株式会社インフォマート(以下、同社)は、フード業界向けを中心に企業間電子商取引のプラットフォームを提供するインターネットサービス企業である。同社はプラットフォームの利用企業から月額使用料(定額制または従量制)を得るとともに、新規顧客からはシステム利用に向けたセットアップ費用を得る。売上高の約95%が月額使用料で、解約率も低いことから安定した収入基盤を確立している企業と位置付けられる。サービス開始前にシステム開発費など先行投資が発生する一方、サービス開始後は高い限界利益率を確保できるビジネスモデルとなっている。2021年12月期の業績は、売上高9,836百万円(前期比12.1%増)、営業利益1,031百万円(同30.0%減)、営業利益率10.5%(前期16.8%)となった。事業セグメントは2つに区分される。
BtoB-PF(プラットフォーム)FOOD事業:売上高7,000百万円(構成比71.2%)、営業利益2,164百万円、営業利益率30.9%。同事業では外食チェーン、個店(飲食店)など外食事業者と卸売事業者の間の電子商取引プラットフォームを提供する。主なプラットフォームとしては、BtoB-PF 受発注(外食と卸会社、卸会社と食品メーカーの受発注をインターネット上で行うプラットフォーム)、BtoB-PF 規格書(食品メーカーが製造する加工食品の商品規格をデータベース化して卸会社や外食産業へ提供するプットフォーム)がある。同受発注システムは食材の売り手と買い手の双方が導入することにより機能するシステムであり、利用企業数が増えるほど利便性が高まる(ネットワーク効果)。解約は、仕入先もしくは販路を失うリスクを伴うため、廃業など特殊な事情を除けば発生しにくいとのこと。
BtoB-PF ES事業:売上高2,835百万円(構成比28.8%)、営業損失1,138百万円。同事業では、業種を問わず請求書や契約書などの電子化を推進する。主なプラットフォームとしては、BtoB-PF 請求書(電子化された請求書を作成、発信、受取、管理するプラットフォーム)、BtoB-PF 商談(取引先の発掘、商談・見積、受発注、決済までをワンストップで提供するプラットフォーム)、BtoB-PF 契約書(企業間における契約書の締結・管理・ワークフロー・社内承認を電子化し、Web上で一元管理できるプラットフォーム)、がある。
利用社数は拡大:2021年12月末の同社のプラットフォーム利用社数は全サービス計679,684社(前年同月比30.1%増)、1,309,477事業所(同26.8%増)、同社のプラットフォームを利用した取引の総額は18.5兆円(2021年12月期、前期比45.3%増)となった。2021年12月末のBtoB-PF 受発注の利用社数は、買い手企業(食材を仕入れる外食、ホテルチェーンなど)が3,439社(同8.0%増)で浸透率は約45%、売り手企業(メーカーや卸売)が40,120社(同5.8%増)で浸透率は約55%であった。ただ、同社が2021年に行った食品卸企業向けのアンケート調査によると、電話やFAXによる受注が未だ約80%であった。BtoB-PF 請求書の利用はフード業界にとどまらず拡大しており、2021年12月末時点で670,528社(同30.7%増)となった。BtoB-PF契約書は2018年に開始した比較的新しいサービスであり、2021年12月末時点で利用企業数(ログイン社数)27,296社(同103.3%増)と拡大した。
2021年12月期実績は売上高が9,836百万円(前期比12.1%増)、営業利益が1,031百万円(同30.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が539百万円(同46.9%減)であった。「BtoB-PF 受発注」および「BtoB-PF 規格書」における管理システムのクラウド化を求める買い手企業の新規稼働が増加、買い手企業のシステム使用料が増加し、BtoB-PF FOOD事業の売上高は前期比4.7%増。一方、「BtoB-PF 請求書」の有料契約企業数が増加しBtoB-PF ES事業の売上高は同36.0%増。サーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費の増加、人件費の増加により、営業利益は減益となった。
2022年12月期の会社予想は売上高が10,986百万円(前期比11.7%増)、営業利益100百万円(同90.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益43百万円(同92.0%減)である。BtoB-PF FOOD事業の売上高は同8.8%増を予想する。フード業界におけるDX化から「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する。BtoB-PF ES事業の売上高は、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始を追い風に、同18.8%増を予想する。営業利益は、サーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費、人件費の増加から同90.3%減の計画である。
