免疫細胞治療とは、患者自身の免疫細胞(リンパ球など)などを体外に取り出し、培養・加工した上で、再び患者に戻すことによって、免疫細胞の働きを人為的に強めて、がん細胞などの増殖を抑える治療法である。同社によれば、免疫細胞治療は、がんの三大療法(外科手術、放射線、抗がん剤)との併用により、相乗効果が期待できる点から、三大療法の基盤となる治療法として期待されており、副作用がほとんどなく、QOL(Quality of Life:生活の質)やQALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)を保ちながら実施することができる。
遺伝子導入用ベクターの製造や細胞の培養・加工、バイオ医薬品のGMP製造(医薬品等の品質管理基準に準拠した製造)の受託ができる新施設「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」を2014年10月に本格稼働し、バイオ医薬品の開発・製造受託業務を行うCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)事業を拡大させる方針である。
主要経営指標の推移
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
同社は連結子会社2社を吸収合併し、2019年9月期より非連結決算に移行した。2019年9月期の前年比は当該子会社2社の経営成績を含む連結経営成績との比較である。
直近更新内容
代表取締役の異動に関して発表
株式会社メディネットは、代表取締役の異動に関して発表した。
(リリース文へのリンクはこちら)
異動の理由
再生・細胞医療分野における事業拡大に向け、経営体制の強化を図るため
異動予定日
2022年4月1日
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*前年比は、前年同期と比較した増減率。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*前年比は、前年同期と比較した増減率、前年比が1000%以上の場合は-で表示。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*前年比は、前年同期と比較した増減率、前年比が1000%以上の場合は-で表示。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*前年比は、前年同期と比較した増減率。
*2022年9月期第1四半期に特定細胞加工物製造業とバリューチェーン事業の売上構成を一部組み換え、前年同期も組み換え後の数値としている。2021年9月期第2四半期以降の数値は、2021年9月期実績と四半期実績の差し引きで算出した。
2022年9月期第2四半期累計期間実績(2022年5月12日発表)
当期における同社の取り組み
同社は、前期より引き続き、再生・細胞医療による法的枠組み(※注)の下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力している。
同社を取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の収束の見通しは立たず、依然として厳しい状況にある。
売上高・損益
売上高では、新型コロナウイルス感染症の影響が続いたが、新たな細胞加工の拡充やCDMO事業の展開等に注力したことにより、前年同期比で増収となった。
利益面では、売上高が増加し、売上総利益が69百万円(前年同期比38.2%増)の増益となったが、研究開発費の増加等により、販売費及び一般管理費が747百万円(同25.5%増)となったことにより、営業損失が拡大した。また、加工中断収入4百万円、投資事業組合運用損6百万円(前年同期は投資事業組合運用益6百万円)等の営業外損益等により、経常損失、四半期純損失ともに前年同期比で拡大した。
セグメント別の業績は以下のとおりである。
細胞加工業
当第2四半期累計期間は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響が続いたが、新たな細胞加工の拡充やCDMO事業の展開等に注力したことによる細胞加工売上高の増加等により、前年同期比で増収となった。損益面では、売上高と売上総利益は増加したが、販管費及び一般管理費が増加したことにより、営業損失が拡大した。
再生医療等製品事業
再生医療等製品の開発を加速し、早期の収益化を目指すとともに、国内外で行われている再生医療等製品の開発動向にも注目し、それらのパイプライン取得、拡充を視野に入れた活動を継続している。
今期会社予想
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
2022年9月期の売上高は752百万円(前期比10.1%増)、営業損失1,755百万円(前期は1,081百万円の営業損失)、経常損失1,755百万円(前期は871百万円の経常損失)、当期純損失1,761百万円(前期は843百万円の当期純損失)を見込む。
売上高は、細胞加工業における「特定細胞加工物製造業」および「CDMO事業」の増加を見込む。
費用面については、販売費及び一般管理費は1,942百万円(前期比54.0%増)を予定している。再生医療等製品事業の早期の収益化を目指し、開発パイプラインの拡充や開発体制の強化を図るための研究開発費が増加する見込みである。このため、営業損益以下の各損益は前期比で損失が拡大する予想としている。
セグメント別予想
細胞加工業
細胞加工業は売上高752百万円(前期比10.1%増)、営業損失235百万円(前期は132百万円の営業損失)を見込む。
細胞加工業において、契約医療機関から受託するがん免疫細胞治療用の特定細胞加工物の製造に加え、再生・細胞医療に取り組む製薬企業、大学、医療機関、研究機関等から、特定細胞加工物の製造を受託する「特定細胞加工物製造業」の売上の拡大を図る。前期において新型コロナウイルス感染症拡大の影響でインバウンド患者数が減少したが、2022年9月期においても、インバウンド患者数の回復は想定していない。
また、再生・細胞医療のコンサルティング、細胞培養加工施設の運営管理、細胞加工技術者の派遣・教育システムの提供等といった「バリューチェーン事業」の売上の拡大、顧客のニーズに対応し再生医療等製品等の開発製造を受託する「CDMO事業」の拡大を目指す。前期は2021年6月にヤンセンファーマが実施する国際共同治験の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部について製造を開始し、前期第3四半期からCDMO事業の売上を計上した。今期は通年で同事業の売上が寄与する予定である。同事業において同社は製造件数に応じた製造受託料を収受する。
利益面では、営業損失が拡大する見込みである。売上高は増加する見込みであるが、CDMO事業の体制整備の費用が増加する予定である。
再生医療等製品事業
再生医療等製品事業は売上高0百万円(前期は売上高0百万円)、営業損失1,007百万円(前期は451百万円の営業損失)を見込む。
再生医療等製品事業の早期の収益化を目指し、開発パイプラインの拡充や開発体制の強化を図るための研究開発費が増加する見込みである。
中長期業績見通し・経営戦略
2018年4月に構造改革ACCEPT2021戦略を発表
2014年11月に「再生医療等安全性確保法」および「医薬品医療機器等法」が施行されたことにより、同社は「細胞加工業」への進出、「再生医療等製品事業」の展開による成長を目指した。しかし、2018年9月期第2四半期決算発表時点で、同社は細胞加工業において、これまで主力であったがんを対象とした医家向け免疫細胞加工の売上が、がん治療分野において免疫チェックポイント阻害剤の普及等による環境変化により急減し、対策が必要な状況となった。
これらの背景を踏まえ、細胞加工業の早期の収益改善を図るとし、構造改革を実施することとした。また、2021年9月期までに、特定細胞加工業中心の事業構造から、自家細胞(Autologous Cell)の培養・加工(Culture & Engineering)技術を生かした自社製品(Product)の開発・製造・販売を主力とした事業構造に転換(「ACCEPT2021戦略」)することで、経営基盤の強化を図った。
「ACCEPT2021戦略」において、細胞加工業では2019年9月期の収支均衡を目指し、再生医療等製品事業ではパイプラインの拡充を図った。
ACCEPT2021戦略の実績
細胞加工業(ACCEPT2021戦略の実績)
2019年4月に新横浜と大阪の細胞培養加工施設を品川細胞培養加工施設(品川CPF)に集約し、医家向けの細胞加工から再生医療等製品の製造まで実施することによって、細胞加工業における製造体制の効率化を図った。その結果、2019年9月期に細胞加工業セグメントは営業利益89百万円の黒字化を達成した。しかし、2020年9月には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少により細胞加工売上が減少し、前期比で減収減益、セグメント損失となった。2021年9月期も新型コロナウイルス感染症のによるインバウンド患者数の減少が続き減収減益、セグメント損失を継続した。
再生医療等製品事業(ACCEPT2021戦略の実績)
同事業ではパイプラインの拡充を図った。2018年9月期においてパイプラインは製品開発2品目であった。2021年9月期には製品開発2品目、研究開発4品目となった。
事業計画(2021年12月公表)
2021年12月、同社はACCEPT2021戦略の実績を踏まえ、事業計画を公表した。同計画では、細胞加工事業で2023年9月期の黒字回復、再生医療等製品事業で2022年9月期中の治験開始を目標として掲げた。
細胞加工事業(事業計画における成長戦略)
同事業では2023年9月期の黒字回復(2021年3月期は132百万円の営業損失)を目指す。特定細胞加工物製造業およびCDMO事業の売上高の増加によって黒字化を達成する予定である。その他、アライアンス活動による売上成長も図る。
特定細胞加工物製造業の売上成長
特定細胞加工物製造業の売上高は新型コロナウイルス感染症拡大以前の2019年9月期において908百万円であった。2020年9月期、2021年9月期は新型コロナウイルス感染症の拡大を背景とした取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少によって2期連続で減収となり、2021年9月期の売上高は515百万円に減少した。
同事業の成長戦略としては、個別化医療や再発予防などの医療機関の新規取り組みを推進することで、加工件数の回復、増加を図るとしている。
CDMO事業の売上成長
同社はCDMO事業の拡大に努め、2021年5月には、ヤンセンファーマと治験製品受託製造に関する契約を締結した。この契約により、ヤンセンファーマが実施する国際共同治験(第三相臨床試験:CARTITUDE-4)の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部を受託し、2021年6月には、製造を開始した。同事業において同社は製造件数に応じた製造受託料を収受することになっており、2021年9月期下期に売上高102百万円を計上した。
