BIMとは、Building Information Modelingの略称で、コンピューター上に作成した3次元CAD設計図に加え、建築物の名称、面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、建物の属性情報を持つ建物情報モデルを構築するシステムをいう。BIMでは、企画から基本設計、実施設計、施工などの建築段階だけでなく、施設管理、改修などの運用・管理段階まで情報を一元的に管理できる。BIMは一つのモデルを構成する全てのデータが連動しており、一部のデータ変更を行えば、平面図、立面図、断面図、屋根伏図、面積表、数量表など全てが自動修正される。
要約
概要
株式会社エプコ(以下、同社)は、D-TECH(デザインテック)事業およびH-M(ハウスマネジメント)事業を主要事業とする。D-TECH事業においては、ハウスメーカーに対して低層住宅(戸建住宅、2階建以下の集合住宅)の給排水設備(水道管、排水管、トイレの水洗用設備、雨樋等)の設計を中心としたサービスを提供する。H-M事業においては、ハウスメーカーなどから住宅のメンテナンス等に関するカスタマーセンター業務を受託する。加えて、同社は2020年12月期に住宅の省エネルギー化に関する施工を行うE-Saving事業を新設した。E-Saving事業においては、東京電力ホールディングス株式会社(東証1部 9501)と連携し省エネ機器設置事業を行う。
2021年12月期において、D-TECH事業は売上高構成比47.9%、調整額控除前営業利益構成比64.4%、H-M事業は同28.7%、同37.2%、E-Saving事業は同16.9%、同3.3%、システム開発事業は同6.6%、営業損失38百万円であった。
D-TECH事業においては、パナソニックホームズ株式会社等のハウスメーカーに対して給排水設備等の設計、部材等の費用の積算、部材のプレファブ化(施工現場では組み立て作業のみとなるよう工場で部材を加工)を提供する。設備の設計図は、ハウスメーカーが提供する家屋の設計図を基に、同社が家屋の構造、気候(凍結の有無など)等の条件にあわせ作成する。同社は社内にエンジニアを擁し、設計図作成用ソフトウエアの改善等、案件受付から納品までの省力化を推進してきた。効率的な設計図作成とプレファブ化によって、建築費の低減、工事品質の均一化、短納期といった利点をハウスメーカーに提供する。同社はD-TECH事業を1998年に業界初の設備のサプライチェーンマネジメントサービスとして開始し、2021年12月期までに注文住宅系大手ハウスメーカーの大半と取引関係を有している。
D-TECH事業の年間設計戸数は約100千戸(うち給排水設備設計が約80千戸)、1戸当たりの売上高は25~28千円である。設計戸数のうち注文住宅が約70%、集合住宅が約30%を占める。低層住宅の着工戸数に対する年間設計戸数のシェアは14%(業界首位)。プレファブ化まで行う類似サービスは、前澤給装工業株式会社(東証1部 6485)などの部材メーカーの一部が展開しているが、複数のメーカーの部材、設備を中立的な立場で取り扱い、低層住宅向けに提供する企業は同社以外に存在しないという。
H-M事業においては、住宅全般の修理に関する問い合わせ対応、修理の手配などを含めたカスタマーセンター業務をハウスメーカーなどから受託する。D-TECH事業で設計した家屋の一部はH-M事業において管理を受託できており、D-TECH事業がH-M事業の管理世帯数の増加につながっている。2021年12月期における管理世帯数は約1,600千世帯(前期比14.3%増)で、料金体系は顧客(ハウスメーカーなど)ごとに異なるが、管理世帯数1世帯当たりの年間売上高は800円から900円程度である。事業開始以来、顧客からの解約はないという。
H-M事業では、D-TECH事業で作成した設計図、世帯ごとの更新が必要な部材・消耗品のリスト、修理履歴(家歴)を活かして、故障内容や修理に必要な部品等を特定し、効率的な修理の手配につなげている。カスタマーセンターの代行業者は、トランスコスモス株式会社(東証1部 9715)、りらいあコミュニケーションズ株式会社(東証1部 4708)など多数存在するが、設計データを活用したサービスを展開するカスタマーセンター代行業者はないという。