同社は2022年2月に中期経営方針を発表した。大きな柱としては「成長に向けた積極投資」、「収益源多角化の加速」に取り組み、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を目標とする。5年間の平均成長率は、全売上高が年16%増、うちBtoB-PF FOOD事業が年8%増、BtoB-PF ES事業が年30%増を計画する。BtoB-PF FOOD事業のうち、BtoB-PF 受発注が年5%増、BtoB-PF 受発注ライトが年10%増、BtoB-PF ES事業のうちBtoB-PF 請求書が年35%増を計画する。
SR社では、同社の強みを、1)トップシェアの地位にある取引システムであること、2)月額使用料を中心とした強固な収益構造、3)高い財務健全性、と考える。一方、弱みは、1)相対的な規模の小ささ、2)新規サービスでの立ち上げ負担、3)業界内で(完全に)標準化されるまでには至っていない、点と考える。(後述の「SW(Strengths, Weaknesses)分析」の項参照)
2022年12月期上期会社予想に対する進捗率は、売上高が49.0%(前年同期の前期上期に対する進捗率49.0%)、営業利益が524.9%(同54.3%)、経常利益3395.4%(同55.2%)、親会社株主に帰属する四半期純利益344.8%(同61.8%)であった。
2022年12月期通期会社予想に対する進捗率は、売上高が23.3%(前年同期の前期通期に対する進捗率23.4%)、営業利益が183.7%(同37.2%)、経常利益414.1%(同39.3%)、親会社株主に帰属する四半期純利益256.6%(同53.0%)であった。
売上高は2,561百万円(前年同期期比11.4%増)となった。BtoBプラットフォーム(BtoB-PF) FOOD事業(同9.0%増)において、「BtoB-PF 受発注」および「BtoB-PF 規格書」における管理システムのクラウド化を求める買い手企業の新規稼働が増加した。それに伴い、買い手企業のシステム使用料が増加した。
BtoB-PF ES事業(同17.3%増)では、「BtoB-PF 請求書」における業務効率化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)化への関心の高まりと、テレワーク進展によるシステム使用料が増加した。
2022年12月期第1四半期末のBtoBプラットフォームの利用企業数は716,260社(同26.4%増)、利用事業所数は1,381,740事業所(同25.5%増)となった。
営業利益は184百万円(同52.1%減)であった。増益要因は、BtoB-PF FOOD事業の増収149百万円、BtoB-PF ES事業の増収111百万円であった。一方、主な減益要因は、利用拡大に応じたサーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費の増加323百万円、販売促進費の増加40百万円、営業・営業サポート人員の補強により人件費の増加13百万円、などであった。
売上高:1,807百万円(前年同期比9.0%増)
営業利益:490百万円(同19.1%減)
売上高は1,807百万円(前年同期比9.0%増)となった。「BtoB-PF 受発注」では、買い手企業において、居酒屋、外食、ホテル、給食、テイクアウト・デリバリー等の新業態などで、管理システムをクラウド化を目的に新規契約数が増加し、買い手企業のシステム使用料売上高が増加した。売り手企業は、新型コロナウイルス感染症に関する規制が緩和されたことにより、食材等の流通金額が増加し、売り手企業(従量制)のシステム使用料が前年同期比で増加した。「BtoB-PF 規格書」では、利用企業数が増加し、システム使用料が増加した。
利用企業数(買い手企業と売り手企業の合計)は、「BtoB-PF 受発注」が44,082社(同6.0%増) および「BtoB-PF 規格書」が10,973社(同5.3%増)と、いずれも増加した。
営業利益は490百万円(同19.1%減)となった。
売上高:754百万円(前年同期比17.3%増)
営業損失:310百万円(前年同期の営業損失221百万円)
売上高は754百万円(前年同期比17.3%増)となった。「BtoB PF 請求書」は、業務効率化やDX化、テレワークの定着により、フード業界のみならず幅広い業界で受取側・発行側の新規有料契約企業数が増加した。また、その稼働(請求書の電子データ化)が堅調に進んだことにより、システム使用料売上が増加した。
BtoB PF 請求書の利用企業数は707,168社(同27.0%増)、その内数である受取側契約企業数が4,435社(同21.8%増)、発行側計契約企業数2,536社(同32.7%増)となった。
営業損失は310百万円となった。「BtoB PF 請求書」の事業拡大のため必要な営業部門の人員補強による人件費およびマーケティング施策の実施による販売促進費が増加した。
