同社は、ジルコニウム化合物のサプライチェーン強化のため、2012年3月、連結子会社であるVIETNAM RARE ELEMENTS CHEMICAL JOINT STOCK COMPANY(以下、VREC)を設立し、2016年6月からベトナム国内で産出されるジルコニウム鉱物を用いたオキシ塩化ジルコニウムを製造販売する事業活動を開始した。2016年12月にはVRECの増産投資の検討を開始したが、当時ベトナム南部においてVRECが必要とする量のジルコニウム鉱物を生産する会社は存在しなかった。
そのような状況において、ベトナム南部の鉱物事業会社であるDuong Lam Joint Stock Company(以下、DL)はVRECが必要とする量を満たすジルコニウム鉱物の増産を計画していた。DLへの投資を企図し、DLの企業買収による組織再編を行おうとしているSolid Success
International Limited(以下、SSI)に対し、同社は、VRECが主原料とするジルコニウム鉱物の長期安価・安定調達を目的に、2018年6月から出資手続きを進め、株式譲渡契約に基づき、2019年1月までにSSIの株式取得資金をSSIの株主へ支払った。しかしながら、SSIの関係会社等とDLの株主との間で2019年6月に発生した株式譲渡等に関する訴訟が解決せず出資手続きが停滞していた。加えて、訴訟の影響を受けてDLの事業活動が停滞し、VRECとDL間で締結している売買契約に基づくジルコニウム鉱物の納入も停滞していた。
要約
事業概要
ジルコニウム化合物の一貫生産:同社は、ジルコニウム化合物を中心に、セシウム化合物、希土類化合物などの無機化合物の製造・販売を行っている(2018年3月期売上高内訳:ジルコニウム化合物22,896百万円、その他2,641百万円)。バリューチェーンとしては、原鉱石の生産から始まり、中間材料を経て一次製品に加工される。その後、二次製品メーカーへ納入され、最終製品メーカーで組み立てられた最終製品が消費者に届けられる。同社グループは、中間材料の製造、一次製品の製造・販売を事業としている。同社の特徴として、ジルコニウム原鉱石から一貫生産を行っており、顧客の要望に合ったフルラインナップでの生産が可能という点がある。
製品の特性、用途:ジルコニウムは、製法や結合する物質により、結晶構造が変わるとその特性が変わるため、非常に多様な性質を持っている。ジルコニウム化合物は、イオン伝導性、強酸性・耐薬品性、高耐熱性、高強度・高靭性、撥水性、高屈折率、圧電性、誘電性、等の特性を持つ。同社はこれらの特性を生かし、触媒(2021年3月期連結売上高のうち62.2%)、耐火物・ブレーキ材(同9.7%)、ファインセラミックス(同10.5%)、電子材料・酸素センサー(同10.8%)等の用途向けに生産を行い、二次製品のメーカーへ納入している。2021年3月期における主要な地域別売上高の割合は、日本47.9%、アジア24.9%、欧州13.7%、北米12.5%となっており、海外売上高比率は52.1%である。
触媒:触媒は主にガソリン車の排ガス浄化用触媒の機能を高める助触媒(触媒のほとんどが自動車向け、同社調べで世界シェア約40%)であり、ブレーキ材や酸素センサーなどと合わせて、自動車関連業界向け製品が同社連結売上高の概ね80%を占める。このため、同社の業績は自動車生産台数、消費者の燃費志向(エンジンのサイズ)の影響を受ける。各種市場調査から内燃機関自動車生産のピークアウトは2024年頃であるが、ハイブリッド車での同社シェアが高いことを考慮すると、触媒のピークアウトは2027年以降になると同社は考えている。同社としては、従前からの戦略通り、当面は既存用途で収益を確保しつつ、触媒のピークアウトまでに新たな分野の用途の開発を進めていく方針である。同社の触媒の販売価格の値決め方式は、2010年後半~12年頃のレアアースショックの反省を踏まえ、原材料の市場価格と連動して販売価格が見直される形となっている。
中長期での成長ドライバ:同社は、①環境規制強化によるハイブリッド車の急速な普及・CASEの進展、②大容量の二次電池を搭載した内燃機関非搭載車の普及・エネルギー多様化への対応を中長期での成長ドライバとして想定している。LMCデータなどの予測値から、2020年時点でハイブリッド車を除く内燃機関車の割合は88%であったが、2025年には68%、2030年には54%まで減少すると同社は試算している。一方で、ハイブリッド車は2020年時点で9%に過ぎなかったが、2025年には23%、2030年には30%に増加する見込みである。内燃機関非搭載車も2020年時点の3%から、2025年には9%、2030年には16%まで増加する見込みである。