事業計画では、細胞培養加工施設の拡充および体制整備によって、受託の増加を図るとしている。
細胞培養加工施設の拡充では、品川CPF内に新規細胞培養加工施設の増設と既存施設の一部改修を実施する。2024年9月期までに1,503百万円の設備投資を計画している。
体制整備としては、システムインフラおよび細胞加工技術者の新規獲得(40名程度)に対して、2024年9月期までに996百万円の費用を投じる予定である。
アライアンス活動による売上成長
その他、細胞加工業では、台湾上場バイオ医薬品企業Medigen Biotechnology Corp. とのγδT細胞培養加工技術のライセンス契約締結、中国ハイアールグループ傘下のQingdao Haier Biotech Holding Co.,Ltd.との医療ツーリズム事業の提携などが中期的に業績に寄与する見込みである。
台湾上場バイオ医薬品企業Medigen Biotechnology Corp. とのγδT細胞培養加工技術のライセンス契約締結
同社は、2019年10月に台北証券取引所上場企業であるMedigen Biotechnology Corporation(以下、MBC)に対し、がんを対象疾患とするγδT(ガンマ・デルタT)細胞培養加工技術のライセンスアウトを合意し、ライセンス契約を締結した。
MBCは、台湾において、NK細胞加工技術をはじめ、がん免疫細胞治療に関する細胞加工技術の開発に注力している。また、新たな再生・細胞医療技術を用いたがん免疫細胞治療の開発を模索、検討しており、今回、同社が保有するγδT(ガンマ・デルタT)細胞培養加工技術の導入を決定した。今後、台湾において、同社のγδT(ガンマ・デルタT)細胞培養加工技術を用いたがん免疫細胞治療が特管辦法の下、MBCから医療機関を通じて患者に提供されることとなる。
同契約の締結に伴い、同社はMBCからγδT(ガンマ・デルタT)細胞培養加工技術を用いた培養加工件数に応じたロイヤリティを収受する。
中国ハイアールグループ傘下のQingdao Haier Biotech Holding Co.,Ltd.との医療ツーリズム事業の提携
同社は2019年2月に業務提携した中国ハイアールグループ傘下のQingdao Haier Biotech Holding Co., Ltd.(以下「HBH」)と、2019年3月に「中国から日本への再生・細胞医療等の先端医療や検診の受診を目的とした医療ツーリズム事業の検討」(以下、「医療ツーリズム事業」)について正式契約を締結した。
医療ツーリズム事業では同社が再生医療の発展に向けて実施した共同研究や事業活動で構築した医療ネットワークとHBHを含むハイアールグループが中国国内で構築した顧客基盤や企業・医療機関等とのアライアンス・ネットワークを活用し、再生・細胞医療を含む日本の先端医療や検診の受診を希望する中国国内の患者が安心して受けられる環境を整備する。
再生医療等製品事業
再生医療等製品事業では、主に以下の研究を進めている(「事業内容」の項参照)。事業計画では2022年9月期中の治験開始を目標として掲げている。SR社の理解では、慢性心不全治療に用いる再生医療等製品(α-GalCer/DC)の医師主導第IIb相臨床試験が有力である。
製品開発品目
膝軟骨修復治療に用いる自家細胞培養軟骨MDNT01
慢性心不全治療に用いる再生医療等製品(α-GalCer/DC)の実用化(九州大学との共同研究)
研究開発品目
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的とした自家樹状細胞ワクチンの開発(国立がん研究センターおよび慶應義塾との共同研究)
HSP105に関連したがん免疫療法(国立がん研究センターとの共同研究)
糖鎖修飾改変T細胞の新規培養技術
自己免疫疾患に対するBAR-T細胞の実用化(京都府立医科大学との共同研究)
(2021年9月時点)
実用化に向けた共同研究
自家樹状細胞ワクチン開発
再生医療等製品(糖鎖修飾改変T細胞等)の開発
HSP105の研究開発
BAR-T技術の研究開発
事業内容
概要
免疫細胞療法総合支援サービスから、細胞加工業へ転換、細胞医療製品の開発・販売を図っている
2014年11月以前において、同社は医療機関・研究機関に対する「免疫細胞療法総合支援サービス」の提供を主要事業としていた。2014年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、「再生医療等安全性確保法」)」および「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「医薬品医療機器等法」)」が施行されたことにより、従来事業の中核をなしていた「免疫細胞療法総合支援サービス」から、細胞加工業への転換、細胞医療製品の開発を図っている。そのため、同社は2014年9月期に、報告セグメントを従来の「細胞医療支援事業並びにこれに附帯する業務」から、「細胞加工業」、「再生医療等製品事業」の2区分に変更した。
細胞加工業では組織・細胞の加工受託を行う
「細胞加工業」では、特定細胞加工物製造業(旧免疫細胞療法総合支援サービス)、企業、大学、医療機関/研究機関等からの臨床用、治験用の再生医療等製品/治験用製品製造受託及び細胞培養加工施設の運営受託等を含めた関連サービスを行っている。2015年5月に品川細胞培養加工施設(品川CPF)が完成し、企業、大学、医療機関/研究機関等からの臨床用、治験用の細胞加工受託(CDMO)に向けた受注活動を進めている。また、企業、大学、医療機関/研究機関との関係構築のために、細胞加工技術者派遣、細胞加工施設の製造品質体制に対する教育業務、新規細胞培養加工施設設置コンサルティングなどの事業化または営業を推進している。
2020年9月期においては特定細胞加工物製造業(旧免疫細胞療法総合支援サービス)が同事業の売上高の大半を占めた。特定細胞加工物製造業は、がん治療分野における免疫細胞治療を実施する医療機関に対し、治療に用いる細胞の加工を受託するサービスである。2021年9月期には特定細胞加工物製造業の売上高515百万円(売上高構成比75.4%)にCDMO事業の売上高102百万円(同15.4%)が加わった。
2017年8月以前において、同社は医療法人社団 滉志会に対して3つの細胞培養加工施設(新横浜、大阪、福岡)を提供し、免疫細胞療法総合支援サービスを行っていた。2017年8月以降、これらの施設の統合を進めるとともに、医療機関との免疫細胞療法総合支援サービス契約を終了し、特定細胞加工物製造委受託契約に切り替えた。2019年4月には新横浜細胞培養加工施設(新横浜CPC)を品川細胞培養加工施設(品川CPF)に統合し、2020年11月現在、同社は医療機関の免疫細胞治療に対して、品川CPFにおいて細胞加工を受託している。その売上は細胞加工業セグメントにおける特定細胞加工物製造業として計上している。
再生医療等製品事業では、細胞医療製品の開発に取り組んでいる
「再生医療等製品事業」では、細胞医療製品の製造・販売承認の取得のための研究開発に取り組んでいる。慢性心不全治療を目的とした再生医療等製品の研究などを行っている。
事業セグメント
同社の事業セグメントは、以下の通り、細胞加工業(2021年9月期売上高構成比100.0%)と再生医療等製品事業(同0.0%)からなる。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
細胞加工業(2021年9月売上高構成比100.0%)
同事業においては、同社は再生・細胞医療に取り組む医療機関や研究開発機関からの組織・細胞の加工・培養の受託、再生医療等製品/治験製品の開発に取り組む企業からの組織・細胞の加工・培養の受託(CDMO)を行う。また、細胞加工施設の運営受託を含め、細胞加工技術者派遣、細胞加工技術者教育、文書作成などの関連サービスを行っている。
2020年9月期においては特定細胞加工物製造業(旧免疫細胞療法総合支援サービス)が収益の柱であった。2021年9月期にはCDMO事業の売上高も計上し始めた。なお、2017年10月、同社は医療機関との免疫細胞療法総合支援サービス契約を終了し、細胞加工の受託契約(特定細胞加工物製造委受託契約)に切り替えた。2017年10月以降、同社は医療機関が免疫細胞治療に用いる細胞加工を受託し、その売上は細胞加工業セグメントにおける特定細胞加工物製造業として計上されている。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
特定細胞加工物製造業は、2017年9月期以前は免疫細胞療法総合支援サービス。
免疫細胞治療用細胞加工受託(旧免疫細胞療法総合支援サービス)
同社は1999年に日本で初めて免疫細胞治療を医師・医療機関が実施するために必要な技術・ノウハウ、その他あらゆるニーズに応じて提供する「免疫細胞療法総合支援サービス」を開始した。2021年9月期において、同様のサービスを提供する企業としては最大手である。
免疫細胞治療は三大療法との併用により、相乗効果が期待できる
免疫細胞治療とは、患者自身の免疫細胞(リンパ球など)などを体外に取り出し、培養・加工した上で、再び患者に戻すことによって、免疫細胞の働きを人為的に強めて、がん細胞などの増殖を抑える治療法である。同社によれば、免疫細胞治療は、がんの三大療法(外科手術、放射線、抗がん剤)との併用により、相乗効果が期待できる点から、三大療法の基盤となる治療法として期待されており、副作用がほとんどなく、QOL(Quality of Life:生活の質)やQALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)を保ちながら実施することができる。
患者が免疫細胞治療を受けるには、まず治療を実施する医師・医療機関を探すことになる。一般的なケースとして、免疫細胞治療を希望する患者は免疫細胞治療を提供する医療機関で診察を受け、まず採血が行われる。採取された血液は同社のCPF(Cell Processing Facility:細胞培養加工施設)の細胞加工プロセスを通じ2週間かけて培養される。培養された細胞は、医療機関において、点滴の形で約30分かけて患者に投与される。治療の1クールは計6回の投与で約3ヵ月である。
免疫細胞治療用細胞加工受託(旧免疫細胞療法総合支援サービス)
医療機関が免疫細胞治療を実施するためには、免疫細胞の培養・加工のための高度な技術・ノウハウ、専門の技術者、専門の機器・施設が必要不可欠であり、一般の医師・医療機関がこれらを導入するのは困難である。そのため、同社は医師・医療機関が免疫細胞治療を安全かつ効率的に実施できるように細胞の加工を受託している。
免疫細胞治療を実施する医師・医療機関には、医師法(詳細は後述)に基づき、インフォームド・コンセントの実施や医療事故・医療過誤があった場合の賠償責任など、治療に関わるすべての責任が発生する。
医師・医療機関が免疫細胞治療を実施するために、同社はCPFにおいて免疫細胞治療に用いる細胞の加工を受託する。細胞加工技術には医療とは生産技術が重なるエンジニアリング技術が必要であり、ノウハウ的な部分が多い。
