事業構造:株式会社ユーグレナ(以下、同社)は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う企業である。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。エネルギー・環境事業ではバイオ燃料の実証プラントが稼働中で商業化前のフェーズにあることから、同社の売上高のほぼすべてがヘルスケア事業によるものであり、ヘルスケア事業のキャッシュ・フローをエネルギー・環境事業等に投資している状況にある。2021年12月期の売上高は34,420百万円、営業損失は6,565百万円、調整後EBITDAは1,369百万円であった。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ株式会社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
ユーグレナとは:微細藻類ユーグレナは、昆布やワカメなど藻類の一種で大きさは0.05mm、植物と動物の両方に分類される特異な生物。食物連鎖の最下位に位置し、太古から地球上の生命を支えてきた。水中の有機物、無機物を体内に取り込む特徴を持ち、植物性栄養素と動物性栄養素を併せ持ち、体内に油脂も生成する。その他の特長として、1)植物であるため、光合成で栄養素を生成するとともにCO2を吸収し温暖化対策にも有効、2)動物細胞と同様に細胞壁を持たないことから、植物よりも栄養成分の消化率が高い、3)食物繊維の一種で吸油性に優れ難消化性である独自の成分パラミロンを持つ点、があげられる。なお、ユーグレナと呼ばれる生物にも食品に向いたユーグレナ、油分を多く含むバイオ燃料に向いたユーグレナなど様々な種類が存在する。同社は、2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、以後ユーグレナを含む製品を主力製品として事業展開してきた。
ヘルスケア事業セグメント:ヘルスケア事業では、主にユーグレナ粉末等を活用した機能性食品や飲料等の開発・販売及びユーグレナ粉末を加水分解したユーグレナエキス等を活用した化粧品の開発・販売を行ってきた。自社グループ商品の直販が中心であり、流通チャネルでの卸売、取引先向けのOEM製品の供給やユーグレナ粉末の原料卸売、ならびに中国等の海外向け展開を行っている。また、同社は、健康食品・スキンケア商品の通信販売を事業とするキューサイ社を連結子会社化し(計49%保有)、2021年12月期第4四半期から損益計算書に業績が反映されている。2021年12月期第5四半期時点の売上高としては、約4割がキューサイ社以外、約6割がキューサイ社で構成されている。
エネルギー・環境事業セグメント:2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示している。同社は、2019年春から実証プラントの試運転を開始し、2022年現在稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業プラントの完成は2025年の見込みである。それまでの間、実証プラントをフル稼働しても精製されるバイオ燃料は年間125KLと限られていることから売上高への貢献は少額に留まる。実証プラントの設備投資額(約6,370百万円)については研究開発費として費用処理済みであるが、各種補助金を考慮しなければ年間数億円後半の規模でキャッシュが流出する。2022年2月時点ではバイオ燃料の主原料は経済的に有利な廃食油であり、ユーグレナ原料は実証目的で使用されている。
商業プラントの収益ポテンシャル:2021年12月期期末決算説明会において、2025年に完成を計画する商業プラントの収益ポテンシャルとして、売上高50,000百万円、調整後EBITDA10,000百万円規模を想定すると同社は述べた。売上高50,000百万円の想定としては、バイオ燃料価格として200円/Lを想定し、同社持分相当の生産量250,000KL/年に基づき試算したとのことである。2022年2月上旬時点のバイオ燃料価格は約295円/Lであった。調整後EBITDAについては、EBITDAマージン20%以上を想定して試算したとのことである。
サステナビリティ・ファースト: 同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
2021年12月期業績(15ヶ月決算):売上高は34,420百万円、営業損失は6,555百万円、経常損失は6,354百万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5,039百万円、調整後EBITDAは1,369百万円となった。2021年12月期は15ヶ月決算であるため、単純な前年同期比較はできない。第5四半期の売上高は同社想定通り、第4四半期から横ばいで着地した。第4四半期の損益計算書から買収したキューサイ社が連結された。営業損失には、キューサイ社連結によって計上した棚卸資産ステップアップ分の費用化4,842百万円が含まれている。第5四半期の調整後EBITDAはヘルスケア事業における先行投資により第4四半期よりも減少したが、広告宣伝投資の最適化により修正予想比では改善した。この結果、通期の調整後EBITDAは1,369百万円となり、修正後会社予想の650百万円を上回った。
2022年12月期会社予想:2022年12月期通期の会社予想は、売上高48,000百万円、調整後EBITDA2,100百万円が示された。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。2021年12月期中に純増に転じた定期購入顧客からの商品購買に加えて、デジタルマーケティング及びブランディングへの投資、マルチチャネル化に向けた取組みの強化、ならびに2021年12月期に連結子会社となったキューサイ社が通期に渡り収益貢献すること等により、セグメント売上高は過去最高となる見込みである。実証プラントの運転や微細藻類ユーグレナの大規模培養実証を継続するほか、バイオジェット・ディーゼル燃料製造商業プラントの建設に向けた取り組みを推進すること等により、セグメント損益は赤字が継続する見込みである。また、バイオジェット燃料製造の実証事業及び燃料用微細藻類の海外培養実証に対する助成金収入を見込んでいる。
中期展望:2021年12月期期末決算説明の中で、同社は2023年12月期まで3期連続成長、2026年12月期以降に売上高100,000百万円相当(下記注釈参照)を目指すとした。ヘルスケア事業の成長継続、キューサイ連結の通年寄与等により、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指す。調整後EBITDAも、3期連続成長を目指す。ヘルスケア事業の持続的成長、バイオ燃料事業商業化により、2026年12月期以降は売上高100,000百万円相当を目指す。
上記で売上高100,000百万円「相当」と述べているのは、エネルギー・環境事業において2022年2月時点でパートナー候補と協議中である商業プラントでの生産・販売量の持分相当額を同社の連結損益計算書において売上高として認識する場合を想定した表現とのことである。
同社の強みは、1)ユーグレナ素材に関する高いシェアおよびユーグレナ培養ノウハウ、2)ユーグレナ素材には、様々な用途への利用可能性があること、3)ヘルスケア領域だけでなく、先端投資領域・ソーシャルビジネスを事業ドメインとすることによる独自性・ブランド、であるとSR社では考える。
同社の弱みは、1)エネルギー・環境事業において、商業化までの間、年間数億円後半の規模の運転費用が必要であり、キャッシュ流出が継続すること、2)キューサイ社に関する追加投資資金を資本市場から調達するためには、高い成長期待を維持する必要があること、3)ユーグレナ素材の認知度が低い一方で、同社の売上高に対するユーグレナ素材に対する依存度が高いこと、であるとSR社では考える。
補助金収入同社はエネルギー・環境事業に関連して、複数の補助金収入を得ている。補助金収入については、国の会計年度が3月を区切りとしていることから、同社の1-3月期に入金され、入金時に収益として認識される季節性がある。このため、同社のEBITDAは1-3月期に改善する傾向がみられる。
2022年12月期第1四半期実績:売上高は10,822百万円、営業損失は727百万円、経常利益は81百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は40百万円、調整後EBITDAは1,554百万円となった。2021年12月期は15ヶ月決算であるため、単純な前年同期比較はできない。2021年12月期第4四半期(7-9月期)の損益計算書から買収したキューサイ社が連結されている。