ハイブリッド車増加の影響:ハイブリッド車の増加は同社にとってポジティブであり、自動車販売台数の成長以上に販売数量を増加できる可能性がある。なぜなら、ハイブリッド車は内燃機関と電動モーターを併用するためである。ハイブリッド車では低温作動する高機能な触媒が必要となる。高機能な触媒は特許で保護されるなど参入障壁が高い領域であり、事実上同社と競合1社の2社による競争となることから、同社は触媒のシェア向上を目指す。また、ハイブリッド車は二次電池を搭載することから、二次電池向け材料(電子材料)としての需要増も見込むとしている。加えて、電装化が進むことで、電子材料の需要増も見込むとしている。
内燃機関非搭載車増加の影響:内燃機関非搭載車では、自動車排ガス浄化用触媒および酸素センサー用途の需要はなくなる。この点では同社にとってネガティブである。一方で、大容量二次電池を搭載するBEV(バッテリー式電動自動車)では、二次電池向け材料(電子材料)の需要が拡大する。将来的に電気自動車に全固体電池が搭載され、全固体電池に同社製品が採用されれば、電気自動車1台当たりの同社製品使用量は内燃機関搭載車比で約3倍になる可能性があると同社は述べている。また、FCEV(燃料電池車)の場合、車両以外の設備として、水素発生装置における改質・シフト触媒の需要、水電解装置(SOEC:Solid Oxide Electrolyser Cell)・固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)用材料の需要が増加する。同社は、これらの需要を取り込むことで、自動車排ガス浄化用触媒の需要減に対応していくとしている。
業績動向
2022年3月期実績:2022年3月期通期の売上高は29,366百万円(前年同期比25.1%増)となった。全用途での販売数量は対前年同期比で18.2%増加した。また、原材料価格の高騰に伴い、販売価格が上昇した。用途別の5分類、すべてにおいて増収となった。経済の正常化が進む欧米市場が需要回復を牽引し、車載関連素材、歯科材料、産業用構造部材などで、コロナ禍以前の水準を上回った。営業利益は3,769百万円(前年同期比87.0%増)となった。生産効率化、販売価格上昇、操業度上昇、販売数量増加等による増益分が、原料市場価格上昇による減益分を上回った。経常利益は6,011百万円(同181.5%増)となった。ベトナム子会社における為替差益2,093百万円を計上した。親会社株主に帰属する当期純利益は1,850百万円(同49.7%増)となった。ベトナムの鉱物事業会社への投資に関する特別損失(2022年4月19日開示済み)として2,351百万円を計上した。
2023年3月期会社予想:2023年3月期通期会社予想は、売上高34,500百万円(前年同期比17.5%増)、営業利益4,800百万円(同27.4%増)、経常利益4,800百万円(同20.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益3,900百万円(同110.9%増)である。販売数量は前年同期比1.7%増に留まるものの、販売価格上昇効果により売上高は同17.5%増を見込む。販売価格の上昇と同程度の原材料価格の上昇を見込むものの、原材料価格の低い時期の在庫の販売効果が1,492百万円ほど営業増益要因となる見込みである。為替は1ドル114円を見込む。2023年3月期上期会社予想は、売上高16,700百万円(前年同期比13.1%増)、営業利益2,700百万円(同28.9%増)、経常利益2,700百万円(同7.7%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益1,900百万円(同13.9%減)である。
中期経営計画:2022年5月13日、同社は、新中期経営計画「DK-One Next」を発表した。旧中期経営計画「DK-One Project」を1年前倒しして終了する。2026年3月期の経営数値目標として、売上高40,000百万円、営業利益4,000百万円、EBITDA9,000百万円、ROIC6.0%以上が提示された。2022年5月現在、⾃動⾞販売台数予測は、新型コロナウイルス感染症拡⼤前の予測に⽐べ⼤きく減少している。また、⾃動⾞業界ではカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを活発化させている。⾃動⾞電動化へのシフトが加速するなど、同社を取り巻く事業環境は⼤きく変化している。 同社は、主⼒の⾃動⾞排ガス浄化触媒材料で成⻑の原資を確保しつつ、次世代の事業の柱となる、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア分野へ早期に経営資源を振り向ける。