また、同社は、バリューチェーン事業として、再生・細胞医療分野の医療技術に係る臨床研究等を行う医療機関に対して、CPC(Cell Processing Center:細胞加工施設)の運営管理業務を行っている。再生・細胞医療を実施するために必要なCPCには、医薬品の製造管理及び品質管理規則である「GMP(Good Manufacturing Practice)」に準拠する等、様々なガイドラインの要件を満たす厳格かつ高度に安全管理された施設と品質管理システムが求められる。一方、近年の再生・細胞医療に係る研究開発の進展に伴い、多くの研究機関や医療機関にCPCが設置されているが、経済的あるいは人的資源の制約、新たな分野であるが故の経験不足等から、その多くが十分に稼働している状況とはいえず、再生・細胞医療の普及発展を妨げる要因の一つになっているものとみられる。同社はこうした状況を打開するべく、CPCの運営管理業務を推進している。
2021年9月末現在、同社は、金沢大学(石川県金沢市)および順天堂大学(東京都文京区)のCPCに関する運営管理業務を受託している。
契約医療機関と提携医療機関
同社の技術・サービスの供与に基づき免疫細胞治療を実施している医療機関は「契約医療機関」と呼ばれる。2021年9月現在、契約医療機関は以下の施設である。
これらの契約医療機関では、同社が提供する技術・サービスを利用して免疫細胞治療を実施する。また、他の医療機関との医療連携により、それらの医療機関の患者に対しても、契約医療機関と同等の免疫細胞治療を実施することができる。これらは、「連携医療機関」と呼ばれる。
医療法人社団 滉志会 瀬田クリニック東京について
1999年3月に免疫細胞治療の専門医療機関として開院した。現在は、瀬田クリニック東京と連携医療機関との医療連携により、患者が全国各地で免疫細胞治療を受診できる環境の構築を進めている。瀬田クリニック東京によれば、2021年9月末までに受診した患者は2.3万名を超え、免疫細胞治療について蓄積した経験や症例数は、世界でも類を見ない規模となっている。
同社は、特定細胞加工物製造委受託契約に基づき、瀬田クリニック東京に対して、免疫細胞治療の安全かつ効率的な実施を支援している。なお、瀬田クリニック東京は、免疫細胞治療を実施するとともに、他の医療機関との医療連携により、連携医療機関の患者に対しても、共同で免疫細胞治療を実施している。
瀬田クリニック東京では、医師が患者ごとのがんの性質、状態を踏まえて最適と思われる方法を選択し、さらには、免疫細胞治療以外に受けている治療の状況・経過を見極め効果的な併用を試みる、患者一人ひとりに合わせた「オーダーメイドの医療」と位置づけ、これを実践している。
同社では、「NK細胞療法」、「樹状細胞ワクチン療法」、「ガンマ・デルタT細胞療法」、「アルファ・ベータT細胞療法」に関する技術・サービス、また、遺伝子解析により、患者ごとに最適な樹状細胞を作成する「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン」などを開発・提供している。
細胞加工業における業容拡大
2014年11月の「再生医療等安全性確保法」施行以前において、免疫細胞治療用の細胞加工は医療機関に限られていた。2014年11月に同法が施行されたことにより、医療機関から企業等への細胞培養加工の外部委託が可能となった(「再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器等法」の項参照)。
同法施行後に、医療機関はCPCを併設することなく、免疫細胞治療を行うことが可能となった。同社は、従来の免疫細胞療法総合支援サービスに加え、組織・細胞の加工を受託する細胞加工業の事業展開が可能となった。具体的には特定細胞加工物製造受託が可能となった。また、同社は、細胞加工技術者派遣、細胞加工施設の製造品質体制に対する教育業務、新規細胞培養加工施設設置コンサルティングなども実施している。さらに、医薬品医療機器等法のもと、医薬品医療機器等法で新たに規定された再生医療等製品や、治験製品の開発・製造受託(CDMO)も行う。
なお、上述の通り、2020年9月期においては、これらの細胞加工業の業績影響は軽微であり、免疫細胞治療用細胞加工受託(旧免疫細胞療法総合支援サービス)を中心とする特定細胞加工物製造受託が収益の柱であった。2021年9月期にはCDMO事業の売上高も計上し始めた。
特定細胞加工物製造受託
上述の通り、「再生医療等安全性確保法」の施工によって、医療機関や研究機関が細胞加工を民間企業に委託することが可能となった。同社では、2015年5月に東京都品川区に品川細胞培養加工施設(品川CPF:Cell Processing Facility)が完成し、同施設について特定細胞加工物製造許可を取得した。同施設では、免疫細胞に限らず、再生・細胞医療に取り組む医療機関や研究機関からの組織・細胞の加工・培養の受託、および再生医療等製品の開発に取り組む企業からの組織・細胞の加工・培養の受託も行う。
2017年10月には、新横浜細胞培養加工施設および大阪細胞培養加工施設の特定細胞加工物製造許可を取得し、品川CPFを加えた3施設での細胞加工の製造受託体制を整備した。その後、新横浜と大阪の細胞培養加工施設は、2019年4月に品川CPFに集約した。
細胞加工技術者派遣
同社は2016年9月期より、細胞加工技術者派遣事業を開始した。再生・細胞医療に携わる細胞加工技術者には、再生・細胞医療に係る専門知識や細胞加工技術の習得のほか、法律に沿った施設や品質の運営管理能力を持つことが求められる。それらの要求を満たす細胞加工技術者を育成するためには多くの時間と労力を必要とし、また、経験に裏打ちされた総合的・体系的教育システムの構築・実施が必須となる。
同社は、免疫細胞療法総合支援サービスの提供経験を通じて、細胞培養加工施設の設計・設置・運営管理、細胞加工プロセスの開発技術、細胞加工技術者、信頼性保証システム、情報管理システムなどを総合的に提供した実績を持つ。現在、同社には細胞加工技術者が在籍しており、同社が契約する全国の研究機関などで細胞加工に従事している。
再生医療等製品/治験製品製造受託(CDMO)
医薬品医療機器等法で規定された再生医療等製品、再生医療技術を用いた医療用製品の開発・販売をしたい企業等に対し、再生医療等製品や、治験製品の開発・製造受託(CDMO)を行う。上述の品川CPFは、再生医療等製品・再生医療技術を用いた医療用製品の製造も対応可能となっている。
CDMO事業について、2021年5月に、同社はヤンセンファーマと治験製品受託製造に関する契約を締結した。この契約により、ヤンセンファーマが実施する国際共同治験(第三相臨床試験:CARTITUDE-4)の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部を受託し、2021年6月には、製造を開始した。同事業において同社は製造件数に応じた製造受託料を収受することになっている。
再生医療等製品事業(2021年9月売上高構成比0.0%)
「再生医療等製品事業」では、細胞医療製品の製造・販売承認の取得のための研究開発に取り組んでいる。
2014年11月に「医薬品医療機器等法」が施行された。「再生医療等製品」の定義が新たに設けられ、「再生医療等製品」を製造販売しようとする者は、品目ごとに厚生労働大臣の承認を受けなければならないことになった。また、有効性が推定され、安全性が認められれば、一定の条件や期限を定めたうえで承認を取得し、市販後に有効性、さらなる安全性を検証、期限内に再度申請し、承認取得できれば、引き続き市販できるようになった(「再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器等法」の項参照)。
2014年11月の「医薬品医療機器等法」施行に併せて、厚生労働省は、再生医療等製品について、医薬品や医療機器と同様に、治験および承認から保険適用までの間、保険外併用療養の評価療養として行うほか、条件・期限付き承認の場合でも保険適用とすることを決定し、2014年11月に健康保険法等の改正を行った。SR社の理解では、保険適用により、患者の治療費負担が軽減されるとともに、免疫細胞治療普及の妨げとなっている混合診療の問題も解消される。
なお、2021年12月現在、日本において承認された再生医療等製品は、以下の通りである。
製品。点滴で静脈内に投与し、再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫の治療に使用する。
を導入した再生医療等製品。静脈内に投与し、再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫および再発又は難治性の濾胞性リンパ腫の治療に使用する。
による治療を行っても効果不十分な非活動期又は軽症の活動期クローン病患者の複雑痔瘻の治療に使用する。
同事業では、条件・期限付承認の活用も検討し、既存パイプラインの製造販売承認取得を目指す。また、国内外のパイプラインの獲得も行う方針としている。2021年12月現在、同社は慢性心不全治療を目的とした再生医療等製品の研究等を行っている。また、日本国内において、同社で行っている研究開発の成果とともに、これまで継続的に行ってきた大学病院等との共同研究を通じて、細胞医療製品の可能性を探求している。
製品開発状況等
2021年12月現在、同社は以下の研究開発を進めている。
自家細胞培養軟骨「MDNT01」
慢性心不全治療に用いる再生医療等製品の実用化(九州大学との共同研究)
自家細胞培養軟骨「MDNT01」
米国ヒストジェニックス社から自家細胞培養軟骨「NeoCart®」を導入
同社は、2017年12月に米国ヒストジェニックス社との間で日本における自家細胞培養軟骨「NeoCart®」(同社における開発名は「MDNT01」、以下「MDNT01」とする)の開発・販売を目的としたライセンス契約を締結した。同社は、「MDNT01」がわが国の膝関節軟骨損傷患者に恩恵をもたらし得る潜在力に着目・評価し、その導入を決定したという。
膝関節軟骨損傷患者数は年間1万人、患者自身から採取した軟骨細胞を培養し損傷部に移植する
「MDNT01」が適応可能な膝関節軟骨損傷患者は、わが国では少なくとも年間1万人と推定され、放置すれば変形性膝関節症や、膝関節の全置換手術が必要になる。しかし、ヒストジェニックス社の調査によれば、その約60%が外科的治療なしまたは保存治療しか施されていない。外科治療を受けていない場合にはその60~70%が将来的に変形性膝関節症に移行すると考えられるという。そのような患者に、患者自身から採取した軟骨細胞を軟骨様形状に培養されたNeoCart®は、損傷部に低侵襲で移植することができ、新たな治療の選択肢の一つになることが期待されるとしている。
米国第Ⅲ相臨床試験では統計的有意差を示せなかったが、特定の評価項目または期間においては統計的有意差を示し、今後の生物学的製剤承認申請(BLA)についてFDAと協議中