2022年12月期通期会社予想:同社は、期初予想を据え置いた。売上高は若干ビハインドであるものの、概ね計画範囲の進捗であると同社は述べている。ヘルスケア事業については、第2四半期以降、広告投資の拡大等により、通期予想売上高の達成を目指すとしている。調整後EBITDAは通期会社予想に対して74.0%の進捗率となっているが、季節要因により助成金収入が3月に集中したためである。業績予想の前提条件等の詳細については、後述の「2022年12月期会社予想」の項を参照されたい。
同社は、従来「ヘルスケア事業」「エネルギー・環境事業」を報告セグメントとしていた。しかし、それぞれに分類することが難しい事業内容の子会社や当社の事業活動が増えたことを踏まえ、2022年12月期第1四半期より、報告セグメントの区分を変更した。以下は、前年同期を新区分に組み替えた比較となっている。
主な変更点として、「ヘルスケア事業」に含んでいたアグリテック(一次産業)領域、バイオインフォマティクス領域、ソーシャルビジネス領域に関する事業活動を「その他事業」に移管した他、「エネルギー・環境事業」に含んでいた先端技術研究に伴う事業活動を「その他事業」に移管した。また、「エネルギー・環境事業」を「バイオ燃料事業」に名称を変更した。
また、報告セグメントごとの経営成績をより適切に評価するため、M&A付随費用は各セグメントへの配賦を行わずにセグメント利益の調整額に「全社費用」として計上する方法に変更した。
第1四半期におけるセグメント売上高は10,124百万円(前年同期比167.8%増)、セグメント損失は129百万円(前年同期は175百万円の利益)となった。なお、セグメント損失には、キューサイの連結子会社化に伴って計上した棚卸資産ステップアップの影響による費用増加額783百万円、取得原価の配分にあたり識別した無形資産およびのれんの償却費457百万円が含まれている。
広告パフォーマンスの悪化傾向を踏まえ、広告投資を抑制した。また、季節性によりダイエット商材の需要が減退した。結果として、直販を中心に売上高が2021年12月期第5四半期比で減少した。
第1四半期におけるセグメント売上高は22百万円(前年同期は2百万円)、セグメント損失は178百万円(前年同期は148百万円の損失)となった。
第1四半期におけるセグメント売上高は677百万円(前年同期は128百万円)、セグメント損失は48百万円(前年同期は68百万円の損失)となった。
2022年12月期通期の会社予想は、売上高48,000百万円、調整後EBITDA2,100百万円が示された。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
キャッシュ・フロー重視の経営にシフトするため、開示指標にキャッシュ・フロー創出力を示す指標として調整後EBITDAを追加し、売上高と調整後EBITDAの2つを業績予想として公表している。調整後EBITDAは、EBITDA(営業利益+のれん償却費及び減価償却費)+助成金収入+株式関連報酬+棚卸資産ステップアップ影響額として算出している。営業利益など、他の利益項目についての予想は開示されていない。また、同社はセグメント別の業績予想を開示していない。
2021年12月期中に純増に転じた定期購入顧客からの商品購買に加えて、デジタルマーケティング及びブランディングへの投資、マルチチャネル化に向けた取組みの強化、ならびに2021年12月期に連結子会社となったキューサイ社が通期に渡り収益貢献すること等により、セグメント売上高は過去最高となる見込みである。売上高の内訳の詳細予想については、同社は開示していない。しかしながら、キューサイ社についても、キューサイ社以外の部分についても、増収を見込むと同社は述べている。
キューサイ社が通年寄与となる2022年12月期は、同社連結で調整後EBITDAの上乗せ要因となるため、投資余力が拡大したということもできる。同社は、2021年12月期においては、キューサイ以外のヘルスケア事業においても、広告宣伝投資を拡大する方針である。
なお、2022年12月期においては、2月にローンチした化粧品ブランド「CONC(コンク)」のほか、サステナビリティ視点で化粧品の新ブランドのローンチが予定されている。新たなブランドについては緩やかに立ち上げ、製品や広告を調整しながら拡大していくことから、2022年12月期ではコスト先行となることを想定している。
キューサイ社については、LBOローンに関する財務制限条項が存在するため、この制限に抵触しない範囲で広告宣伝投資を行う必要がある。キューサイ社に関する先行投資については、主に、単品通販型からのブランド再構築、およびマーケティングのデジタル化に投資していくと同社は述べている。
2021年12月期の営業損失には、キューサイ社連結によって計上した棚卸資産ステップアップ分の費用化4,842百万円が含まれていた。しかしながら、2022年12月期における影響額は大幅に縮小するとともに、2021年12月期末での残額1,865百万円は2022年12月期中に解消する見込みである。棚卸資産ステップアップ分は、買収時の棚卸資産の消化につれて費用化されていくことから、2022年12月期は下期にかけて営業損益が改善する見込みである。なお、棚卸資産ステップアップ分の費用は、調整後EBITDAの算出にあたっては足し戻されるため、調整後EBITDAに対しては影響しない。
実証プラントの運転や微細藻類ユーグレナの大規模培養実証を継続するほか、バイオジェット・ディーゼル燃料製造商業プラントの建設に向けた取り組みを推進すること等により、セグメント損益は赤字が継続する見込みである。また、バイオジェット燃料製造の実証事業及び燃料用微細藻類の海外培養実証に対する助成金収入を見込んでいる。
2021年12月期については、決算期変更に伴って15ヶ月分の予想を開示した2021年8月13日付の会社予想を期初予想として取り扱っている。
2021年12月期期末決算説明の中で、同社は2023年12月期まで3期連続成長、2026年12月期以降に売上高100,000百万円相当(下記注釈参照)を目指すとした。ヘルスケア事業の成長継続、キューサイ連結の通年寄与等により、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指す。調整後EBITDAも、3期連続成長を目指す。ヘルスケア事業の持続的成長、バイオ燃料事業商業化により、2026年12月期以降は売上高100,000百万円相当を目指す。
同社連結全体では、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指すとしているが、ヘルスケア事業の成長を見込んでいるものと推定される。これは、実証プラント段階で生産できるバイオ燃料の量はごく限られた量であり、エネルギー・環境事業の売上高貢献は小さいためである。
2022年12月期については成長投資を優先するものの、2023年12月期においては成長投資の成果により、EBITDAマージンの大幅改善を見込むとしている。2022年12月期はヘルスケア事業において広告宣伝投資を増加させるものの、2023年12月期には増加した定期顧客数が売上高に貢献していくことでマージンが改善することを同社は示唆している。
同社の2019年9月期は、創業以来初の減収決算および業績予想未達となった。この背景として、①ユーグレナ素材の認知度・利用の低さ、②企業・素材・商品ブランドの連携不足、③獲得チャネル・顧客層の偏りにより、同社の収益源となってきたヘルスケア事業の戦略が同社の想定通りには機能しなかったことがあった。このような反省を踏まえ、同社は2020年9月期以降、ブランドポートフォリオ戦略、デジタルマーケティング戦略、マルチチャネル戦略を実行してきた。
ブランドポートフォリオ戦略は、複数の主要ブランドを構築して最もパフォーマンスの良いブランドに広告宣伝費用を集中投下していくことで効果的で持続的な成長を実現することを目的とする。食品・化粧品それぞれにおいて、サステナビリティを打ち出す商品、ウェルエイジングを打ち出す商品、先進的な市場を創出していく商品のブランド群を拡充していく。同社の調査によれば、サステナビリティに対する意識と健康意識は高い相関関係にあることから、ヘルスケア領域においてはサステナビリティ対応の量と質が競争優位・差別化の源泉になると同社は考えている。また、より良い歳の取り方を提案するウェルエイジングマーケットでカテゴリーナンバーワンを目指していく。先進的な市場を創出していく商品では、「C COFFEE」に続いて新たなマーケットの開拓を目指す。
デジタルマーケティング戦略は、従来同社の中心を占めていたオフラインマーケティングからデジタルマーケティングへシフトするものである。デジタル化は、ミドル層(20代半ば~40代半ば)へのアプローチに必須なだけではなく、時間の経過につれてプレシニア層(40代半ば~60代半ば)へのアプロ―チにおいても重要性を増していくと同社は考えている。