同社の強みと弱み
同社の強みは、1)原鉱石からの一貫生産体制により、顧客の多様なニーズを満たし、顧客との長期的な関係が構築されていること、2)ジルコニウムの多様な製品特性を生かして製品化していく技術力、3)中間製品であるオキシ塩化ジルコニウムをグループ内生産でき、事業の安定性で競合他社より優位にあること、であるとSR社では考える。
同社の弱みは、1)売上高に占める触媒の割合が高く、必要な触媒を減らす、あるいは不要とする技術変化の影響を受けること、2)取扱製品がニッチな一次製品であり、その売上規模が買い手の購買方針に左右されること、3)レアアースの急激な価格変動や、調達上の問題に対する構造的な弱さ、であるとSR社では考える。
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
直近更新内容
公認会計士等の異動に関して発表
第一稀元素化学工業株式会社は、公認会計士等の異動に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
公認会計士等の異動
同社は、2022年5月17日開催の監査役会において公認会計士等の異動を行うことについて決議し、同日開催の取締役会において、2022年6月23日開催予定の定時株主総会に「会計監査人選任の件」を付議することを決議した。なお、退任する公認会計士等は、特段の意見はないとしている。
就退任する公認会計士等の概要
異動の決定又は異動に至った理由及び経緯
同社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、2022年6月23日開催予定の定時株主総会終結をもって任期満了となる。監査役会は、同一監査法人の再任を継続する中で、監査法人の品質管理体制等について客観的な評価を行う観点から、「会計監査人を再任することの適否の決定手順書」を整備し、諸外国で導入されている監査法人のローテーション制度を参考に「入札制度」を設けた。同社は、少なくとも同一会計監査人による継続監査10年ごとに入札制度を実施する。
監査役会では「入札制度」に基づき、現任会計監査人を含む複数の監査法人から同社の会計監査に対する提案を受け、比較評価を行った。その結果、現任の会計監査人の継続監査期間を考慮した上で、同社を変革していくための会計監査には新たな視点での監査が必要であるとともに、内部統制の高度化、会計監査の迅速化・合理化等への期待等を総合的に勘案し、有限責任監査法人トーマツが会計監査人として適任であると同社は判断した。
新中期経営計画「DK-One Next」の策定に関して発表
第一稀元素化学工業株式会社は、新中期経営計画「DK-One Next」の策定に関して発表した。
(リリースへのリンクはこちら)
2022年5月13日、同社は、新中期経営計画「DK-One Next」を発表した。旧中期経営計画「DK-One Project」を1年前倒しして終了する。2026年3月期の経営数値目標として、売上高40,000百万円、営業利益4,000百万円、EBITDA9,000百万円、ROIC6.0%以上が提示された。
中期経営計画策定の趣旨・背景
2022年5月現在、⾃動⾞販売台数予測は、新型コロナウイルス感染症拡⼤前の予測に⽐べ⼤きく減少している。また、⾃動⾞業界ではカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを活発化させている。⾃動⾞電動化へのシフトが加速するなど、同社を取り巻く事業環境は⼤きく変化している。 同社は、主⼒の⾃動⾞排ガス浄化触媒材料で成⻑の原資を確保しつつ、次世代の事業の柱となる、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア分野へ早期に経営資源を振り向ける。
経営数値目標(2026年3月期)
売上高の内訳(2026年3月期)
投資総計(2026年3月期までの4年間合計):21,500百万円
キャッシュ・フロー計画