取組姿勢:2022年12月期は減益の計画であるが、中期的な売上成長を加速するための投資の期間と位置付ける。具体的には、ユーザー数の拡大に応じてサーバー体制を増強し、信頼性を維持する。また、新規の立ち上げ・既存領域の再注力に対する開発費・販促費を投入する。
売上高:「BtoB-PF FOOD事業」は前期比8.8%増を予想する。コロナ禍を契機としたフード業界におけるDX化による経営の高度化へのニーズを的確に捉え、「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する計画である。また、「BtoBプラットフォーム 受発注」の売り手企業の従量制売上高(食材取引高に応じて課金)の増加を予想する。「BtoB-PF ES事業」は同18.8%増を予想する。「BtoBプラットフォーム 請求書」は、企業のテレワークの定着、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始(2023年)を背景としたDX化により、引き続き高い成長を維持すると予想する。
営業利益: データセンター費は、2021年7月から実施した災害復旧対策費用が年間を通じて発生することから前期比53.2%増を計画する。2023年12期以降のデータセンター費の増加は緩やかとなる見込みである。ソフトウェア償却費は、ソフトウエア開発投資の継続により同22.2%増を予想する。営業部門などの補強により人件費は同7.9%増を見込む。結果、営業利益は100百万円(同90.3%減)の計画である。
売上高は7,619百万円(前期比8.8%増)を計画する。外食チェーン・個店および卸、それぞれのニーズに対応し、外食と卸間取引の電子化を促進する。具体的には、「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する計画である。また、「BtoBプラットフォーム 受発注」の売り手企業の従量制売上高(食材取引高に応じて課金)の増加を予想する。
売上高は3,367百万円(前期比18.8%増)を計画する。「BtoBプラットフォーム 請求書」は、企業のテレワークの定着、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始(2023年)を背景としたDX化により、引き続き高い成長を維持すると予想する。
2022年2月に中期経営方針を発表した。大きな柱としては、「成長に向けた積極投資」、「収益源多角化の加速」に取り組み、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を目標とする。
同社は他社との協業や事業買収を推進し、BtoB-PF FOOD事業およびBtoB-PF ES事業においてBtoBプラットフォームの価値増大とその盤石化に向け取り組む。また、BtoB-PF ES事業のBtoB-PF請求書は、2023年10月に開始されるインボイス制度の導入を背景としたDX化のニーズを捉え、利用企業数拡大に向けた販売促進費・システム開発費・人件費の積極的な投資により、競合に対して優位なポジションを獲得する方針である。
インボイス制度では課税事業者がインボイス(適格請求書)の発行が義務付けられる。取引の売手は、買手から求められたときにはインボイスを交付しなければならず、買手は原則として売手から交付を受けたインボイスの保存が必要となる。インボイス制度に対応していない経理システムを利用している企業は、既存システムを改良または新規システムを導入する必要がある。
これまでの「収益源の多角化への仕掛け」として実施した既存および新規の取組みを加速させ、圧倒的な法人会員基盤を基にした新たなビジネスモデルを協業企業と共に創造し、様々な分野・サービスでデファクトスタンダード化を目指す。
同社は数値目標として、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を掲げる。5年間の平均成長率は、全売上高が年16%増、うちBtoB-PF FOOD事業が年8%増、BtoB-PF ES事業が年30%増を計画する。BtoB-PF FOOD事業のうち、BtoB-PF 受発注が年5%増、BtoB-PF 受発注ライトが年10%増、BtoB-PF ES事業のうちBtoB-PF 請求書が年35%増を計画する。
同社は、フード業界向けを中心に企業間商取引のプラットフォームを提供、顧客からの月額使用料(定額制または従量制)を得るとともに、新規顧客からはシステム利用に向けたセットアップ費用を得ている。売上高の約95%が月額使用料となっており、解約率も低いことから安定した収入基盤を確立している企業と位置付けられる。
2021年12月期の売上高は9,836百万円、営業利益は1,031百万円であった。セグメントは2事業から成り、売上構成比はBtoB-PF FOOD事業が71.2%、BtoB-PF ES事業が28.8%である。それぞれの事業が提供する主なプラットフォームは下記のとおりである。