マルチチャネル戦略は、直販(通販)だけではなく、リアル店舗であるドラッグストア・スーパーなどの流通チャネルに関する売上高比率を高めていくことを目的とする。これは、ミドル層が最もよく利用する健康食品(サプリメント)購入場所が流通チャネルであるためである。同社は、健康食品(サプリメント)の大手である株式会社ファンケル(東証1部、4921)や株式会社DHC(非上場)の強さの要因として、マルチチャネル化があると分析している。
2021年12月期は、これら3つの戦略が実りつつあり、定期購入顧客数の積み上げ、(キューサイ社を除く)直販オンライン売上高比率約50%の達成、流通売上高の拡大などの成果が生じている。2021年12月期は変則決算で15ヶ月決算であるが、第4四半期までの12か月間としては、キューサイ社の買収の影響を除いたヘルスケア事業の売上高は2018年9月期を上回り、過去最高となった。同社は、2022年12月期以降においても、これら3つの戦略を推進していく方針である。特にキューサイ社については、2021年12月期時点では売上高のほとんどがオフラインであるため、同社のオンラインマーケティングのノウハウを活かすことにより、売上高成長を見込むことができると同社は考えている。
同社は、キューサイ社の2025年12月期の目標について、売上高30,000百万円以上、EBITDA5,000~6,000百万円以上を目指すとしている。また、買収前には利益確保を優先して広告宣伝費(TVCM)が抑制されていたが、2021年12月期以降、再成長に向けてオンラインを含め新たな広告宣伝投資を拡大するとともに、経営改善策を推進するとしており、先行投資によりEBITDAは一時的に悪化すると述べている。同社が述べている2025年12月期の目標数値は、大規模なシナジーを想定しているものではなく、既存商品に関する広告宣伝投資を見直すことなどにより、解約数以上の新規顧客数を獲得することで達成可能と考えている数値であり、今後販売を開始する可能性がある新規商品に関する売上高・費用は含まれていないとのことである。なお、売上高30,000百万円は通販業界内で単品通販会社が実現可能な販売額の最大値と言われている水準であり、キューサイ社は2017年12月期において売上高29,700百万円、EBITDA5,200百万円を達成している。
短期的なシナジーとしては、同社とキューサイ社との共通機能部分のコスト削減が見込まれ、その規模は年間で数億円単位の前半を想定すると同社は述べている。中長期的には、同社のデジタルマーケティング・マルチチャネル化のノウハウをキューサイ社へ提供する、キューサイ社の製造ラインを同社へ提供するなどによるシナジーも見込んでいるとのことである。
2021年10月、同社は商業プラントの建設予定地における予備的基本設計を開始した。予備的基本設計とは、実行可能性調査の後に行われ、基本設計の前段階の概念設計等を意味する。建設予定地については、2か所まで絞られており、それぞれにパートナー候補が存在するとのことである。今後、パートナー候補企業と合意でき次第、基本設計に入り、2025年には商業プラントを完成させ、2026年から本格稼働に入りたいとしている。2025年時点でのプラント規模(同社持分相当額)は250,000KL/年以上を想定し、2030年に1百万KL/年以上の規模を目指すと同社は述べている。
2021年12月期期末決算説明会において、2025年に完成を計画する商業プラントの収益ポテンシャルとして、売上高50,000百万円、調整後EBITDA10,000百万円規模を想定すると同社は述べた。売上高50,000百万円の想定としては、バイオ燃料価格として200円/Lを想定し、同社持分相当の生産量250,000KL/年に基づき試算したとのことである。2022年2月上旬時点のバイオ燃料価格は約295円/Lであった。調整後EBITDAについては、EBITDAマージン20%以上を想定して試算したとのことである。
なお、バイオ燃料の主要原材料となる廃食油については、需要増により調達競争が激しくなりつつある。しかしながら、①2022年2月時点で明らかになっている各社の商業プラント計画から2026年以降も当面バイオ燃料の需給ギャップは継続する、②バイオ燃料のプレミアムは需給ギャップが解消しない限り残ると同社は考えている。
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。創業から15年が経過し、事業領域が拡大するとともに、ステークホルダーも多様化していることを踏まえたアップデートである。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。
今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。同社は先端的な研究開発の力を活用しながら、事業を通じて持続的な社会問題解決を図っていく。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
同社は「ミドリムシの会社」からアップデートし、「ユーグレナ社がありたい姿」として、ユーグレナ・フィロソフィーを「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」と掲げるとした。「Sustainability First」とは、「同社グループの仲間全員が「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法」を常に考え、行動している状態」であるとしている。
同社は「人と地球を健康にする」という経営理念のもと、ヘルスケアおよびエネルギー・環境分野を中心とした事業を展開してきた。「ユーグレナ社がありたい姿」を考えたときに、同社の成⻑が、社会問題の縮小になっていくべきあるという考えに同社は至った。目の前にある短期的な課題ではなく、未来がずっと続いていくために出来ることが「Sustainability(サステナビリティ)」であると同社は考えている。そして、今後は、ミドリムシを活用するだけでなく、サステナビリティを軸に同社の事業を展開するとした。様々なステークホルダーに向けて、自分の幸せが誰かの幸せと共存し続けることを目指す。また、サステナビリティを軸とした事業を展開することで、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることがサステナブルとなることを目指す。
英字の「euglena」は読みにくいという課題があったことから、より幅広い認知を企図して、ロゴをカタカナ表記に変更した。また、字体は、バイオ燃料から食品、化粧品まで幅広い事業領域で使用できるよう、汎用性と可読性の高い明朝体を採用した。
持続的な発展をイメージするインフィニティをモチーフに、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の細胞の躍動感をデザイン化し、ユーグレナの英語表記の頭文字である「e」、持続可能性を意味する「Sustainability(サステナビリティ)」の頭文字である「S」をデザインに込めた。
「サステナブル」をもっと身近に感じてほしい、生活に取り込んでほしい、自分にも当てはまると感じてしてほしい、行動変化させて欲しい、という思いから、「生きる」「楽しむ」という日常の中の幸せを感じられる言葉と並列させて「サステナブル」を配置した。並列させて記載することによって、サステナブルが、「生きる」こと「楽しむ」ことと同じことであると身近に考えてもらいたいという意図がある。また、あえて「サステナブる」と動詞的な造語で表現することで、単なる概念に満足せず、持続可能性について自問しながら具体的に行動し続けたいという意志を込めている。
常葉樹の葉の色のような深緑に永久不滅の象徴とされている「常磐緑」に空や海を連想される空色を混ぜ、地球のサイクルを単色で表現した独自色「サステナブル・グリーン」を定義した。もともと使用していた緑色に、持続可能な世界を目指す意志を込めながら、より一層人と地球を感じられるコーポレートカラーへと変更した。
同社は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う企業である。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。エネルギー・環境事業ではバイオ燃料の実証プラントが稼働中で商業化前のフェーズにあることから、同社の売上高のほぼすべてがヘルスケア事業によるものであり、ヘルスケア事業のキャッシュ・フローをエネルギー・環境事業等に投資している状況にある。2021年12月期の売上高は34,420百万円、営業損失は6,565百万円、調整後EBITDAは1,369百万円であった。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ株式会社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