4か年累計の投資キャッシュ・フローと配当金の合計を営業キャッシュ・フローの範囲内とする。
株主還元方針
配当性向30%を目指す。
2022年3月期通期業績予想修正、代表取締役の異動を発表
第一稀元素化学工業株式会社は2022年3月期通期業績予想修正および代表取締役の異動を発表した。
(リリースへのリンクはこちらとこちら)
2022年3月期通期会社予想の修正(2022年4月19日)
修正の理由
第4四半期の売上高は、コロナ禍からの回復基調が継続したことに加え、主原料価格の高騰による販売単価の上昇により増加した。
営業利益については、第3四半期までに積み増しを行った在庫の適正化に向けた生産調整による操業度の低下がマイナス要因となる一方で、主原料の市場価格に比較的早期に連動する販売単価と販売単価に対し遅効性のある在庫単価の差による増益効果等がプラス要因となり、全体としては前回予想を上回る見込みである。
経常利益については、営業利益の増益に加え、外国為替相場の大幅な変動に伴い、第2四半期以降に為替差益が1,561百万円発生する予定である。
親会社株主に帰属する当期純利益については、ベトナムにおけるジルコニウム鉱物の調達に関連して特別損失2,350百万円および法人税等調整額(繰延税金資産の取崩し)507百万円を計上する(後述)見込みである。
特別損失および法人税等調整額に関する補足
過去の経緯
同社は、ジルコニウム化合物のサプライチェーン強化のため、2012年3月、連結子会社であるVIETNAM RARE ELEMENTS CHEMICAL JOINT STOCK COMPANY(以下、VREC)を設立し、2016年6月からベトナム国内で産出されるジルコニウム鉱物を用いたオキシ塩化ジルコニウムを製造販売する事業活動を開始した。2016年12月にはVRECの増産投資の検討を開始したが、当時ベトナム南部においてVRECが必要とする量のジルコニウム鉱物を生産する会社は存在しなかった。
そのような状況において、ベトナム南部の鉱物事業会社であるDuong Lam Joint Stock Company(以下、DL)はVRECが必要とする量を満たすジルコニウム鉱物の増産を計画していた。DLへの投資を企図し、DLの企業買収による組織再編を行おうとしているSolid Success International Limited(以下、SSI)に対し、同社は、VRECが主原料とするジルコニウム鉱物の長期安価・安定調達を目的に、2018年6月から出資手続きを進め、株式譲渡契約に基づき、2019年1月までにSSIの株式取得資金をSSIの株主へ支払った。しかしながら、SSIの関係会社等とDLの株主との間で2019年6月に発生した株式譲渡等に関する訴訟が解決せず出資手続きが停滞していた。加えて、訴訟の影響を受けてDLの事業活動が停滞し、VRECとDL間で締結している売買契約に基づくジルコニウム鉱物の納入も停滞していた。
特別損失計上の背景
同社は、DLの組織再編及び事業活動の再開のため、和解の交渉を行ってきた。しかし、和解の見込みが立たないことから、SSIの株主との間で締結した株式譲渡契約に規定した義務の履行、DL株式価値の算定及びDLが事業活動を再開してVRECとDL間で締結している売買契約の履行が早期に実行できる見通しが立たないこと等を総合的に判断して、2022年4月19日開催の取締役会で、SSIの株主との間で締結した株式譲渡契約の解除を決議した。
当該決議に伴い、同社がSSIの株主へ支払った長期前払金に関し、担保権を設定したDLの株式価値による回収可能性がないと判断し、2022年3月期において長期前払金全額について貸倒引当金を設定し、未引当分である1,804百万円を貸倒引当金繰入額として特別損失を計上する。また、DLの事業活動の再開の見通しが立たないことから、ジルコニウム鉱物の売買契約を解除し、当該契約に基づく前渡金546百万円を前渡金評価損として特別損失に計上する。
法人税等調整額の計上の背景
貸倒引当金の追加計上による将来減算一時差異の増加に伴い、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に基づく会社分類の見直しを行い、繰延税金資産の取崩しを行うこととした。
今後の見通し
ベトナム南部におけるジルコニウム鉱物を産出するその他の企業の規模が拡大したことにより、DL以外の調達先との関係構築に努めた結果、VRECで必要とするジルコニウム鉱物をDL以外から調達できる見通しである。また、オキシ塩化ジルコニウムの市場価格も上昇しているため、現在ベトナムで実施している投資への影響は見込まないと同社は述べている。また、長期前払金に対する貸倒引当金繰入額及び前渡金評価損を特別損失として計上するが、当該長期前払金と前渡金に対する返還請求権を行使することで最大限の回収を図るとしている。