E-Saving事業においては、省エネ機器の定額利用サービス「エネカリ」および「エネカリプラス」を推進する。エネカリでは、居住者が月額利用料を支払うことで、初期費用無しで太陽光発電システム、蓄電池、IHクッキングヒーターなどの省エネ機器を利用できる。居住者は、エネカリの導入によって災害への備えができる他、電力の使用状況次第では、エネカリ導入後の利用料、水道光熱費、売電収入による費用削減効果の合計が、導入前の水道光熱費を下回る可能性もあるという。エネカリプラスでは、契約期間中は省エネ機器の所有権を東京電力エナジーパートナーが持つ。このため、居住者は売電収入を得られないが、専用の給湯器の導入を前提としたエネカリプラス専用の電力プランを利用でき、エネカリと比較し利用料と光熱費の合計を抑制できる。E-Saving事業は、連結子会社で電気設備の工事を行う株式会社ENE’sと、東京電力エナジーパートナー株式会社との合弁会社TEPCOホームテック株式会社(持分法適用会社、同社株式保有比率49.0%)が協同で推進する。
業績動向
2021年12月期において、売上高4,696百万円(前期比7.2%増)、営業利益438百万円(同0.9%減)、経常利益371百万円(同20.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益658百万円(同50.2%増)であった。売上高は前期比で増収となった。H-M事業の増収と前期に子会社化した株式会社ENE’sの通年での寄与によって前期比で増収となった。利益面では、D-TECH事業およびH-M事業において新サービス展開のための先行費用を計上したことで、連結での営業利益が減益となった。
2022年12月期の会社予想は、売上高5,105百万円(前期比8.7%増)、営業利益460百万円(同5.1%増)、経常利益501百万円(同35.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益366百万円(同44.4%減)を見込む。D-TECH事業、H-M事業、E-Saving事業の3事業において新サービスの寄与によって増収を見込む。営業利益は、前期に引き続きD-TECH事業、H-M事業で先行費用を計上するが、増収効果によって増益となる見込みである。
2021年2月、同社は中期経営計画(2021年12月期-2025年12月期)を発表した。同計画では、2025年12月期において、売上高10,000百万円(2021年12月期比年平均20.8%増)、営業利益1,800百万円(同42.4%増)、経常利益2,000百万円(同52.4%増)、ROEは20.0%(2021年12月期は14.1%)を計画している。D-TECH事業におけるBIMクラウドサービスの展開、H-M事業におけるD-TECH事業とのクロスセルの強化、エネカリの拡販に伴うE-Saving事業の施工数の増加によって、業績成長を図る。加えて、TEPCOホームテックの業績成長に伴う持分法による投資利益での業績貢献も計画している。
同社の強みと弱み
SR社では、同社の強みを、①設計業務の継続的な自動化推進を背景とした低層住宅向け給排水設備設計の領域での業界1位のシェア、②BIMクラウドサービスによりD-TECH事業の単価引き上げが可能であること、③H-M事業における、D-TECH事業で作成した設計図等を生かした差別化の3点だと考えている。一方、弱みは、①住宅着工戸数が減少傾向で推移する中、相対的に着工戸数の減少率の高い注文住宅にD-TECH事業が偏重していること、②中国の設計拠点における人件費の増加、③新規事業においてリスクを過小評価する傾向の3点だと考えている。(後述の「SW(Strengths & Weaknesses)分析」の項参照)
主要経営指標の推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*同社は、2012年12月期に決算期の変更を行った。2012年12月期は移行期間であるため、11ヵ月の変則決算である。
*同社は2018年1月に普通株式1株につき2株の割合で株式分割を行った。上表の一株当たりデータは当該株式分割考慮後の数値である。
直近更新内容
2022年4月度の月次業績に関して発表
株式会社エプコは2022年4月度の月次業績に関して発表した。
(リリース文へのリンクはこちら)
業績動向
四半期業績動向
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*同社は、当第1四半期においてセグメントの変更を実施した。変更後のセグメント区分では「システム開発事業」を「H-M事業」に統合し、セグメントの名称を従来の「D-TECH事業」「H-M事業」「E-Saving事業」から、「設計サービス事業」「メンテナンスサービス事業」「省