微細藻類ユーグレナは、昆布やワカメなど藻類の一種で大きさは0.05mm、植物と動物の両方に分類される特異な生物。食物連鎖の最下位に位置し、太古から地球上の生命を支えてきた。水中の有機物、無機物を体内に取り込む特徴を持ち、植物性栄養素と動物性栄養素を併せ持ち、体内に油脂も生成する。その他の特長として、1)植物であるため、光合成で栄養素を生成するとともにCO2を吸収し温暖化対策にも有効、2)動物細胞と同様に細胞壁を持たないことから、植物よりも栄養成分の消化率が高い、3)食物繊維の一種で吸油性に優れ難消化性である独自の成分パラミロンを持つ点、があげられる。なお、ユーグレナと呼ばれる生物にも食品に向いたユーグレナ、油分を多く含むバイオ燃料に向いたユーグレナなど様々な種類が存在する。同社は、2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、以後ユーグレナを含む製品を主力製品として事業展開してきた。
パラミロン:食物繊維の一種で油の吸収性に優れており難消化性であるために人間の体内で吸収されずにそのまま外部で排出されるという特徴を持つ。
ヘルスケア事業では、主にユーグレナ粉末等を活用した機能性食品や飲料等の開発・販売及びユーグレナ粉末を加水分解したユーグレナエキス等を活用した化粧品の開発・販売を行ってきた。自社グループ商品の直販が中心であり、流通チャネルでの卸売、取引先向けのOEM製品の供給やユーグレナ粉末の原料卸売、ならびに中国等の海外向け展開を行っている。また、同社は、健康食品・スキンケア商品の通信販売を事業とするキューサイ社を連結子会社化し(計49%保有)、2021年12月期第4四半期から損益計算書に業績が反映されている。2021年12月期第5四半期時点の売上高としては、約4割がキューサイ社以外、約6割がキューサイ社で構成されている。
2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示している。同社は、2019年春から実証プラントの試運転を開始し、2022年現在稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業プラントの完成は2025年の見込みである。それまでの間、実証プラントをフル稼働しても精製されるバイオ燃料は年間125KLと限られていることから売上高への貢献は少額に留まる。実証プラントの設備投資額(約6,370百万円)については研究開発費として費用処理済みであるが、各種補助金を考慮しなければ年間数億円後半の規模でキャッシュが流出する。2022年2月時点ではバイオ燃料の主原料は経済的に有利な廃食油であり、ユーグレナ原料は実証目的で使用されている。
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
同社は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う、東京大学発のバイオテクノロジー企業。2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功した。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。また、同社が創業するきっかけとなったバングラデシュにおける栄養失調問題に代表される世界的な栄養問題の解決も目標として掲げる。
同社の設立は2005年8月ではあるが、出雲社長らは創業前の2000年からユーグレナを活用した商品の事業化に向けて取り組んできた。屋外培養プールの確保、そして東京大学を中心とした藻類研究の研究成果を活用することで、2005年12月にユーグレナの食品用途での屋外大量培養に世界で初めて成功。2006年にはサプリメント「ユーグレナv22~活力改革」をはじめとした3商品を発売し健康食品市場に参入し、2008年5月に伊藤忠商事(東証8001)との資本提携等を背景にOEM供給を開始、ヘルスケア事業の地歩を固めてきた。
並行して「バイオマスの5F」を策定し、ユーグレナの持つ利用可能性を重量単価(KGあたりの売価)の高いものから低いものへと順次参入していく戦略を進めた。生産コストの低減とともに、機能性食品から高機能化粧品、一般食品と商品ラインアップを拡大、そして、更なるコスト低減と株式市場への上場(2012年12月20日、東証マザーズ)による認知度及び信頼度が高まったこともあり、直販事業を本格化させていった。
OEM供給が拡大することで2010年9月期には営業黒字に転換し、事業基盤の確立に成功する。ただ、OEM供給と自社販売は競合関係にあるという前提のもと、OEM供給では成長速度及びブランドイメージのコントロールが難しいこと、そして東証上場等ブランドイメージの向上を考慮し、2013年9月期にOEM主体から直販主体へと事業モデルを転換した。ヘルスケア事業に占める直販部門の売上高構成比は、2018年9月期において70%超となった。また、モデル転換と並行してM&Aも積極化。生産拠点や直販の販路拡充を目的としてOEM供給先を自社グループ化することで、バリューチェーン拡大を図ってきた。
2019年9月期は、創業以来初の減収決算および業績予想未達となった。この背景として、①ユーグレナ素材の認知度・利用の低さ、②企業・素材・商品ブランドの連携不足、③獲得チャネル・顧客層の偏りにより、同社の収益源となってきたヘルスケア事業の戦略が同社の想定通りには機能しなかったことがある。このような反省を踏まえ、同社は2020年9月期以降、ブランドポートフォリオ戦略、デジタルマーケティング戦略、マルチチャネル戦略を実行してきた。
2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円(2018年は1,000百万円)、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円(2019年は4.5兆円)まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示した。2019年9月期に約6,370百万円を投じてバイオ燃料製造実証プラントを建設しており、バイオジェット燃料及びバイオディーゼル燃料の商業生産に向けた実証を行っている。同社は2021年現在、バイオ燃料事業の実証プラントを稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業化プラントの完成は2025年になる見込みである。
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。
2020年12月15日、同社、株式会社アドバンテッジパートナーズ(非上場の投資会社、以下AP社とする)がサービスを提供するファンド(APファンド)、および東京センチュリー株式会社(東証1部、8439)の3社は、3社が出資する特別目的会社(SPC)を通じて、コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社(東証1部、2579、以下CCBJH社とする)が保有するキューサイ株式会社の全株式を共同取得することを、CCBJH社と合意し、株式譲渡契約を締結した。2021年1月29日付で株式譲渡が実行され、さらに2021年5月には同社がSPCの株式を追加取得して、キューサイ社は同社の連結子会社となった(計49%保有)。キューサイ社は、健康食品・化粧品の通販会社であり、顧客層は同社と異なるものの、事業モデルは同社のヘルスケア事業に近い。
要約
事業概要
事業構造:株式会社ユーグレナ(以下、同社)は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う企業である。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。エネルギー・環境事業ではバイオ燃料の実証プラントが稼働中で商業化前のフェーズにあることから、同社の売上高のほぼすべてがヘルスケア事業によるものであり、ヘルスケア事業のキャッシュ・フローをエネルギー・環境事業等に投資している状況にある。2021年12月期の売上高は34,420百万円、営業損失は6,565百万円、調整後EBITDAは1,369百万円であった。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ株式会社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
ユーグレナとは:微細藻類ユーグレナは、昆布やワカメなど藻類の一種で大きさは0.05mm、植物と動物の両方に分類される特異な生物。食物連鎖の最下位に位置し、太古から地球上の生命を支えてきた。水中の有機物、無機物を体内に取り込む特徴を持ち、植物性栄養素と動物性栄養素を併せ持ち、体内に油脂も生成する。その他の特長として、1)植物であるため、光合成で栄養素を生成するとともにCO2を吸収し温暖化対策にも有効、2)動物細胞と同様に細胞壁を持たないことから、植物よりも栄養成分の消化率が高い、3)食物繊維の一種で吸油性に優れ難消化性である独自の成分パラミロンを持つ点、があげられる。なお、ユーグレナと呼ばれる生物にも食品に向いたユーグレナ、油分を多く含むバイオ燃料に向いたユーグレナなど様々な種類が存在する。同社は、2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、以後ユーグレナを含む製品を主力製品として事業展開してきた。