代表取締役の異動
2022年4月19日、同社は代表取締役の異動を発表した。異動の理由について、「経営主導体制の刷新により、同社を取り巻く事業環境に迅速に対応し、現在策定中の新たな中期経営計画の推進と、経営基盤の一層の強化を図るため」と同社は説明している。代表取締役の就任は、2022年6月23日開催予定の定時株主総会ならびに取締役会において正式に決定する。
異動の内容
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
原材料価格が上昇するとやや遅れて販売価格へ転嫁されるため、販売価格の上昇・下落と原材料価格の上昇・下落は、タイムラグはあるものの、営業利益に与えるインパクトとしては相殺される方向となるのが通常である。オキシ塩化ジルコニウムは原鉱石や化学薬品の価格上昇等により高値で推移している。酸化ネオジムについては、磁石需要増加等により高値で推移している。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
2022年3月期通期実績
業績概要
2022年3月期通期の売上高は29,366百万円(前年同期比25.1%増)となった。全用途での販売数量は対前年同期比で18.2%増加した。また、原材料価格の高騰に伴い、販売価格が上昇した。用途別の5分類、すべてにおいて増収となった。経済の正常化が進む欧米市場が需要回復を牽引し、車載関連素材、歯科材料、産業用構造部材などで、コロナ禍以前の水準を上回った。営業利益は3,769百万円(前年同期比87.0%増)となった。生産効率化、販売価格上昇、操業度上昇、販売数量増加等による増益分が、原料市場価格上昇による減益分を上回った。経常利益は6,011百万円(同181.5%増)となった。ベトナム子会社における為替差益2,093百万円を計上した。親会社株主に帰属する当期純利益は1,850百万円(同49.7%増)となった。ベトナムの鉱物事業会社への投資に関する特別損失(2022年4月19日開示済み)として2,351百万円を計上した。
2022年3月期通期会社予想(2022年4月19日修正後)に対する達成率は、売上高100.0%、営業利益99.2%、経常利益99.3%、親会社株主に帰属する当期純利益は114.2%となった。売上高、営業利益、経常利益は、修正後通期会社予想と概ね同水準の着地となった。当期純利益は修正後通期会社予想を上回った。
製品は前四半期末の6,189百万円から5,619百万円に減少した。仕掛品は前四半期末の2,181百万円から1,986百万円に減少した。原材料及び貯蔵品は前四半期末の3,425百万円から4,209百万円に増加した。
同社の主要顧客である自動車産業の状況としては、2021年の世界ライトビークルの販売台数は、世界的な半導体不足により自動車メーカー各社では計画比で減産を余儀なくされ、前年比5%増となったものの、新型コロナウイルス感染症の拡大前の水準には届かなかった。一方で、温室効果ガス排出量削減への意識が高まり、電動車シフトに対応する動きが活発になった。
2023年3月期通期会社予想は、売上高34,500百万円(前年同期比17.5%増)、営業利益4,800百万円(同27.4%増)、経常利益4,800百万円(同20.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益3,900百万円(同110.9%増)である。販売数量は前年同期比1.7%増に留まるものの、販売価格上昇効果により売上高は同17.5%増を見込む。販売価格の上昇と同程度の原材料価格の上昇を見込むものの、原材料価格の低い時期の在庫の販売効果が1,492百万円ほど営業増益要因となる見込みである。為替は1ドル114円を見込む。2023年3月期上期会社予想は、売上高16,700百万円(前年同期比13.1%増)、営業利益2,700百万円(同28.9%増)、経常利益2,700百万円(同7.7%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益1,900百万円(同13.9%減)である。業績予想の前提条件等の詳細については、後述の「2023年3月期会社予想」の項を参照されたい。