ヒストジェニックス社は、2018年9月に米国における膝関節軟骨損傷を対象とする自家細胞培養軟骨「NeoCart®」の第Ⅲ相臨床試験の結果について、主要評価項目(治療1年後の痛みと機能の二重閾値レスポンダー解析)において、マイクロフラクチャー法と比較して統計学的有意差は認められなかったと発表した。しかし、「NeoCart®」は、治療6ヵ月後の痛みと機能の二重閾値レスポンダー解析において、マイクロフラクチャー法と比較して統計学的有意差と臨床的有用性を示した。また、治療1年後及び2年後の痛みと機能のほとんど全ての評価数値は、マイクロフラクチャー法と比較して統計学的有意差と臨床的有用性を示したという。
その後、ヒストジェニックス社は、米国食品医薬局(FDA)と第Ⅲ相臨床試験のトップラインデータ及び今後の生物学的製剤承認申請(BLA)について協議し、FDAよりBLAには追加の臨床試験が必要である旨の回答を受けた。これを受けて、ヒストジェニックス社より、2019年4月に、米国で臨床段階のバイオ医薬品を開発しているOcugen社と合併契約を締結したことを発表した。
2019年5月には、ヒストジェニックス社がMedavate社と自家細胞培養軟骨「NeoCart®」に係る資産譲渡契約を締結したことに伴い、同社とヒストジェニックス社の間で締結した自家細胞培養軟骨「NeoCart®」に関するライセンス契約についてもMedavate社に譲渡されることとなった。
しかし、ヒストジェニックス社(現Ocugen社)からMedavate社への自家細胞培養軟骨「NeoCart®」に係る資産譲渡は実現せずに終了した。Ocugen社は米国での開発再開を目指し、FDAと追加試験プロトコルについての協議を開始した。2021年12月現在、Ocugen社はFDAと追加試験プロトコルについての協議を継続している。
日本において30人規模の比較試験で承認申請が可能
ヒストジェニックス社は、日本において独立行政法人医薬品医療機器総合機構との対面助言を実施しており、臨床試験データについては、米国第Ⅲ相臨床試験データ(249症例)が使用できるため、日本においては米国と同様のマイクロフラクチャー手術を対照とした第Ⅲ相臨床試験を30人規模で行うことにより製造販売承認申請が可能との見解を得ているという。
上述の通り、今後、同社はOcugen社との協議を進め、自家細胞培養軟骨「MDNT01」の開発方針を決定する。膝関節軟骨損傷を対象とする第Ⅲ相臨床試験の期間は約2年を予定しているという。
一時金および成功報酬
同社は、NeoCart®導入の対価として契約一時金10百万ドル(約11.3億円)に加え、開発・適応拡大の各段階に応じた一時金(総額約11.6億円)および販売開始後の売上高に応じた成功報酬(最大73億円)およびロイヤルティを支払うことになっている。
慢性心不全治療に用いる再生医療等製品(αGalCer/DC)(九州大学との共同研究)
慢性心不全は、慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を拍出できない状態であり、労作時呼吸困難、息切れ、四肢の浮腫、食欲低下等の症状の出現により、日常生活に著しい障害を来した病態である。現在、国内における心不全の患者数は、約100万人とされ、人口の高齢化、生活習慣病の増加、急性心筋梗塞に対する急性期治療の効果向上等により、将来的に心不全の患者数が増加すると見込まれる。しかし、心不全に対する薬物療法または非薬物療法(手術等)が進歩しているにも関わらず、心不全の症状は、時間の経過とともに徐々に悪化する。その結果、致死的な不整脈等による突然死のリスク増加やその生命予後は極めて不良であることから、新たな心不全治療製品の開発が望まれている。
同社は、2019年11月に国立大学法人九州大学との間で、慢性心不全治療に用いる再生医療等製品の実用化に向けた共同研究契約を締結した。同社は、同共同研究において、九州大学循環器内科筒井裕之教授と、αGalCer/DCによる心筋慢性炎症の制御に基づく慢性心不全治療薬の実用化を目指し、共同研究を進める。
2021年12月時点において、医師主導第Ⅱb相試験の開始に向けて同社品川CPFでの治験製品製造準備を行っている。また、慢性心不全患者を対象にしたαGalCer/DCに関する医師主導第I/IIa相臨床試験の最終結果についての論文投稿準備中であるという。
研究開発状況等
2021年12月現在、同社は以下の研究開発を進めている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的とした自家樹状細胞ワクチンの開発(国立がん研究センターおよび慶應義塾との共同研究)
HSP105に関連したがん免疫療法(国立がん研究センターとの共同研究)
糖鎖修飾改変T細胞の新規培養技術
自己免疫疾患に対するBAR-T細胞の実用化(京都府立医科大学との共同研究)
医療法人社団滉志会との先制医療における免疫細胞治療の有用性に係る共同研究
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的とした自家樹状細胞ワクチンの開発(国立がん研究センターおよび慶應義塾との共同研究)
2020年8月、同社は、国立研究開発法人国立がん研究センターと、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的としたSARS-CoV-2抗原パルス自家樹状細胞ワクチンの開発に向けた共同研究契約を締結した。また、2020年9月には学校法人慶應義塾が同共同開発に参画することとなった。
現在、世界各国で開発が進められている新型コロナウイルス感染症に対するワクチンは、一般に液性免疫によりSARS-CoV-2に対する中和抗体を産生させてウイルスの細胞への感染防御を目的としている。これらのワクチンによるSARS-CoV-2に対する抗体価が長期間保持されない可能性が示唆されている。
同自家樹状細胞ワクチンは、上記のようなワクチンとは異なり、樹状細胞にSARS-CoV-2抗原をパルスし細胞性免疫により細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導し、体内でウイルスに感染した細胞そのものを殺傷、除去することを期待するものである。さらに、一部のCTLはメモリーT細胞となって、ウイルス(SARS-CoV-2)に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶されるため、長期的な予防効果が見込まれる。
同自家樹状細胞ワクチンは、同社ががん治療分野で独自に開発し、既に臨床使用され安全性に実績のある樹状細胞ワクチン製造特許技術を活用する。また、同社は当該研究を通じて、新型コロナウイルス感染症に限らず樹状細胞ワクチンプラットホームの応用も視野に、迅速なワクチン開発による社会への貢献を目指すとしている。
同自家樹状細胞ワクチンの対象は、新型コロナウイルス感染により重症化しやすい高齢者、基礎疾患を有する人、液性免疫が誘導されにくい人、または第一線で治療に当たる医療従事者等ハイリスクな対象者を想定している。
当該研究は、国立がん研究センターが同自家樹状細胞ワクチンの基礎データの取得、慶應義塾が非臨床試験及び第Ⅰ相治験開始のための対応支援、同社が同自家樹状細胞ワクチンの製造工程の構築、基礎データの取得、非臨床安全性試験等を担う。同自家樹状細胞ワクチンの第Ⅰ相治験を国立がん研究センター東病院、慶應義塾大学病院と連携して開始し、再生医療等製品の上市に向け開発を進める。
HSP105に関連したがん免疫療法(国立がん研究センターとの共同研究)
同社は、2019年10月に国立研究開発法人国立がん研究センターとの間で、がん抗原タンパク質の1つであるHeat Shock Protein 105(HSP105)に関連した新たながん免疫療法の実用化に向けた共同研究契約を締結した。
HSP105は、国立がん研究センター先端医療開発センター免疫療法開発分野長中面哲也氏らが、膵がんの患者のがん細胞と血液を使ってがん抗原を同定するSEREX法を実施して同定したがん抗原である。HSP105は、精巣以外の正常組織ではほとんど発現はないか弱く発現しているが、一部のがんを除いたほとんどのがんの細胞で過剰発現している腫瘍特異性が高い抗原である。
中面氏らは、HSP105をがん免疫療法の理想的な標的と考え、HLA-A*24およびHLA-A*2に結合するHSP105由来ペプチドを同定し、それらの2種ずつを進行食道・大腸がんを対象に投与する第Ⅰ相臨床試験を医師主導治験で実施した。同社は、このHSP105由来ペプチドの特許を保有している。
同社は、当該共同研究において、中面氏らがこれまで実施したHSP105に関する研究・ペプチドの第Ⅰ相臨床試験の結果をもとに、より有効性の高いがん免疫療法の実用化を目指す。
糖鎖修飾改変T細胞の新規培養技術
同社は、国立大学法人大阪大学との共同研究講座「免疫再生制御学共同研究講座」を2014年から2019年までの5年間設置し、次世代の免疫細胞治療技術の開発を行った。同共同研究講座における研究成果として、糖鎖修飾改変T細胞の新規培養技術及びその機能解析をまとめた。
同技術は、2デオキシグルコース(2DG)という糖の誘導体を用いることで、抗腫瘍効果を高めたT細胞を誘導するものである。従来の培養法で得られるT細胞と比較して、がん細胞傷害活性の向上、NK細胞様の特徴を有し、さらにがん細胞の分泌する物質による免疫機能低下を回避することができるため、がんに対する免疫細胞治療の効果の向上が見込まれる。
今回、2DGが糖鎖修飾を改変することによってT細胞の抗腫瘍効果を向上させていることを見出した。これは、T細胞の体外での活性化・増殖培養中に2DGを添加することを含む新しい発想の免疫誘導法であり、2DG処理したT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR-T)等のT細胞ベースのがんに対する免疫細胞治療に応用できる可能性がある。
自己免疫疾患に対するBAR-T細胞の実用化(京都府立医科大学との共同研究)
同社は、2019年11月に京都府公立大学法人京都府立医科大学との間で、自己中和抗体産生に起因する病態を対象とした、新しいキメラ受容体(B-cell Antibody Receptor(BAR):B細胞抗体受容体)を遺伝子導入した免疫細胞による特異的B細胞除去法の実用化に向けた共同研究契約を締結し、同技術に関する特許を共同出願した。
ライソゾーム病や血友病は、分解酵素や血液凝固因子の遺伝的異常により、それらが体内で機能しないことが原因で発症する疾患で、治療法として機能していない分解酵素や血液凝固因子を体外から補充する補充療法が行われる。補充療法を続けると、補充した分解酵素や血液凝固因子に対する中和抗体が産生され、補充療法が効果を示さなくなることがある。また、生体機能に重要な役割を果たす酵素等の蛋白質に対して自己抗体が産生されることにより発症する自己免疫性疾患(尋常性天疱瘡など)もある。
京都府立医科大学大学院医学研究科人工臓器・心臓移植再生医学講座五條理志教授と、循環器・腎臓内科星野温助教は、ライソゾーム病や血友病などの病態に対して、中和抗体を産生するB細胞を特異的に除去することにより治療可能と考え、新たなキメラ受容体(BAR)の遺伝子をT細胞に導入したBAR-T細胞の開発を行った。その結果、有効な特異的B細胞除去が可能であることを確認した。