エネサービス事業」に変更した。上表の数値は、変更後のセグメント区分に基づくものである。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年12月期第1四半期実績
住宅産業においては、当第1四半期における新設住宅着工戸数は前年同期比で4.9%増加した。ただし、建設資材全般の価格上昇に伴う住宅価格の上昇などを背景に、持家の分野では2021年11月以降で前年同月比でマイナスが続き、当第1四半期において前年同期比6.9%減となった。
売上高は前年同期比で増収となった。設計サービス事業は減収となったが、メンテナンスサービス事業および省エネサービス事業が増収となった。
利益面では、設計サービス事業、メンテナンスサービス事業が減益となったことで、営業利益が前年同期を下回った。経常利益以下の各利益は、持分法による投資利益は8百万円(前期は1百万円)となったが、営業利益の減少に伴い減益となった。
セグメント別の実績は、以下の通りとなった。
設計サービス事業
売上高は前年同期比で減少した。同社の主たる事業領域である新設住宅着工戸数(持家)が前年同期比で6.9%減となり、同社の設計受託戸数も減少した。
利益面では、営業利益が減益となった。外国為替市場で円安が進行することで中国における設計費用が増加する中、BIM(Building Information Modeling)を活用した事業モデルへの投資(日本および中国(シンセン)における設計人員の増員)を継続し、費用が増加した。
メンテナンスサービス事業
売上高は前年同期比で増収となった。引き続き既存顧客からの受託によって管理世帯数および受付件数が増加し、インバウンドサービスの売上増加につながった。加えて、東京電力エナジーパートナー株式会社と同社の合弁会社であるTEPCOホームテック株式会社をはじめとするエネルギー系企業からの受託案件が増加した。
利益面では、金沢オペレーションセンター開設に向けた準備費用(人件費・設備費)が発生した結果、減益となった。
省エネサービス事業
連結子会社の株式会社ENE’sにおいて、TEPCOホームテックおよび同社が営業連携した大手住宅会社からの工事請負が増加したことにより、省エネサービス事業が増収増益となった。
2022年12月期会社予想
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年12月期の会社予想は、売上高5,105百万円(前期比8.7%増)、営業利益460百万円(同5.1%増)、経常利益501百万円(同35.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益366百万円(同44.4%減)を見込む。
D-TECH事業、H-M事業、E-Saving事業それぞれの分野における新規サービスの売上寄与によって、前期比で増収を見込む。営業利益は、D-TECH事業およびH-M事業においては、新サービスのための先行費用が増加するが、増収効果によって増益となる見込みである。
持分法による投資損益は40百万円の利益(前期は72百万円の損失)を見込む。TEPCOホームテックによる持分法投資利益が増加(黒字転換)する見込みである。
TEPCOホームテックからの持分法による投資利益は51百万円(前期は94百万円の持分法投資損失)を見込む。前期は合弁パートナーである東京電力エナジーパートナー株式会社の営業自粛や設備機器の納入遅延等の影響により損失を計上した。2022年12月期においては前期の赤字要因が解消され、かつ、外部環境としても住宅分野における太陽光発電システムや蓄電池の設置に対するニーズが高まっており受注状況も良好であることから、黒字転換する見通しである。
D-TECH事業
売上高は2,389百万円(前期比6.2%増)、営業利益は477百万円(同4.4%減)を見込む。
売上高は前期比で増収となる見込みである。既存事業が概ね前期並みとなるが、BIM関連(新規事業)の増収によって、D-TECH事業における売上高で増収を見込む。2022年12月期において、同社は住宅着工戸数を800千戸(同5%減)と想定しているが、主要取引先の受注動向を踏まえ、主力の設備設計(給排水・電気)は0.9%の減収に留まる見込みである。太陽光パネルの割付図作成などを行うエネルギー設計は、自治体による太陽光発電設備普及のための助成金を背景に、売上高が二桁増となる見込みである。BIM関連では、住宅会社におけるBIM導入のためのコンサルティングサービスが増収となるとしている。