ヘルスケア事業セグメント:ヘルスケア事業では、主にユーグレナ粉末等を活用した機能性食品や飲料等の開発・販売及びユーグレナ粉末を加水分解したユーグレナエキス等を活用した化粧品の開発・販売を行ってきた。自社グループ商品の直販が中心であり、流通チャネルでの卸売、取引先向けのOEM製品の供給やユーグレナ粉末の原料卸売、ならびに中国等の海外向け展開を行っている。また、同社は、健康食品・スキンケア商品の通信販売を事業とするキューサイ社を連結子会社化し(計49%保有)、2021年12月期第4四半期から損益計算書に業績が反映されている。2021年12月期第5四半期時点の売上高としては、約4割がキューサイ社以外、約6割がキューサイ社で構成されている。
エネルギー・環境事業セグメント:2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示している。同社は、2019年春から実証プラントの試運転を開始し、2022年現在稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業プラントの完成は2025年の見込みである。それまでの間、実証プラントをフル稼働しても精製されるバイオ燃料は年間125KLと限られていることから売上高への貢献は少額に留まる。実証プラントの設備投資額(約6,370百万円)については研究開発費として費用処理済みであるが、各種補助金を考慮しなければ年間数億円後半の規模でキャッシュが流出する。2022年2月時点ではバイオ燃料の主原料は経済的に有利な廃食油であり、ユーグレナ原料は実証目的で使用されている。
商業プラントの収益ポテンシャル:2021年12月期期末決算説明会において、2025年に完成を計画する商業プラントの収益ポテンシャルとして、売上高50,000百万円、調整後EBITDA10,000百万円規模を想定すると同社は述べた。売上高50,000百万円の想定としては、バイオ燃料価格として200円/Lを想定し、同社持分相当の生産量250,000KL/年に基づき試算したとのことである。2022年2月上旬時点のバイオ燃料価格は約295円/Lであった。調整後EBITDAについては、EBITDAマージン20%以上を想定して試算したとのことである。
サステナビリティ・ファースト: 同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
業績動向
2021年12月期業績(15ヶ月決算):売上高は34,420百万円、営業損失は6,555百万円、経常損失は6,354百万円、親会社株主に帰属する当期純損失は5,039百万円、調整後EBITDAは1,369百万円となった。2021年12月期は15ヶ月決算であるため、単純な前年同期比較はできない。第5四半期の売上高は同社想定通り、第4四半期から横ばいで着地した。第4四半期の損益計算書から買収したキューサイ社が連結された。営業損失には、キューサイ社連結によって計上した棚卸資産ステップアップ分の費用化4,842百万円が含まれている。第5四半期の調整後EBITDAはヘルスケア事業における先行投資により第4四半期よりも減少したが、広告宣伝投資の最適化により修正予想比では改善した。この結果、通期の調整後EBITDAは1,369百万円となり、修正後会社予想の650百万円を上回った。
2022年12月期会社予想:2022年12月期通期の会社予想は、売上高48,000百万円、調整後EBITDA2,100百万円が示された。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。2021年12月期中に純増に転じた定期購入顧客からの商品購買に加えて、デジタルマーケティング及びブランディングへの投資、マルチチャネル化に向けた取組みの強化、ならびに2021年12月期に連結子会社となったキューサイ社が通期に渡り収益貢献すること等により、セグメント売上高は過去最高となる見込みである。実証プラントの運転や微細藻類ユーグレナの大規模培養実証を継続するほか、バイオジェット・ディーゼル燃料製造商業プラントの建設に向けた取り組みを推進すること等により、セグメント損益は赤字が継続する見込みである。また、バイオジェット燃料製造の実証事業及び燃料用微細藻類の海外培養実証に対する助成金収入を見込んでいる。
中期展望:2021年12月期期末決算説明の中で、同社は2023年12月期まで3期連続成長、2026年12月期以降に売上高100,000百万円相当(下記注釈参照)を目指すとした。ヘルスケア事業の成長継続、キューサイ連結の通年寄与等により、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指す。調整後EBITDAも、3期連続成長を目指す。ヘルスケア事業の持続的成長、バイオ燃料事業商業化により、2026年12月期以降は売上高100,000百万円相当を目指す。
同社の強みと弱み
同社の強みは、1)ユーグレナ素材に関する高いシェアおよびユーグレナ培養ノウハウ、2)ユーグレナ素材には、様々な用途への利用可能性があること、3)ヘルスケア領域だけでなく、先端投資領域・ソーシャルビジネスを事業ドメインとすることによる独自性・ブランド、であるとSR社では考える。
同社の弱みは、1)エネルギー・環境事業において、商業化までの間、年間数億円後半の規模の運転費用が必要であり、キャッシュ流出が継続すること、2)キューサイ社に関する追加投資資金を資本市場から調達するためには、高い成長期待を維持する必要があること、3)ユーグレナ素材の認知度が低い一方で、同社の売上高に対するユーグレナ素材に対する依存度が高いこと、であるとSR社では考える。
主要経営指標の推移
調整後EBITDAは、EBITDA(営業利益+のれん償却費及び減価償却費)+助成金収入+株式関連報酬+棚卸資産ステップアップ影響額として算出している。減価償却費については、研究開発費に含まれる減価償却費を含む。
業績動向
四半期実績推移
調整後EBITDAは、EBITDA(営業利益+のれん償却費及び減価償却費)+助成金収入+株式関連報酬として算出している。減価償却費については、研究開発費に含まれる減価償却費を含む。
2022年12月期第1四半期実績
業績概要
2022年12月期第1四半期実績:売上高は10,822百万円、営業損失は727百万円、経常利益は81百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は40百万円、調整後EBITDAは1,554百万円となった。2021年12月期は15ヶ月決算であるため、単純な前年同期比較はできない。2021年12月期第4四半期(7-9月期)の損益計算書から買収したキューサイ社が連結されている。
2022年12月期通期会社予想:同社は、期初予想を据え置いた。売上高は若干ビハインドであるものの、概ね計画範囲の進捗であると同社は述べている。ヘルスケア事業については、第2四半期以降、広告投資の拡大等により、通期予想売上高の達成を目指すとしている。調整後EBITDAは通期会社予想に対して74.0%の進捗率となっているが、季節要因により助成金収入が3月に集中したためである。業績予想の前提条件等の詳細については、後述の「2022年12月期会社予想」の項を参照されたい。
セグメント別業績
同社は、従来「ヘルスケア事業」「エネルギー・環境事業」を報告セグメントとしていた。しかし、それぞれに分類することが難しい事業内容の子会社や当社の事業活動が増えたことを踏まえ、2022年12月期第1四半期より、報告セグメントの区分を変更した。以下は、前年同期を新区分に組み替えた比較となっている。
主な変更点として、「ヘルスケア事業」に含んでいたアグリテック(一次産業)領域、バイオインフォマティクス領域、ソーシャルビジネス領域に関する事業活動を「その他事業」に移管した他、「エネルギー・環境事業」に含んでいた先端技術研究に伴う事業活動を「その他事業」に移管した。また、「エネルギー・環境事業」を「バイオ燃料事業」に名称を変更した。
また、報告セグメントごとの経営成績をより適切に評価するため、M&A付随費用は各セグメントへの配賦を行わずにセグメント利益の調整額に「全社費用」として計上する方法に変更した。
ヘルスケア事業
第1四半期におけるセグメント売上高は10,124百万円(前年同期比167.8%増)、セグメント損失は129百万円(前年同期は175百万円の利益)となった。なお、セグメント損失には、キューサイの連結子会社化に伴って計上した棚卸資産ステップアップの影響による費用増加額783百万円、取得原価の配分にあたり識別した無形資産およびのれんの償却費457百万円が含まれている。