1998年創業、2006年東証マザーズ上場、2015年東証一部へ市場変更した。2021年12月末の従業員数は613名(正社員506名、派遣107名)である。
同社は、クラウドを介して受発注業務や請求書発行業務を電子化するプラットフォームを提供。企業間取引を効率化するサービスを多数の企業に提供、月額課金を中心とした課金モデルで収入を得ている。サービス導入前にシステム開発負担(財務上は一旦無形固定資産へ計上した上で減価償却)が先行的に発生する一方、サービス提供後は売上原価が増加しにくく、限界利益率の高いビジネスとなるのが特徴。同社は「受発注」「規格書」「請求書」「商談」「契約書」など7つのプラットフォームを展開している。特に、フード業界(注)向けに展開する「受発注」や「規格書」は、同業界において浸透率が高く、標準的なプラットフォームとなりつつある。
注:「フード業界」とは、食品業界及び小売業界、サービス業界の一部を含む「食」に関連する業界を示す。具体的には、食品製造・特産品販売者・農協・漁協・卸売業・生産社・外食・ホテル・旅館・スーパー・小売・百貨店・惣菜、給食、弁当等を取扱う業種の企業
「BtoBプラットフォーム」の特長は、1)クラウド型サービス:取引先との日常業務に用いられるシステムをネット経由で提供。汎用性の高いシステムとし、顧客ごとのカスタマイズは行わないため、顧客企業はネット環境さえあれば、高額な導入費用なしで安価な月額料金で最新のサービスを利用可能、2)ストック型収益モデル:月額システム利用料の積み重ねによる安定したストック型収益モデルを構築、の主に2点。
その他の特徴としては、新規取引先開拓から商談・取引・受発注・決済までをワンストップで行うことができるほか、社内や既存取引先間でグループウェアとして情報を共有して業務を効率化できることなどがあげられる。
BtoB-PF FOOD事業では、BtoB-PF 受発注、BtoB-PF 規格書など外食産業を顧客としたプラットフォームの運営を行う。両者を統合した「食の安心・安全 受発注 パッケージ」も展開している。
BtoB-PF 受発注は、外食ビジネスの受発注を管理システムで、売り手企業と買い手企業の間で日常的に発生する受発注業務・伝票処理等をクラウド上で行うというもの。市場シェアは年々高まっており、且つ、顧客企業やアライアンスパートナーからの紹介案件が増加していることから、同社が中長期的に狙っている「営業コストをかけなくても自然に拡がりを見せるプラットフォーム」になりつつある。
同システムの狙いは、発注側である買い手企業の本部・店舗と、受注側である売り手企業との間で行われる日々の受発注業務を効率化しデータ化することで、業務コストの削減を実現。加えて、リアルタイムな売上・仕入状況の把握、店舗管理、買掛・売掛の早期確定など、システム化することによるメリットは多岐に亘る。
受発注事業は、2003年に開始した事業であるが、その後の成長が著しく、同社の主力事業となっている。買い手企業は、総合レストランや居酒屋を中心とした外食企業が大半だが、給食・中食、ホテル・結婚式場・ゴルフ場などの施設においても導入が進んでいる。当初は15店舗以上のチェーン店を対象にスタートしたシステムだが、小規模チェーンにも電子化、効率化を志向する企業は多く、その後、対象を5店舗以下にも広げ、2020年からは1店舗で経営する外食企業にもサービスを拡げている。同社では外食企業以外への販路拡大として、ホテルや給食会社、商業施設などの他業態へも同システムの普及拡大を狙っており、順調に導入が進んでいる。
売り手企業は総合及び専門の業務用食品卸企業であるが、買い手企業の紹介が進んだことで、事実上の標準化(デファクトスタンダード)が進みつつある。実際、5店舗以上を有する外食チェーンは日本に7,600社程度とされる中、同社の受発注を導入している企業は3,439社(2021年12月末時点)、浸透率は約45%である。また、外食に関連する卸企業など約73,000社のうち40,120社(同)が受発注を活用しており、浸透率は約55%である。ただ、同社が2021年に行った食品卸企業向けのアンケート調査によると、電話やFAXによる受注が未だ約80%であった。
要約
事業概要
株式会社インフォマート(以下、同社)は、フード業界向けを中心に企業間電子商取引のプラットフォームを提供するインターネットサービス企業である。同社はプラットフォームの利用企業から月額使用料(定額制または従量制)を得るとともに、新規顧客からはシステム利用に向けたセットアップ費用を得る。売上高の約95%が月額使用料で、解約率も低いことから安定した収入基盤を確立している企業と位置付けられる。サービス開始前にシステム開発費など先行投資が発生する一方、サービス開始後は高い限界利益率を確保できるビジネスモデルとなっている。2021年12月期の業績は、売上高9,836百万円(前期比12.1%増)、営業利益1,031百万円(同30.0%減)、営業利益率10.5%(前期16.8%)となった。事業セグメントは2つに区分される。