同社は、五條教授と星野助教が実施してきたBAR-T細胞に関する研究をもとに、ライソゾーム病の補充療法における自己中和抗体産生に起因する病態および、自己抗体が認識する抗原が単一である自己免疫疾患に対するBAR-T細胞の実用化を目指し、当該共同研究を進める。
医療法人社団滉志会との先制医療における免疫細胞治療の有用性に係る共同研究
2020年12月、同社は、医療法人社団滉志会との先制医療における免疫細胞治療の有用性に係る共同研究契約締結に関して発表した。同研究では、免疫機能の低下に伴うがんや感染症などの疾患リスク要因のある人に対し免疫細胞治療を行い、免疫細胞投与前後での免疫パラメーターの変化を検討することで、先制医療への応用を目指す。
同研究で実施される免疫細胞治療は、それぞれ異なる機序により、発がんやウイルス感染などの何らかの異常をきたした細胞を認識し排除する能力をもつαβT細胞、γδT細胞、NK細胞を体外で活性化、増殖させて対象者自身の体内に戻す治療法である。目標症例は合わせて20例を予定しており、2022年12月までに同研究は終了する。滉志会が運営する医療機関である瀬田クリニック東京が採血、細胞治療、診療情報入手を、同社が細胞製造、免疫学的検査を担う。
同社は、同研究で得られたがん予防、感染症予防、健康長寿に関する評価指標を活用し、先制医療における免疫細胞治療の有用性の確立に向けて研究を進める。
収益構造
2021年9月期において、同社の主要収益源は、医療機関に対する免疫細胞治療用細胞加工受託(旧免疫細胞療法総合支援サービス)の売上であり、免疫細胞治療用細胞加工受託の収益構造を以下に示す。
主要事業である免疫細胞治療用細胞加工受託の売上高は、免疫細胞治療を実施する契約医療機関から受け取るロイヤルティである。同社契約医療機関における免疫細胞治療は、「樹状細胞ワクチン療法」は1クール(6回から12回、注1)の治療費総額が、概ね151万~222万円である。また、「NK細胞療法」、「ガンマ・デルタT細胞療法」、「アルファ・ベータT細胞療法」は1回(注2)の治療費総額が27万円~38万円程度となっている。
同社は免疫細胞治療用細胞加工受託の対価として細胞加工の種類と回数に基づき、免疫細胞治療を受ける患者が医療機関に対して支払う治療費の特定の割合を受け取っている。同社の売上高は細胞加工件数により決定される。細胞加工件数は契約医療機関等における新規治療開始患者数増加に伴って増加する。
コスト分析
売上総利益
同社の売上総利益率は細胞培養加工施設の稼働率の影響を受けるとSR社では認識している。
売上原価に関して、有価証券報告書で単体ベースでは売上原価明細書が開示されている。2012年9月期から2018年9月期において、同社の連単倍率は売上高、売上総利益ともに1.0倍であり、単体ベースの売上原価明細と連結ベースの売上原価の内訳に大きな違いはないとSR社は認識している。また、2019年9月期以降は非連結決算である。
同社単体の売上総利益率は2009年9月期の71.2%をピークに売上高の減少と労務費および経費負担の増加によって低下傾向にある。2021年9月期の売上原価項目で最も構成比率が高いのは労務費で、対売上高比で31.7%(単体ベース)を占めている。次に多いのが経費(賃料など)の対売上高比で30.4%(単体ベース)、材料費の対売上高比で11.3%(単体ベース)が続く。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
販売費及び一般管理費
販管費の中で大きな割合を占めているのが研究開発費、人件費である。
同社は200~700百万円を研究開発費に割り当てている(2018年9月期はヒストジェニックス社との自家細胞培養軟骨「NeoCart®」のライセンス契約に対する契約一時金1,130百万円を含む)。SR社の認識では、通常、研究開発費は研究開発に従事する従業員の人件費が中心であり、固定費的な要素が強い。同社では大学病院などと共同研究を多く行っていることなどから、研究開発費に占める人件費の比率は3割程度に留まる。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
収益性・財務指標
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
SW(Strengths, Weaknesses)分析
強み(Strengths)
先行者メリット:同社の強みの一つは、免疫細胞治療のパイオニアとして蓄積してきた細胞加工技術である。同社は免疫細胞の加工に関して20年以上の実績を持つ。同社によれば、細胞加工で品質の差が生じる要因は設備よりもむしろノウハウ的な側面が大きい。同社は約189,000件の細胞加工件数に裏打ちされた細胞加工技術を有している。
瀬田クリニックと築いた協力関係:同社は東京大学出身の江川氏が設立した瀬田クリニックとの提携関係にある。瀬田クリニック(現「瀬田クリニック東京」)が1999年に初めて東京都世田谷区に設立されて以来、同社は免疫細胞治療総合支援サービスの提供または免疫細胞治療用細胞加工の受託を行っている。
収益源としての免疫細胞治療用細胞加工受託:同社は2014年11月の「再生医療等安全性確保法」施行以前から、免疫細胞療法総合支援サービス(「再生医療等安全性確保法」施行後は免疫細胞治療用細胞加工受託)を提供、同サービスによる収益を計上している。同社は中長期的に細胞加工業において、事業範囲の拡大による売上成長を企図しているが、ゼロからの事業開始ではなく、免疫細胞治療用細胞加工受託という収益基盤を既に確保していることは、固定費負担を賄う上で、同社の強みであるとSR社は考えている。
弱み(Weaknesses)
瀬田クリニックグループへの依存度の高さ:2021年9月期において、同社の瀬田クリニック東京に対する売上高は66.4%(2020年9月期は77.3%)が占める。瀬田クリニック東京は、同社の免疫細胞治療用細胞加工受託を活用して免疫細胞治療を専門的に提供するクリニックであり、同社と緊密かつ安定的な関係にあるが、今後両者の関係が悪化した場合や、瀬田クリニック東京において不慮の事故が発生すること等により受診患者数の減少、閉鎖等の事態に至った場合には、同社の業績に影響を与える可能性がある。
代替技術による免疫細胞治療の必要性低下の可能性:同社グループの属するバイオテクノロジー業界は急速に変化・拡大し、特にがん治療分野では新しい治療薬の研究開発が進んでいる。免疫細胞治療との併用と関連しない治療効果の高い医薬品が開発された場合、または、免疫細胞治療に代わる治療法が開発された場合等には、免疫細胞治療が不要となる可能性がある。
患者にとって比較的高価な医療費:免疫細胞治療は、保険適用にならないため治療費が全額患者の自己負担となり、1クールで約150~210万円と患者への経済的な負担が大きい。
事業所網
グループ会社等
同社は2018年10月に連結子会社である株式会社医業経営研究所と株式会社メドセルの2社を吸収合併し、2019年9月期から非連結決算に移行した。
提携・出資先
同社は国内外のバイオベンチャー企業などとの資本提携・技術提携も積極的に行っている。主なアライアンス先は以下の通り。
米国MaxCyte社:MaxCyte社からの技術ライセンス。
上記以外に同社は国内の同業他社であるリンフォテック社ほか、バイオテクノロジーやライフサイエンス分野への投資に特化したベンチャーキャピタルMASA Life Science Ventures, LPへの投資も行っている。
市場とバリューチェーン
マーケット概略
がん免疫療法の市場規模は2030年に約3,000億円、2050年に5,700億円へと拡大
再生医療・細胞医療は今後成長が見込まれる分野である。細胞医療(再生医療と総称されることもある)とは患者自身、あるいは他人の細胞を使って治療を行う先端技術である。細胞医療は培養皮膚や培養軟骨など体の構造を再生することを目的とした再生医療と、がんや先天性疾患などを治療する細胞移植医療に大別される。前述の通り、2021年9月期において、同社の主な収益源は免疫細胞治療用細胞加工受託を中心とする特定細胞加工物製造受託であるが、そのサービス提供対象であるがん免疫療法も細胞医療の一つとして位置付けられる。
経済産業省製造産業局生物化学産業課『「再生医療の実用化・産業化に関する研究会」の最終報告書を取りまとめ』(2013年2月22日)によれば、2012年時点での国内の再生医療市場規模は約90億円存在する。うち、がん免疫療法の国内市場規模は70億円程度と推測されている。同資料において、がん免疫療法の国内市場規模は2030年には約3,000億円、2050年には5,700億円へと拡大すると予測されている。
がんは日本人の死亡原因第一位
1981年以来、がんは日本人の死亡原因第一位となっており、厚生労働省「令和2年人口動態統計(死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率)」によれば、死亡数39.2万人(令和元年は39.0万人)、総死亡数の28.5%(同28.2%)を占めた。
また、国内における新規罹患者数は、国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計(全国がん登録)による全国がん罹患データ(2016年~2018年)」によれば、2018年において約98.1万人(2017年は約97.7万人)、がんの総患者数は厚生労働省「平成29年(2017年)患者調査(主な傷病の総患者数)」によれば約178.2万人(平成26年患者調査では約162.6万人)とされている。
免疫細胞治療を受けた患者数は限定的
一方、同社のサービスを通じて免疫細胞治療を受けた患者の数は年々増加し、2021年9月期末現在、累計細胞加工件数は約189,000件となったが、直近のピークである2010年9月期でも年間20,000人程度にしか過ぎない。これは上記のがんの患者数と比べると少ない。では、もし患者の身体的負担も少なく、かつ一定の効果が認められている療法であるとすれば、なぜ普及しないのだろうか。
SR社では以下の通り、医師および医療機関の理解・認知度、免疫細胞治療の臨床効果に係るエビデンス、治療費の患者負担が、免疫細胞治療普及の妨げになっていると考えている。
医師および医療機関の理解・認知度および理解度が十分ではない
免疫細胞治療の需要を拡大するためには、まず、患者の治療選択プロセスにおいて実質的な決定権のある医師・医療機関が、免疫細胞治療をがん治療の選択肢とする状況が必要となる。近年の免疫学、分子生物学および細胞工学などの発展とともに、免疫細胞治療に係る技術は進歩し続けており、世界的に同分野における研究開発が進む一方で、一般の臨床医がその最新の技術動向、内容などを詳細にキャッチアップすることは困難な状況であり、免疫細胞治療に対する医師・医療機関の認知度および理解度が十分と言えないのが現状となっている。
とはいえ、技術の進歩と医療のあり方に係る議論が進み、最先端のがん治療戦略は変換点を迎えている。ひとつには、従来の標準的な治療法である外科療法、化学療法、放射線治療においても、内視鏡下技術の一般化、分子標的薬の出現、粒子線治療の普及開発等、より患者の身体的負担が少ない低侵襲の治療へとシフトする傾向がある。また、各治療法の限界を踏まえ、各々の専門医師がチームで患者にあたるチーム医療、集学的治療の必要性が再度認識され、大学病院等でも医局縦割りの旧来型の体制を脱却し、新たな組織による患者中心の医療へと大きく変化しようとしている。