広告パフォーマンスの悪化傾向を踏まえ、広告投資を抑制した。また、季節性によりダイエット商材の需要が減退した。結果として、直販を中心に売上高が2021年12月期第5四半期比で減少した。
バイオ燃料事業
第1四半期におけるセグメント売上高は22百万円(前年同期は2百万円)、セグメント損失は178百万円(前年同期は148百万円の損失)となった。
その他事業
第1四半期におけるセグメント売上高は677百万円(前年同期は128百万円)、セグメント損失は48百万円(前年同期は68百万円の損失)となった。
2022年12月期会社予想
2019年9月期の営業損失には、研究開発費として計上される建設関連費用約6,370百万円が含まれている。
調整後EBITDAは、EBITDA(営業利益+のれん償却費及び減価償却費)+助成金収入+株式関連報酬+棚卸資産ステップアップ影響額として算出している。減価償却費については、研究開発費に含まれる減価償却費を含む。
期初会社予想(2022年2月10日)
2022年12月期通期の会社予想は、売上高48,000百万円、調整後EBITDA2,100百万円が示された。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
キャッシュ・フロー重視の経営にシフトするため、開示指標にキャッシュ・フロー創出力を示す指標として調整後EBITDAを追加し、売上高と調整後EBITDAの2つを業績予想として公表している。調整後EBITDAは、EBITDA(営業利益+のれん償却費及び減価償却費)+助成金収入+株式関連報酬+棚卸資産ステップアップ影響額として算出している。営業利益など、他の利益項目についての予想は開示されていない。また、同社はセグメント別の業績予想を開示していない。
ヘルスケア事業
2021年12月期中に純増に転じた定期購入顧客からの商品購買に加えて、デジタルマーケティング及びブランディングへの投資、マルチチャネル化に向けた取組みの強化、ならびに2021年12月期に連結子会社となったキューサイ社が通期に渡り収益貢献すること等により、セグメント売上高は過去最高となる見込みである。売上高の内訳の詳細予想については、同社は開示していない。しかしながら、キューサイ社についても、キューサイ社以外の部分についても、増収を見込むと同社は述べている。
キューサイ社以外
キューサイ社が通年寄与となる2022年12月期は、同社連結で調整後EBITDAの上乗せ要因となるため、投資余力が拡大したということもできる。同社は、2021年12月期においては、キューサイ以外のヘルスケア事業においても、広告宣伝投資を拡大する方針である。
なお、2022年12月期においては、2月にローンチした化粧品ブランド「CONC(コンク)」のほか、サステナビリティ視点で化粧品の新ブランドのローンチが予定されている。新たなブランドについては緩やかに立ち上げ、製品や広告を調整しながら拡大していくことから、2022年12月期ではコスト先行となることを想定している。
キューサイ社
キューサイ社については、LBOローンに関する財務制限条項が存在するため、この制限に抵触しない範囲で広告宣伝投資を行う必要がある。キューサイ社に関する先行投資については、主に、単品通販型からのブランド再構築、およびマーケティングのデジタル化に投資していくと同社は述べている。
2021年12月期の営業損失には、キューサイ社連結によって計上した棚卸資産ステップアップ分の費用化4,842百万円が含まれていた。しかしながら、2022年12月期における影響額は大幅に縮小するとともに、2021年12月期末での残額1,865百万円は2022年12月期中に解消する見込みである。棚卸資産ステップアップ分は、買収時の棚卸資産の消化につれて費用化されていくことから、2022年12月期は下期にかけて営業損益が改善する見込みである。なお、棚卸資産ステップアップ分の費用は、調整後EBITDAの算出にあたっては足し戻されるため、調整後EBITDAに対しては影響しない。
エネルギー・環境事業
実証プラントの運転や微細藻類ユーグレナの大規模培養実証を継続するほか、バイオジェット・ディーゼル燃料製造商業プラントの建設に向けた取り組みを推進すること等により、セグメント損益は赤字が継続する見込みである。また、バイオジェット燃料製造の実証事業及び燃料用微細藻類の海外培養実証に対する助成金収入を見込んでいる。
過去の会社予想と実績との差異
中期展望
2021年12月期期末決算説明の中で、同社は2023年12月期まで3期連続成長、2026年12月期以降に売上高100,000百万円相当(下記注釈参照)を目指すとした。ヘルスケア事業の成長継続、キューサイ連結の通年寄与等により、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指す。調整後EBITDAも、3期連続成長を目指す。ヘルスケア事業の持続的成長、バイオ燃料事業商業化により、2026年12月期以降は売上高100,000百万円相当を目指す。
各事業の展望
ヘルスケア事業
同社連結全体では、2022年12月期は売上高48,000百万円を予想し、2023年12月期も10%超の成長を目指すとしているが、ヘルスケア事業の成長を見込んでいるものと推定される。これは、実証プラント段階で生産できるバイオ燃料の量はごく限られた量であり、エネルギー・環境事業の売上高貢献は小さいためである。
2022年12月期については成長投資を優先するものの、2023年12月期においては成長投資の成果により、EBITDAマージンの大幅改善を見込むとしている。2022年12月期はヘルスケア事業において広告宣伝投資を増加させるものの、2023年12月期には増加した定期顧客数が売上高に貢献していくことでマージンが改善することを同社は示唆している。
成長戦略
同社の2019年9月期は、創業以来初の減収決算および業績予想未達となった。この背景として、①ユーグレナ素材の認知度・利用の低さ、②企業・素材・商品ブランドの連携不足、③獲得チャネル・顧客層の偏りにより、同社の収益源となってきたヘルスケア事業の戦略が同社の想定通りには機能しなかったことがあった。このような反省を踏まえ、同社は2020年9月期以降、ブランドポートフォリオ戦略、デジタルマーケティング戦略、マルチチャネル戦略を実行してきた。
ブランドポートフォリオ戦略は、複数の主要ブランドを構築して最もパフォーマンスの良いブランドに広告宣伝費用を集中投下していくことで効果的で持続的な成長を実現することを目的とする。食品・化粧品それぞれにおいて、サステナビリティを打ち出す商品、ウェルエイジングを打ち出す商品、先進的な市場を創出していく商品のブランド群を拡充していく。同社の調査によれば、サステナビリティに対する意識と健康意識は高い相関関係にあることから、ヘルスケア領域においてはサステナビリティ対応の量と質が競争優位・差別化の源泉になると同社は考えている。また、より良い歳の取り方を提案するウェルエイジングマーケットでカテゴリーナンバーワンを目指していく。先進的な市場を創出していく商品では、「C COFFEE」に続いて新たなマーケットの開拓を目指す。
デジタルマーケティング戦略は、従来同社の中心を占めていたオフラインマーケティングからデジタルマーケティングへシフトするものである。デジタル化は、ミドル層(20代半ば~40代半ば)へのアプローチに必須なだけではなく、時間の経過につれてプレシニア層(40代半ば~60代半ば)へのアプロ―チにおいても重要性を増していくと同社は考えている。
マルチチャネル戦略は、直販(通販)だけではなく、リアル店舗であるドラッグストア・スーパーなどの流通チャネルに関する売上高比率を高めていくことを目的とする。これは、ミドル層が最もよく利用する健康食品(サプリメント)購入場所が流通チャネルであるためである。同社は、健康食品(サプリメント)の大手である株式会社ファンケル(東証1部、4921)や株式会社DHC(非上場)の強さの要因として、マルチチャネル化があると分析している。
2021年12月期は、これら3つの戦略が実りつつあり、定期購入顧客数の積み上げ、(キューサイ社を除く)直販オンライン売上高比率約50%の達成、流通売上高の拡大などの成果が生じている。2021年12月期は変則決算で15ヶ月決算であるが、第4四半期までの12か月間としては、キューサイ社の買収の影響を除いたヘルスケア事業の売上高は2018年9月期を上回り、過去最高となった。同社は、2022年12月期以降においても、これら3つの戦略を推進していく方針である。特にキューサイ社については、2021年12月期時点では売上高のほとんどがオフラインであるため、同社のオンラインマーケティングのノウハウを活かすことにより、売上高成長を見込むことができると同社は考えている。
キューサイ株式会社についての補足
