためには先発品と品質及び有効性が同等であることを検証する生物学的同等性試験を実施することが必要となる。先発品と比較すると承認審査期間は短く、低コストで開発できることから、医療機関での患者自己負担を軽減することが可能(2010年発表の医薬産業政策研究所の資料によれば、新薬1品目あたりの開発コストは資本コスト10%の場合、自社品目で48,400百万円だが、同社によればジェネリックの開発コストは50百万~100百万円)となっている。
2009年6月に同社グループにおける開発部門を日医工開発本部に統合し、超品質*1かつ高い利便性を求めて、迅速で時宜を得た開発体制を整えている。超品質を確保するためには開発段階から製造工程を考慮した製剤開発が必要不可欠となるため、治験薬生産用の製造設備を備えた製剤開発センターを2006年に建設している。また、開発・品質管理・製造を一体として管理するための施設としてグローバル開発品質管理センター「Honeycomb棟」を2011年に建設し、原薬の選定から製剤設計・製造工程・品質管理における拠点としている。更に、経営企画本部内のバイオシミラー開発部は、関連部署と一体的な運営を行いバイオシミラー開発のスピードアップ化を図るなど、製品開発や海外業務展開における連携迅速化を行う体制を整えている。
*1 同社独自の品質基準として、高品質を超える信頼のある品質を「超品質」としている
同社は、増加する後発医薬品需要に備え、2010年に竣工した富山第一工場「Pentagon棟」の隣接地に、新たに「Pyramid棟」を建設し、2013年4月から稼動している。愛知工場に建設した凍結乾燥注射製剤の製造ラインは、同じく2013年4月から稼動している。
また、2012年3月にヤクハン製薬株式会社を株式取得により子会社化し、さらに、2014年4月にアステラス製薬株式会社の生産子会社であるアステラス ファーマ テック株式会社の富士工場を会社分割方式により承継し、同社の連結子会社「日医工ファーマテック株式会社」として事業を開始した。その後、日医工ファーマテック株式会社は、2017年10月1日に、同社を存続会社として吸収合併した。この合併により、一 層の生産効率の向上を図り、コスト競争力と安定供給の強化に取り組んでいる。
今後のジェネリック医薬品需要拡大を見据え、富山第一工場内に新製造棟「Obelisk棟」を建設し、2018年1月より製造を開始している。それにより、2019年3月期までに185億錠の供給体制を確立する同社の目標の達成の目途を付けた。2021年2月には、武田テバファーマが保有するジェネリック医薬品と高山工場に係る事業を譲受した*2。
*2 当該買収品目だけでなく、これまでの既存重複品も対象として、品目統一を行った。また、愛知工場、岐阜工場(高山工場:ジェネリック医薬品事業約60%、製造受託事業約40%)、静岡工場、富山工場などの各工場の特性(設備、ロットサイズ)に合わせて、品目数の最適化を図っている。当該M&A後には、錠剤200億錠規模の生産能力体制が実現した。
国内グループの富山、愛知、山形、埼玉、北海道、静岡の各工場では、剤形別製造機能の集約化を図り、効率的な設備投資を行うと共に、生産能力の向上も併せて実施し、市場拡大に対応できる生産体制を構築している。
同社グループの医薬品は、約13万軒の医療機関で採用されている。約300名のMR*2による情報提供あるいは情報収集活動を行っている。また、医療機関などからの問い合わせに対応するお客様サポートセンターや、同社ウェブサイトでの製品情報の充実、安全性情報の迅速な伝達など、情報提供支援体制を強化している。更に、2015年4月に『医療従事者のための「がん治療情報サイト」ONCOLOGY MedNavi』を開設し、がんに立ち向かう全ての人々をサポートできるような情報と医療現場のニーズに合った製品情報を提供している。
*2 Medical Representative:医療機関へ医薬品に係る情報を提供する医薬情報担当者
全国への流通においては、受注当日中の出荷を基本とする4箇所の物流センターを備えている。医薬品卸の全国ネットワークを通じて安定的な納入体制を構築するとともに、医療機関の購入ニーズに柔軟に対応できるよう販売展開している。
2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保および注射剤領域におけるプレゼンスの確立を図るべく、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を株式取得により完全子会社化した。米国市場でのバイオシミラー上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。東南アジア市場においては、Nichi-Iko(Thailand)Co.,Ltd.を通じて上市品目拡充を図り、業容拡大に努めている(米国市場については「戦略」の章の「米国市場」も参照)。
医薬品の安定供給という社会的責任を果たすために、原薬調達から製造までのサプライチェーンの強化は重要な経営課題であると同社は認識している。2019年初頭に発生した、臨床現場において基礎的で不可欠な抗菌薬であるセファゾリンの欠品問題の解決に全力を尽くし、安定供給のための万全な体制の構築に取り組んでいる。具体的には、原薬調達の複数化、静岡工場を含む複数製造所による製剤生産体制を確立した。また、出発物質(TAAなど)の海外製造所との連携などを図っている。
同社の業績は、日本基準において、1998年11月期以降、決算期変更のあった2012年3月期を除いて、2018年3月期まで20期連続増収となっている。IFRS採用後も2020年3月期まで3期連続増収を達成している。
営業利益(日本基準)に関しては、決算期変更の影響のあった2012年3月期と、研究開発費増加などによって減益となった2014年3月期を除けば、2016年3月期までは増益基調が続いた。その後、薬価改定に伴う収益環境の悪化、Sagent社買収とバイオシミラー研究開発費などの先行投資負担に伴い、日本基準においては、2017年3月期、2018年3月期と2期連続の営業減益となった。IFRS採用後は2018年3月期に営業増益を達成したものの、2019年3月期以降は、先行投資負担やSagentにおける減損損失の計上などにより、2021年3月期にかけて3期連続の営業減益となった。
SR社では、ジェネリック業界分析のポイントを以下の4点と考えている。
同社の事業モデルは、先発品の特許が切れたタイミングでジェネリックを上市(追補品収載)させ、毎年品目数を増加させることによって、売上高を拡大させることである。同社は毎年約30~40品目の追補品収載を行っており、2020年12月時点における同社の販売品目数は1,229品目となっている。2019年4月に同社の子会社となったエルメッド株式会社の同品目数は187品目であった。
追補品収載ジェネリックが薬価基準に載せられること(一方、新薬が薬価基準に載せられることを薬価収載と呼ぶ)。追補品収載は毎年2月と8月に厚生労働省から承認される。同社では、厚生労働省で追補品収載された後で、当該ジェネリックの上市によって先発品との特許に関する係争が同社と先発品メーカーとの間で起こりうるかどうかの可能性に関しての最終確認をし、6月と12月に販売開始(上市)している。薬価医療機関・調剤薬局で使用される薬の公定価格のこと。厚生労働省が価格を決め、薬価基準と呼ばれる価格表に載せる。
同社によれば、同社はジェネリックメーカー大手を含めた国内製薬企業の中で最も上市品目数が多い(下図参照)。1社の上市品目数が多いことは、1社に対する発注で済むことが多くなるため、結果的に医療機関・調剤薬局などのユーザーにとって取引メーカーの集約化を進めやすくなる。また、医薬品卸が在庫管理を効率化させ、医療機関・薬局においてもジェネリックの使いやすさと安心感にもつながる。こうした使いやすさと安心感が、これまでの同社の1品目当たりの数量増、すなわち1品目当たりの売上高増加の要因にもつながっている。