2022年5月13日、同社は、新中期経営計画「DK-One Next」を発表した。旧中期経営計画「DK-One Project」を1年前倒しして終了する。2026年3月期の経営数値目標として、売上高40,000百万円、営業利益4,000百万円、EBITDA9,000百万円、ROIC6.0%以上が提示された。2022年5月現在、⾃動⾞販売台数予測は、新型コロナウイルス感染症拡⼤前の予測に⽐べ⼤きく減少している。また、⾃動⾞業界ではカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを活発化させている。⾃動⾞電動化へのシフトが加速するなど、同社を取り巻く事業環境は⼤きく変化している。 同社は、主⼒の⾃動⾞排ガス浄化触媒材料で成⻑の原資を確保しつつ、次世代の事業の柱となる、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア分野へ早期に経営資源を振り向ける。
用途別の状況
触媒
触媒用途の2022年3月期通期の売上高は17,670百万円(前年同期比21.1%増)であった。
主力製品である自動車排ガス浄化触媒材料は、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準を上回った。2021年後半以降、自動車販売台数の急回復及び環境規制強化による同社製品需要の増加を受けて、販売数量が増加した。しかし、2022年3月期下期にかけて、半導体などの部品不足による自動車減産の影響が顕著となり、需要回復が鈍化した。
耐火物・ブレーキ材
耐火物・ブレーキ材用途の2022年3月期通期の売上高は3,366百万円(前年同期比48.6%増)であった。
耐火物材料は、新型コロナウイルス感染症の拡大前の水準には届かなかった。国内の粗鋼生産量は回復基調にあるものの、中国の粗鋼減産により耐火物材料が供給過多になった影響を受けた。
ブレーキ材は、増収となった。自動車販売台数の回復に加え、原料市場価格高騰の影響を受けた。
ファインセラミックス
ファインセラミックス用途の2022年3月期通期の売上高は3,450百万円(前年同期比39.6%増)であった。
同社が次世代主力製品として期待する燃料電池材料は、堅調に推移した。各国・地域の持続可能エネルギー推進政策などを背景として、市場成長が継続している。
歯科材料ならびに産業用構造部材は、新型コロナウイルス感染症の拡大前の水準を上回った。先進主要国の経済正常化が需要を牽引した。
キッチンセラミックスは、増収となった。インバウンド需要の回復には時間を要するものの、最終製品の販路拡充等が奏功した。
電子材料・酸素センサー
電子材料・酸素センサー用途の2022年3月期通期の売上高は2,879百万円(前年同期比14.1%増)であった。
電子材料は、圧電素子や積層セラミックコンデンサ用途は売上高を伸ばした。半導体等の部品不足による最終製品の生産調整の影響を受けたものの、医療機器、家電、通信機器がコロナ禍でも需要が堅調であったことに加え、自動車販売台数の回復および電装化の進展があった。
二次電池材料は、車載用電池の多様化の影響を受けて減収となった前年同期を上回った。電動車市場の成長に伴い需要増となった。また、新規採用が計画通りに進捗した。
酸素センサー用途は、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準を上回った。自動車販売台数が回復した。
その他
その他用途の2022年3月期通期の売上高は1,998百万円(前年同期比23.6%増)であった。
セシウム化合物は、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準には届かなかった。医療機器用途が堅調に推移したことに加え、家電およびアルミ配管ろう付用のセシウムフラックスが自動車販売台数の回復を受けて増収になったものの、半導体等の部品不足による最終製品生産の影響を受けて伸び悩んだ。
セシウム化合物およびフラックス以外は増収となった。経済活動の正常化に伴う需要を取り込んだ。
2023年3月期会社予想
期初予想(2022年5月13日付)