BtoB-PF(プラットフォーム)FOOD事業:売上高7,000百万円(構成比71.2%)、営業利益2,164百万円、営業利益率30.9%。同事業では外食チェーン、個店(飲食店)など外食事業者と卸売事業者の間の電子商取引プラットフォームを提供する。主なプラットフォームとしては、BtoB-PF 受発注(外食と卸会社、卸会社と食品メーカーの受発注をインターネット上で行うプラットフォーム)、BtoB-PF 規格書(食品メーカーが製造する加工食品の商品規格をデータベース化して卸会社や外食産業へ提供するプットフォーム)がある。同受発注システムは食材の売り手と買い手の双方が導入することにより機能するシステムであり、利用企業数が増えるほど利便性が高まる(ネットワーク効果)。解約は、仕入先もしくは販路を失うリスクを伴うため、廃業など特殊な事情を除けば発生しにくいとのこと。
BtoB-PF ES事業:売上高2,835百万円(構成比28.8%)、営業損失1,138百万円。同事業では、業種を問わず請求書や契約書などの電子化を推進する。主なプラットフォームとしては、BtoB-PF 請求書(電子化された請求書を作成、発信、受取、管理するプラットフォーム)、BtoB-PF 商談(取引先の発掘、商談・見積、受発注、決済までをワンストップで提供するプラットフォーム)、BtoB-PF 契約書(企業間における契約書の締結・管理・ワークフロー・社内承認を電子化し、Web上で一元管理できるプラットフォーム)、がある。
利用社数は拡大:2021年12月末の同社のプラットフォーム利用社数は全サービス計679,684社(前年同月比30.1%増)、1,309,477事業所(同26.8%増)、同社のプラットフォームを利用した取引の総額は18.5兆円(2021年12月期、前期比45.3%増)となった。2021年12月末のBtoB-PF 受発注の利用社数は、買い手企業(食材を仕入れる外食、ホテルチェーンなど)が3,439社(同8.0%増)で浸透率は約45%、売り手企業(メーカーや卸売)が40,120社(同5.8%増)で浸透率は約55%であった。ただ、同社が2021年に行った食品卸企業向けのアンケート調査によると、電話やFAXによる受注が未だ約80%であった。BtoB-PF 請求書の利用はフード業界にとどまらず拡大しており、2021年12月末時点で670,528社(同30.7%増)となった。BtoB-PF契約書は2018年に開始した比較的新しいサービスであり、2021年12月末時点で利用企業数(ログイン社数)27,296社(同103.3%増)と拡大した。
業績動向
2021年12月期実績は売上高が9,836百万円(前期比12.1%増)、営業利益が1,031百万円(同30.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が539百万円(同46.9%減)であった。「BtoB-PF 受発注」および「BtoB-PF 規格書」における管理システムのクラウド化を求める買い手企業の新規稼働が増加、買い手企業のシステム使用料が増加し、BtoB-PF FOOD事業の売上高は前期比4.7%増。一方、「BtoB-PF 請求書」の有料契約企業数が増加しBtoB-PF ES事業の売上高は同36.0%増。サーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費の増加、人件費の増加により、営業利益は減益となった。
2022年12月期の会社予想は売上高が10,986百万円(前期比11.7%増)、営業利益100百万円(同90.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益43百万円(同92.0%減)である。BtoB-PF FOOD事業の売上高は同8.8%増を予想する。フード業界におけるDX化から「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する。BtoB-PF ES事業の売上高は、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始を追い風に、同18.8%増を予想する。営業利益は、サーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費、人件費の増加から同90.3%減の計画である。
同社は2022年2月に中期経営方針を発表した。大きな柱としては「成長に向けた積極投資」、「収益源多角化の加速」に取り組み、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を目標とする。5年間の平均成長率は、全売上高が年16%増、うちBtoB-PF FOOD事業が年8%増、BtoB-PF ES事業が年30%増を計画する。BtoB-PF FOOD事業のうち、BtoB-PF 受発注が年5%増、BtoB-PF 受発注ライトが年10%増、BtoB-PF ES事業のうちBtoB-PF 請求書が年35%増を計画する。
同社の強みと弱み