一般的にジェネリックメーカーの売上高総利益率は行政主導による価格引き下げと制度改定の影響などによって低下傾向にある。行政主導による薬価制度改革と薬価改定に関しては、2020年4月までは2年に1回の頻度で改正が実施されていたが、2021年4月以降は「中間年」を含めて毎年行う。但し、中間年の改訂では、従来のように保険適用されている全ての医薬品について改定を行う訳ではない。2021年4月は、薬価収載されている全医薬品の69%に当たり12,180品目(2020年9月の薬価調査で乖離率平均8.0%の0.625倍に当たる5.0%を超えた品目)が改定の対象となった。このうち、長期収載品では1,490品目のうち88%が、後発医薬品では8,200品目のうち83%が薬価改定の対象となった。
同社によれば、ジェネリックの原料となる原薬のメーカーは、ジェネリックと同様に、先発品の特許切れとなるタイミングを見て各社が原薬開発に取り組んでおり、複数社が供給している。薬価制度改革などにより、同社の販売価格が下落したときは、こうした原薬メーカーに対して価格交渉を行うことで調達価格の引き下げが可能となっている。同社によれば、同社は他社よりも調達規模が大きいため、バイイングパワーによる交渉力は高い。前述のエーザイ株式会社との戦略提携を通じて、同社はエーザイのバイザッグ工場(インド)などから医薬品原薬を安定的に優位性のある価格で調達することが可能となる。
要約
事業概要
同社は後発医薬品(以下、ジェネリック)で国内1~2位を争うメーカーである(2021年3月期末同社推定シェア約11%)。ジェネリック(2021年3月期連結売上高構成比75%)、長期収載品(新薬上市から長期間経過した特許満了後の医薬品、同4%)を、主に医薬品卸売企業(医薬品卸)への販売を通して国内の医療機関に供給している。また、2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保と注射剤領域におけるプレゼンス確立を図るために、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を完全子会社化した(2021年3月期連結売上高構成比19%)。Sagent社が出資するSterRx社において、FDA規則に適合したコンパウンド製剤*1も生産している。
ジェネリックとは、最初に開発された医薬品である新薬(先発品)と同じ有効成分が同じ分量で含まれたものである。承認に必要となるのは小規模の臨床試験(生物学的同等性試験)などであり、先発品と比べて簡素な申請データ、短い研究開発期間、低開発コストが特徴である(2010年の医薬産業政策研究所資料では新薬1品目あたりの開発コストは資本コスト10%の場合、自社品目で48,400百万円である。一方、同社によればジェネリックの開発コストは50百万円~100百万円)。
厚生労働省によるデータから、SR社が推定した2020年の国内ジェネリック市場は約1兆6,100億円(前年比2.6%減)となった。市場拡大の主な背景には、政府が推し進める医療費抑制策の一環として、厚生労働省が医療機関に対し、薬価が安いジェネリックの使用を促進させていることがある。政府は、ジェネリックの数量シェア(以下、普及率、2015年9月薬価調査で56.2%)を2020年9月までに80%とする方針を掲げていたが、2020年7~9月の実績は78.9%と若干未達に終わった(2020年10~12月79.4%;出所:ジェネリック製薬協会)。2021年4月、厚生労働省は新たな目標として、2023年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上とするとした。尚、ジェネリックの金額シェア(薬剤料ベース)は21.5%(2021年2月)に止まる(出所:厚生労働省「最近の調剤得医療費」)。
同社の特徴は、広域医薬品卸による販売ルートの比率がジェネリック大手の中で最も高い(2021年3月期は受託生産販売などを除いて84.4%)ことである。同社は広範囲の販売ルートを持つ広域医薬品卸との関係の強化を戦略的に進め、国内におけるシェアを拡大させてきた。また、高い病院カバー率(2021年3月期:同社は99.0%、沢井製薬(東証1部4555)は97.3%)、上市品目数が多いこと(同社は2021年7月時点で1,236品目、沢井製薬は約800品目)も同社の主な特徴である。
同社の戦略は、シェアの拡大にある。政府が目標としている「全都道府県ジェネリック普及率80%以上」までは市場拡大が続くと想定し、規模を重視する戦略をとっている。これは、海外進出に向けての基盤構築と、メーカー集約化の際にシェアが高いことによる優位性を確保するためである。持続的成長に向けて、新製品の開発が鍵を握ると同社は考えており、参入社数の少ないジェネリック医薬品の開発やオーソライズドジェネリック(AG)*2での市場参入の機会などを図る。フォーミュラリー*3への対応、連携協定先の自治体でのジェネリック医薬品の啓発活動に注力するほか、自社グループ工場への内製化や岐阜工場での特殊剤型の受託などの強化を図っていく。
同社はこれまでM&Aと卸との関係強化でシェアを拡大させてきた。2010年には、仏医薬品大手サノフィと提携し、日本で初のAGの販売を開始し、シェアを拡大させた。また、同社はバイオ医薬品市場に着目し、バイオシミラー(BS:バイオ医薬品の後続薬)の開発にも取り組んでいる。また、上述の通り、2016年8月には、Sagent社を買収し、事業領域の拡大と米国バイオシミラー市場における開発のスピードアップを図っている。
更に、2018年3月には、エーザイ株式会社(東証1部4523)と、戦略提携およびエルメッド エーザイの株式譲渡について契約を締結した。同年4月以降、当該株式譲渡、領域エコシステム構築に向けた協業、医薬品原薬(API)事業における提携などが順調に進捗した。2019年4月、エルメッド エーザイは同社100%子会社(新社名「エルメッド株式会社」)となった。2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。
国内でインフリキシマブBSを2017年11月に、2019年11月にはエタネルセプトBSを上市した。また、ベバシズマブBSをmAbxience Research,S.L.から導入し、2020年11月に国内で製造承認申請を行い、同社では2022年の上市を見込んでいる。米国でインフリキシマブBSの第III相臨床試験が2020年に完了しInterchangeabilityのデータを確保した。当初は、2021年の承認申請を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響によりテックトランスファーおよび韓国の提携工場のFDA認定対応が遅延したため、2023年にFDA承認申請を行う予定である。
同社グループでは、富山第一工場製造品で試験方法や製造方法が適切でなかった製品について、自主回収を実施し、2021年3月に富山県より「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づく行政処分を受けている。再発防止に向けて、製造管理体制、品質管理体制の改善に向けた5つの取り組みを進めている。具体的には、富山第一工場におけるGMP(医薬品の製造管理および品質管理の基準)遵守の強化、データインテグリティ(データが完全で一貫性があり正確であること)の確保と試験の同時性および適時性確保に取り組んでいる。また、製造販売業者として各製造所の監査を徹底し、法令遵守体制を強化している。更に、全役職員に共有する『安心と信頼への約束《日医工グループ品質方針》』を2020年7月15日に策定し、製剤技術本部を2021年4月に、経営改革本部を2022年5月に新設した。
同社は2022年5月、産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続(事業再生ADR*手続)を一般社団法人事業再生実務家協会**に申請し、同年5月13日付で受理された。同社によれば、申請にあたっては主要取引金融機関との協議を行い、メインバンクである株式会社三井住友銀行から十分な融資枠を確保されている。また、より強固な収益体質の確立と財務体質の抜本的な改善、および持続的成長を目的として、同日付でジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第三号投資事業有限責任組合(以下、JIS)との間で最大20,000百万円の出資に関する基本合意書を締結した。
業績動向
