最近では、さらに踏み込んだ、インサイトの概念が導入されその重要性が増している。2017年1月に、米国調査研究機関評議会(CASRO:Council of American Survey Research Organizations)とマーケティングリサーチアソシエーションが合併し、インサイト協会(Insights Association)が設立された。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)の国際業界統計である「Global Market Research 2020」がその調査対象定義を拡大させ、新領域として「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」を加えたことで市場規模が一気に約2倍(世界市場調査売上高88,900百万ドル、2019年)になった。JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)によると、日本の市場調査売上高は2,291億円(2019年)程度であるが、国際業界統計の新基準に合わせその調査対象を広げるべく検討中とのことである。
同社のビジネスモデル(ソリューション全体)概要は、Business system diagram(次図表)として、クライアント(顧客企業法人など)、同社グループ、生活者(コンシューマー)間の相関図が示されている。同社グループは同社および連結子会社2社(パイルアップ社(BtoC事業)とセールスサポート社(BtoB事業))で構成されている。同社のクライアントは、BtoC事業ではメーカー企業をメインとした民間企業にシンクタンク、官公庁・省庁、大学、地方自治体、およびBtoB事業(セールスサポート)ではメーカー企業、IT・システム、サービス開発企業を含む。
同社はターゲット市場を、上記マーケティングリサーチ市場(2,291億円、2019年)に加え、PR市場(1,111億円、2020年、出所:日本パブリックリレーションズ協会)、およびインターネット広告市場(2兆2,290億円、同、出所:電通)のTAM(Total Addressable Market)である約2.5兆円としている。同社のメインターゲットである製造業が占める割合を40%とすると、同社がサービス提供可能であるSAM(Serviceable Available Market)は約1兆円となる。
世界のインサイト(旧マーケティングリサーチ)業界
調査対象定義の拡大
欧米のマーケティングリサーチ業界では、インサイトの概念が導入されその重要性が増している。2017年1月に、米国調査研究機関評議会(CASRO:Council of American Survey Research Organizations)とマーケティングリサーチアソシエーションが合併し、インサイト協会(Insights Association)が設立された。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)の国際業界統計である「Global Market Research 2020」がその調査対象定義を拡大させ、新領域として「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」を加えたことで市場規模が一気に約2倍(世界市場調査売上高88,900百万ドル、2019年)になった。JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)によると、日本の市場調査売上高は2,291億円(2019年)程度であるが、国際業界統計の新基準に合わせその調査対象を広げるべく検討中とのことである。
新領域(サブセグメント)の拡大
「Global Market Research 2020」では、過去10年以上に渡って「サブセグメント」として集計・推計されてきた、新たな市場調査業界の統計を作成することにした。データ分析企業や自動データ収集企業、コンサルティング・レポート提供企業などの企業が、市場調査業界と同様に様々なデータを収集・分析し、顧客にインサイトを提供することを業とする点で、同分類と見なされたことによる。背景には、伝統的に定義された市場調査業界の売上高規模が近年横ばいを続ける一方で、こうした新領域の市場は順調に拡大し、「伝統的な市場」に匹敵する規模となった。伝統的な市場と新領域を併せた世界インサイト市場規模は、88,900百万ドル(2019年)である。伝統的な世界市場調査市場規模46,470百万ドルに、新領域の市場規模43,430百万ドルが追加された。世界インサイト市場規模の54%を占める北米では、従来型市場リサーチ43%に対し、新領域のテクノロジー主導調査31%、レポーティング26%となっている。
同社の売上は全て国内売上である。同社独自で運営する生活者パネル「アイリサーチ(iResearch)」の登録者も全て、国内居住者である。同社のマーケティングリサーチ事業で競合する売上上位5社は全て海外にも生活者パネルを運営し、外国人対応調査員を揃え、海外売上を計上している。一方、同社の顧客のうち製造業が40%を占め、輸出比率の高い企業も少なくない。同社の経営資源が国内に限定されると、顧客の海外向け商品開発への参入機会を逸することになる。2014年6月、同社は中華人民共和国香港特別行政区にNeo Marketing Asia LIMITEDを開設したが、2021年2月、Neo Marketing Asia LIMITEDの清算を結了した。海外事業は政治的なリスクが高く、経営資源が限られる同社規模ではハードルが高すぎた。同社も長期的には、欧米や東南アジアへの進出を視野に置いているが、中期的には経営資源の全てを国内(特に地方都市)の顧客開拓に集中することにしている。
要約
事業概要
株式会社ネオマーケティング(以下、同社)は、「生活者起点(一般消費者目線)のマーケティング支援」を目的とする、独立系のマーケティング支援会社である。同社は、マーケティングリサーチからプロモーション・ブランディングなどのマーケティング支援に関わるサービスを全て内製化し、中堅企業や地方の優良企業を中心に法人顧客(製造業4割、非製造業6割)にワンストップで提供している。
同社は、インサイトドリブン(個別ヒアリングなどによる定性調査、案件契約、顧客単価300~800万円)やカスタマードリブン(インターネットによる定量調査、案件契約、同40~70万円)といったマーケティングサービスによって、顧客企業の商品やサービスの開発および販売を支援する。商品やサービスが上市された後は、デジタルマーケティング(ECサイトの構築・集客・運用の代行など、月額50~200万円)やPR(広告・宣伝、案件契約、顧客単価200~500万円)でプロモーションし、カスタマーサクセス(運用サポートなど、月額50~100万円)によって消費者やエンドユーザーの顧客企業に対するロイヤリティを高めるよう支援する。
同社は、一連のマーケティングプロセス全般に亘って顧客企業に密着し、マーケティング活動を統合的に支援できる体制を構築している。新規顧客が毎年200~300社程度増加し続けており(2021年9月期実績279社)、累計約2,700社の取引実績がある。既存顧客を含めると、案件契約に至るアクティブ顧客数は毎年約900社で、顧客リピート率が80~90%(複数年)に達している。同社の売上高=マーケティングコンサルタント人員数(31人、2021年9月期)xコンサルタント1人当りの平均売上高(67百万円、同)=アクティブ顧客数(906社、同)x平均顧客単価(1.9百万円、同)の関係式が成り立つ。売上構成比(2021年9月期)は、カスタマードリブン43.0%、インサイトドリブン25.3%、デジタルマーケティング7.7%、その他24.0%である。その他には、PR2.6%、カスタマーサクセス13.5%、連結子会社2社(セールスサポート社、パイルアップ社)7.9%が含まれる。
同社の顧客は、メーカーのなかでもマーケティング予算を投じることができる、売上高100億~2,000億円規模の企業が多い。メーカーはナショナルブランドが多いが、セクターの3~4番手にありながら、より上を目指したいという企業のニーズを捉えている。今後は、人材リソース・ノウハウ不足などの理由から積極的にマーケティングに取組めなかった中堅企業や地方の優良企業にフォーカスし顧客を開拓にも注力していく。同社は上場(2021年4月21日)後の信用度・認知度向上により、中規模以上の顧客からも中規模以上の案件の引合いが増えている。同社は、大手コンサルや総合広告代理店とも一部で競合する。そうした競合企業が行うトップダウンアプローチ(既存ブランドやマスメディアへの露出増など)とは異なる、ボトムアップアプローチ(一般消費者目線のマーケティング支援)で差別化している。同社は「購買意欲の核心やツボ」(インサイト)を満たす商品およびサービス開発を、商品開発の初期段階(商品構想、基本設計)から顧客企業に入り込み支援している。
同社は顧客企業ごとにカスタマイズしたアンケートやヒアリング調査を年間3,000件以上実施している。同社は生活者パネル「アイリサーチ(iResearch):580,000人登録(2021年9月末時点)」を独自に運営しており、案件ごとに対象者を選別し調査票を送る。登録者は自宅に居ながら自身のPCやタブレット、スマートフォンを使用して、企業からのマーケティング上のタスク依頼に応えることで報酬(ポイントなど、1ポイント1円換算、平均報酬支払額450円/人・年)を得る。さらに同社は、提携会社とのパネル連携により、延べ24百万人超(2021年9月時点)の生活者パネルを活用することが可能となっている。同社は提携会社に対し、生活者パネルの情報取得ごとにパネル利用料を外注費として支払っている。
同社は、2019年9月期までは、売上高営業利益率とROEを主な経営指標としてきた。2020年9月期以降は、より高い成長性および収益性を確保する観点から、マーケティングコンサルタント人員数、顧客数、顧客単価をKPIとし重視している。同社の営業利益率は既に中期経営計画目標15%を上回る水準(16.6%、2021年9月期)に達してきており、同社としては売上高の拡大に、より一層の重点を置きたい考えである。同社は顧客との複数サービス契約(クロスセル)および案件単価増大(アップセル)を戦略的施策として掲げている。同社はマーケティングコンサルタント人員数増(主に新卒採用年数人、1~2年半かけて育成)と共に、同1人当りの売上高の増加により売上拡大を図る考えである。