2023年3月期通期会社予想は、売上高34,500百万円(前年同期比17.5%増)、営業利益4,800百万円(同27.4%増)、経常利益4,800百万円(同20.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益3,900百万円(同110.9%増)である。販売数量は前年同期比1.7%増に留まるものの、販売価格上昇効果により売上高は同17.5%増を見込む。販売価格の上昇と同程度の原材料価格の上昇を見込むものの、原材料価格の低い時期の在庫の販売効果が1,492百万円ほど営業増益要因となる見込みである。為替は1ドル114円を見込む。2023年3月期上期会社予想は、売上高16,700百万円(前年同期比13.1%増)、営業利益2,700百万円(同28.9%増)、経常利益2,700百万円(同7.7%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益1,900百万円(同13.9%減)である。
用途別の売上高の見通し
触媒
通期では前年同期比20.9%増を見込む。上期は同19.0%増を見込む。
耐火物・ブレーキ材
通期では前年同期比16.2%増を見込む。上期は同23.5%増を見込む。
ファインセラミックス
通期では前年同期比8.4%増を見込む。上期は同4.8%減を見込む。燃料電池用途や構造材用途の増加を見込む。
電子材料・酸素センサー
通期では前年同期比15.3%増を見込む。上期は同0.1%減を見込む。二次電池用途が、市場拡大に伴い堅調に推移する見込みである。
その他
通期では前年同期比8.1%増を見込む。上期は同1.1%減を見込む。
期初会社予想と実績
*2021年3月期については新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあり、期初予定は未定であったため、2020年9月に公表した予定を期初予定として記載している。
中期経営計画
2022年5月13日、同社は、新中期経営計画「DK-One Next」を発表した。旧中期経営計画「DK-One Project」を1年前倒しして終了する。2026年3月期の経営数値目標として、売上高40,000百万円、営業利益4,000百万円、EBITDA9,000百万円、ROIC6.0%以上が提示された。
中期経営計画策定の趣旨・背景
2022年5月現在、⾃動⾞販売台数予測は、新型コロナウイルス感染症拡⼤前の予測に⽐べ⼤きく減少している。また、⾃動⾞業界ではカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを活発化させている。⾃動⾞電動化へのシフトが加速するなど、同社を取り巻く事業環境は⼤きく変化している。 同社は、主⼒の⾃動⾞排ガス浄化触媒材料で成⻑の原資を確保しつつ、次世代の事業の柱となる、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア分野へ早期に経営資源を振り向ける。
経営数値目標(2026年3月期)
売上高の内訳(2026年3月期)
投資総計(2026年3月期までの4年間合計):21,500百万円
キャッシュ・フロー計画
4か年累計の投資キャッシュ・フローと配当金の合計を営業キャッシュ・フローの範囲内とする。
株主還元方針
配当性向30%を目指す。
事業内容
ビジネスモデルの概要
ジルコニウムとは
同社は、ジルコニウム化合物を中心に、セシウム化合物、希土類化合物などの無機化合物の製造・販売を行っている(2018年3月期売上高内訳:ジルコニウム化合物22,896百万円、その他2,641百万円)。
ジルコニウムは、ジルコンサンドと呼ばれる鉱石を分解して精製される。ごく一部であるが、バデライトが使われる場合もある。
ジルコニウムは、製法や結合する物質により、結晶構造が変わると性質が変わるため、非常に多様な性質を持っている。ジルコニウム化合物は、イオン伝導性(酸素センサー・排ガス浄化用触媒)、強酸性・耐薬品性(工業用触媒)、高耐熱性(耐火物・排ガス浄化用触媒)、高強度・高靭性(ファインセラミックス)、撥水性(防水剤)、高屈折率(光学材料)、圧電性(着火素子・ブザー・アクチュエーター)、誘電性(セラミックコンデンサー・電波フィルター)、等の特性を持つ。
同社の強みの一つは、これらの特性を生かして製品化していく技術者を多く抱えていることである。大学院を修了した理系の学生を新卒から育成していくのが、同社の人材育成方針であり、全従業員の約2割が研究開発部門に配置されている。
セグメント別事業概要