同社は、キューサイ社の2025年12月期の目標について、売上高30,000百万円以上、EBITDA5,000~6,000百万円以上を目指すとしている。また、買収前には利益確保を優先して広告宣伝費(TVCM)が抑制されていたが、2021年12月期以降、再成長に向けてオンラインを含め新たな広告宣伝投資を拡大するとともに、経営改善策を推進するとしており、先行投資によりEBITDAは一時的に悪化すると述べている。同社が述べている2025年12月期の目標数値は、大規模なシナジーを想定しているものではなく、既存商品に関する広告宣伝投資を見直すことなどにより、解約数以上の新規顧客数を獲得することで達成可能と考えている数値であり、今後販売を開始する可能性がある新規商品に関する売上高・費用は含まれていないとのことである。なお、売上高30,000百万円は通販業界内で単品通販会社が実現可能な販売額の最大値と言われている水準であり、キューサイ社は2017年12月期において売上高29,700百万円、EBITDA5,200百万円を達成している。
短期的なシナジーとしては、同社とキューサイ社との共通機能部分のコスト削減が見込まれ、その規模は年間で数億円単位の前半を想定すると同社は述べている。中長期的には、同社のデジタルマーケティング・マルチチャネル化のノウハウをキューサイ社へ提供する、キューサイ社の製造ラインを同社へ提供するなどによるシナジーも見込んでいるとのことである。
エネルギー・環境事業
商業プラントに関するスケジュール(2022年2月時点の見込み)
2021年10月、同社は商業プラントの建設予定地における予備的基本設計を開始した。予備的基本設計とは、実行可能性調査の後に行われ、基本設計の前段階の概念設計等を意味する。建設予定地については、2か所まで絞られており、それぞれにパートナー候補が存在するとのことである。今後、パートナー候補企業と合意でき次第、基本設計に入り、2025年には商業プラントを完成させ、2026年から本格稼働に入りたいとしている。2025年時点でのプラント規模(同社持分相当額)は250,000KL/年以上を想定し、2030年に1百万KL/年以上の規模を目指すと同社は述べている。
商業プラントの収益ポテンシャル(2022年2月時点の見込み)
2021年12月期期末決算説明会において、2025年に完成を計画する商業プラントの収益ポテンシャルとして、売上高50,000百万円、調整後EBITDA10,000百万円規模を想定すると同社は述べた。売上高50,000百万円の想定としては、バイオ燃料価格として200円/Lを想定し、同社持分相当の生産量250,000KL/年に基づき試算したとのことである。2022年2月上旬時点のバイオ燃料価格は約295円/Lであった。調整後EBITDAについては、EBITDAマージン20%以上を想定して試算したとのことである。
なお、バイオ燃料の主要原材料となる廃食油については、需要増により調達競争が激しくなりつつある。しかしながら、①2022年2月時点で明らかになっている各社の商業プラント計画から2026年以降も当面バイオ燃料の需給ギャップは継続する、②バイオ燃料のプレミアムは需給ギャップが解消しない限り残ると同社は考えている。
サステナビリティ推進に向けた取り組み
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。創業から15年が経過し、事業領域が拡大するとともに、ステークホルダーも多様化していることを踏まえたアップデートである。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。
今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。同社は先端的な研究開発の力を活用しながら、事業を通じて持続的な社会問題解決を図っていく。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
ユーグレナ・フィロソフィー 「Sustainability First」
同社は「ミドリムシの会社」からアップデートし、「ユーグレナ社がありたい姿」として、ユーグレナ・フィロソフィーを「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」と掲げるとした。「Sustainability First」とは、「同社グループの仲間全員が「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法」を常に考え、行動している状態」であるとしている。
同社は「人と地球を健康にする」という経営理念のもと、ヘルスケアおよびエネルギー・環境分野を中心とした事業を展開してきた。「ユーグレナ社がありたい姿」を考えたときに、同社の成⻑が、社会問題の縮小になっていくべきあるという考えに同社は至った。目の前にある短期的な課題ではなく、未来がずっと続いていくために出来ることが「Sustainability(サステナビリティ)」であると同社は考えている。そして、今後は、ミドリムシを活用するだけでなく、サステナビリティを軸に同社の事業を展開するとした。様々なステークホルダーに向けて、自分の幸せが誰かの幸せと共存し続けることを目指す。また、サステナビリティを軸とした事業を展開することで、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることがサステナブルとなることを目指す。
新コーポレートロゴ
ロゴタイプ
英字の「euglena」は読みにくいという課題があったことから、より幅広い認知を企図して、ロゴをカタカナ表記に変更した。また、字体は、バイオ燃料から食品、化粧品まで幅広い事業領域で使用できるよう、汎用性と可読性の高い明朝体を採用した。
ロゴマーク
持続的な発展をイメージするインフィニティをモチーフに、微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の細胞の躍動感をデザイン化し、ユーグレナの英語表記の頭文字である「e」、持続可能性を意味する「Sustainability(サステナビリティ)」の頭文字である「S」をデザインに込めた。
タグライン「いきる、たのしむ、サステナブる。」
「サステナブル」をもっと身近に感じてほしい、生活に取り込んでほしい、自分にも当てはまると感じてしてほしい、行動変化させて欲しい、という思いから、「生きる」「楽しむ」という日常の中の幸せを感じられる言葉と並列させて「サステナブル」を配置した。並列させて記載することによって、サステナブルが、「生きる」こと「楽しむ」ことと同じことであると身近に考えてもらいたいという意図がある。また、あえて「サステナブる」と動詞的な造語で表現することで、単なる概念に満足せず、持続可能性について自問しながら具体的に行動し続けたいという意志を込めている。
新コーポレートカラー
常葉樹の葉の色のような深緑に永久不滅の象徴とされている「常磐緑」に空や海を連想される空色を混ぜ、地球のサイクルを単色で表現した独自色「サステナブル・グリーン」を定義した。もともと使用していた緑色に、持続可能な世界を目指す意志を込めながら、より一層人と地球を感じられるコーポレートカラーへと変更した。
事業内容、市場とバリューチェーン
事業概要
事業構造
同社は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う企業である。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。エネルギー・環境事業ではバイオ燃料の実証プラントが稼働中で商業化前のフェーズにあることから、同社の売上高のほぼすべてがヘルスケア事業によるものであり、ヘルスケア事業のキャッシュ・フローをエネルギー・環境事業等に投資している状況にある。2021年12月期の売上高は34,420百万円、営業損失は6,565百万円、調整後EBITDAは1,369百万円であった。2021年12月期は15ヶ月決算であり、また期中にキューサイ株式会社を買収したことから、単純な前年同期比較はできない。
ユーグレナとは
微細藻類ユーグレナは、昆布やワカメなど藻類の一種で大きさは0.05mm、植物と動物の両方に分類される特異な生物。食物連鎖の最下位に位置し、太古から地球上の生命を支えてきた。水中の有機物、無機物を体内に取り込む特徴を持ち、植物性栄養素と動物性栄養素を併せ持ち、体内に油脂も生成する。その他の特長として、1)植物であるため、光合成で栄養素を生成するとともにCO2を吸収し温暖化対策にも有効、2)動物細胞と同様に細胞壁を持たないことから、植物よりも栄養成分の消化率が高い、3)食物繊維の一種で吸油性に優れ難消化性である独自の成分パラミロンを持つ点、があげられる。なお、ユーグレナと呼ばれる生物にも食品に向いたユーグレナ、油分を多く含むバイオ燃料に向いたユーグレナなど様々な種類が存在する。同社は、2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、以後ユーグレナを含む製品を主力製品として事業展開してきた。