SR社では、同社の強みを、1)トップシェアの地位にある取引システムであること、2)月額使用料を中心とした強固な収益構造、3)高い財務健全性、と考える。一方、弱みは、1)相対的な規模の小ささ、2)新規サービスでの立ち上げ負担、3)業界内で(完全に)標準化されるまでには至っていない、点と考える。(後述の「SW(Strengths, Weaknesses)分析」の項参照)
主要経営指標の推移
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
注意:2014年1月1日に1:2の株式分割を実施、2015年1月1日に1:2の株式分割を実施、2017年1月1日に1:2の株式分割を実施、2020年1月1日に1:2の株式分割を実施。上記は遡及修正済
業績動向
四半期実績推移
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
注:表の数値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
2022年12月期第1四半期決算(2022年4月28日発表)
概要
決算のポイント
進捗率
2022年12月期上期会社予想に対する進捗率は、売上高が49.0%(前年同期の前期上期に対する進捗率49.0%)、営業利益が524.9%(同54.3%)、経常利益3395.4%(同55.2%)、親会社株主に帰属する四半期純利益344.8%(同61.8%)であった。
2022年12月期通期会社予想に対する進捗率は、売上高が23.3%(前年同期の前期通期に対する進捗率23.4%)、営業利益が183.7%(同37.2%)、経常利益414.1%(同39.3%)、親会社株主に帰属する四半期純利益256.6%(同53.0%)であった。
売上高
売上高は2,561百万円(前年同期期比11.4%増)となった。BtoBプラットフォーム(BtoB-PF) FOOD事業(同9.0%増)において、「BtoB-PF 受発注」および「BtoB-PF 規格書」における管理システムのクラウド化を求める買い手企業の新規稼働が増加した。それに伴い、買い手企業のシステム使用料が増加した。
BtoB-PF ES事業(同17.3%増)では、「BtoB-PF 請求書」における業務効率化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)化への関心の高まりと、テレワーク進展によるシステム使用料が増加した。
2022年12月期第1四半期末のBtoBプラットフォームの利用企業数は716,260社(同26.4%増)、利用事業所数は1,381,740事業所(同25.5%増)となった。
コスト・利益
営業利益は184百万円(同52.1%減)であった。増益要因は、BtoB-PF FOOD事業の増収149百万円、BtoB-PF ES事業の増収111百万円であった。一方、主な減益要因は、利用拡大に応じたサーバー体制の増強および災害復旧対策の実施によるデータセンター費の増加323百万円、販売促進費の増加40百万円、営業・営業サポート人員の補強により人件費の増加13百万円、などであった。
セグメント別
BtoB-PF FOOD事業
売上高:1,807百万円(前年同期比9.0%増)
営業利益:490百万円(同19.1%減)
売上高は1,807百万円(前年同期比9.0%増)となった。「BtoB-PF 受発注」では、買い手企業において、居酒屋、外食、ホテル、給食、テイクアウト・デリバリー等の新業態などで、管理システムをクラウド化を目的に新規契約数が増加し、買い手企業のシステム使用料売上高が増加した。売り手企業は、新型コロナウイルス感染症に関する規制が緩和されたことにより、食材等の流通金額が増加し、売り手企業(従量制)のシステム使用料が前年同期比で増加した。「BtoB-PF 規格書」では、利用企業数が増加し、システム使用料が増加した。
利用企業数(買い手企業と売り手企業の合計)は、「BtoB-PF 受発注」が44,082社(同6.0%増) および「BtoB-PF 規格書」が10,973社(同5.3%増)と、いずれも増加した。
営業利益は490百万円(同19.1%減)となった。
BtoB-PF ES事業
売上高:754百万円(前年同期比17.3%増)
営業損失:310百万円(前年同期の営業損失221百万円)
売上高は754百万円(前年同期比17.3%増)となった。「BtoB PF 請求書」は、業務効率化やDX化、テレワークの定着により、フード業界のみならず幅広い業界で受取側・発行側の新規有料契約企業数が増加した。また、その稼働(請求書の電子データ化)が堅調に進んだことにより、システム使用料売上が増加した。
BtoB PF 請求書の利用企業数は707,168社(同27.0%増)、その内数である受取側契約企業数が4,435社(同21.8%増)、発行側計契約企業数2,536社(同32.7%増)となった。
営業損失は310百万円となった。「BtoB PF 請求書」の事業拡大のため必要な営業部門の人員補強による人件費およびマーケティング施策の実施による販売促進費が増加した。
2022年12月期業績会社予想