2022年3月期実績は、売上収益179,060百万円(前期比4.9%減)、コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)16,776百万円(前期は977百万円の利益)、営業損失109,970百万円(同107百万円の利益)、税引前損失107,761百万円(同1,068百万円の利益)、親会社の所有者に帰属する当期損失104,878百万円(同4,179百万円の損失)。
売上収益については、日医工グループでは、岐阜工場製品が売り上げに寄与(約32,700百万円)したものの、薬価改定による薬価引き下げや、製造委託先である小林化工株式会社(非上場、以下、小林化工社)における生産・出荷停止に起因するエルメッド製品の売上減少による影響、富山第一工場製造品の出荷再開の遅れによる影響などから、同8.8%減収。米国市場(Sagentグループ)は、新型コロナウイルス関連製品が前期に引き続き好調だったことやカナダ市場での売上伸長により、同10.4%増収となった。
コア営業利益については、日医工グループは、減収と同様の要因により14,017百万円の損失(前期は2,995百万円の利益)。Sagentグループは、SterRxでの生産設備見直しによる工場の稼働停止や、主力品の販売単価下落などの影響からコア営業損失2,759百万円(同2,017百万円の損失)。
2023年3月期会社予想は、事業再生ADR手続きを正式申請し、当該手続きの中で関係各社との協議を進める予定であることから、未定としている。
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*FY3/12は決算期変更に伴う4ヶ月の変則決算。
直近更新内容
減損損失・棚卸資産評価損の計上、通期連結業績予想と実績値との差異及び 個別業績の前期実績値との差異、事業再生ADR手続の正式申込及び受理、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合との出資に関する基本合意書の締結
日医工株式会社は、減損損失・棚卸資産評価損の計上、通期連結業績予想と実績値との差異及び 個別業績の前期実績値との差異に関して発表した。
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日医工株式会社は、事業再生ADR手続の正式申込及び受理に関して発表した。
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同社は2022年5月、産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続(事業再生ADR*手続)を一般社団法人事業再生実務家協会**に申請し、同年5月13日付で受理された。同社によれば、申請にあたっては主要取引金融機関との協議を行い、メインバンクである株式会社三井住友銀行から十分な融資枠を確保されている。また、より強固な収益体質の確立と財務体質の抜本的な改善、および持続的成長を目的として、同日付でジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第三号投資事業有限責任組合(以下、JIS)との間で最大20,000百万円の出資に関する基本合意書を締結した。
日医工株式会社は、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合との出資に関する基本合意書の締結に関して発表した。
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ベバシズマブBS点滴静注「日医工」の国内販売権許諾契約の締結
日医工株式会社は、サンド株式会社と、同社が2022年1月20日に承認取得していた抗悪性腫瘍剤/抗 VEGF*ヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ BS 点滴静注 100mg/400mg「日医工」(開発:マブサイエンス社/スペイン、先行バイオ医薬品:アバスチン®)に関する販売権許諾契約書を締結したと発表した。
(リリース分へのリンクはこちら)
両社は、安定供給および情報収集・提供の体制を確保し、本剤による抗がん剤治療への貢献に取り組んでいくとしている。
エルデカルシトールカプセル「日医工」の特許権侵害訴訟に関する勝訴
日医工株式会社は、中外製薬株式会社(東証1部:4519)より提起されていた、同社が製造販売する骨粗鬆症治療剤エルデカルシトールカプセル 0.5μg、0.75μg「日医工」(先発名:エディロール®カプセル)に対する特許権侵害訴訟について、2022年2月24日付で、東京地方裁判所が中外製薬の請求を棄却する旨の判決を言い渡したと発表した。
(リリース文へのリンクはこちら)
本訴訟は、上記同社製品の有効成分が、中外製薬が保有する物質特許(特許第 3429432号)を侵害しているとして、2021年2月17日付で、中外製薬が東京地方裁判所に損害賠償等を求めたものである。
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年3月期通期実績(2022年5月13日発表)
決算概要
2022年3月期通期実績
売上収益179,060百万円(前期比4.9%減)、コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)16,776百万円(前期は977百万円の利益)、営業損失109,970百万円(同107百万円の利益)、税引前損失107,761百万円(同1,068百万円の利益)、親会社の所有者に帰属する当期損失104,878百万円(同4,719百万円の損失)。
2022年3月期会社予想(2021年11月11日公表値*)に対する売上収益の達成率は96.8%(2021年3月期予想に対する前期実績の達成率99.1%)となった。各利益実績・通期計画は損失計上。
売上収益
売上収益は、179,060百万円(前期比4.9%減)となった。
Sagentグループは前期比10.4%増収となったものの、日医工グループの同8.8%減収により、同4.9%減収となった。
米国市場(Sagentグループ)は、SterRxにおいて生産設備見直しによる工場の稼働停止があったものの、新型コロナウイルス関連製品の売上高が引き続き好調であったことや、カナダ市場での売上高増加(プロポフォール特需の発生)により、増収となった。
コア営業損失
コア営業損失(営業利益から非経常的な要因による損益を除いたベース)は、日医工グループ、Sagentグループとも減益となり、16,776百万円(前期は977百万円の利益)となった。日医工グループは、国内薬価改定の影響(薬価引き下げ率10.7%)や富山第一工場の出荷数量減により、コア営業損失は14,017百万円(前期は2,995百万円の利益)となった。Sagentグループは、コア営業損失2,759百万円(前期は2,017百万円の損失)。
営業損失
営業損失は、下記の減損損失や評価損の計上により、109,970百万円(前期は107百万円の利益)となった。
売上総利益率は前期比9.1ポイント低下の2.2%、販管費率は同1.2ポイント上昇の15.6%、売上高研究開発費比率は同0.1%ポイント上昇の2.4%。その他営業収益は前期比11,194百万円減少、その他営業費用は同80,851百万円増加した。
富山第一工場生産再開に伴う棚卸資産評価損(7,389百万円)、固定資産減損損失(25,309百万円)、連結子会社Sagent Pharmaceuticals社株式に係る関係会社株式評価損(38,496百万円)を計上した。
新型コロナウイルス感染症の影響について
2022年3月期において、新型コロナウイルス感染症に関連して大きな影響は出ていない。患者の受診抑制、手術延期、営業活動制限による売上高へのネガティブ影響や、米国において調達先からの一部製品についての資材供給が滞るなどのネガティブ影響があった。一方、新型コロナウイルス関連製品の売上高が伸長するなどのポジティブ影響もあった。
同社グループでは在宅勤務、時差出勤、各部署の執務場所分散等の実施、加えて、富山本社、富山第一工場、岐阜工場において職域接種を実施するなど、引き続き感染拡大防止に努めている。
セグメント別業績
日医工グループ
売上収益139,027百万円(前期比8.8%減)、セグメント損失(コア営業損失)14,017百万円(前期は2,995百万円の利益)。