同社はこれらの特性を生かし、触媒(2021年3月期連結売上高のうち62.2%)、耐火物・ブレーキ材(同9.7%)、ファインセラミックス(同10.5%)、電子材料・酸素センサー(同10.8%)等の用途向けに生産を行い、二次製品のメーカーへ納入している。触媒の割合が大きいが、新たな分野としてファインセラミックスに含まれる燃料電池用途や、電子材料・酸素センサーに含まれる二次電池用途などのエネルギー関連用途が2019年3月期頃から立ち上がりつつある。
但し、用途は異なるものの同種の製品であり、用途ごとにプラントが分かれてはおらず、利用する薬品・原材料も同じであるため、製品別セグメント情報は開示されていない。用途区分は、製法区分とほぼ同義である。耐火物とブレーキ材は乾式製法であること、電子材料と酸素センサーは湿式製法であることが共通している。触媒はジルコニウムとレアアースの複合物であり、電子材料と酸素センサーの多くは100%ジルコニウムでできている。また、大まかにみれば同じ区分の製品は粗利率水準が近いことが多いとのことである。
製法、成分、性質などの違いから、触媒は1㎏あたり15~30ドル程度、耐火物・ブレーキ材は同5ドル程度、セラミックスでは同50ドル程度の単価となる。
触媒については、原材料に占めるレアアース比率が高いことから、レアアース価格の影響を他の用途より強く受ける。このため、原材料価格が急激に変動すると、触媒の売上高が大きく変わり、結果として用途別売上高の構成比が大きく変わることがある。2012年3月期の売上高構成比の急変動は、この理由によるものである。
触媒
主にガソリン車の排ガス浄化用触媒の機能を高める助触媒(触媒のほとんどが自動車向け、同社調べで世界シェア約40%)であり、ブレーキ材や酸素センサーと合わせて、自動車関連業界向け製品が同社連結売上高の概ね8割を占める。このため、同社の業績は自動車生産台数の影響を受ける。なお、ディーゼル車向けの触媒製品もある。
同社の自動車排ガス浄化用触媒は、日本ガイシ株式会社(東証1部、5333)の製造しているハニカム担体の上に塗るものであり、実際に排ガスを浄化する貴金属の使用を少なくするための助触媒である。排気ガス浄化触媒のサイズはエンジン排気量に比例するため、触媒の使用量は消費者の燃費志向(エンジンのサイズ)の影響も受ける。ハイブリッド化が進むとエンジン排気量が小さくなるため、必要な触媒の量はやや減るが、排気が低温でも浄化ができる性能を持つ触媒は生産が難しく高付加価値であるため、販売単価は上昇する。より高い環境規制への対応と高い燃費の両立する場合も、高付加価値の触媒が必要となる。このような高付加価値の触媒を生産できる会社は同社を含めたごく少数の会社であり、高付加価値の触媒のニーズが高まっていくとすると、同社が技術力の低い企業のシェア10~20%程度を置き換えていく可能性がある。
近年では、触媒に求められる機能として、排ガス浄化だけではなく、CO2排出抑制、燃費性能もバランスよく満たすことが求められているとのことである。同社製品は、貴金属を高分散に保持する「高い比表面積」、高温の排気ガスにさらされても触媒機能を維持する「耐熱性」、有害物質の浄化を助ける「酸素吸蔵量」「応答性」が優れていると同社は述べている。
アジアでは、環境規制の強化に伴い、従来は触媒があまり使われてこなかった二輪車向けの売上高が増加しつつある。二輪車向けの触媒は、質的には自動車向けの触媒とほぼ同じである。
世界に主要触媒メーカーは4社あり、同社はそのすべてと取引がある。主要な販売先として、トヨタグループの自動車触媒製造を行っている株式会社キャタラーがあり、2013年3月期以降、同社の売上高の10%以上を占めていたが、2020年3月期には8.4%に低下し、2021年3月期は10%未満となったことで開示はされなくなった。自動車用触媒では4~5年先の採用に向けてのコンペが行われる。
同社のシェアは1990年代に触媒へ参入してから、同業他社のシェアを奪いながら基本的には増加傾向にある。現在約40%のシェアを50%前後まで上げることは可能と考えているとのことであるが、顧客は1社に偏った調達は避ける傾向にあり、シェアの大幅な上昇は難しいようである。
触媒は、原材料に占めるレアアース比率が高いことから、レアアース価格の影響を他の用途より強く受ける。レアアースの中で最も大量に使用されるのはセリウムである。一般的な原料は酸化セリウムとなる。セリウムに次いで使用量が多いのはネオジムである。代表的な原料は酸化ネオジムである。
排ガス用触媒以外の用途として、水素社会が本格化した際に大きな需要が見込まれることから、燃料から水素を取り出す改質シフト触媒の材料としてジルコニウム化合物を使用することを研究中である。現在は、ジルコニウム化合物ではない物質が利用されている。