同社の提供サービスは、フロー型(案件ごとの料金)とストック型(月額料金)に分かれる。ストック型は、デジタルマーケティング、カスタマーサクセス、セールスサポート社である。ストック型の売上構成比は26.7%を占める(2021年9月期)。フロー型は、カスタマードリブン、インサイトドリブン、PR、パイルアップ社である。フロー型(売上構成比76%、2021年9月期)は、案件ごとに契約し成果物納入で売上が発生する。通常、案件受注から成果物納品まで1週間から2~3か月かかる。同社はリピート率が80~90%と高く、単発で終わるフロー型というより、フロービジネスが途切れなく続く状況を実現しているといえる。
同社のコスト構造は、外注費が売上原価の約半分と大きなウェートを占めている。この中には生活者パネル提携企業への外注費が含まれる。売上原価の経費や販管費には、ポイント引当金繰入額、モニター手数料が約100百万円含まれている。販売促進費や広告宣伝費は大きな項目としては開示されていない。同社によると、新規顧客開拓のための飛び込み営業は殆どなく、大半がWebセミナーによる集客やHPからの問い合わせ、または既存顧客からの紹介によるものである。
業績動向
2021年9月期通期業績は、売上高1,829百万円(前期比28.1%増)、営業利益303百万円(同74.8%増)、経常利益287百万円(同65.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益206百万円(同76.6%増)であった。毎週開催するWebセミナーによる新規顧客の獲得やマーケティングコンサルタントの採用による商談数の増加などにより、取引者数が前年の781社から906社に16.0%増加し、増収増益となった。また、「マーケティングフレームワーク4K」の提案が進行し、複数サービスを利用した顧客数が増加したことから、顧客単価が前年の170万円から189万円に11.2%増加した。
2022年9月期通期の会社予想は、売上高2,200百円(前期比20.3%増)、営業利益350百万円(同15.3%増)、経常利益350百万円(同22.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益237百万円(同15.0%増)である。同社のメインの顧客層である製造業は、他業種と比べて新型コロナウイルス感染症拡大の影響が軽微であり、同社の業績への影響は限定的とみている。中長期的にウィズ・コロナ時代に適合していく過程で変化する生活者の意識や消費行動を捕捉する必要性があることから、マーケティングサービスの需要が喚起されると同社は考えている。第2四半期決算発表時点で、通期業績予想に変更はない。
同社の中期経営計画の数値目標(最終年度:2023年9月期)は、売上高3,000百万円(3年間のCAGR28.1%)、営業利益率15.0%(目安)としている。同社の中長期的な成長目標は、オーガニック成長でも売上高CAGR25%を継続できる前提で、マーケティングコンサルタントの増員計画(24人:2020年9月期⇒45人:2023年9月期)および同1人当り売上増強計画(59百万円:同⇒72百万円:同)を進めている。
同社の強みと弱み
SR社では、同社の強みとして、以下の3点があると考える。
顧客企業の開発初期段階からマーケティングを支援し、生活者の「購買意欲の核心やツボ」を見出し商品開発に活かす力
リピート率の高い(80~90%)安定顧客基盤
顧客ニーズに応じて最適なパネル構成を作れる、独自のマーケティングプラットフォーム(生活者パネル)
一方、同社の弱みとしては、以下の3点があると考える。
分業体制が十分でなく、組織的な受注拡大や納期短縮が容易ではないこと
輸出比率の高い製造業を多く顧客に持つ一方で、海外ビジネスに参入できていないこと
1~3月に収益が偏る季節性により、固定費を平準化できないこと
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
同社の顧客の過半が3月決算のため、同社の四半期売上は1~3月に集中する季節的傾向がある。2021年9月期における第2四半期(1~3月)実績の全体に占める割合は、売上高31.5%、営業利益は51.8%となった。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*2021年9月期以降の「その他」は子会社2社の実績、2020年9月期の「その他」にはカスタマーサクセス、PR、子会社2社の実績を含む。
2022年9月期第2四半期実績(2022年5月13日発表)
業績概要
2022年9月期第2四半期(2021年10月~2022年3月)累計実績
事業状況
2022年9月期第2四半期における状況は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長期化する中、新たな変異株による感染再拡大や、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫化による国際情勢不安の中、物価高や円安への懸念もあり、経済の見通しは依然として不透明な状況が続いている。同社のメインの顧客層である製造業は他業種と比較して新型コロナウイルス感染症の影響は軽微であり、現時点の経済活動状況を前提とすれば、同社業績への影響は限定的と同社はみている。
当第2四半期では、受注体制とサービス提供体制の拡充、ならびに新たなマーケティングサービスの拡充に向けた先行投資に注力した。新たなカスタマーサクセス起点として横浜オフィスを新設し、クライアント企業の商品やサービスを利用している顧客を、専任スタッフがきめ細かくサポートする体制を構築した。また、沖縄なはマーケティングラボにおいては、データ処理やコールセンターのサービス提供体制を拡充するための増床移転の準備など、さらなる受注体制の基盤整備に取り組んだ。
営業活動強化の取り組みにおいては、マーケティングコンサルタント職を中心に積極的な採用活動を実施し、中長期的な受注体制およびサービス提供体制拡充に向けた活動に注力した。また、サービス強化の取り組みとして、優良なコンテンツを制作し、顧客企業やブランドの効果的な訴求を支援するコンテンツマーケティングサービスと、AIを活用して顧客企業が保有するデータを分析して顧客の事業を支援するサービスを、事業譲受と子会社化により新たにグループに取り込んだ。
増収減益の背景
2022年9月期第2四半期累計の売上高は、前年同期比18.2%増となった。新規・既存顧客共に商談数が計画通り推移したことで、取引社数は543社(前年同期は490社)に増加した。また、4K施策が順調に推移し、リサーチ結果からデジタルマーケティング課題を抽出することができ、継続提案につなげられたことにより、クロスセルが伸長し、増収となった。
同社の事業の核となり、地方拠点展開のための人材の採用に伴い人件費が増加したこと、広告宣伝用の投資を行ったこと、M&A関連のアドバイザリーフィーを計上したことから、販管費は同42.1%増加し、売上高販管費率は32.8%(前年同期比5.5ポイント上昇)となった。営業利益は前年同期比26.8%減、営業利益率は15.3%(同9.5ポイント低下)となった。
サービス別売上概況
カスタマードリブン
収集されたデータを数値化し、顧客セグメントを明確化することによりマーケティング施策に生かせるアウトプットを出すサービス。マーケティングコンサルタントの増員により、顧客へのアプローチが進み、売上は堅調に推移した。
インサイトドリブン
「インタビュー」や「行動観察」により、無意識化に存在するインサイト(人を動かす隠れた心理)を発見し、製品やサービス開発に活用するサービス。当第2四半期では、商品開発案件について、新規・既存顧客ともに継続的に受託することができた。
デジタルマーケティング
パネルで収集したデータをもとに、Web広告に関する戦略立案から広告作成、運用、効果の検証まで一貫したコミュニケーション戦略を設計・実行する月額制のサービス。リサーチ結果からデジタルマーケティング課題を抽出することで、クロスセルが伸長した。
カスタマーサクセス
サブスクリプションモデルの課金ユーザー離脱防止など、顧客の「お客様」に長くサービスを利用されるようサポートするサービス。月額制となっており、案件の増加を受けて、組織体制を強化した。
PR
認知拡大・ブランディングが目的のPR支援サービス。
その他(子会社3社)
2022年9月期通期見通し
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年9月期通期会社予想
2022年9月期通期(2021年10月~2022年9月)の会社予想は、次の通りである。
同社のメインの顧客層である製造業は、他業種と比べて新型コロナウイルス感染症拡大の影響が軽微であり、同社の業績への影響は限定的とみている。中長期的には新型コロナウイルスとの共存・共生に適合していく過程で変化する生活者の意識や消費行動を捕捉する必要性があることから、マーケティングサービスの需要が喚起されると同社は考えている。第2四半期決算発表時点で、通期業績予想に変更はない。
複数サービスを利用するクロスセルにより既存の顧客単価を増やす方針のため、同社のマーケティングフレームワーク4Kの「カイタク」と「カイゼン」にあたるデジタルマーケティング、PR、カスタマーサクセスの構成比が増加する、と同社は見込んでいる。
売上高が前期比20.3%増加するのに対して営業利益が同15.3%増と伸び率を低く見込んでいるのは、人件費が同20%増加するとみているためである。新規顧客の開拓から案件の契約、およびプロジェクト案件管理などの役割を担い、顧客との窓口となるマーケティングコンサルタントを38名に増員(前期比7名増)する予定で順調に採用が進んでいる。人件費の増加は人員増のほか、社内外の研修を充実させて入社後短期間での戦略化を図るためで、「人材に対する先行投資」であると同社はコメントしている。
2022年1月、同社は株式会社ダリコーポレーション(非上場、以下、ダリ社)から、コンテンツマーケティング事業を譲受した。サードパーティーCookieの廃止*に伴い、Web広告手法の使用が制限されることへの対策が譲受の目的である。ダリ社は多くのライターを擁しており、良質な記事を配信することができることに加え、薬機法(薬事法)や景品表示法を遵守したコンテンツ制作や広告表現に長けている。同社はコンテンツ制作を内製化することで、独自のマーケティングフレームワーク「4K」における「カイタク」部門を強化する。
また、同年1月にはAIアルゴリズムの設計・実装およびソリューションの提供を行っている株式会社Zeroを100%子会社化した。同社の顧客にはたくさんのデータを保有しながら、有効活用できていない場合が少なくない。同社はAIシステム設計を自社グループ内で行い、販売予測や需要予測など、幅広いマーケティング支援が行えるようになる。