富山第一工場製造品について安心と信頼の医薬品を顧客に届けるべく、厳重な品質管理を行ったうえで順次生産・出荷を再開するとともに、安定供給体制構築を見据えたグループ全体での生産体制の最適化に向けた取り組みを進めている。
岐阜工場品の売上高への寄与(約32,700百万円)があったものの、以下の要因により、前期比8.8%減収、コア営業損失8,657百万円の計上となった。
日医工グループの減収要因
2021年4月薬価改定による薬価引き下げ
製造委託先(小林化工株式会社)での生産・出荷停止に起因するエルメッド製品の売上減少
富山第一工場では品質を担保したうえで順次出荷を再開しているものの、厳重な品質チェックなどを実施していることもあり、想定よりも出荷再開に時間を要していること など。
Sagentグループ
売上収益40,056百万円(前期比10.4%増)、セグメント損失(コア営業損失)2,759百万円(前期は2,017百万円の損失)。
Sagentグループにおいては、コスト競争力・安定供給能力の強化を目指し、Sagent・ローリー工場、Omega・モントリオール工場、SterRxにおける内製化・自社製造能力の拡充に向けた体制強化を進めている。また、日本向け製品の製造や、Sagent開発品の日本・東南アジア市場への導出に向けた取り組みを進めている。一方、米国市場への上市を目指して開発中のバイオシミラー、オーファンドラッグについては、承認申請が予定より遅れることが確実となり、今後の開発計画全体についてあらためて検討を行うこととなった。
当期においては、SterRxにおいて生産設備見直しによる工場の稼働停止があったものの、新型コロナウイルス関連製品の売上高が引き続き好調であったことや、カナダ市場での売上増加などにより、同10.4%増収となった。利益面では、SterRxにおける生産設備見直しによる工場の稼働停止や、主力品の販売単価下落などの影響から、前期と比べ赤字幅が拡大した。
2023年3月期会社計画
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2023年3月期会社予想は、事業再生ADR手続きを正式申請し、当該手続きの中で関係各社との協議を進める予定であることから、未定としている。
同社は2021年4月以降、富山第一工場において厳しい品質チェック等を行いながら、順に生産・出荷を再開しているが、一部の製造予定品目について出荷再開には至っていない。加えて、薬価改定による薬価引き下げや製造委託先での生産・出荷停止などに起因した製品売上の減少が続いている。主力工場である富山第一工場での製造品について、適正な生産体制・規模適正化を目的とし、製造再開に時間を要する製品の識別、同種同効成分製剤への統合、改善措置を図る製品の整理などの施策を実施している。2022年3月期には、今後廃棄となる可能性が高いとみられる原材料や仕掛品について評価損を計上し、開発投資の見直しとそれに伴う海外子会社ののれん減損、および国内固定資産の減損処理を行った。
改善対応策
事業面では、今後富山第一工場製造品の生産・出荷を順次再開させるとともに、引き続きグループ全体での生産体制の最適化を進め、収益力改善に取り組む。全社レベルでの経費削減や物流コストの抑制、在庫・仕入れ管理の徹底により、キャッシュ・フローの改善に向けた施策を講じている。さらに、国内・海外生産拠点の最適化による工場稼働の効率化によるコスト低減など、構造改革の加速化に取り組む。
資金面では、金融機関等との財務制限条項に関連する事項および2022年3月返済期限の長期借入金の期限延長について、合意を得ている。今後事業を円滑に推進するためのプレDIPファイナンスを含め、事業再生ADRの手続きの中で関係各社との協議を進める。
富山第一工場の生産ロット数
2021年4月より続いている富山第一工場における製品供給体制の遅延については、同社は2021年4月より供給体制が立ち上がるとの想定でいた。製品毎に評価し、当局との相談を得て製造に着手し、試験もクリアした製品が出荷される流れであったが、当局との相談の時間軸が読めない面があった。結果として第1四半期は出荷に至らなかった部分が大きく、月平均約60ロットに留まった。当第2四半期については、2022年8月10日時点での会社予想は月平均約200ロットであったが、実績は同約90ロットに留まった。
2022年8月10日時点での会社予想では、第3四半期は同約240ロット、第4四半期は同約270ロットに増加する(2021年12月期の月間生産ロット数は約250~300ロットとなる)と同社は見込んでいた。しかし、当上半期末時点の会社予想では、リスク評価は全項目で完了しているが、各手順書および生産品目の確認に予定以上の時間を要しており、前回予想(2022年8月10日時点での予想)を下回る見込みであると変更している(具体的数値は非公表)。
尚、前回予想発表時には、2021年3月期の月間平均生産ロット数は約500ロットであったが、人員数に対して適正な生産量でなかったため、人員数に見合った生産ロットである月平均約250~300ロットに抑制し、生産ロットの適正化を図っているとしていた。製造部門の人員数は前期比ほぼ横ばいであるが、品質管理の人員は前期比58%増、品質保証は同43%増、品質保証部は同26%増となる増員を実施したとしていた。
オーソライズドジェネリック
2021年10月25日、サノフィ株式会社と同社との合弁会社である日医工サノフィ株式会社(2010年に設立;解散前の出資比率はサノフィが51%、同社が49%)を解散することに両社で合意した。日医工サノフィ株式会社が有するオーソライズドジェネリック(AG)品目(以下、参照)、その他品目について同社が製造販売承認を承継する契約を合わせて締結(製品供給はサノフィから受ける)。
日医工サノフィの設立当初の目的は、国内でオーソライズドジェネリックを軸として、ジェネリックの市場を拡大することであった。オーソライズドジェネリックを上市し、当初の目標ラインは達成し、市場が拡大し継続が可能と判断したため、合弁会社を解散したとのこと。これまでも国内での販売は同社が独占的に行っていたため、製造販売承認を承継するだけで、商品の供給には変更ない。
2021年12月追補品の上市予定
2021年12月10日に薬価収載された製品は、下表の通り、7成分17品目。デュロキセチンカプセル20mg/30mg「日医工 G」以外は、薬価収載後に発売開始となった。尚、デュロキセチンカプセル20mg/30mg「日医工 G」については、発売準備が整い次第、2022年1月の発売予定。下表のうち、ソリフェナシンコハク酸塩錠とソリフェナシンコハク酸塩OD錠はオーソライズドジェネリック(AG)。
2021年2月15日に承認を受けたものが、ソリフェナシンコハク酸塩錠、ソリフェナシンコハク酸塩OD錠、エスゾピクロン錠、デュロキセチンカプセル、パロノセトロン静注、ペメトレキセド点滴静注用。同年8月16日に承認を受けたものが、ジルムロ®配合OD錠、レベチラセタム錠、レベチラセタムドライシロップ。
バイオシミラーのパイプライン
ベバシズマブBS:日本において、海外データを用いて2020年にPMDA承認を申請。2022年の上市を同社は見込んでいる。主な対象疾患は大腸がん(国内市場規模は95,000百万円、出所:同社;BS参入メーカ数2社)
インフリキシマブBS:米国において、2020年に第III相臨床試験を完了し、Interchageability(「戦略と長中期見通し」の章の「バイオシミラーの海外展開」の段を参照)のデータを確保した。2023年にFDA申請を行う予定。原薬はAprogenオソン工場(FDA認定対応の準備中)、製剤化はSagentローリー工場(テックトランスファー中)で行う。
オーファンドラッグ
カモスタットメシル酸塩を対象成分とする希少疾患治療薬の第II相臨床試験(目標症例数260名;患者組み入れ予定数米国130名、欧州130名)を2021年9月に完了した。2022年3月期上半期末現在はデータのクリーニング作業を進めており、間もなくデータベースロックする見込み。ロック後は解析に回し、申請のデータ整理を行う。申請は2023年3月期第2四半期末までに行う予定であるとしている(ファーストトラック指定)。
SDGs宣言
同社グループは、サステナビリティ(持続可能性)が長期的な企業価値の向上に欠かせないとの認識のもと、2021年8月17日に、同社グループのSDGs宣言を行った。本業を通じてESG(環境、社会、ガバナンス)への取り組みを行うとともに、SDGsを推進し、製薬企業として「健康で豊かな社会の実現」に努めていく。