免疫細胞治療の臨床効果に係るエビデンス(治療効果)
免疫細胞治療に対する医師・医療機関の認知度および理解度が十分でない現状から、免疫細胞治療の正しい理解と認知の向上を図る必要がある。そのためには、根拠に基づく医療(EBM:Evidence-based Medicine)を推進するための臨床エビデンスを収集・構築し、その結果を外部発表などを通して、医師・医療機関などに情報提供することが必要である。
治療費の患者負担
2021年12月現在、免疫細胞治療は原則として自由診療で行われている。そのため、免疫細胞治療を受ける患者は、治療費を全額自己負担することとなる(料金は、「ビジネスモデル」の項参照)。また、混合診療が禁止されているため、患者は保険診療を受診している医療機関では免疫細胞治療を受診することは困難である。医療機関が、患者に対し保険診療と免疫細胞治療の併用治療を提供する場合には、明確に保険診療と免疫細胞治療を分断して、行う必要がある。
厚生労働大臣が保険適用外の先端的な医療技術と保険診療との併用を、例外的に認めた医療制度としては「先進医療制度」がある。将来、同社が提供する免疫細胞治療が先進医療の適用を受け、保険診療との併用(いわゆる混合診療)が可能となれば、免疫細胞治療を受ける患者数は増加する可能性がある。
患者申出療養の創設
患者申出療養は、患者が最先端の医療技術などを希望した場合に、安全性・有効性等を確認したうえで、新規の技術等について臨床研究中核病院または国に申請し、保険外の診療と保険診療との併用を認めるかどうかの結論を出す仕組みである。健康保険法の改正等により法的な枠組みが整えられ、2016年4月から施行された。
再生・細胞医療に対する政府の取り組み
再生細胞医療に対する期待の高まり
本質的に副作用がない全身療法であり、あらゆるフェーズであらゆる治療と併用可能なバイオメディカルテクノロジーである免疫細胞治療への期待は大きく、最先端のがん治療戦略オプションの一つに数えられつつある。特に再発予防分野においては、初期治療に免疫細胞治療を導入した場合の生存率、無再発生存率が顕著に向上するとの論文報告が数多く発表されている。
また、2011年には米国のロックフェラー大学に所属していた免疫・細胞生物学者のラルフ・マーヴィン・スタインマン博士が「樹状細胞と、獲得免疫におけるその役割の発見」を理由としてノーベル生理学・医学賞を受賞、翌年の2012年にはiPS細胞の開発をした京都大学の山中伸弥教授が、「成熟細胞が初期化され多能性を持つことの発見」を理由として、同じくノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、再生細胞医療における期待は国内において高まっている。
再生医療等安全性確保法と医薬品医療機器等法
同社の中期的な業績に影響するであろう法改正として、再生医療等安全性確保法および医薬品医療機器等法が2014年11月に施行された。
再生医療等安全性確保法では細胞加工培養作業の外部委託が可能に
再生医療等安全性確保法では、今まで医療機関に限られていた治療用の細胞加工について、厚生労働大臣から許可を受けた企業等への外部委託が可能となった。
具体的には、特定細胞加工物(細胞加工物のうち、再生医療等製品以外のもの)の製造の委託は、細胞培養加工施設ごとに厚生労働大臣の許可、認定を受けるか、または届出をした業者である特定細胞加工物製造事業者に委託しなければならない。細胞の加工培養を受託する施設については許可制を導入し、施設の品質管理や安全対策に関する基準を別に設ける。
再生医療等安全性確保法に関して、加工施設の品質管理や安全対策に関する基準が設けられ、それをクリアした企業のみ受託が可能となることで、免疫細胞治療のパイオニアとして同社が蓄積してきた細胞加工技術をもって、同社にとっては競合環境の改善につながるとSR社では認識している。また、細胞加工業として細胞加工施設に集約して細胞加工を受託することで、従来の医療機関にCPCを併設する場合と比較して、費用の効率化を図ることが可能となった。
医薬品医療機器等法では条件・期限付制度が導入される
医薬品医療機器等法のポイントは以下の2点にある。
医薬品医療機器等法では、「再生医療等製品」の定義が新たに設けられ、「再生医療等製品」を製造販売しようとする者は、品目ごとに厚生労働大臣の承認を受けなければならないことになった。また、有効性が推定され、安全性が認められれば、条件・期限付きで承認し、市販後に有効性、さらなる安全性を検証、期限内に再度申請し、承認取得できれば、引き続き市販できるようになった。
厚生労働省によると、条件・期限付制度により、(従来の承認制度と比較して)承認までの期間が2、3年程度短縮されることが期待できるという。
調達品目と調達先
細胞の培養・加工で使用される培地(培養液)は最も重要な調達品目の一つであり、主に、株式会社細胞科学研究所(ニプロ株式会社(東証1部8086)の100%子会社)が製造したものを、ニプロ社から購入している。
参入障壁
免疫細胞治療用細胞加工受託に必要なのはCPFとそれを稼働させるのに必要な技術者であり、設備の設置自体に関しての参入障壁は高くない。差が出てくるのは技術者の育成や培養方法などのソフト面である。同社は、累計細胞加工件数では約189,000件と他社に比べ差をつけている、と主張している。
また、医薬品医療機器等法において、細胞加工を受託するためには、特定細胞加工物製造事業者として、厚生労働大臣の許可、認定、または届け出が必要であり、施設の品質管理や安全対策に関する基準を遵守しなければならない。
競合環境
免疫細胞治療のマーケットは成長途上にあり、シェアを取り合うほどの規模になっていない、というのが同社の認識である。同社によると現在免疫細胞治療を手掛けている同業他社は、いずれも木村社長と江川氏がつくりあげた同社のビジネスモデルを踏襲している。同社は患者の視点からしても、比較して選択できるとの意味から、健全な競合関係の存在は望ましいという立場を取っている。
テラ株式会社(JASDAQ 2191)
外科医だった矢崎社長によって2004年に設立された。同社は、がん免疫療法の一つである「樹状細胞ワクチン療法」を中心に、化学療法(がん休眠療法)、放射線療法(低侵襲放射線療法)などを組み合わせることで、効率良くがんを攻撃することを目指す、テラ社独自の「アイマックスがん治療(免疫最大化がん治療)」を提供している。
株式会社GCリンフォテック
同社が出資している。1999年4月設立。活性化自己リンパ球療法によるがん治療専門クリニックである白山通りクリニックなどに向けてサービスを提供している。
リンパ球バンク株式会社
ANK(Amplified Natural Killer)自己リンパ球免疫療法普及を目的に、2001年設立。実施医療機関を通じてANK療法を行っている。
ジェー・ビー・セラピュティクス株式会社
東京女子医大・消化器病センターの外科医だった谷川氏が2001年に設立。実施医療機関は東京女子医大・消化器病センターやビオセラクリニック。
上に名前を掲げた4社とともに、同社は免疫細胞治療を実施する主要医療機関で構成される免疫細胞療法連絡会における協力企業であり、競合関係にありながらも、免疫細胞治療の普及に向けて共同で基準づくりなどを行っている。
また、細胞加工業では以下の企業が競合または類似企業としてあげられる。
タカラバイオ株式会社(東証1部 4974)
寳酒造株式会社(現・宝ホールディングス株式会社(東証1部 2531))のバイオ事業部門としてスタートした。
遺伝子導入用ベクターの製造や細胞の培養・加工、バイオ医薬品のGMP製造(医薬品等の品質管理基準に準拠した製造)の受託ができる新施設「遺伝子・細胞プロセッシングセンター」を2014年10月に本格稼働し、バイオ医薬品の開発・製造受託業務を行うCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)事業を拡大させる方針である。
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(東証JASDAQグロース 7774)
1999年設立、患者本人から採取したヒト組織・細胞を用いる自家培養技術を利用し、再生医療等製品を開発し、医療機関向けに製造販売することを主な事業目的としている。2021年12月現在、自家培養表皮ジェイス(重症熱傷用)、自家培養軟骨ジャック、自家培養角膜上皮ネピック、自家培養口腔粘膜上皮オキュラルを上市済みである。帝人株式会社(東証1部 3401)が発行済株式の57.7%を保有している。
代替品
がん治療分野では、当然ながらこれまで行われてきた三大療法(外科手術、放射線、抗がん剤)が存在する。三大療法のそれぞれを併用することもあるが、同社によると、三大療法と免疫細胞治療との併用により、より治療の効果を高めることができる場合もある。
子宮がん
前立腺がんなど
・正常組織に損傷が及ぶ場合もある
・副作用が大きい
・微小がんの治癒効果にも期待
過去の財務諸表
前期以前の業績概況(参考)
2022年9月期第1四半期実績(2022年2月10日発表)
当期における同社の取り組み
同社は、前期より引き続き、再生・細胞医療による法的枠組み(※注)の下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力している。
同社を取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の収束の見通しは立たず、依然として厳しい状況にある。当第1四半期は、慢性心不全の治療を目的とした再生医療等製品について、九州大学との契約締結および製造・供給体制の確立が進捗した。
2022年1月、同社は、国立大学法人九州大学(以下、九州大学)と慢性心不全の治療を目的とした再生医療等製品(以下、当該製品)の有効性および安全性を確認する医師主導第IIb相臨床試験(以下、PIIb相試験)の実施に向け、医師主導治験実施に関する契約(以下、当該契約)を締結した。同社は当該契約に基づき、PIIb相試験に用いる当該製品の製造および供給を行う一方、PIIb相試験の結果を当該製品の製造販売承認申請等に使用する権利について、九州大学と独占的に交渉できる権利を獲得する。
同月、同社は、慢性心不全の治療に関するPIIb相試験に向けた再生医療等製品の製造・供給体制を確立した。
売上高・損益
売上高は前年同期比で増収となった。新型コロナウイルス感染症の影響は続いたが、細胞加工件数が増加したことにより、細胞加工売上高が増加した。
利益面では、売上高が増加し、売上総利益が40百万円(前年同期比83.0%増)の増益となったが、販売費及び一般管理費が380百万円(同15.7%増)となったことにより、営業損失が拡大した。また、投資事業組合運用損5百万円(前年同期は投資事業組合運用損33百万円)を営業外費用に計上したことにより、経常損失、四半期純損失ともに前年同期比で拡大した。
セグメント別の業績は以下のとおりである。
細胞加工業