同社は顧客数拡大の施策の一つとして、国内の地方エリアに営業所を開設し、直接接点を持つことで、地方の優良企業との信頼関係を構築することを計画している。現在の大阪営業所と仙台営業所に加え、2022年9月期には那覇営業所、福岡営業所、札幌営業所を開設する予定で、各地方出身の営業所長候補の採用も進んでいる。同社によれば、地方営業所には基本的にマーケティングコンサルタントを1~2名配置し、顧客のオフィス内への併設などを計画しているため、大規模な設備投資を行う予定はない。
中期経営計画
数値目標
同社は中期経営計画を公表していないが、2023年9月期の売上高は3,000百万円(3年間のCAGR28.1%)、営業利益率は15.0%を目標としている、とSR社ではみている。
同社の中長期的な成長目標は、オーガニック成長でも売上高CAGR25%を継続できる前提でマーケティングコンサルタントの増員計画および同1人当り売上増強計画を進めている。マーケティングコンサルタント人員数は、24人(2020年9月期)から3年間で45人(2023年9月期)へ増員する予定である。コンサルタント1人当りの売上高は60百万円程度(同)から72百万円(同)への増加を見込んでいる。同社は2010年頃から毎年新卒を数人ずつ(現在6~8人)採用しており、1~2年半かけてOJTによる教育を行い、1人前のマーケティングコンサルタントに育て上げている。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
経営方針
同社は、以下の経営理念・ビジョン・アイデンティティ・事業コンセプトを策定し全従業員で共有している。
同社は、「人と企業の架け橋となる価値ある情報サービスを提供し、人々の生活向上と社会発展に貢献する」を経営理念に掲げ、会社を永続的に存在させ、顧客と社会に貢献出来る組織として成長し続けることを主題に置いている。顧客の課題を本質的に解決し、顧客の事業を成功に導くためのサービスを開発し続けることによって、世の中に良い商品や素晴らしいサービスが溢れ、企業は成功し、人々の生活が豊かになる社会を実現していくことを目指している。現代の成熟社会では商品やサービスを開発する際に優位な差別化が困難になっているが、顧客と共にイノベーションを共創できるよう新規事業開発を行っている。
経営戦略
同社は、クライアントのマーケティングプロセスを一気通貫でサポートできるサービス体制の強化と地方の優良企業の開拓を積極的に行っていくことを中期経営計画として掲げている。中期経営計画では、次の3つの活動に注力することを基本的な戦略としている。
①マーケティングコンサルタントの増加 :24人(2020年9月期)から3年間で45人(2023年9月期)
同社にとってマーケティングコンサルタントを安定的・継続的に採用し育成していくことが、顧客企業に手厚いサポートを実施できる体制を構築するうえで大きな課題となる。同社では、人材こそ最重要の経営リソースと位置付け、新卒・中途を問わず採用から教育、エンゲージメント向上まで一貫した施策を実行している。
②顧客数の増大 :アクティブ顧客781社(2020年9月期)、目標値は非開示(新規顧客開拓は年200~300社)
定期的なウェブセミナーを開催し参加者へのアプローチ、自主調査結果・ホワイトペーパーをダウンロードした見込客への提案、インサイドセールスの強化、*エボークトセット調査結果などの情報発信など集客施策を実施し、問い合わせや引き合いを増加させるとともに、顧客数の増大を図る。また、地方拠点の設置も視野に入れた営業活動により、優良な地方企業の開拓を積極的に行っている。
③顧客単価の増大:平均170万円(同)、目標値は非開示(クロスセル、アップセル戦略)
同社の戦略はマーケティングプロセスの開始地点である、生活者インサイトの発見において顧客企業と接点を持ち、取引がスタートした後は、商品開発やプロモーション・効果測定といった後に続く工程においても顧客企業と伴走し、顧客1社あたりの取引単価を最大化していくことにある。それを実現するために、同社の営業担当となるマーケティングコンサルタントがクライアントとの窓口となり、クライアントが抱えるマーケティング課題に対し、同社が独自に開発した「マーケティングフレームワーク4K」に基づいて最適な解決策を提案している。1人のマーケティングコンサルタントが複数のクライアントを担当し、クライアントごとに最適なマーケティング支援サービスを提案できることが強みである。同社は、マーケティングフレームワーク4Kの教育を徹底し、提案機会を創出することで取引量の増加を目指している。
財務上の課題
同社は、優先的に対処すべき財務上の課題として、資本コストを上回る高い自己資本利益率(ROE)の実現と、安定的かつ継続的な株主還元の充実を目指すため、以下のとおり重点的に対処している。
①収益性の向上
事業上の重点経営課題への取組みを積極的に推進する中で、必要な設備投資・システム投資については積極的に実施する一方で、全社を挙げて、合理化・効率化などによるコスト削減に取組み、収益性の向上を図っている。
②財務基盤の強化
売掛金の回収促進により必要運転資金の最小化を図るとともに、投資効率の更なる向上に努めることで資産効率を高め、財務基盤の強化を図っている。
事業内容
ビジネスモデルの概要
事業概要
消費者目線のマーケティング支援が特長
同社は、「生活者起点(=消費者目線)のマーケティング支援」を目的とする、独立系のマーケティング支援会社である。同社は、消費者およびユーザーの行動や思惑、それらの背景にある意識構造を見抜くことを目的としたマーケティングリサーチを行い、その調査・分析結果を顧客企業に提供する。さらに、同社はその分析結果によって得られる「購買意欲の核心やツボ」(*インサイト)を満たす商品およびサービス開発を、商品開発の初期段階(商品構想、基本設計)から顧客企業に入り込み支援している。同社はマーケティングリサーチからプロモーション・ブランディングなどのマーケティング支援に関わるサービスを全て内製化し、ワンストップで顧客企業に提供できることを特長としている。
マーケティングリサーチの定義
マーケティングリサーチおよび市場調査とは、マーケティングの一環として、消費者のニーズ・ウォンツをリサーチすること、またはその手法を指す。マーケティングリサーチと市場調査(マーケットリサーチ)は、考え方が異なっている。つまり市場調査は、これまでの商品・サービスの構造をデータで把握するもの(実態把握など)である。一方、マーケティングリサーチは、これからの商品・サービスの将来的構造を明らかにするもの(未来的なニーズ探索など)である。このように、考え方は異なるが、最近では、両方含んだ調査を行うケースが多いのも事実である。
市場動向(世界、国内)
最近では、さらに踏み込んだ、インサイトの概念が導入されその重要性が増している。2017年1月に、米国調査研究機関評議会(CASRO:Council of American Survey Research Organizations)とマーケティングリサーチアソシエーションが合併し、インサイト協会(Insights Association)が設立された。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)の国際業界統計である「Global Market Research 2020」がその調査対象定義を拡大させ、新領域として「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」を加えたことで市場規模が一気に約2倍(世界市場調査売上高88,900百万ドル、2019年)になった。JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)によると、日本の市場調査売上高は2,291億円(2019年)程度であるが、国際業界統計の新基準に合わせその調査対象を広げるべく検討中とのことである。
ターゲットとポジショニング(国内)
同社がターゲットとする市場規模は、日本の市場調査売上高2,291億円(JMRA、2019年)だけでなく、PR市場1,111億円(日本パブリックリレーションズ協会、2020年)およびインターネット広告市場2兆2,290億円(電通調べ、2020年)を加えた約2.5兆円としている。同社のメインターゲットである製造業が占める割合を40%とすると、約1兆円となる。この市場には、リサーチ会社、Web広告代理店、コンサルティング会社、総合広告代理店が参入している。同社は人材リソース・ノウハウ不足などの理由から積極的にマーケティングに取組めなかった中堅企業や地方の優良企業を開拓している。さらに中規模以上の顧客層においても、大手コンサルや総合広告代理店と一部競合するポイントが発生している。同社は生活者起点と一気通貫の内製化された自社サービス提供などによる差別化戦略が大手との競合に打ち勝つ肝であると考えている。
マーケティングプロセスと提供サービスを統合
同社は顧客企業のマーケティングプロセスを4つのプロセスに分けて考察し、提供サービスを統合し体系化している。具体的には、それぞれのプロセスごとに適切なマーケティング施策を、各サービスと対応するかたちで考案した、独自の「マーケティングフレームワーク4K」を定義し、それぞれのマーケティングプロセスにおいて必要なソリューションを取り揃えている。4Kとは、生活者インサイトの発見(カクシン)、商品開発(カイハツ)、販売促進(カイタク)、および各施策の改善(カイゼン)である。提供サービス(単体)は、*インサイトドリブン、*カスタマードリブン、*デジタルマーケティング、*PR、*カスタマーサクセス(*詳細は後述)がある。
その他サービス
連結子会社2社(株式会社セールスサポート、パイルアップ株式会社)がBtoBマーケティング支援サービスおよびクラウドソーシング(インターネットを介して不特定多数の人々に業務を委託するアウトソーシングの一種)をそれぞれ行っている。
*基礎データ
同社は特徴的な基礎データとして、次の6項目を挙げている。①20年以上のキャリア(社歴)、②年間プロジェクト実績:3,000件以上、③累計プロジェクト件数20千件超によるナレッジの蓄積、④取引社数:累計2,700社以上(2021年9月末時点)、⑤国内最大級パネル:24百万人以上(同、提携含む)、⑥ソリューションラインアップ:10種以上。*詳細は後述するKPIを参照。
ビジネスモデルの概要
Business system diagram:相関図
同社のビジネスモデル(ソリューション全体)概要は、Business system diagram(次図表)として、クライアント(顧客企業法人など)、同社グループ、生活者(コンシューマー)間の相関図が示されている。同社グループは同社および連結子会社2社(パイルアップ社(BtoC事業)とセールスサポート社(BtoB事業))で構成されている。同社のクライアントは、BtoC事業ではメーカー企業をメインとした民間企業にシンクタンク、官公庁・省庁、大学、地方自治体、およびBtoB事業(セールスサポート)ではメーカー企業、IT・システム、サービス開発企業を含む。