戦略と中長期見通し
戦略
同社の基本戦略は、シェアの拡大にある。政府が目標としているジェネリック普及率(2023年度末までに全都道府県ジェネリック普及率80%以上)達成以降も持続的成長が可能であると考えている。
政府の政策は、ジェネリックメーカーにとって、ジェネリック需要拡大を促す診療報酬改定を行う一方で、薬価制度改革における価格引き下げでジェネリックメーカーの収益性を押し下げるという「アメとムチ」の政策となっている。こうした政策によって収益性が悪化することで、安定供給体制をとることができなくなる下位メーカーが増加し、上位ジェネリックメーカーへの集約化に向かう可能性が高い。こうした中では、同社のようにシェアが高いほうが、販売政策などで主導的立場をとれるため、合従連衡が起こった時には有利に働くと考えている。また、収益性に関しては、規模の効果によって生産効率化も並行して行い改善させる計画である。
2000年2月に田村友一社長が就任して以来、同社は卸との関係強化でシェアを拡大させてきた。卸との関係を強化するために、これまでM&A(事業買収)を積極的に行ってきた。同時に、他社との事業提携を積極化させ、現在では、これらの事業提携の成果としてシェア拡大と品質向上、新製品の開発などに取り組んでいる。また、製造委託から内製化への転換を進めることにより、供給安定化と同時に採算向上を図りつつある。
具体的には、2010年の仏医薬品大手サノフィとの資本業務提携による日本で初のオーソライズドジェネリック(先発品メーカーが、特許満了前にその特許使用をジェネリックメーカーに許諾して発売するジェネリック)の販売、韓国Aprogen社、Binex社との資本業務提携によるバイオシミラー(バイオ医薬品の後続薬)の研究開発・製造などである。
さらに、2016年8月にジェネリック注射剤で米国市場9位のSagent社を買収し、事業領域の拡大と米国バイオシミラー市場へのプラットフォーム構築を計画している。2018年3月には、エーザイ株式会社(東証1部4523)と戦略提携およびエルメッド エーザイの株式譲渡の契約を締結し、今後、エーザイが進める領域エコシステムの構築に向けた協業、ならびにエーザイがインドバイザッグ工場を中心に推進する医薬品原薬(API)事業における提携を進めていく(後述)。2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。
こうしたアクションはすべて同社の事業戦略に基づくものである。以下は、田村友一社長が就任以来、同社が行ってきた9のM&Aと11の事業提携である。
世界ジェネリック医薬品メーカートップ10入りを目指す
同社の田村友一社長は、第7次中期経営計画「Obelisk」の公表時、「米国Sagent社買収により、同社の米国バイオシミラー開発のスピードアップ、製品ラインナップの拡充などを図り、少なくとも2020年までに世界ジェネリック医薬品メーカートップ10入りを達成させたい」と語っていた。2014年時点では、同社とSagent社の単純合算売上高は13億ドルとなり、15位のCiplaに次ぐ16位であった。
国内で承認・発売、承認・未発売の同社バイオシミラー
インフリキシマブBS
抗リウマチ薬レミケード(一般名:インフリキシマブ*)のバイオシミラーである「インフリキシマブBS」**の製造販売承認を、2017年9月、同社と同社の100%子会社であるヤクハン製薬株式会社が取得。同年11月に上市した(同社バイオシミラーとしての初の上市)。販売権許諾契約に基づき、インフリキシマブBS点滴静注用100mg「あゆみ」については、あゆみ製薬株式会社が販売している。
エタネルセプトBS
抗リウマチ薬エンブレル*(一般名:エタネルセプト)のバイオシミラーである「エタネルセプトBS」**の製造販売承認を共和薬品工業株式会社が2019年3月に取得(同社が継承)。2019年11月に発売を開始した(同社として発売開始2番目となるBS)。本剤は、共和薬品工業が製造し、同社が独占的に販売している。
ベバシズマブBS
抗悪性腫瘍剤アバスチン(一般名:ベバシズマブ)のバイオシミラー(ベバシズマブバイオシミラー*)をmAbxience Research,S.L.(マブサイエンス社、スペイン)から導入することを2020年1月に発表。mAbxience Research, S.L.と合意している国内独占販売契約に基づき、ベバシズマブバイオシミラー(標準品名:アバスチン®)の製造販売承認申請を2020年11月にPMDAに行った。2022年に上市を同社は見込んでいる。マブサイエンス社が欧州において実施した非小細胞肺癌(NSCLC)の第III相臨床試験データなどに加え、同社が国内で実施している臨床薬物動態(PK)試験データを併せて承認申請を行った。
バイオシミラーの海外展開
インフリキシマブBS
同社は、米国で抗リウマチ薬レミケード(一般名:インフリキシマブ)のバイオシミラーに関わる第Ⅲ相臨床試験(Phase3)(2016年10月に開始)を2020年に完了しInterchangeability*のデータを確保した。当初は、2021年の承認申請を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響によりテックトランスファーおよび韓国の提携工場のFDA認定対応が遅延したため、2023年にFDA承認申請を行う予定である。米国での臨床開発をSagent社主体に変更し、承認のスピードアップを図っている。
トラスツズマブBS
同社は抗がん剤ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)のバイオシミラーに関わる第I相臨床試験(Phase1)を米国で開始した。2020年3月期にグローバル第III相臨床試験(Phase3)を開始し、2022年3月期の承認取得を目指していた。しかし、承認に向けて開発を行っていたトラスツズマブBS(バイオシミラー)の第I相臨床試験終了時点で、今後の市場環境などを精査・検討した結果、当該製剤の開発を中止し、2020年1月、開発データを共同開発パートナーのAprogen Inc.に譲渡した。トラスツズマブBSから戦略的に撤退した。
米国市場
ジェネリック注射剤に強みを持つ同社子会社Sagent Pharmaceuticals, Inc.が、米国市場を担っている。米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保および注射剤領域におけるプレゼンスの確立を図るべく、2016年8月に買収。米国市場でのバイオシミラーの上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。
低分子ジェネリックについては自社工場(Omega・モントリオール工場、Sagentローリー工場;後段参照)において内製化を推進している。バイオシミラーについてはインフリキシマブBSのFDA申請に注力しながらも、ラインナップ拡充のためパイプライン候補品を選定中である。新規参入のオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)については、カモスタットメシル酸塩を対象成分とした第II相臨床試験を米国(患者組入れ予定数130名)と東欧(同130名)で行っている。2022年の申請を予定している。オーファンドラッグはPriority Reviewの指定も取得するため、米国においは独占販売権が7年間付与される。承認となれば収益寄与が大きいと同社は考えている。コンパウンド製剤については、着実にラインナップが増加しており、増産のための設備投資を行う。2022年3月期に15~20品目の上市を目指している。
新規領域への参入
Sagentは、2017年9月、ニューヨーク州に本社があるスターレックス(SterRX, LLC)*1社に25%の資本出資を行い、薬剤師が患者に合わせた既存品の薬剤濃度調整、添加剤の除去などの投与形態の変更を行った薬剤を販売するコンパウンド製剤事業*2にも参画している。
現在、開発を進めているバイオシミラー事業、さらにオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)についても開発を進め(上述)、段階的に結実させていく。