注:表の数値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意
概要
取組姿勢:2022年12月期は減益の計画であるが、中期的な売上成長を加速するための投資の期間と位置付ける。具体的には、ユーザー数の拡大に応じてサーバー体制を増強し、信頼性を維持する。また、新規の立ち上げ・既存領域の再注力に対する開発費・販促費を投入する。
売上高:「BtoB-PF FOOD事業」は前期比8.8%増を予想する。コロナ禍を契機としたフード業界におけるDX化による経営の高度化へのニーズを的確に捉え、「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する計画である。また、「BtoBプラットフォーム 受発注」の売り手企業の従量制売上高(食材取引高に応じて課金)の増加を予想する。「BtoB-PF ES事業」は同18.8%増を予想する。「BtoBプラットフォーム 請求書」は、企業のテレワークの定着、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始(2023年)を背景としたDX化により、引き続き高い成長を維持すると予想する。
営業利益: データセンター費は、2021年7月から実施した災害復旧対策費用が年間を通じて発生することから前期比53.2%増を計画する。2023年12期以降のデータセンター費の増加は緩やかとなる見込みである。ソフトウェア償却費は、ソフトウエア開発投資の継続により同22.2%増を予想する。営業部門などの補強により人件費は同7.9%増を見込む。結果、営業利益は100百万円(同90.3%減)の計画である。
セグメント別
BtoB-PF FOOD事業
売上高は7,619百万円(前期比8.8%増)を計画する。外食チェーン・個店および卸、それぞれのニーズに対応し、外食と卸間取引の電子化を促進する。具体的には、「BtoBプラットフォーム 受発注」の利用企業数が増加し、システム使用料が増加する計画である。また、「BtoBプラットフォーム 受発注」の売り手企業の従量制売上高(食材取引高に応じて課金)の増加を予想する。
BtoB-PF ES事業
売上高は3,367百万円(前期比18.8%増)を計画する。「BtoBプラットフォーム 請求書」は、企業のテレワークの定着、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の開始(2023年)を背景としたDX化により、引き続き高い成長を維持すると予想する。
中長期見通し
中期経営方針
2022年2月に中期経営方針を発表した。大きな柱としては、「成長に向けた積極投資」、「収益源多角化の加速」に取り組み、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を目標とする。
成長に向けた積極投資
同社は他社との協業や事業買収を推進し、BtoB-PF FOOD事業およびBtoB-PF ES事業においてBtoBプラットフォームの価値増大とその盤石化に向け取り組む。また、BtoB-PF ES事業のBtoB-PF請求書は、2023年10月に開始されるインボイス制度の導入を背景としたDX化のニーズを捉え、利用企業数拡大に向けた販売促進費・システム開発費・人件費の積極的な投資により、競合に対して優位なポジションを獲得する方針である。
インボイス制度では課税事業者がインボイス(適格請求書)の発行が義務付けられる。取引の売手は、買手から求められたときにはインボイスを交付しなければならず、買手は原則として売手から交付を受けたインボイスの保存が必要となる。インボイス制度に対応していない経理システムを利用している企業は、既存システムを改良または新規システムを導入する必要がある。
収益源多角化の加速
これまでの「収益源の多角化への仕掛け」として実施した既存および新規の取組みを加速させ、圧倒的な法人会員基盤を基にした新たなビジネスモデルを協業企業と共に創造し、様々な分野・サービスでデファクトスタンダード化を目指す。
数値目標
同社は数値目標として、2026年12月期に売上高20,000百万円、営業利益5,000百万円を掲げる。5年間の平均成長率は、全売上高が年16%増、うちBtoB-PF FOOD事業が年8%増、BtoB-PF ES事業が年30%増を計画する。BtoB-PF FOOD事業のうち、BtoB-PF 受発注が年5%増、BtoB-PF 受発注ライトが年10%増、BtoB-PF ES事業のうちBtoB-PF 請求書が年35%増を計画する。
事業内容
会社概要
同社は、フード業界向けを中心に企業間商取引のプラットフォームを提供、顧客からの月額使用料(定額制または従量制)を得るとともに、新規顧客からはシステム利用に向けたセットアップ費用を得ている。売上高の約95%が月額使用料となっており、解約率も低いことから安定した収入基盤を確立している企業と位置付けられる。