同社はマーケティングプラットフォーム(*生活者パネル、ソリューションパネル)を運営し、クライアントのマーケティング課題の相談に対するソリューション提供やデータを活用した商品開発、販売促進を行っている。クライアントは同社への業務依頼に対する対価として、広告・PR費用を同社に支払う。
パイルアップ社は、アイリサーチの中で特に協力的なモニターを選別し、個別インタビューを行うなどよりレアなターゲットを対象とする案件に対応するクラウドソーシング事業を行っている。セールスサポートはBtoBマーケティング支援システムである企業リスト収集ツール「Urizo」を運営し、クライアントにリストをSaaSで提供し、サブスク利用料を得ている。
マーケティングプラットフォーム:生活者パネル
生活者パネル「アイリサーチ」:独自のマーケティングプラットフォーム(登録者:58万人、2021年9月末時点)
一連のマーケティングプロセスの中で実施されるそれぞれの施策を、生活者起点で実行していることは同社の大きな特長の一つである。生活者起点とは「生活者にとって必要な商品やサービスとは」、「生活者にとって好ましいコミュニケーションとは」、「生活者にとって必要な情報とは」、といった視点を最重要視し、その視点をマーケティング戦略に反映していくことである。この「生活者起点のマーケティング支援」を実現するためのインフラとして独自のマーケティングプラットフォームを運営している。
同社独自で運営する生活者パネル「アイリサーチ(iResearch)」には58万人(2021年9月末時点)が登録しており、登録者は自宅に居ながら自身のPCやタブレット、スマートフォンを使用して企業からのマーケティング上のタスク依頼に応えることで報酬(ポイントなど、1ポイント1円換算)を得られる仕組みを同社は構築している。アイリサーチは全登録者における性別・年齢・居住地といった属性情報の比率が、インターネット人口における比率に近似することに配慮して構成された生活者パネルであり、属性の偏りを極力排除したパネル構成となるよう努めている。超巨大企業といえども、マーケティングリサーチを内製化して独自に行うことは、調査対象者の属性や意識に偏りが発生しやすく、独立系マーケティングリサーチ会社に調査を発注することが一般的である。
「SOLPANEL」:連結子会社パイルアップが運用するソリューションパネルでアイリサーチと連携
SOLPANEL(ソルパネ)とは、人を活用したプロモーションやマーケティングソリューションを提供するために同社が構築した会員組織で、およそ6,000人(2021年9月末現在)が登録している。「SOLPANEL」の運用はパイルアップ社が行い、アイリサーチと連携している。パイルアップ社は、アイリサーチの中で特に協力的なモニターを選別し、個別インタビューを行うなどのクラウドソーシング事業を行っている。SOLPANELの登録者は、商品購入体験、SNSでのシェア、飲食店への来店体験、広告・イベントへの出演依頼、ソルパネ限定アンケートなどのタスクを受取り、それらのタスクを達成するごとにアイリサーチのポイントが加算される仕組みとなっている。ソルパネ登録者の中には、同社のインサイトドリブンサービスに欠かせない*エクストリームユーザーが含まれている。同社によるとエクストリームユーザーの消費行動を詳細に分析することで、画期的な新商品や新サービス開発のヒントが得られるとのことである。
提携会社とのパネル連携:延べ2,400万人超(2021年9月末時点)の生活者パネル活用可能
同社は、提携会社とのパネル連携により、延べ24百万人以上(2021年9月末時点)の生活者パネルを活用することが可能となっている。同社は提携会社に対し、生活者パネルの情報取得ごとにパネル利用料を外注費として支払っている。生活者パネルは、アイリサーチのモニター会員属性の拡大版となっており、地域、年代、性別、未既婚、子供の有無、世帯収入、世帯構成、職業、業種、職種など幅広く多様な分野で、インターネット人口における比率に近似した分布となっている。
アイリサーチおよび生活者パネルは、同社独自の生活者起点のマーケティング支援事業を展開するうえで基礎となるサービスインフラとなっている。デモグラフィック情報(年齢、収入、職業)やジオグラフィック情報(住居、勤務地)を基にデータベースから案件ごとに必要となるマーケティング対象者を抽出できる点が特長である。例えば、埼玉県在住で年収500万円の男性看護師や、20~30代の既婚女性で世帯構成が夫婦と未婚の子供といった条件で対象者を抽出することが可能である。
同社は生活者パネルの情報を収集し分析することで得られるデータを基に、一連のマーケティングサービスを「マーケティングフレームワーク4K」に基づいて提供している。
マーケティングフレームワーク4K
同社は顧客企業のマーケティングプロセスを4つのプロセスに分けて考察したうえでサービスを提供している。マーケティングプロセスとは一般的に企業が市場調査を実施し、市場調査結果を基に商品を開発し、開発した商品を宣伝し、宣伝効果や、その結果もたらされた売上などの成果を検証していくという一連のプロセスのことを指す。それぞれのプロセスごとに適切なマーケティング施策を、各サービスと対応するかたちで考案した、独自の「マーケティングフレームワーク4K」を開発している。独自フレームワークを活用して顧客企業のマーケティングプロセス全般に渡って、一気通貫でサービス提供できることを特長としている。
「4K」とは、生活者インサイトの発見(カクシン)、商品開発(カイハツ)、販売促進(カイタク)、および各施策の改善(カイゼン)までを指す。顧客企業は、同社のインサイトドリブン(定性調査を核としたイノベーション創造マーケティング)やカスタマードリブン(定量調査を核とした顧客起点マーケティング)といったマーケティングサービスによって、商品やサービスを開発する。商品やサービスが市場に上市された後は、同社はデジタルマーケティングやPRでプロモーションし、カスタマーサクセスによって消費者やエンドユーザーの顧客企業に対するロイヤリティを高めるよう支援する。同社は、一連のマーケティングプロセス全般に渡って、顧客企業に密着し、マーケティング活動を統合的に支援できる体制を構築している。創業以来累計で約2,000社強の取引実績があるため、新規顧客からの売上に加えて、既存顧客に対するクロスセル(複数サービスの提供)・アップセル(案件単価増大)にも努めている。
提供サービス
*2021年9月期以降の「その他」は子会社2社の実績、2020年9月期の「その他」にはカスタマーサクセス、PR、子会社2社の実績を含む。
カスタマードリブン:定量調査を核とした生活者起点マーケティング(売上構成比43.0%、2021年9月期)、顧客単価帯は40万円~70万円
生活者パネルから収集した定量的データを数値化し分析する、定量調査を核とした生活者起点のマーケティングである。特長はマーケティング施策に実効性高く活用できるよう生活者を分類し(優良消費者・一般消費者・離反消費者・非購入者・非認知者)、消費者が商品やサービスを知ってから最終的に購買するまでの行動・思考・感情等(カスタマージャーニー)を解析することにより、生活者起点のプロモーション施策の戦略立案・実行後の検証までを顧客企業に提供できる点である。同社のサービスは何れも生活者の情報を収集し、生活者の理解をベースにマーケティング戦略を立案しているが、この定量調査を核としたサービスを特に「カスタマードリブン」と呼んでいる。当該サービスは同社の提供サービスのなかで、顧客数および売上高共に最も大きいウェートを占めるメインのサービスである。また、単価帯を低く抑えていることから、新規顧客が最初に契約するケースが多いエントリー的なサービスの位置付けとなっている。同社は当該サービスの顧客に対し、より単価が高い他のサービスに誘導し売上増につなげるクロスセルおよびアップセル戦略をとっている。
インサイトドリブン: 定性調査を核としたイノベーション創造マーケティング(同25.3%、同):顧客単価帯は300万円~800万円
生活者パネルの中から最適な対象者を抽出し、インタビューや行動観察(実際に商品を使用している姿の観察)を実施することで、数値では計測できない潜在的な意識を明らかにする。定性調査を核とした、生活者自身が気づいていない意識下に存在している人を動かす隠れた心理(インサイト)を発見するのに適したマーケティングサービスである。特徴的な事例としては、ユーザー自身も気づいていない本質的なニーズの発見やイノベーションを引き出すために、仮説や検証を重視する実験的思考法をベースとし、エクストリームユーザー(極端な消費者)の行動観察調査を実施する。これによりインサイトを発見し、発見したインサイトを起点に同社でアイデア・コンセプト、プロトタイプまで創り上げ顧客企業に提案をするといったものがある。
デジタルマーケティング(同7.7%、同):顧客単価帯は月額50万円~200万円
デジタルマーケティング戦略設計にあたり、生活者に対する理解をベースにWeb広告に関する戦略立案から作成、運用、効果検証まで一貫してデジタルを通じた生活者との対話を設計・実行するサービスである。同社のメイン顧客層である製造業にはD2C(自ら企画生産した製品を生活者にダイレクトに販売する手法)支援サービスとして、世界で最も利用されているECプラットフォームであるShopifyを利用し、顧客企業に代わって同社でECサイトの構築から集客・運用まで一気通貫で支援している。
PR(同2.6%、同):顧客単価帯は200万円~500万円
認知拡大・ブランディングを目的としたPR支援サービスである。特徴的な事例としては、エボークトセットを指標とし、顧客企業の目指すあるべきブランド像や世界観を、同社でメディアリリースを作成し、カスタマードリブンサービスによって明確化したターゲットに対して、ニュースや記事を通じて届けるといったものがある。
カスタマーサクセス(同13.5%、同):顧客単価帯は50万円~100万円
顧客企業の消費者やユーザーなどを成功させる為に、顧客企業が提供している商品やサービスの価値を最大限に引き出せるよう支援するサービスである。購入・契約後の消費者に様々な方法で働きかけ関与することにより、商品やサービスを使って消費者が実現したいことを支援する。解約率の低減、リピート率の向上、アップセル、好意的なクチコミの醸成といった、顧客企業が求める成果を実現するための戦略を立案し施策を実行するサービスである。沖縄県那覇市と沖縄県石垣市にカスタマーサクセスセンターの拠点を設けており、電話・メールによる顧客対応はもちろん、AIチャットボットの品質評価やサブスクリプションモデルの課金ユーザー離脱防止プログラムにも対応している。