ヘルスケア事業セグメント
ヘルスケア事業では、主にユーグレナ粉末等を活用した機能性食品や飲料等の開発・販売及びユーグレナ粉末を加水分解したユーグレナエキス等を活用した化粧品の開発・販売を行ってきた。自社グループ商品の直販が中心であり、流通チャネルでの卸売、取引先向けのOEM製品の供給やユーグレナ粉末の原料卸売、ならびに中国等の海外向け展開を行っている。また、同社は、健康食品・スキンケア商品の通信販売を事業とするキューサイ社を連結子会社化し(計49%保有)、2021年12月期第4四半期から損益計算書に業績が反映されている。2021年12月期第5四半期時点の売上高としては、約4割がキューサイ社以外、約6割がキューサイ社で構成されている。
エネルギー・環境事業セグメント
2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示している。同社は、2019年春から実証プラントの試運転を開始し、2022年現在稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業プラントの完成は2025年の見込みである。それまでの間、実証プラントをフル稼働しても精製されるバイオ燃料は年間125KLと限られていることから売上高への貢献は少額に留まる。実証プラントの設備投資額(約6,370百万円)については研究開発費として費用処理済みであるが、各種補助金を考慮しなければ年間数億円後半の規模でキャッシュが流出する。2022年2月時点ではバイオ燃料の主原料は経済的に有利な廃食油であり、ユーグレナ原料は実証目的で使用されている。
商業プラントの収益ポテンシャル
2021年12月期期末決算説明会において、2025年に完成を計画する商業プラントの収益ポテンシャルとして、売上高50,000百万円、調整後EBITDA10,000百万円規模を想定すると同社は述べた。売上高50,000百万円の想定としては、バイオ燃料価格として200円/Lを想定し、同社持分相当の生産量250,000KL/年に基づき試算したとのことである。2022年2月上旬時点のバイオ燃料価格は約295円/Lであった。調整後EBITDAについては、EBITDAマージン20%以上を想定して試算したとのことである。
サステナビリティ・ファースト
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
事業展開の歴史
屋外大量培養技術
同社は微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術を基に機能性食品・化粧品・飼料・燃料など様々な用途開拓を行う、東京大学発のバイオテクノロジー企業。2005年12月に食用屋外大量培養に世界で初めて成功した。主力事業は機能性食品・化粧品の製造販売を中心とするヘルスケア事業だが、中期的にはバイオディーゼル燃料およびバイオジェット燃料などのエネルギー・環境事業での実用化を目指している。また、同社が創業するきっかけとなったバングラデシュにおける栄養失調問題に代表される世界的な栄養問題の解決も目標として掲げる。
ヘルスケア事業として健康食品市場に参入
同社の設立は2005年8月ではあるが、出雲社長らは創業前の2000年からユーグレナを活用した商品の事業化に向けて取り組んできた。屋外培養プールの確保、そして東京大学を中心とした藻類研究の研究成果を活用することで、2005年12月にユーグレナの食品用途での屋外大量培養に世界で初めて成功。2006年にはサプリメント「ユーグレナv22~活力改革」をはじめとした3商品を発売し健康食品市場に参入し、2008年5月に伊藤忠商事(東証8001)との資本提携等を背景にOEM供給を開始、ヘルスケア事業の地歩を固めてきた。
商品ラインアップを拡大
並行して「バイオマスの5F」を策定し、ユーグレナの持つ利用可能性を重量単価(KGあたりの売価)の高いものから低いものへと順次参入していく戦略を進めた。生産コストの低減とともに、機能性食品から高機能化粧品、一般食品と商品ラインアップを拡大、そして、更なるコスト低減と株式市場への上場(2012年12月20日、東証マザーズ)による認知度及び信頼度が高まったこともあり、直販事業を本格化させていった。
OEM供給によるヘルスケア事業基盤の確立と直販モデルへの事業構造転換
OEM供給が拡大することで2010年9月期には営業黒字に転換し、事業基盤の確立に成功する。ただ、OEM供給と自社販売は競合関係にあるという前提のもと、OEM供給では成長速度及びブランドイメージのコントロールが難しいこと、そして東証上場等ブランドイメージの向上を考慮し、2013年9月期にOEM主体から直販主体へと事業モデルを転換した。ヘルスケア事業に占める直販部門の売上高構成比は、2018年9月期において70%超となった。また、モデル転換と並行してM&Aも積極化。生産拠点や直販の販路拡充を目的としてOEM供給先を自社グループ化することで、バリューチェーン拡大を図ってきた。
ブランディングの強化
2019年9月期は、創業以来初の減収決算および業績予想未達となった。この背景として、①ユーグレナ素材の認知度・利用の低さ、②企業・素材・商品ブランドの連携不足、③獲得チャネル・顧客層の偏りにより、同社の収益源となってきたヘルスケア事業の戦略が同社の想定通りには機能しなかったことがある。このような反省を踏まえ、同社は2020年9月期以降、ブランドポートフォリオ戦略、デジタルマーケティング戦略、マルチチャネル戦略を実行してきた。
バイオ燃料製造事業の事業化に向けた試み
2025年のバイオジェット燃料市場(世界)の市場規模は1兆円(2018年は1,000百万円)、バイオディーゼル燃料市場(世界)は7.5兆円(2019年は4.5兆円)まで増加すると見込まれる(同社調べ)ことから、同社はバイオ燃料の製造事業を事業化する方針を示した。2019年9月期に約6,370百万円を投じてバイオ燃料製造実証プラントを建設しており、バイオジェット燃料及びバイオディーゼル燃料の商業生産に向けた実証を行っている。同社は2021年現在、バイオ燃料事業の実証プラントを稼働中であるが、順調に実証が進んだとしても、商業化プラントの完成は2025年になる見込みである。
サステナビリティ推進に向けた取り組み
同社は、2020年8月、創業15周年を迎えたことを機に、「ミドリムシ」の会社から「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へアップデートするとした。複雑になっていた経営理念(人と地球を健康に)、ビジョン、スローガンを廃止し、将来にわたって変わることのない哲学を持ち、強い組織となるため、新たに「ユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)」として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げると共に、より幅広い認知を企図して、コーポレートロゴをカタカナ表記に刷新した。
今後は、サステナビリティを軸とした更なる事業を展開し、顧客が同社の展開する事業や商品に触れることでサステナブルになることを目指すとしている。同社は先端的な研究開発の力を活用しながら、事業を通じて持続的な社会問題解決を図っていく。ヘルスケア事業では、一時の健康ではなく、生涯続く健康を支援する。また、環境の意識の高さ・低さに関わらず、消費者が意識せずとも、環境に配慮した行動をとれる状態を目指す。エネルギー・環境事業では、バイオ燃料の利用実績が少ない日本に具体的な解決策を提示する。また、オーガニックな成長だけでは社会変革を進めるうえでスピード感が足りないとして、M&Aにより積極的に新規領域へ進出し、より多くの企業をサステナブルな会社に変革していくとしている。
キューサイ社の連結子会社化
2020年12月15日、同社、株式会社アドバンテッジパートナーズ(非上場の投資会社、以下AP社とする)がサービスを提供するファンド(APファンド)、および東京センチュリー株式会社(東証1部、8439)の3社は、3社が出資する特別目的会社(SPC)を通じて、コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社(東証1部、2579、以下CCBJH社とする)が保有するキューサイ株式会社の全株式を共同取得することを、CCBJH社と合意し、株式譲渡契約を締結した。2021年1月29日付で株式譲渡が実行され、さらに2021年5月には同社がSPCの株式を追加取得して、キューサイ社は同社の連結子会社となった(計49%保有)。キューサイ社は、健康食品・化粧品の通販会社であり、顧客層は同社と異なるものの、事業モデルは同社のヘルスケア事業に近い。
ヘルスケア事業
厳密には、売上総利益にはエネルギー・環境事業の売上総利益が含まれるが、売上高のほぼすべてがヘルスケア事業から生じているため、ここでは考慮していない。