2021年12月期の売上高は9,836百万円、営業利益は1,031百万円であった。セグメントは2事業から成り、売上構成比はBtoB-PF FOOD事業が71.2%、BtoB-PF ES事業が28.8%である。それぞれの事業が提供する主なプラットフォームは下記のとおりである。
・取引データを日々共有するため照合作業が減り、月次確定を大幅に短縮
・バラバラの様式で管理されていた商品規格書を統一フォーマットで電子管理することで効率化
・経理業務の効率化を実現
・社内ワークフロー機能も搭載し、企業間の商行為のさらなる利便性の向上とペーパーレスを実現
・取引先の発掘~商談・見積~受発注~決済までをワンストップで提供
1998年創業、2006年東証マザーズ上場、2015年東証一部へ市場変更した。2021年12月末の従業員数は613名(正社員506名、派遣107名)である。
ビジネスモデル
BtoBプラットフォームを提供
同社は、クラウドを介して受発注業務や請求書発行業務を電子化するプラットフォームを提供。企業間取引を効率化するサービスを多数の企業に提供、月額課金を中心とした課金モデルで収入を得ている。サービス導入前にシステム開発負担(財務上は一旦無形固定資産へ計上した上で減価償却)が先行的に発生する一方、サービス提供後は売上原価が増加しにくく、限界利益率の高いビジネスとなるのが特徴。同社は「受発注」「規格書」「請求書」「商談」「契約書」など7つのプラットフォームを展開している。特に、フード業界(注)向けに展開する「受発注」や「規格書」は、同業界において浸透率が高く、標準的なプラットフォームとなりつつある。
クラウド型サービス、ストック型収益モデルが大きな特長
「BtoBプラットフォーム」の特長は、1)クラウド型サービス:取引先との日常業務に用いられるシステムをネット経由で提供。汎用性の高いシステムとし、顧客ごとのカスタマイズは行わないため、顧客企業はネット環境さえあれば、高額な導入費用なしで安価な月額料金で最新のサービスを利用可能、2)ストック型収益モデル:月額システム利用料の積み重ねによる安定したストック型収益モデルを構築、の主に2点。
その他の特徴としては、新規取引先開拓から商談・取引・受発注・決済までをワンストップで行うことができるほか、社内や既存取引先間でグループウェアとして情報を共有して業務を効率化できることなどがあげられる。
BtoB-PF FOOD事業
BtoB-PF FOOD事業では、BtoB-PF 受発注、BtoB-PF 規格書など外食産業を顧客としたプラットフォームの運営を行う。両者を統合した「食の安心・安全 受発注 パッケージ」も展開している。
BtoB-PF 受発注
BtoB-PF 受発注は、外食ビジネスの受発注を管理システムで、売り手企業と買い手企業の間で日常的に発生する受発注業務・伝票処理等をクラウド上で行うというもの。市場シェアは年々高まっており、且つ、顧客企業やアライアンスパートナーからの紹介案件が増加していることから、同社が中長期的に狙っている「営業コストをかけなくても自然に拡がりを見せるプラットフォーム」になりつつある。
注:表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入等による相違である点に留意。2019年12月期からのセグメント変更に伴い、売上高や営業利益のデータは非開示となった。
受発注業務のシステム化による顧客メリットは多岐に亘る
同システムの狙いは、発注側である買い手企業の本部・店舗と、受注側である売り手企業との間で行われる日々の受発注業務を効率化しデータ化することで、業務コストの削減を実現。加えて、リアルタイムな売上・仕入状況の把握、店舗管理、買掛・売掛の早期確定など、システム化することによるメリットは多岐に亘る。
顧客は外食企業が中心だったが、業態の拡大が図られている
受発注事業は、2003年に開始した事業であるが、その後の成長が著しく、同社の主力事業となっている。買い手企業は、総合レストランや居酒屋を中心とした外食企業が大半だが、給食・中食、ホテル・結婚式場・ゴルフ場などの施設においても導入が進んでいる。当初は15店舗以上のチェーン店を対象にスタートしたシステムだが、小規模チェーンにも電子化、効率化を志向する企業は多く、その後、対象を5店舗以下にも広げ、2020年からは1店舗で経営する外食企業にもサービスを拡げている。同社では外食企業以外への販路拡大として、ホテルや給食会社、商業施設などの他業態へも同システムの普及拡大を狙っており、順調に導入が進んでいる。
食品卸売業向けではデファクトスタンダード化が進みつつある
売り手企業は総合及び専門の業務用食品卸企業であるが、買い手企業の紹介が進んだことで、事実上の標準化(デファクトスタンダード)が進みつつある。実際、5店舗以上を有する外食チェーンは日本に7,600社程度とされる中、同社の受発注を導入している企業は3,439社(2021年12月末時点)、浸透率は約45%である。また、外食に関連する卸企業など約73,000社のうち40,120社(同)が受発注を活用しており、浸透率は約55%である。ただ、同社が2021年に行った食品卸企業向けのアンケート調査によると、電話やFAXによる受注が未だ約80%であった。