BtoBマーケティング支援サービス(同5.5%、同):サービス単価帯は月額1万円弱~40万円弱(料金表)
連結子会社セールスサポートが累計導入企業数約50,000社の企業リスト収集ツール「Urizo」を提供し、企業間のマーケティング活動や営業活動の支援を行っている。顧客企業からは、他社と比べて使いやすい操作性、費用対効果、長期間のサービス提供による信頼感から支持されており、企業への新規アプローチやリード獲得を強力に支援する自社独自開発ツールである。「Urizo」は、ソフトウェアを提供する*SaaS型、月額課金のサブスクリプションモデル、法人顧客を対象としたBtoBのサービスモデルを特徴としている。(*SaaS型とは、従来のソフトウェアのようにパッケージとして販売するのではなく、ソフトウェアの機能をインターネット上でサービスとして提供する販売形態)。
クラウドソーシング(同2.4%、同)
人を活用したクラウドソーシングやマーケティングサポートを提供するために、同社が所有し、連結子会社パイルアップが運営する会員組織のプラットフォーム「SOLPANEL(ソルパネ)」(2021年9月末現在約6,000人)を利用して不特定多数の人に業務を依頼することができる仕組みを構築している。
KPI
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標など
同社は、上場に至るまでは、売上高営業利益率とROEを重要な経営指標としてきた。今後は、より高い成長性および収益性を確保する観点から、マーケティングコンサルタント人員数、顧客数、顧客単価を重要な経営指標かつKPIとしている。同社の営業利益率は既に中計目標15%を上回る水準(16.6%、2021年9月期実績)に達してきており、同社としては売上高の拡大に、より一層重点を置きたい考えである。同社の売上高=マーケティングコンサルタント人員数xコンサルタント1人当りの平均売上高=*アクティブ顧客数x平均顧客単価(*アクティブ顧客とは1年に1件以上の案件を契約した顧客)の関係式が成り立つ。
同社のKPIとして、商談数、新規顧客獲得数、顧客および案件の属性、契約率、リピート率、年間プロジェクト件数、クロスセル(複数サービスの提供)、アップセル(案件単価増大)、LTV、ストック型収益源、アイリサーチ登録者の年間平均稼働率、平均報酬支払額およびレンジ、CPA(顧客獲得コスト:新規顧客獲得にかけたモニターへの報酬支払額)、顧客の決算期分散度合い(3月決算が多いため、同社の四半期売上が第2四半期(1~3月)に偏重)などが挙げられる。
マーケティングコンサルタント人員数
同社のマーケティングコンサルタントは、新規顧客の開拓から案件の契約、およびプロジェクト案件管理までをこなす役割を担っている。2021年3月末の同社従業員数134人(正社員70人、臨時雇用者64人)のうち、マーケティングコンサルタントは正社員の半分の30数人を占め、他に専門コンサルタントが10人程揃っている。同社の中期経営計画では、マーケティングコンサルタント人員数を、24人(2020年9月末実績)、31人(2021年9月末実績)、38人(2022年9月末計画)、45人(2023年9月末計画)へと増員していく計画である。同社は2010年頃から毎年新卒を数人ずつ(現在6~8人)採用してきており、1~2年半かけてOJTによる教育を行い、1人前のマーケティングコンサルタントに育て上げている。専門コンサルタントは中途採用が中心である。同社によると、新規顧客開拓のための飛び込み営業は殆どなく、大半がWebセミナーによる集客やHPからの問い合わせ、または既存顧客からの紹介によるものである。
同社の売上高をマーケティングコンサルタント人員数で割った、一人当たり売上高をみると、59百万円(2020年9月期)、67百万円(2021年9月期)と増加傾向を示している。マーケティングコンサルタント一人当り、毎年平均7社~10社の新規顧客を獲得し、既存顧客も加えると20数社程度の顧客を担当している。同社は顧客との複数サービス契約(クロスセル)および案件単価増大(アップセル)を戦略的施策として掲げており、マーケティングコンサルタント一人当りの売上高の増加は、それらの戦略の成果を前提とするものである。
顧客数
同社は、新規顧客が毎年200~300社程度増加し続けており(2021年9月期実績は279社、うち複数サービス利用顧客数154社)、累計約2,700社強の取引実績がある。同社によると案件契約に至るアクティブな顧客数は毎年700社程度とのことである。2021年9月期のアクティブ顧客数は906社で、平均顧客単価は189万円であった。なお、同社の年間プロジェクト実績が3,000件以上であるので、1顧客当りの平均プロジェクト件数は数件(4~5件)程度と算出できる。
顧客および案件の属性
同社の顧客の業態は、製造業が約4割、非製造業が約6割を占めている。BtoC事業ではメーカー企業をメインとした民間企業にシンクタンク、官公庁・省庁、大学、地方自治体、およびBtoB事業(セールスサポート社)ではメーカー企業、IT・システム、サービス開発企業を含む。同社の顧客上位10社合計売上高は総売上高の数%程度で、いい意味では顧客分散が進んでおり、悪い意味では深く食い込めていないともいえる。
同社顧客には、大手電機メーカー(パナソニック(東証1部、6752)、富士通(同、6702)、NEC(同、6701)、キヤノン(同、7751)、京セラ(同、6971)、他)や大手ビールメーカー(キリンホールディングス(同、2503)、アサヒグループホールディングス(同、2502)、サントリー(非上場))などのトップブランドが名を連ねている。但し、これらの大企業には自社ブランド順位があり、トップブランドは電通(同、4324)や博報堂(同、2433)など総合広告代理店の牙城であり、同社はセカンドブランドやサードブランドが主戦場となっている。
同社によると上場後は知名度や信用度が増したことで、案件単価が高いコンペにも参加できるケースが増えてきたとのことである。同社は中規模以上の顧客層において、大手コンサルや総合広告代理店と一部競合するポイントが発生している。同社は生活者起点と一気通貫の内製化された自社サービス提供などによる差別化戦略が大手との競合に打ち勝つ肝であると考えている。
リピート率、LTV、ストック型収益源
同社によると同社顧客のリピート率(複数年)は80~90%程度で、同社の顧客満足度が高いため、比較的高いリピート率に繋がっているとのことである。同社の顧客アンケートによると、同社を選ぶ理由として、①問合せに対するレスポンスの速さ(即日回答)、②顧客目線での対応、③リーズナブルな料金体系、④一気通貫のサービス体制、などが挙げられている。契約年の翌年にリピート契約しなかった顧客についても、顧客の新商品・サービス開発が数年(2~3年)サイクルで進む度に、同社に再発注されるケースが多いとのことである。
高いリピート率は顧客の囲い込みに成功していることを意味している。同社の一気通貫の内製化された自社サービスの提供が、顧客にとっては同社に発注する上で安心材料となっている。競合する総合広告代理店や大手コンサル企業などは外注するケースも多く、細かな顧客ニーズへの対応やスピード、柔軟性において欠ける点も少なくない。同社としてはお得意様(リピート率の高い顧客)を増やすことが、LTVを増やすこと、およびストック型収益源(デジタルマーケティング、カスタマーサクセス)の確保に繋がることになる。
顧客単価
同社の主要サービスごとの顧客単価帯は、次の通りである。インサイトドリブン(300~800万円)、カスタマードリブン(40~70万円)、デジタルマーケティング(月額50~200万円)、PR(200~500万円)、カスタマーサクセス(月額50~100万円)。カスタマードリブンサービスは同社の提供サービスのなかで、顧客数および売上高共に最も大きいウェートを占めるメインのサービスである。また、サービス単価を低く抑えていることから、新規顧客が最初に契約するケースが多いエントリー的なサービスの位置付けとなっている。同社は当該サービスの顧客に対し、より単価が高い他のサービスに誘導し売上増につなげるクロスセルおよびアップセル戦略をとっている。2021年9月期のアクティブ顧客数は906社で、平均顧客単価は189万円であった。
商談件数、契約率
同社は管理指標として、月次の商談件数(新規、既存顧客)を重視している。商談が順調に進むと2か月後位に受注に繋がるケースが多いからである。月次の商談件数は、顧客および案件の属性、地域、業態、季節、マーケティングコンサルタントごとに細かく把握されている。同社は人材リソース・ノウハウ不足などの理由から積極的にマーケティングに取組めなかった中堅企業や地方の優良企業を開拓している。これらのターゲットは比較的競争が少なく、特に地方都市に拠点を設置することで、ローカル企業との新規契約率が高まっているとのことである。商談に関しては新規商談件数と同時に、既存顧客商談件数および商談の質、コストなども重要な指標である。マーケティングコンサルタントはベテランから新卒まで能力に差があり、新卒が独り立ちするのに1~2年半くらいかかるとのことである。
アイリサーチ登録者の年間平均稼働率、平均報酬支払額およびレンジ
同社によると、アイリサーチ登録者58万人のうち、年間平均稼働率(1年間に1回以上モニター調査に協力した人数の割合)は約27万5千人であり、年間報酬支払額(アイリサーチへのポイント計上額、提携先への外注費を含む)は120百万円程度とのことである。単純に120百万円を27万5千人で割ると、年間平均報酬支払額は1人当り450円(450ポイント)程度となる。但し、登録者の得る年間平均報酬額のレンジは幅広く、個別インタビューや各種タスクなどこなすヘビーモニターの中には数万ポイント稼ぐ人もいるとのことである。同社はバイアスが掛かったり極端に恣意的な回答をするモニターは除外するように管理している。同社によるとアンケートの回収率は平均50%~60%程度とのことである。
CPA(新規顧客獲得コスト)
同社のコスト構造は、外注費が売上原価の49%(2020年9月期、単独)と大きなウェートを占めている。この中には生活者パネル提携企業への外注費が含まれる。売上原価の経費や販管費には、ポイント引当金繰入額、モニター手数料が100百円弱(同)含まれている。2020年9月期における顧客獲得のための広告宣伝費は約18百万円となっている。単純に顧客獲得のための広告宣伝費18百万円を年間新規顧客獲得数225社(2020年9月期)で割ると、新規顧客1社を獲得するコスト(CPA)が8万円程度と算出される。すなわち、同社は新規顧客1社当り平均8万円のコストで170万円の売上を計上している構図となる。