自社供給体制の構築
2019年3月、Sagentは、米国ノースカロライナ州ローリー(Raleigh)にあるFDA認定薬品工場(製造承認を受けた低分子医薬品およびバイオ医薬品の注射剤工場)に係る医薬品製造事業をXellia Pharmaceuticalsから取得した。製造能力は年間400万バイアル。工場面積6,000㎡。従業員約120名。バイオシミラーおよびジェネリック注射剤の製造を行う。また、バイオシミラー製品の凍結乾燥製剤の製造も可能。現在開発中のインフリキシマブBSを製造する予定であるほか、他社委託品の内製化も予定している。
Sagentの子会社であり、同社の海外子会社でもあるOmega Laboratories, Ltd.が、モントリオールに液剤の製造工場(カナダ向けに出荷するための工場)を有しており、当工場は米国向けにも出荷できるようFDA認定を取得した。同社によれば、Omegaモントリオール工場でジェネリック注射剤を、Sagent・Raleigh工場でバイオシミラー製剤を製造する製薬メーカーとしての体制を整えるとしている。
Sagentはこれまで外部パートナーに製造を委託していたが、自社供給体制の構築により、外部委託コストの削減や、安定供給の推進などが期待でき、米国での競争力強化が見込めるとしている。また、日医工の静岡工場にてオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の製造を行う予定である。更に、前述の通り、SterRxの資本出資により、コンパウンド製剤の製造手段も獲得している。
エーザイ株式会社との戦略提携
同社とエーザイ株式会社(東証1部4523)は、2018年3月28日、資本業務提携に関する戦略提携とエルメッド エーザイ(エーザイの完全子会社)*1の普通株式に関する株式譲渡について、契約を締結した。エーザイから日医工に対して、エルメッド エーザイの全株式を戦略提携の進捗に応じて段階的に譲渡した。両社はエーザイが進める領域エコシステムの構築に向けた協業、ならびにエーザイがインドのバイザッグ工場を中心に推進する医薬品原薬(API)事業における提携を行った。
エルメッド エーザイに対する同社の出資比率は、2018年4月20%、2018年10月33.4%、2019年10月100%となり、2019年3月期は同社の持分法適用会社であった。2019年4月に、同連結子会社(新社名「エルメッド株式会社」)となった*2。
API(Active Pharmaceutical Ingredient:医薬品有効成分)
エーザイのバイザック工場(インド)から、高い技術力と柔軟な価格対応を兼ね揃えた原薬調達を行うことが可能となった。エーザイの管理下に置かれた工場であるため、安定供給が期待できるのと同時に、価格面でも優位性がある。また、バイザック工場に対して、同社の新規製剤の製造を委託することも可能となった。
領域エコシステム
エーザイは、患者のTrue Needs(真のニーズ)を引き出す力、その解決策をDesign(デザイン)する力、臨床試験やリアルワールドデータなどのメディカルデータをもとにアウトカム(治療成果と経済性)やアクセス提案をする力などをコアとするプラットフォームを構築する。そのプラットフォームの上に様々なコンテンツを載せ、患者をはじめとする各ステークホルダーに、薬剤をはじめとする必要なソリューションを届ける領域エコシステムを拡充していく。広範なジェネリック医薬品などを有する同社がコンテンツ提供パートナーとして加わり、認知症・肝臓病の領域*3をはじめとする領域エコシステムの拡充および地域医療における患者貢献の拡大に寄与することとなる。同社においては、地域包括ケアをはじめとする新たな市場への「開拓力」の強化となる。
ジェネリック統合
ジェネリック事業を統合することによって、ラインナップの充実とシェア上昇と同時に、業務効率化や生産効率化がもたらされると考えられる。
武田テバファーマが保有するジェネリック医薬品と高山工場に係る事業の譲受
2021年2月1日には、グループ生産体制の最適化および品質管理体制の強化を主目的として、武田テバファーマ社から、日医工岐阜工場株式会社の全株式を取得し連結子会社とした。経緯は、以下の通り。
同社は、2020年7月30日、テバ・ファーマスーティカル・インダストリーズ社(本社:イスラエル)、武田薬品工業株式会社(東証1部、4502)および武田テバファーマ株式会社(以下、武田テバ)との間で、以下の合意に至った。
同社は、武田テバが保有するジェネリック医薬品および高山工場*に係る事業を譲り受けることを目的として新たに設立される株式会社の全株式を取得し、同社の子会社とした(株式譲渡実行日:2021年2月1日)。
買収の目的は、①内製化などによるグループ生産体制の最適化(原薬の統一、日医工・エルメッド・武田テバでの重複品目の見直し、特殊製剤の内製化、生産体制の適正化)と、②品質体制の強化(武田テバのグローバル品質管理体制、人材・ノウハウの獲得、品質管理600名体制の実現、受託事業から得られる外部ノウハウ)。
持続的成長(国内)
政府目標である2020年9月「後発医薬品使用割合80%」が到来した*。同社は、以下のリスクと機会を勘案し、今後(ポスト80%時代)も売上収益の持続的成長が可能であると考えている。収益性を向上させるために、自社グループ工場への内製化や岐阜工場での特殊剤形の受託についても積極的に取り組む。
リスク
薬価改定
従来概ね2年に1度であった薬価改定が2020年以降は毎年実施される予定である。後発医薬品業界において一層の収益力強化が求められる状況となっている。一方、薬価改定による同社薬価(平均)へのインパクトは、2018年4月が前回比12.6%減、2019年10月が同7.6%減、2020年4月が同3.1%減、2021年4月は同9.4%減であった。
後発医薬品使用促進のインセンティブの減少
目標達成時期(2020年9月)を迎えた*。
機会
大型先発薬の特許切れ
2021年3月期~2023年3月期に、大型先発薬の特許切れが続く(下枠囲み内参照)。同社が製造販売承認を取得あるいは今後取得予定のジェネリックに対応する先発薬の市場規模(薬価ベース)は、2021年3月期440,000百万円、2022年3月期220,000百万円、2023年3月期290,000百万円と同社は試算している(注:プレガバリンを含まない)。
参入社数の減少
従前は1成分に20~30社が参入していた時代があったが、先発医薬品メーカーがジェネリック事業から撤退し、後発品メーカーも単独では製造が困難となるような市場環境を背景に、最近では後発品への参入社数が減少している。エルデカルシトール(エディロール)*1の製造販売承認取得企業は、同社と沢井製薬株式会社(東証1部、4555)の2社であり、ピルフェニドン錠(ピレスパ錠)*2では同社のみである。参入社数減少に伴い、価格競争は緩和の方向へ。
オーソライズド・ジェネリック(AG)のラインナップ拡充
2020年12月発売のプソフェキAG(ディレグラ®配合錠)、 ロレアスAG(コンプラピン®配合錠)の2品目をラインナップに加え、同社のAGは2021年3月期末現在、合計で5品目となった。今後も市場でのAG販売の実績を積み上げ、ラインナップの拡充に努めるとしている。
フォーミュラリーの普及
地域型や医療機関型のフォーミュラリー(患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用における指針)が普及すると、実績や価格において信頼があり一定規模の供給体制を持つ製薬メーカーがリストに入り易くなると同社は考えている。また、同じ有効性を安価な製剤によって実現していくという趣旨の中で、ジェネリック製剤を選択する際の指針に関する各地域の医療機関関係者による合意形成において、上位ジェネリックメーカーは有意性を発揮できると同社は考えている。
ジェネリック医薬品数量シェアの地域差
政府は、ジェネリックの数量シェア(以下、普及率、2015年9月薬価調査で56.2%)を2020年9月までに80%とする方針を掲げていたが、2020年7~9月の実績は78.9%と若干未達に終わった(2020年10~12月79.4%;出所:ジェネリック製薬協会)。2021年4月、厚生労働省は新たな目標として、2023年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上とするとした。実際、数量シェアは最高の沖縄県と最低の徳島県では10%ポイント以上の地位差がある*3。同社は包括連携協定先の自治体と、医療費の伸びの適正化のためのジェネリック医薬品の啓発活動などを実施していく。