同事業の売上高の内訳は、特定細胞加工物製造業133百万円(前年同期比10.8%増)、バリューチェーン事業28百万円(同47.4%増)、CDMO事業11百万円となった。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響が続いたが、前年同期と比較し細胞加工件数の増加による細胞加工売上高の増加等により、前年同期比で増収となった。また、2021年6月にヤンセンファーマが実施する国際共同治験の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部について製造を開始し、前期第3四半期以降にCDMO事業の売上を計上した。同事業において同社は製造件数に応じた製造受託料を収受する。
損益面では、売上高と売上総利益の増加等により営業損失が縮小した。
特定細胞加工物製造業
特定細胞加工物製造業の売上高は133百万円(同10.8%増)となった。前年同期と比較し細胞加工件数が増加した。
四半期ベースの売上高は、2020年9月期第2四半期以降、新型コロナウィルス感染症の拡大による医療機関での訪日外国人の患者数減少の影響を受け受け始め、2020年9月期第3四半期以降にその影響が鮮明となった。2021年3月期第3四半期には訪日外国人患者数減少の影響が一巡し、売上高が前年同期比で増加した。2021年9月期は、第1四半期の売上高が120百万円(前年同期比54.4%減)、第2四半期の売上高が119百万円(同33.5%減)、第3四半期の売上高が133百万円(同8.1%増)、第4四半期の売上高が143百万円(同13.5%増)となった。当第1四半期の売上高は133百万円(同10.8%増)となった。
日本政府観光局によれば、訪日外国人数は、2021年1-3月が66千人(同98.3%減)、2021年4-6月が30千人(同321.8%増)、2021年7-9月が95千人(同262.5%増)、2021年10-12月が55千人(同61.5%減)となった。
再生医療等製品事業
再生医療等製品の開発を加速し、早期の収益化を目指すとともに、国内外で行われている再生医療等製品の開発動向にも注目し、それらのパイプライン取得、拡充を視野に入れた活動を継続している。
損益面では、研究開発費の増加によって損失が拡大した。研究開発費は前年同期比では増加したが、同社の計画に対しては遅れが生じ、支出時期が遅延した。
その他:同社が株式を保有しているTC BioPharm社が米国NASDAQに上場
2022年2月、同社が出資している英国 TC BioPharm Ltd.の持株会社として設立された TC BioPharm(Holdings)plc(TCBP社)の株式が米国NASDAQに上場された。TCBP社は、株式上場に伴う新株等の発行を通じて17.5百万ドルを調達した。同社はTCBP社株式を3,675千株保有している(今回の新株発行後の持株比率は15.53%)。
2021年9月期通期実績(2021年11月12日発表)
当期における同社の取り組み
同社は、前期より引き続き、再生・細胞医療による法的枠組み(※注)の下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力している。
同社を取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化による影響が同社取引先医療機関等にもおよび、患者数の回復の見通しも不透明で、依然として厳しい状況にある。
このような状況の中、同社はCDMO事業の拡大に努め、従来から進めていたヤンセンファーマ株式会社の治験製品製造における技術移転が完了し、2021年5月には、ヤンセンファーマと治験製品受託製造に関する契約を締結した。この契約により、ヤンセンファーマが実施する国際共同治験(第三相臨床試験:CARTITUDE-4)の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部を受託し、2021年6月には製造を開始した。
2017年12月に同社がヒストジェニックス社(現Ocugen社)との間で日本における自家細胞培養軟骨「NeoCart®」(同社での開発名は「MDNT01」)の開発、販売を目的としたライセンス導入について、2019年5月に、ヒストジェニックス社はMedavate社とNeoCart®に係る資産譲渡契約を締結した。この譲渡契約は、同社とヒストジェニックス社の間で締結したNeoCart®に関するライセンス契約も含んでいた。2021年8月時点において、Ocugen社からMedavate社への自家細胞培養軟骨「NeoCart®」に係る資産譲渡は実現せずに終了した。Ocugen社は米国での開発再開を目指し、FDAと追加試験プロトコルについての協議を開始した。同社はOcugen社との協議を進め、MDNT01の開発方針を決定する。
同社、国立がん研究センター、学校法人慶應義塾の共同で研究している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的としたSARS-CoV-2抗原パルス自家樹状細胞ワクチンについて、2021年中頃までに、同自家樹状細胞ワクチンの第Ⅰ相治験を開始する予定であった。PMDAとの協議の結果、非臨床試験の実施が必要であることから、2022年以降の第Ⅰ相治験開始を予定に変更した。
2021年4月、同社は、国立大学法人九州大学と慢性心不全の治療に用いる再生医療等製品(α-GalCer/DC)の実用化を目的とした新たな共同研究契約を締結した。当該製品は、免疫細胞であるナチュラルキラーT細胞の活性化による慢性炎症制御に基づく新しい慢性心不全治療用製品としての実用化を目指している。医師主導第I/IIa相臨床試験が終了し、2021年12月現在は医師主導第IIb相臨床試験の開始に向けた準備を進めている。
2020年12月、同社は、医療法人社団滉志会との先制医療における免疫細胞治療の有用性に係る共同研究契約締結に関して発表した。同研究では、免疫機能の低下に伴うがんや感染症などの疾患リスク要因のある人に対し免疫細胞治療を行い、免疫細胞投与前後での免疫パラメーターの変化を検討することで、先制医療への応用を目指す。
売上高・損益
売上高は前期比で減収となった。新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンドの患者数が減少し、細胞加工売上が減少した。
営業損失は拡大した。売上高の減少等により売上総利益が180百万円(前期比38.1%減)に減少したほか、販売費及び一般管理費が1,261百万円(同3.6%増)に増加した。
当期純損失は前期並みとなった。営業損失は拡大したものの、投資事業組合運用益206百万円(前期は79百万円)を営業外収益に計上したほか、新株予約権戻入益24百万円などを特別利益として計上した。
セグメント別の業績は以下のとおりである。
細胞加工業
同事業の売上高の内訳は、特定細胞加工物製造業515百万円(前期比25.5%減)、バリューチェーン事業64百万円(同28.9%減)、CDMO事業105百万円となった。上述の通り、2021年6月にヤンセンファーマが実施する国際共同治験の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部について製造を開始し、当第3四半期以降にCDMO事業の売上を計上した。同事業において同社は製造件数に応じた製造受託料を収受する。一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少が続き、細胞加工売上が減少した結果、売上高が前期比で減収となった。
損益面では、減収に伴う売上総利益の減少等により営業損失が拡大した。
特定細胞加工物製造業
特定細胞加工物製造業の売上高は515百万円(同25.5%減)となった。特定細胞加工物製造委受託契約を締結している医療機関において、訪日外国人を中心に患者数が減少した。また、国内でも緊急事態宣言発出による移動制限の影響を受け、患者数が減少した。
四半期ベースの売上高は、前期第2四半期以降、新型コロナウィルス感染症の拡大による医療機関での訪日外国人の患者数減少の影響を受け受け始め、前期第3四半期以降にその影響が鮮明となった。当第3四半期には訪日外国人患者数減少の影響が一巡し、売上高が前年同期比で増加した。前期第3四半期の売上高は123百万円(同43.8%減)、前期第4四半期の売上高は126百万円(同50.4%減)となった。2021年9月期は、第1四半期の売上高が121百万円(同54.0%減)、第2四半期の売上高が118百万円(同34.1%減)、第3四半期の売上高が133百万円(同8.1%増)、第4四半期の売上高が143百万円(同13.5%増)となった。当第3四半期以降は前年同期比、前四半期比ともに回復傾向で推移した。
日本政府観光局によれば、訪日外国人数は、2020年4-6月が7千人(同99.9%減)、2020年7-9月が26千人(同99.7%減)、2020年10-12月が143千人(同98.1%減)、2021年1-3月が66千人(同99.2%減)、2021年4-6月が30千人(同322.5%増)、2021年7-9月が95千人(同262.5%増)となった。
再生医療等製品事業
再生医療等製品の開発を加速し、早期の収益化を目指すとともに、国内外で行われている再生医療等製品の開発動向にも注目し、それらのパイプライン取得、拡充を視野に入れた活動を継続している。
財政状態および資金調達の状況
資産合計は5,378百万円(前期末比128百万円増)、現金及び預金は4,096百万円(同452百万円増)となった。また、投資有価証券は166百万円(同262百万円減)となった。
純資産合計は4,903百万円(前期末比96百万円増)となった。四半期純損失によって利益剰余金が前期末比843百万円減となったが、新株予約権の行使によって資本金および資本剰余金がそれぞれ551百万円増となった。また、2021年1月に繰越利益剰余金の欠損填補を行い、資本金が4,318百万円、資本剰余金が3,034百万円減少し、利益剰余金が7,352百万円増加したが、株主資本の合計金額には変動はない。
2020年8月に、第17回新株予約権(行使価額修正条項付)(潜在株式数19,000千株、調達予定額1,945百万円、行使期間2020年9月~2022年9月)の発行を発表した。2021年6月に第17回新株予約権の行使が終了し、行使による交付株数は19,000千株、調達額は1,217百万円、2020年10月から2021年6月の調達額は1,008百万円となった。
2021年9月に、第18回新株予約権(行使価額修正条項付)(潜在株式数34,000千株、調達予定額2,703百万円、行使期間2021年9月~2023年9月)の発行を発表した。2021年9月の調達額は92百万円となった。
2021年9月期第3四半期累計期間実績(2021年8月11日発表)
当第3四半期累計期間における同社の取り組み
同社は、前期より引き続き、再生・細胞医療による法的枠組み(※注)の下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力している。
同社の事業環境は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化による影響が同社取引先医療機関等にもおよび、患者数の回復の見通しも不透明で、依然として厳しい状況にある。