顧客の決算期分散度合い
同社の顧客の過半が3月決算のため、同社の四半期売上が第2四半期(1~3月)に集中する季節的傾向がある。2021年9月期では、第2四半期(1~3月)の売上比率は31.5%、営業利益比率は51.8%であった。同社によると、案件を受注してから成果物の納品までの納期は1週間から2~3か月である。マーケティングコンサルタントや専門コンサルタントの人員増には時間やコストがかかり、かつ年間稼働率の点でむやみに増員するのは得策ではない。同社ではアンケート結果の集計や分析をAIなどで機械化を進めているが、記述式コメントの分析など人が見て判断する部分が10%から15%程度は残っており、受注増や納期短縮は容易ではない。同社は、マーケティングプロセスの下流に位置するデジタルマーケティングやカスタマーサクセス等のフロー型の売上構成を上げていくことによって季節性の改善につながると考えている。
取引先企業
同社は、新規顧客が毎年200~300社程度増加し続けており(2021年9月期実績は279社、うち複数サービス利用顧客数154社)、累計約2,700社の取引実績がある。同社によると案件契約に至るアクティブな顧客数は毎年700社程度とのことである。同社の顧客の業態は、製造業が4割程度、非製造業が6割程度を占める。BtoC事業ではメーカー企業をメインとした民間企業にシンクタンク、官公庁・省庁、大学、地方自治体、およびBtoB事業(セールスサポート社)ではメーカー企業、IT・システム、サービス開発企業を含む。製造業では、食品や飲料、化粧品、家電といった日用品や消費財のメーカーが最も多い。例えば家電量販店やスーパー、コンビニで見掛ける物は大体取り扱っていると考えてよい。
業種的には、日用品ではプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble Corporation、NYSE、PG)や花王株式会社(東証1部、4452)、ライオン株式会社(同、4912)、家電であればパナソニック株式会社(同、6752)やソニー株式会社(同、6758)グループ、化粧品では株式会社資生堂(同、4911)や株式会社コーセー(同、4922)、飲料ではアサヒグループホールディングス株式会社(同、2502)やサントリーホールディングス株式会社(非上場)、キリンホールディングス株式会社(同、2503)といったゾーンに分かれる。
同社顧客の規模はメーカーのなかでもマーケティング予算を投じることができる会社で、売上高100億~2,000億円の会社が多い。ナショナルブランドが多いが、セクターの3~4番手だがより上を目指したいという企業や、地方にも多い優良な製造業のマーケティングも支援したいと同社は考えている。同社の顧客上位10社合計売上高は総売上高の数%程度で顧客分散が進んでおり、さらに4Kを推進しクロスセル・アップセルを仕掛けることで将来の売上増につながる大きな伸びしろを有している。
ユーザー事例
同社はホームページ上で顧客インタビューによる事例(9社)を紹介し、支援内容や同社のどこが評価されているかなどを公開している。9社の業態は、全て民間企業(製造業6社、非製造業3社)である。9件の事例のうち、6件がカスタマードリブン、4件がインサイトドリブン(1件は両方)に区分できる(SR社推定)。インタビュー部署は製造業では直接消費者やユーザーと接する部署、非製造業では代表者や事業責任者など意思決定者が含まれる。株式会社エフエム大阪(非上場)のようにカスタマードリブンから入り、インサイトドリブンに進むケースも散見される。キリンビバレッジ株式会社(非上場)の新規事業開発、ホーユー株式会社(非上場)や株式会社池田模範堂(非上場)のような伝統的ブランド商品を持つ企業の新機軸探索などで、インサイトドリブンに最初から取り組む例もある。
具体的には、キリンビバレッジの法人向けサービス「KIRIN naturals」の「オフィススムージー」、ホーユーの店頭に置く商品選択アプリ開発、池田模範堂の『ヒビケアFT』のキャッチコピー「ささくれ割れ」、小林製薬(東証1部、4967)の「ナイトミン鼻呼吸テープ」の開発支援事例などが挙げられる。
支援内容では、Web調査やアンケート調査だけでなく、グループインタビューやワークショップで消費者やユーザーの生の声(本音)を聞けたことで認識を改められたとの声が多い。同社を選んだ理由や評価ポイントでは、6社が対応の速さ(スピード感)、3社が顧客目線(パートナー意識、同じ視点)を挙げている。親身さ、気軽さ、寄り添う姿勢も顧客目線と捉えると7社に増える。価格競争力も3社が特筆している。また、顧客に近い場所にサービス拠点を持つ(エフエム大阪、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント(非上場))ことも利点である。総じて云えることは、同社の担当者の顧客信頼度が高く、リピート受注に繋がる大きなポイントとなっている。
サービス別概要
概要
同社はマーケティング支援事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報を開示していない。サービス別の売上高は2021年9月期上期決算より開示した。サービス別の区分は2020年9月期に確立したものである。当該区分での2021年9月期の売上構成比は、カスタマードリブン43.0%、インサイトドリブン25.3%、デジタルマーケティング7.7%、カスタマーサクセス13.5%、PR2.6%、その他(子会社2社)7.9%である。
フロー型、ストック型
同社の提供サービスは、フロー型(案件ごとの料金)とストック型(月額料金)に分かれる。ストック型は、デジタルマーケティング、カスタマーサクセス、セールスサポート社である。ストック型の売上構成比は26.7%を占める(2021年9月期)。当該事業はコロナ禍の影響がむしろ後押しし増加傾向が続くと同社は見込んでいる。フロー型は、カスタマードリブン、インサイトドリブン、PR、パイルアップ社である。フロー型(売上構成比73.3%、同)は、案件ごとに契約し成果物納入で売上が発生する。通常、案件を受注してから成果物の納品まで1週間から2~3か月かかる。同社はリピート率が80~90%と高く、単発で終わるフロー型というより、フロービジネスが途切れなく続く状況を実現していると云える。
カスタマードリブン
カスタマードリブンは同社の提供サービスのなかで、クライアント数および売上高共に最も大きいウェートを占めるメインのサービスである。生活者パネルから収集した定量的データを数値化し分析する、定量調査を核とした顧客起点マーケティングである。サービス単価(顧客単価帯:40~70万円)を低く抑えていることから、新規顧客が最初に契約するケースが多いエントリー的なサービスの位置付けとなっている。
インサイトドリブン
インサイトドリブンは同社の提供サービスのなかでは、比較的新しいサービスであるが、カスタマードリブンに並ぶ収益の柱となりつつある。当該サービスは定性調査を核とした、生活者自身が気づいていない意識下に存在している人を動かす隠れた心理(インサイト)を発見するのに適したマーケティングサービスである。当該サービスは他のサービスへ展開する上で起点となる重要なサービスと位置付けられている。顧客単価帯(300~800万円)は同社の提供サービスの中で最も高いレンジにある。
デジタルマーケティング
デジタルマーケティングは、ストック型サービス(顧客単価帯:月額50~200万円)で、主にECプラットフォームであるShopify®(世界175か国で1,700千件のビジネスをサポート、流通総額20十億米ドル超)を利用し、顧客に代わって同社でECサイトの構築から集客・運用まで一気通貫でD2C支援をしている。年間契約となると1顧客当り大きな売上高となるが、他のサービスと異なりシステム利用料などが嵩むために、売上総利益率は同社の提供サービスのなかでは最も低く抑えられている。デジタルマーケティングの売上構成比は4.6%(2020年9月期)から7.7%(2021年9月期)へと増加しており、今後もコロナ禍の影響による顧客のECサイト構築需要増に伴い、当該サービスの売上増が続くと同社は考えている。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスはいわゆるコールセンターに似たサービスである。沖縄県那覇市と沖縄県石垣市にカスタマーサクセスセンターの拠点を設けており、電話・メールによる顧客対応はもちろん、AIチャットボットの品質評価やサブスクリプションモデルの課金ユーザー離脱防止プログラムにも対応している。当該サービスはストック型サービス(顧客単価帯:月額50~100万円)である。
PR
認知拡大・ブランディングを目的としたPR支援サービスである。顧客単価帯(200~500万円)は比較的高額であり、売上構成比も3%程度で、顧客数も限られる模様である。PR支援サービスはWeb広告代理店や総合広告代店はじめ最も多くの競合会社がひしめいている市場であり、同社は新規顧客獲得のための差別化戦略が求められる分野となっている。
連結子会社:株式会社セールスサポート
連結子会社セールスサポートはストック型(一番人気「プレミアム」、月額20万円弱)サービスであり、累計導入企業数約60,000社の企業リスト収集ツール「Urizo」を企業に提供し、企業間のマーケティング活動や営業活動の支援を行っている。コロナ禍でUrizoの需要が高まっており、セールスサポート社の売上高は前期比20.8%増加して100百万円(2021年9月期)である。
連結子会社:パイルアップ株式会社
人を活用したクラウドソーシングやマーケティングサポートを提供するために、同社が所有しパイルアップ社が運営する会員組織のプラットフォーム「SOLPANEL(ソルパネ)」(2021年9月末現在約6,000人)を利用して不特定多数の人に業務を依頼することができる仕組みを構築している。パイルアップ社は同社から発注を受けるため、社内取引が大きい。外部売上高は20~30百万円で、2021年9月期の売上高は前期比31.3%増の45百万円となった。
市場とバリューチェーン
日本の市場調査業界
JMRA(一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会)によると、日本の市場調査売上高は2,202億円(2020年)程度である。この数字は、JMRA会員社(109社、2020年)の合計売上を基に推計したものである。当該売上高は1,750億円(2007年)から、2,202億円(2020年)まで年率1.8%で伸びている。一方、会員数は140社(同)から109社(同)へと減少し、アンケート回答1社当り平均売上高は11.8億円(同)から19.1億円(同)に増加している。マーケティングリサーチ業界でも合従連衡が進みつつある。