中期経営計画
第8次中期経営計画「Nexus∞」
概要
2019年5月13日に、同社は2022年3月期を最終年度とする第8次中期経営計画「Nexus∞」を発表した。
最終年度となる2022年3月期の数値目標などは、以下の通り。
海外収益:60,000百万円(2019年3月期実績35,515百万円)
※国内事業は薬価改定によって収益・利益が影響を受けることが避けられないため、海外収益の目標を掲げている
※米国におけるインターチェンジアビリティ(先発品に極めて近いことの証明を米国食品医薬品局から得る手続き)でのバイオシミラー承認および発売が大きなウェイトを占める(前章における「バイオシミラーの海外展開」の段を参照)
PMP(Profit Management Plan)8によるコスト削減:累計15,000百万円以上
配当性向:引き続き25%~30%の配当性向を維持(2019年3月期実績26.0%)
女性管理職比率:15%以上(同11.5%)
原薬複数化比率:自社製品の70%(同45%)
ネットD/Eレシオ:1.0倍程度を維持(同0.8倍)
研究開発費:2022年3月期末までの3年間で累計33,000百万円
設備投資:同19,000百万円
テーマは『無限大の連繋力で今を超える』とし、グローバル総合ジェネリックメーカーへの進化を図るとしている。
3つのシナジー(「領域/地域」・「コスト」・「人財」)を最大化し、4つの基本戦略(「事業領域のさらなる深化/進化」「徹底したオペレーション最適化の追求」「グローバル水準の品質確保、競争力強化」「ESG活動を基盤としたライフサイエンス企業の信頼確保」)に取り組む。
テーマ
テーマは『無限大の連繋力で今を超える』。シンボルとなるマーク(下図)は、第8次と無限大を表している。
同社グループと様々なビジネスパートナーと連携、拡大、成長する中で創出される3つのシナジー(「領域/地域」・「コスト」・「人財」)を最大化させていく。
上図のうち、一番大きな〇が「領域/地域」、左側の〇が「コスト」、右側の〇が「人財」を表している
無限大の交わり部分(色が薄くなっている部分)に、「患者とその家族」が位置する
「グローバル総合ジェネリックメーカー」への進化を図る。
外部環境と同社前提
政府目標である国内市場におけるジェネリック数量シェア80%は2021年3月期中に達成されると同社では想定している。
しかし、日本では、数量でシェア80%を超えても金額ベースではシェア50%程度(分母は後発品と後発品のある先発品の合計)に過ぎない。欧米では金額ベース、数量ベースともに高い比率でジェネリックへの置き換えが進んでいる。今後は国としても、経済効果が明確となる金額べ―スでの目標設定がされるであろうと同社は考えている。
開発力・生産能力を持つ競争力のあるジェネリック医薬品を、一定数量販売できるメーカーのみが、市場を支えていくと考えている。
最近の市場動向として、卸・薬局傘下のジェネリックメーカーの台頭、新薬メーカーによるオーソライズドジェネリック*の積極展開、異業種の医薬品業界の参入などが顕著になっている
グローバル総合ジェネリックメーカーへの進化
基本戦略
「事業領域のさらなる深化/進化」「徹底したオペレーション最適化の追求」「グローバル水準の品質確保、競争力強化」「ESG活動を基盤としたライフサイエンス企業の信頼確保」の4つ。
事業領域のさらなる深化/進化
特許期間が満了した医療用医薬品について、より広範な疾病領域や地域をカバーする。
患者とその家族の負担軽減および医療費削減に貢献するため、バイオシミラー、抗がん剤ジェネリックなどの製品ラインナップを拡充する
地域社会に貢献する包括的な支援・サービス提供体制(「地域包括ケアシステム」)への取り組みを促進する
医療用医薬品メーカーとして、患者とその家族のために、ビジネスパートナーとの戦略的提携を促進する
同社はエーザイ株式会社以外のビジネスパートナーとも戦略的提携を進めていきたいとしている。特に、「地域包括ケアシステム」については、ジェネリックメーカーだけでは成し遂げられない、そして、先発メーカーだけでも成し遂げられない部分があるということを、エーザイとの提携で強く感じたとのこと。可能であれば、他のビジネスパートナーとの提携も推進していきたいとのこと。
徹底したオペレーション最適化の追求
バリューチェーンにおける全てのオペレーションを最適化し、盤石な事業基盤を確立する。
患者とその家族のニーズ(生の声)へ迅速に応える製品開発・製品改良を行う
国内最大のジェネリックメーカーとしての調達力・生産力を活かした原価低減や製造内製化を促進する
エルメッドとの統合効果(前述)を追求する
エルメッドとの統合による重複品目があるため、薬価改定をチャンスと捉えて、製品の統一を進めていく。原薬調達や生産に加え、最終的には品目も統一することで、利益率を改善できるため、今後3年間で品目の統一を進めていくとのこと。
グローバル水準の品質確保、競争力強化
世界中の患者とその家族に「超品質(SR社注:同社独自の品質基準であり、高品質を超える信頼のある品質を超品質としている)」を安定的に届ける
Sagentの強みであるジェネリック注射剤に加えて、バイオシミラーの拡充、コンパウンドビジネスおよびオーファンドラッグの強化により、米国市場での事業規模を拡大させる
アジアにおける日医工ブランド製品の規模を拡大させる
世界各国の品質基準を満たすグローバルな開発体制を推進し、製品ラインナップを拡充させる
積極的なアライアンス提携などにより、新たなビジネス圏への展開を図る
現在、日本、米国、東南アジアで事業を展開しているが、それ以外の地域での事業展開も目指す。バイオシミラー(インフリキシマブなど)についても、米国、東南アジアに加えて、それ以外の地域においてもグローバルに展開していきたいとのこと。
ESG活動を基盤としたライフサイエンス企業としての信頼確保
経営の健全性や透明性を維持し、社会的使命を果たすことで、患者を含むステークホルダーからの継続的な信頼を確保する。
健全な経営基盤を支えるガバナンス体制、コンプライアンス体制を堅持、向上させる
健康や生命に関わる製薬企業としての誇りを持ち、社会貢献活動に積極的に取り組む
社会的責務の1つとして、事業活動に伴う環境負荷の低減と改善に向けた取り組みを継続的に推進する
従業員の個々の強みや能力を最大限に生かす多様な成長の機会を従業員に提供しつつ、従業員の柔軟な働き方を促進することで、働きやすい環境づくりに努める
製薬企業だからこそできる社会貢献を考え、実施していきたいとのこと。
事業内容
概要
同社は、後発医薬品(以下、ジェネリック)の国内トップメーカーである。ジェネリック(2021年3月期連結売上高構成比75%;IFRSベース)、長期収載品(新薬上市から長期間経過した特許終了後の医薬品、同4%)を、主に医薬品卸売企業(医薬品卸)への販売を通して国内の医療機関に供給している。また、2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保と注射剤領域におけるプレゼンス確立を図るために、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を完全子会社化した(2021年3月期連結売上高構成比19%)。米国市場でのバイオシミラー上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。
薬効分類別の売上高構成比(2021年3月期)は、循環器官用薬が19%、血液・体液用薬18%、神経系用薬が12%、消化器官用薬が11%となっており、多くの薬効分類を取り扱っている。全国平均と比較すれば、血液・体液用薬と循環器官用薬の比率が高い。
*FY3/12は決算期変更により4カ月決算
ジェネリックとは
ジェネリック(後発品)とは、最初に開発された医薬品である新薬(以下、先発品)と同じ有効成分が同じ分量で含まれた医療用医薬品である。承認を得るためには先発品と品質及び有効性が同等であることを検証する生物学的同等性試験を実施することが必要となる。先発品と比較すると承認審査期間は短く、低コストで開発できることから、医療機関での患者自己負担を軽減することが可能(2010年発表の医薬産業政策研究所の資料によれば、新薬1品目あたりの開発コストは資本コスト10%の場合、自社品目で48,400百万円だが、同社によればジェネリックの開発コストは50百万~100百万円)となっている。