このような状況の中、同社はCDMO事業の拡大に努め、従来から進めていたヤンセンファーマ株式会社の治験製品製造における技術移転が完了し、2021年5月には、ヤンセンファーマと治験製品受託製造に関する契約を締結した。この契約により、ヤンセンファーマが実施する国際共同治験(第三相臨床試験:CARTITUDE-4)の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部を受託し、2021年6月には、製造を開始した。
売上高・損益
売上高は前年同期比で減収となった。新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンド患者数が減少し、細胞加工売上の減少につながった。
損益面では、売上高の減少等により売上総利益が140百万円(前年同期比43.9%減)となり、販売費及び一般管理費が932百万円(同4.5%増)となったことで営業損失は拡大した。
営業外収益は221百万円(前年同期は25百万円)となった。投資事業組合運用益209百万円(前年同期は計上無し)を計上したことで増加した。また、特別利益は33百万円(前年同期は計上無し)となった。新株予約権戻入益24百万円などを計上した。
セグメント別の業績は以下のとおりである。
細胞加工業
当第3四半期累計期間においては、上述の通り、2021年6月にヤンセンファーマが実施する国際共同治験の日本国内での試験に用いる治験製品製造工程の一部について製造を開始した。一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少が続き、細胞加工売上が減少した結果、売上高が前年同期比で減収となった。損益面では、売上高の減少に伴う売上総利益の減少等によりセグメント損失を計上した。
再生医療等製品事業
2021年9月期第2四半期累計期間実績(2021年5月12日発表)
当期における同社の取り組み
同社は、前期より引き続き、再生・細胞医療による法的枠組み(※注)の下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力している。
2017年12月に同社がヒストジェニックス社(現Ocugen社)との間で日本における自家細胞培養軟骨「NeoCart®」(同社での開発名は「MDNT01」)の開発、販売を目的としたライセンス導入について、2019年5月に、ヒストジェニックス社はMedavate社とNeoCart®に係る資産譲渡契約を締結した。この譲渡契約は、同社とヒストジェニックス社の間で締結したNeoCart®に関するライセンス契約も含んでいた。2021年5月時点において、Ocugen社からMedavate社への自家細胞培養軟骨「NeoCart®」に係る資産譲渡は実現せずに終了した。Ocugen社は米国での開発再開を目指し、FDAと追加試験プロトコルについての協議を開始した。同社はOcugen社との協議を進め、MDNT01の開発方針を決定する。
同社、国立がん研究センター、学校法人慶應義塾の共同で研究している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防を目的としたSARS-CoV-2抗原パルス自家樹状細胞ワクチンについて、2021年中頃までに、同自家樹状細胞ワクチンの第Ⅰ相治験を開始する予定であった。PMDAとの協議の結果、非臨床試験の実施が必要であることから、2022年以降の第Ⅰ相治験開始を予定に変更した。
2021年4月、同社は、国立大学法人九州大学と慢性心不全の治療に用いる再生医療等製品(α-GalCer/DC)の実用化を目的とした新たな共同研究契約を締結した。当該製品は、免疫細胞であるナチュラルキラーT細胞の活性化による慢性炎症制御に基づく新しい慢性心不全治療用製品としての実用化を目指している。医師主導第I/IIa相臨床試験が終了し、現在は医師主導第IIb相臨床試験の開始に向けた準備を進めている。
2020年12月、同社は、医療法人社団滉志会との先制医療における免疫細胞治療の有用性に係る共同研究契約締結に関して発表した。同研究では、免疫機能の低下に伴うがんや感染症などの疾患リスク要因のある人に対し免疫細胞治療を行い、免疫細胞投与前後での免疫パラメーターの変化を検討することで、先制医療への応用を目指す。
売上高・損益
売上高は、新型コロナウイルス感染症の拡大を背景とした取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少による細胞加工売上の減少等により、前年同期比で減収となった。また、CDMO(再生医療等製品や治験製品の開発・製造受託)事業において、案件の売上の期ずれがあった。前期第2四半期以降、新型コロナウィルス感染症の拡大による医療機関での訪日外国人の患者数減少の影響を受け始め、前期第3四半期以降にその影響が鮮明となった。四半期別の売上高の推移は、前期第3四半期(2020年4-6月)が131百万円(同48.2%減)、前期第4四半期(2020年7-9月)が145百万円(同51.1%減)、当第1四半期(2020年10-12月)が140百万円(同52.6%減)、当第2四半期(2021年1-3月)が135百万円(同36.0%減)となった。
損益面では、売上高の減少等により売上総利益が50百万円(前年同期比78.4%減)となり、販売費及び一般管理費が595百万円(同1.2%減)となったことで営業損失は拡大した。
営業外収益として投資事業組合運用益6百万円を計上した。また、特別利益は30百万円となった。新株予約権戻入益24百万円などを計上した。
セグメント別の業績は以下のとおりである。
細胞加工業
当第2四半期累計期間(当上期)においては、新型コロナウイルス感染症の拡大により、取引先医療機関におけるインバウンド患者数の減少により細胞加工売上が減少し、前年同期比で減収となった。また、CDMO事業において、当第2四半期に予定していた案件の売上計上が当第3四半期に期ずれした。損益面では、売上高の減少に伴う売上総利益の減少等によりセグメント損失を計上した。
特定細胞加工物製造業
特定細胞加工物製造業の売上高は239百万円(前年同期比45.9%減)となった。特定細胞加工物製造委受託契約を締結している医療機関において、訪日外国人を中心に患者数が減少した。また、国内でも緊急事態宣言発出による移動制限の影響を受け、患者数が減少した。
四半期ベースの売上高は、前期第2四半期以降、新型コロナウィルス感染症の拡大による医療機関での訪日外国人の患者数減少の影響を受け受け始め、前期第3四半期以降にその影響が鮮明となった。前期第3四半期の売上高は123百万円(同43.8%減)、前期第4四半期の売上高は126百万円(同50.4%減)、当第1四半期の売上高は121百万円(同54.0%減)、当第2四半期の売上高は118百万円(同34.1%減)となった。
日本政府観光局によれば、訪日外国人数は、2020年4-6月が7千人(同99.9%減)、2020年7-9月が26千人(同99.7%減)、2020年10-12月が143千人(同98.1%減)、2021年1-3月が66千人(同99.2%減)となった。
再生医療等製品事業
当上期において、研究開発活動が一部遅延した。
財政状態および資金調達の状況
資産合計は5,748百万円(前期末比499百万円増)、現金及び預金は4,078百万円(同434百万円増)となった。また、投資有価証券は581百万円(同153百万円増)となった。
純資産合計は5,267百万円(前期末比461百万円増)となった。四半期純損失によって利益剰余金が前期末比510百万円減となったが、新株予約権の行使によって資本金および資本剰余金がそれぞれ425百万円増となった。また、2021年1月に繰越利益剰余金の欠損填補を行い、資本金が4,318百万円、資本剰余金が3,034百万円減少し、利益剰余金が7,352百万円増加したが、株主資本の合計金額には変動はない。
2020年8月に、第17回新株予約権(行使価額修正条項付)(潜在株式数19,000千株、調達予定額1,945百万円、行使期間2020年9月~2022年9月)の発行を発表した。2020年10月-2021年3月において、第17回新株予約権の行使による交付株数は15,805千株、行使額の合計額は1,041百万円となった。
損益計算書
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2009年9月期以降は連結決算、2019年9月期以降は非連結決算。
前年比は、前年同期と比較した増減率。
売上高
2021年9月期において、同社の売上高の大部分を占める免疫細胞治療用細胞加工受託(旧免疫細胞療法総合支援サービス)の売上高は免疫細胞治療を受ける患者が医療機関に対して支払う治療費の特定の割合であり、基本的に新規治療開始患者数や細胞加工件数に比例する。さらには、新規治療開始患者数は、概ね同社のがん患者に対する広報宣伝活動および免疫細胞治療を実施する医師・医療機関が増えるかどうかによって決まる。
売上総利益率
同社の売上総利益率は2009年9月期および2010年9月期において、65%を超えていた。これは患者数の増加によりCPCの稼働率が上がったためと思われる。
2012年9月期以降は売上高の減少と労務費および経費負担の増加によって売上総利益率は低下傾向にあったが、2016年9月期および2017年9月期は45%超の水準となった。
2018年9月期は前期比細胞加工件数が減少した他、取引条件の見直しによって売上総利益率は33.1%に低下した。続く2019年9月期は取引条件の変更があり、売上総利益率は37.8%に上昇した。
2021年9月期は細胞加工件数の減少による売上高の減少によって労務費および経費負担の比率が上昇し、売上総利益率が低下した。
販売費及び一般管理費
販管費(コスト分析はビジネスモデルの「コスト分析」の項を参照)で人件費の次に大きいのは研究開発費である(2018年9月期はヒストジェニックス社との自家細胞培養軟骨「NeoCart®」のライセンス契約に対する契約一時金1,130百万円を含む)。
特別損益
2013年9月期には投資有価証券売却益618百万円を計上した。
2014年9月期に投資有価証券売却益440百万円を計上した一方、貸倒引当金繰入額580百万円を含む特別損失673百万円を計上した。
2017年9月期は、保有する固定資産の一部について帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として880百万円を特別損失に計上した。
2018年9月期は、特別利益として、投資有価証券売却益378百万円を計上した。一方、特別損失として、米国Argos Therapeutics,Inc.への貸付金等に対する貸倒引当金繰入額551百万円、および事業構造改善費用96百万円を計上した。
2019年9月期は、特別利益として、Argos社からの貸付金等債権の弁済等による貸倒引当金戻入額144百万円、株式会社医業経営研究所と株式会社メドセルの2社を吸収合併したことによる抱合せ株式消滅差益62百万円、投資有価証券売却益8百万円等の特別利益を計上した。
表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
貸借対照表