調査手法別では、インターネット調査の構成比が、20.6%(2007年)から36.6%(2020年)に増加し、既存手法は43.4%(同)から24.6%(同)に減少している。パネル調査は31.0%(同)から33.4%(同)へと漸増している。
*パネル調査とは 、調査対象者を固定化(パネル化)し、任意の期間において、同じ質問の調査を繰り返すアンケート調査のこと。AD-HOC(アドホック)調査とは、調査設計、実施、集計、分析などが1回で完結する単発調査のこと。
同社のターゲット市場
同社はターゲット市場を、上記マーケティングリサーチ市場(2,291億円、2019年)に加え、PR市場(1,111億円、2020年、出所:日本パブリックリレーションズ協会)、およびインターネット広告市場(2兆2,290億円、同、出所:電通)のTAM(Total Addressable Market)である約2.5兆円としている。同社のメインターゲットである製造業が占める割合を40%とすると、同社がサービス提供可能であるSAM(Serviceable Available Market)は約1兆円となる。
世界のインサイト(旧マーケティングリサーチ)業界
調査対象定義の拡大
欧米のマーケティングリサーチ業界では、インサイトの概念が導入されその重要性が増している。2017年1月に、米国調査研究機関評議会(CASRO:Council of American Survey Research Organizations)とマーケティングリサーチアソシエーションが合併し、インサイト協会(Insights Association)が設立された。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)の国際業界統計である「Global Market Research 2020」がその調査対象定義を拡大させ、新領域として「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」を加えたことで市場規模が一気に約2倍(世界市場調査売上高88,900百万ドル、2019年)になった。JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)によると、日本の市場調査売上高は2,291億円(2019年)程度であるが、国際業界統計の新基準に合わせその調査対象を広げるべく検討中とのことである。
新領域(サブセグメント)の拡大
「Global Market Research 2020」では、過去10年以上に渡って「サブセグメント」として集計・推計されてきた、新たな市場調査業界の統計を作成することにした。データ分析企業や自動データ収集企業、コンサルティング・レポート提供企業などの企業が、市場調査業界と同様に様々なデータを収集・分析し、顧客にインサイトを提供することを業とする点で、同分類と見なされたことによる。背景には、伝統的に定義された市場調査業界の売上高規模が近年横ばいを続ける一方で、こうした新領域の市場は順調に拡大し、「伝統的な市場」に匹敵する規模となった。伝統的な市場と新領域を併せた世界インサイト市場規模は、88,900百万ドル(2019年)である。伝統的な世界市場調査市場規模46,470百万ドルに、新領域の市場規模43,430百万ドルが追加された。世界インサイト市場規模の54%を占める北米では、従来型市場リサーチ43%に対し、新領域のテクノロジー主導調査31%、レポーティング26%となっている。
*各国のインフレ調整後伸び率世界インサイト産業の市場規模 米国での手法別売上高シェア(2019年)
(Tech-enabled research)
(Reporting)
8つのサブセグメント
新領域のテクノロジー主導調査とレポーティングは、従来の領域を含めてさらに8つのサブセグメントに分類されている。ESOMARが想定したサブセグメントの定義の詳細と、代表的なプレイヤー、およびサブセグメント別売上高は次表の通りである。「新領域」には、従来の市場調査会社が手掛けてきたビジネスとオーバーラップしている部分が多々ある。個々の調査プロジェクトレベルでは、一部競合することもあるが、他方では相互に協力共同している実態もある。さらに調査会社がユーザー(発注者)になったり、受託者(二次契約者)になったりすることもある。
3つの潮流
定義拡大の背景にある3つの潮流は下記の通りである。
新技術を活用し、変化するクライアントの期待に応えるために事業方向を転換する姿勢
DIY型ツールなどの新技術の発展・拡大と普及、内製化の動き
新インサイト産業への外部資本の流入
テクノロジー主導型の調査手法やツールが発展し、業界構造に大きな変革をもたらしていたことが上記3つの潮流の背景にある。それが、COVID-19の世界的パンデミックによって加速された形になっている。かつては市場調査会社に依頼していた業務の一定部分(特に労働集約的なもの)が、クライアントの社内で比較的簡単に処理できるようになってきた。世界的に業種を問わず、ビジネスにデータを最大限活用するDX(デジタルトランスフォーメーション)分野に、外部資本が流入していることも背景にある。
上位25社の変遷
従来の市場調査業界の勢力図が大きく塗り変わった。次表は、ESOMARが集計した2019年度のTop-50(世界売上高上位50社)から上位25社と、前回までTop-10に入っていた2社を抜粋したものである。Top-10内にAdobe(NASDAQ、ADOBE)、Salesforce(NYSE、CRM)、IHS Markit(NYSE、INFO)、CoStar(NASDAQ、CSGP)といった、知名度は高いが調査会社と認識されていなかった企業が入っている。また、11位から25位までも新顔ばかりで、前年の登場社は2社しか残っておらず、さらに前年の9位と10位(日本勢唯一のインテージホールディングス(東証1部、4326))は28位以下に後退している。
合従連衡
8位に登場したIHS Markitは、米金融情報サービス会社であるS&P Global(NYSE、SPGI)に買収されることになった(2020/11/30公表)。Adobeの急成長もM&A効果に支えられている。また、長年この市場を牽引してきたNielsen(NYSE、NLSN)は2020年末までに分社化され、その一方は売却(経営主体の変更)されることが決まっている。Kantar(ロンドンに本拠地を置く上場企業WPP(LON、WPP)の調査部門)も投資会社の傘下に入り、今後の動向は流動的な状況となっている。
競合他社動向
従業員数89人、取引社数2,000社、パネル自社55万人
従業員数1,066人、取引社数5,000社以上、全国消費者パネル52,500人
従業員数2,616人、4,200社、パネル約1,000万人
従業員数1,354人
従業員数417人
従業員数1,224人
従業員数3,469人
従業員数1,592人
従業員数492人
(NYSE)
従業員数44,000人
(EPA)
従業員数18,000人
従業員数25,000人
同社がターゲットとする市場(マーケティングリサーチ市場、PR市場、インターネット広告市場)には、リサーチ会社、Web広告代理店、コンサルティング会社、総合広告代理店が参入している。同社は人材リソース・ノウハウ不足等の理由から積極的にマーケティングに取組めなかった中堅企業や地方の優良企業を開拓している。さらに中規模以上の顧客層においても、大手コンサルや総合広告代理店と一部競合するポイントが発生している。同社は生活者起点と一気通貫の内製化された自社サービス提供などによる差別化戦略が大手との競合に打ち勝つ肝であると考えている。同社は、マーケティングリサーチ、デジタルマーケティング、PR事業において、下記の企業をそれぞれ競合企業と認識している。
マーケティングリサーチ事業
株式会社インテージホールディングス(東証1部、4326)
国内マーケティングリサーチ業界の売上高ランキング第1位。売上高57,558百万円(2021年6月期連結)、従業員数3,080人(2021年6月末現在)、取引社数5,000社以上、全国消費者パネル52,500人。主な事業内容は「マーケティング支援事業(消費財・サービス)、独自に収集した各種パネル調査やカスタムリサーチから得られたデータを基に、高度なリサーチ技術やデータ解析力等を駆使し、消費財メーカーをはじめとする多種多様な顧客企業のマーケティング活動をトータルサポートすること」である。平均勤続年数(2021年6月期単体実績)は15.6年となっており、勤続年数が長いことが特徴の企業である。
株式会社マクロミル(東証1部、3978)
国内マーケティングリサーチ業界の売上高ランキング第2位。売上高43,175百万円(2021年6月期)、従業員数は連結2,637人(2021年6月末現在)。プロジェクト数年間35,000件、取引社数4,200社超、パネル約1,000万人。主な事業内容は「マーケティングリサーチ事業(インターネットリサーチ、FGI/DI、CLT、HUT等のオフラインリサーチ、調査企画、集計、分析)、グローバルリサーチ事業、デジタルマーケティングリサーチ事業、データベース事業(購買データベース、ライフスタイルデータベース)、セルフ型リサーチASP事業、その他マーケティングに関するコンサルティング事業」である。
株式会社クロス・マーケティンググループ(東証1部、3675)
国内マーケティングリサーチ会社の売上高ランキング第3位。売上高10,758百万円(2021年6月期実績、決算期変更により6か月の変則決算)、従業員数は1,354人(内、臨時従業員238人、2021年6月末時点)。主な事業内容は「マーケティングリサーチ事業およびITソリューション事業を行う子会社等の経営管理、それに付帯または関連する事業」である。顧客の新商品開発やブランド戦略、プロモーション、価格設定等の多様な課題に対して、数ある手法の中でも特にネットリサーチに強みを持ちながら、最も適したマーケティングリサーチ手法を企画・提案し、調査設計・実査・分析・レポーティングまで一連のサービスを提供している。
デジタルマーケティング事業
ソウルドアウト株式会社(東証1部、6553)
売上高20,447百万円(2020年12月期)。従業員数375人、外平均臨時雇用者数42人(同)。ネットビジネスにおけるデジタルマーケティング支援(インターネット広告販売代理事業)、IT化支援(マーケティングを中心としたソフトウェアの開発・販売)およびメディア支援(コンテンツマーケティングの提供等)等各種サービスを提供している。
株式会社セプテーニ・ホールディングス(JASDAQスタンダード、4293)