国内事業
開発体制
2009年6月に同社グループにおける開発部門を日医工開発本部に統合し、超品質*1かつ高い利便性を求めて、迅速で時宜を得た開発体制を整えている。超品質を確保するためには開発段階から製造工程を考慮した製剤開発が必要不可欠となるため、治験薬生産用の製造設備を備えた製剤開発センターを2006年に建設している。また、開発・品質管理・製造を一体として管理するための施設としてグローバル開発品質管理センター「Honeycomb棟」を2011年に建設し、原薬の選定から製剤設計・製造工程・品質管理における拠点としている。更に、経営企画本部内のバイオシミラー開発部は、関連部署と一体的な運営を行いバイオシミラー開発のスピードアップ化を図るなど、製品開発や海外業務展開における連携迅速化を行う体制を整えている。
生産体制
同社は、増加する後発医薬品需要に備え、2010年に竣工した富山第一工場「Pentagon棟」の隣接地に、新たに「Pyramid棟」を建設し、2013年4月から稼動している。愛知工場に建設した凍結乾燥注射製剤の製造ラインは、同じく2013年4月から稼動している。
また、2012年3月にヤクハン製薬株式会社を株式取得により子会社化し、さらに、2014年4月にアステラス製薬株式会社の生産子会社であるアステラス ファーマ テック株式会社の富士工場を会社分割方式により承継し、同社の連結子会社「日医工ファーマテック株式会社」として事業を開始した。その後、日医工ファーマテック株式会社は、2017年10月1日に、同社を存続会社として吸収合併した。この合併により、一 層の生産効率の向上を図り、コスト競争力と安定供給の強化に取り組んでいる。
今後のジェネリック医薬品需要拡大を見据え、富山第一工場内に新製造棟「Obelisk棟」を建設し、2018年1月より製造を開始している。それにより、2019年3月期までに185億錠の供給体制を確立する同社の目標の達成の目途を付けた。2021年2月には、武田テバファーマが保有するジェネリック医薬品と高山工場に係る事業を譲受した*2。
国内グループの富山、愛知、山形、埼玉、北海道、静岡の各工場では、剤形別製造機能の集約化を図り、効率的な設備投資を行うと共に、生産能力の向上も併せて実施し、市場拡大に対応できる生産体制を構築している。
国内工場と主要生産品目
営業体制
同社グループの医薬品は、約13万軒の医療機関で採用されている。約300名のMR*2による情報提供あるいは情報収集活動を行っている。また、医療機関などからの問い合わせに対応するお客様サポートセンターや、同社ウェブサイトでの製品情報の充実、安全性情報の迅速な伝達など、情報提供支援体制を強化している。更に、2015年4月に『医療従事者のための「がん治療情報サイト」ONCOLOGY MedNavi』を開設し、がんに立ち向かう全ての人々をサポートできるような情報と医療現場のニーズに合った製品情報を提供している。
全国への流通においては、受注当日中の出荷を基本とする4箇所の物流センターを備えている。医薬品卸の全国ネットワークを通じて安定的な納入体制を構築するとともに、医療機関の購入ニーズに柔軟に対応できるよう販売展開している。
海外事業
2016年8月、米国市場における医薬品市場参入のプラットフォームの確保および注射剤領域におけるプレゼンスの確立を図るべく、Sagent Pharmaceuticals, Inc.を株式取得により完全子会社化した。米国市場でのバイオシミラー上市および製剤の日米相互の市場での上市などの具体化作業を進めている。東南アジア市場においては、Nichi-Iko(Thailand)Co.,Ltd.を通じて上市品目拡充を図り、業容拡大に努めている(米国市場については「戦略」の章の「米国市場」も参照)。
海外の生産拠点
安定供給体制の確立
医薬品の安定供給という社会的責任を果たすために、原薬調達から製造までのサプライチェーンの強化は重要な経営課題であると同社は認識している。2019年初頭に発生した、臨床現場において基礎的で不可欠な抗菌薬であるセファゾリンの欠品問題の解決に全力を尽くし、安定供給のための万全な体制の構築に取り組んでいる。具体的には、原薬調達の複数化、静岡工場を含む複数製造所による製剤生産体制を確立した。また、出発物質(TAAなど)の海外製造所との連携などを図っている。
ジェネリック業界分析のポイントと同社の差別化要素
同社の業績は、日本基準において、1998年11月期以降、決算期変更のあった2012年3月期を除いて、2018年3月期まで20期連続増収となっている。IFRS採用後も2020年3月期まで3期連続増収を達成している。
営業利益(日本基準)に関しては、決算期変更の影響のあった2012年3月期と、研究開発費増加などによって減益となった2014年3月期を除けば、2016年3月期までは増益基調が続いた。その後、薬価改定に伴う収益環境の悪化、Sagent社買収とバイオシミラー研究開発費などの先行投資負担に伴い、日本基準においては、2017年3月期、2018年3月期と2期連続の営業減益となった。IFRS採用後は2018年3月期に営業増益を達成したものの、2019年3月期以降は、先行投資負担やSagentにおける減損損失の計上などにより、2021年3月期にかけて3期連続の営業減益となった。
*FY3/12は決算期変更により4カ月決算
SR社では、ジェネリック業界分析のポイントを以下の4点と考えている。
上市品目数の増加とジェネリック普及率上昇による販売数量増
同社の事業モデルは、先発品の特許が切れたタイミングでジェネリックを上市(追補品収載)させ、毎年品目数を増加させることによって、売上高を拡大させることである。同社は毎年約30~40品目の追補品収載を行っており、2020年12月時点における同社の販売品目数は1,229品目となっている。2019年4月に同社の子会社となったエルメッド株式会社の同品目数は187品目であった。
*FY3/12は決算期変更により4カ月決算。FY3/18~IFRS基準を適用
同社の差別化要素:上市品目数が最も多い
同社によれば、同社はジェネリックメーカー大手を含めた国内製薬企業の中で最も上市品目数が多い(下図参照)。1社の上市品目数が多いことは、1社に対する発注で済むことが多くなるため、結果的に医療機関・調剤薬局などのユーザーにとって取引メーカーの集約化を進めやすくなる。また、医薬品卸が在庫管理を効率化させ、医療機関・薬局においてもジェネリックの使いやすさと安心感にもつながる。こうした使いやすさと安心感が、これまでの同社の1品目当たりの数量増、すなわち1品目当たりの売上高増加の要因にもつながっている。
薬価制度改革と薬価改定による販売価格下落
一般的にジェネリックメーカーの売上高総利益率は行政主導による価格引き下げと制度改定の影響などによって低下傾向にある。行政主導による薬価制度改革と薬価改定に関しては、2020年4月までは2年に1回の頻度で改正が実施されていたが、2021年4月以降は「中間年」を含めて毎年行う。但し、中間年の改訂では、従来のように保険適用されている全ての医薬品について改定を行う訳ではない。2021年4月は、薬価収載されている全医薬品の69%に当たり12,180品目(2020年9月の薬価調査で乖離率平均8.0%の0.625倍に当たる5.0%を超えた品目)が改定の対象となった。このうち、長期収載品では1,490品目のうち88%が、後発医薬品では8,200品目のうち83%が薬価改定の対象となった。
同社戦略:原薬メーカーからの調達価格引き下げ
同社によれば、ジェネリックの原料となる原薬のメーカーは、ジェネリックと同様に、先発品の特許切れとなるタイミングを見て各社が原薬開発に取り組んでおり、複数社が供給している。薬価制度改革などにより、同社の販売価格が下落したときは、こうした原薬メーカーに対して価格交渉を行うことで調達価格の引き下げが可能となっている。同社によれば、同社は他社よりも調達規模が大きいため、バイイングパワーによる交渉力は高い。前述のエーザイ株式会社との戦略提携を通じて、同社はエーザイのバイザッグ工場(インド)などから医薬品原薬を安定的に優位性のある価格で調達することが可能となる。