売上高21,384百万円(2021年9月期)、従業員数1,224人(2020年9月期)。デジタルマーケティング事業およびメディアプラットフォーム事業を展開している。デジタルマーケティング事業は、デジタル広告の販売と運用、データ、AIを活用したソリューションの提供、電通グループとの提携によるオンライン・オフライン統合によるマーケティング支援等、デジタルマーケティングを中心とする、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)における総合的な支援である。メディアプラットフォーム事業は、マンガコンテンツ事業、採用プラットフォーム事業、社会貢献プラットフォーム事業、医療プラットフォーム事業、育児プラットフォーム事業等である。
PR事業
株式会社ADKホールディングス(非上場)
売上高352,861百万円(2017年12月期)、従業員数3,469人(同)。ADKホールディングスの前身である、旧アサツーディー・ケイの主要事業は、雑誌、新聞、テレビ、ラジオ、デジタルメディア、OOHメディアを媒体とする広告業務の企画と取扱い、広告表現およびコンテンツの企画と制作、セールスプロモーション、マーケティング、パブリックリレーションズ等のサービス活動など、広告に関する一切の業務である。
株式会社ベクトル(東証1部、6058)
売上高37,273百万円(2021年2月期)。従業員数1,288人、外平均臨時雇用者数304人(同)。顧客である企業等によるメディアを活用した生活者とのコミュニケーション戦略を総合的に支援するPR・広告事業、プレスリリース配信事業、ビデオリリース配信事業及びメディア事業、並びに物品のオンライン販売を中核とするダイレクトマーケティング事業及び人事評価クラウドサービスを提供するHR事業を主力事業としている。
株式会社サニーサイドアップグループ(東証1部、2180)
売上高15,356百万円(2021年6月期)。従業員数455人(同)。登録事業範囲は、PR、広報代理業、スポーツ選手、アーティスト等のマネジメント業務、新規ビジネスの企画開発、セールスプロモーションの企画、制作及び運営。マーケティング・コミュニケーション事業、スポーツ事業、開発事業、SP・MD事業、bills事業の5事業を展開している。マーケティング・コミュニケーション事業がグループ全体の収益基盤を成すと同時に、その中核となるサービスであるPRのノウハウが全ての事業の核となっている。
SW(Strengths, Weaknesses)分析
強み(Strengths)
顧客企業の開発初期段階からマーケティングを支援し、生活者の「購買意欲の核心やツボ」を見出し商品開発に活かす力
同社は、一連のマーケティングプロセスの中で実施されるそれぞれの施策を、生活者起点で実行していることが大きな特長の一つである。生活者起点とは「生活者にとって必要な商品やサービスとは」、「生活者にとって好ましいコミュニケーションとは」、「生活者にとって必要な情報とは」、といった視点を最重要視し、その視点をマーケティング戦略に反映していくことである。同社は、消費者およびユーザーの行動や思惑、それらの背景にある意識構造を見抜くことを目的としたマーケティングリサーチを行い、その調査・分析結果を同社クライアントに提供する。さらに、同社はその分析結果によって得られる「購買意欲の核心やツボ」(インサイト)を満たす商品およびサービス開発支援を、商品開発の初期段階(商品構想、基本設計)から顧客企業に入り込み支援を行っている。同社はマーケティングリサーチからプロモーション・ブランディングなどのマーケティング支援に関わるサービスを全て内製化し、ワンストップで提供できている。
リピート率の高い(80~90%)安定顧客基盤
同社顧客のリピート率(複数年)は80~90%程度で、顧客満足度が高いため、比較的高いリピート率に繋がっている。同社顧客アンケートによると、同社を選ぶ理由として、①問合せに対するレスポンスの速さ(即日回答)、②顧客目線での対応、③リーズナブルな料金体系、④一気通貫のサービス体制、などが挙げられている。契約年の翌年にリピート契約しなかった顧客についても、顧客の新商品・サービス開発が数年(2~3年)サイクルで進む度に、同社に再発注されるケースが多い。同社は、はくばくやSHIBUYA109エンタテイメント他から数多くの調査を受注しており、エフエム大阪とはカスタマードリブンだけでなくインサイトドリブンへと展開している。高いリピート率は顧客の囲い込みに成功していることを意味している。同社の一気通貫の内製化された自社サービスの提供が、顧客にとっては同社に発注する上で安心材料となっている。同社は、大手コンサルや総合広告代理店とも一部で競合するが、既存ブランドやマスメディアへの露出増に頼らない「生活者起点のマーケティング支援」で差別化している。総合広告代理店や大手コンサル企業などは外注するケースも多く、細かな顧客ニーズへの対応やスピード、柔軟性において欠ける点も少なくない。同社としてはお得意様(リピート率の高い顧客)を増やすことが、LTVを増やすこと、およびストック型収益源(デジタルマーケティング、カスタマーサクセス)の確保に繋がることになる。
顧客ニーズに応じて最適なパネル構成を作れる、独自のマーケティングプラットフォーム(生活者パネル)
同社は、「生活者起点のマーケティング支援」を実現するためのインフラとして、独自のマーケティングプラットフォーム(生活者パネル「アイリサーチ(iResearch)」:登録者58万人(2021年9月末時点))を運営している。アイリサーチは全登録者における性別・年齢・居住地といった属性情報の比率が、インターネット人口における比率に近似することに配慮して構成された生活者パネルであり、属性の偏りを極力排除したパネル構成となるよう努めている。超巨大企業といえども、マーケティングリサーチを内製化して独自に行うことは、調査対象者の属性や意識に偏りが発生しやすく、独立系マーケティングリサーチ会社に調査を発注することが一般的である。同社は顧客の様々なニーズに応じて最適なパネル構成を作ることができる。さらに同社は、調査に協力的な性格特性、物事を“正確”に見聞きし、記憶にとどめる能力、感受性豊かに自分の言葉で“表現”する能力を有している生活者パネルを「インサイトモニター」と定義し、他社とは一線を画した個別インタビューやワークショップなども行っている。登録者の中には、同社のインサイトドリブンサービスに欠かせないエクストリームユーザーが含まれている。同社によるとエクストリームユーザーの消費行動を詳細に分析することで、画期的な新商品や新サービス開発のヒントが得られるとのことである。
弱み(Weaknesses)
分業体制が十分でなく、組織的な受注拡大や納期短縮が容易ではないこと
同社の売上高=マーケティングコンサルタント人員数xコンサルタント1人当りの平均売上高の関係式が成り立つ。定量調査ではインターネット化が進んでいるが、集団インタビューや個別訪問によるヒアリング調査では昔ながらの人海戦術に依存している。案件が集中する1~3月期には、分業体制が十分でなく、全ての案件受注を消化しきれていない模様である。同社は2010年頃から毎年新卒を数人ずつ(現在6~8人)採用してきており、1~2年半かけてOJTによる教育を行い、1人前のマーケティングコンサルタントに育て上げている。マーケティングコンサルタントや専門コンサルタントの人員増には時間とコストがかかる。また、案件受注から成果物納品までの納期は1週間から2~3か月である。同社ではアンケート結果の集計や分析をAIなどで機械化を進めているが、記述式コメントの分析など人が見て判断する部分が10%から15%程度は残っており、組織的な受注拡大や納期短縮が容易ではないとSR社は考える。
輸出比率の高い製造業を多く顧客に持つ一方で、海外ビジネスに参入できていないこと
同社の売上は全て国内売上である。同社独自で運営する生活者パネル「アイリサーチ(iResearch)」の登録者も全て、国内居住者である。同社のマーケティングリサーチ事業で競合する売上上位5社は全て海外にも生活者パネルを運営し、外国人対応調査員を揃え、海外売上を計上している。一方、同社の顧客のうち製造業が40%を占め、輸出比率の高い企業も少なくない。同社の経営資源が国内に限定されると、顧客の海外向け商品開発への参入機会を逸することになる。2014年6月、同社は中華人民共和国香港特別行政区にNeo Marketing Asia LIMITEDを開設したが、2021年2月、Neo Marketing Asia LIMITEDの清算を結了した。海外事業は政治的なリスクが高く、経営資源が限られる同社規模ではハードルが高すぎた。同社も長期的には、欧米や東南アジアへの進出を視野に置いているが、中期的には経営資源の全てを国内(特に地方都市)の顧客開拓に集中することにしている。
1~3月に収益が偏る季節性により固定費を平準化できないこと
マーケティングリサーチ費用は広告宣伝費や販促費として計上されることから、顧客企業の決算期末における予算消化の時期に集中する傾向がある。同社の顧客の過半は3月決算のため、同社の売上が1~3月(第2四半期)に偏る季節的傾向がある。2021年9月期における第2四半期の売上高比率は31.5%、営業利益比率は51.8%であった。季節性の改善には、3月以外の決算期を持つ顧客を探すことも一案だが、マーケティングプロセスの下流に位置するデジタルマーケティングやカスタマーサクセス等のフロー型の売上構成を上げていくことによって季節性の改善につながると同社は考えている。しかしながら、同社の事業においてはマーケティングコンサルタントの人数が重要なKPIとなっており、同1人当りの売上高の増加により売上拡大を図る計画である。同社は毎年6~8名の新卒採用を行って、独り立ちするまで1~2年半かけてマーケティングコンサルタントを育成しているが、需要のピーク時に合わせなければならず、人件費などの固定比率が高くなるとSR社ではみている。
過去の業績と財務諸表
損益計算書
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
同社のコスト構造は、外注費が売上原価の49%(2020年9月期、単独)と大きなウェートを占めている。この中には生活者パネル提携企業への外注費が含まれる。売上原価の経費や販管費には、ポイント引当金繰入額、モニター手数料が1億円弱(同)含まれている。販売促進費や広告宣伝費は大きな項目としては開示されていない。
2021年9月期の実績は、マーケティングコンサルタントの人員増に伴う商談数の増加によって、取引社数も増加したことなどにより増収増益となった。作業のシステム化により生産性が上昇したことや同年8月からコミュニケーションデザイン機能を内製化したことで、売上総利益率は上昇傾向にある。
貸借対照表