営業利益は、BIM関連における損失は縮小するが、既存事業は減益となる見込みである。
既存事業は、売上高の減少と前期第4四半期(2021年10-12月)における増員を背景とした人件費増によって減益となる見込みである。
BIM関連では、人件費などの営業費用269百万円を計上する見通しである。2022年12月期においては、前期に引き続き大手住宅会社からの設計依頼に対応できる人員体制の整備を進める。2022年12月期末時点でのBIM関連の人員は合計53名(前期末は36名)で、提案営業を行うコンサルタントが6名(同5名)、エンジニアが5名(同5名)、オペレーターが42名(同26名)を見込む。同社は2022年12月期における増員によってBIM関連の人員体制整備を終える予定であり、来期以降は設計戸数の推移に応じた増員に留まる見通しである。
H-M事業
売上高は1,502百万円(前期比11.6%増)、営業利益は289百万円(同0.3%増)を見込む。
売上高は前期比11.6%、156百万円増となる見通しである。同社は増収要因として、大手住宅会社等の受託増で約60百万円、TEPCOホームテック株式会社を介した受託増で約60百万円、MEDX株式会社を介した受託増で約40百万円の増収を見込む。
営業利益は、CRMクラウドサービス立ち上げの先行費用46百万円(同15.0%増)を計上するほか、金沢オペレーションセンター開設のための一時費用67百万円を計上することで、前期を下回る見込みである。
E-Saving事業
売上高は965百万円(前期比21.8%増)、営業利益は32百万円(同23.3%増)を見込む。
売上高は、株式会社ENE’sの連結子会社化(2020年3月)前から取引関係を有する既存顧客向け売上高が前期並みで推移するが、TEPCOホームテック向け売上高が増加する見込みである。
前期において、省エネ機器の定額利用サービス「エネカリ」の販売において既存住宅向けの営業活動を担う東京電力エナジーパートナー株式会社が営業活動を自粛したことから、TEPCOホームテック向け売上高が低調に推移した。2022年12月期においては、営業活動の自粛を行わないことに加え、新サービスである「エネカリプラス」の販売を進めることで、TEPCOホームテック向け売上高が増加する見込みである。
エネカリプラスはエネカリ同様に省エネ機器の定額利用サービスであるが、契約期間中の省エネ機器の所有権は東京電力エナジーパートナーが有する。このため居住者は売電収入を得ることはできないが、エネカリプラスではエコキュート(自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機)の導入を前提とした専用の電力プランを利用でき、エネカリと比較し利用料と光熱費の合計を抑制できる。
同社によれば、半導体不足を背景とした給湯器の納品遅延によって、前期第4四半期(2021年10-12月)以降の設置工事に遅れが出ているという。同社は、2022年12月期以降は製品メーカーとの直接取引と複数社からの分散調達を推進することで、当第2四半期(2022年4-6月)には設置工事の遅れを解消する見込みであるとしている。
TEPCOホームテック株式会社の持分法による投資利益は、エネカリおよびエネカリプラスの受託拡大によって51百万円(前期は持分法による投資損失94百万円)を見込む。
中長期展望
2021年2月、同社は中期経営計画(2021年12月期-2025年12月期)を発表した。同計画では、2025年12月期において、売上高10,000百万円(2021年12月期比年平均20.8%増)、営業利益1,800百万円(同42.4%増)、経常利益2,000百万円(同52.4%増)、ROEは20.0%(2021年12月期は14.1%)を計画している。
同計画において、D-TECH事業におけるBIMクラウドサービスの展開、H-M事業におけるD-TECH事業とのクロスセルの強化、エネカリおよびエネカリプラスの拡販に伴うE-Saving事業の施工数の増加によって、業績成長を図る。加えて、TEPCOホームテックの業績成長に伴う持分法による投資利益での業績貢献も計画している。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2021年12月期から2025年12月期にかけての年平均成長率。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2021年12月期から2025年12月期にかけての年平均成長率。
D-TECH事業
2025年12月期において売上高で4,300百万円(2021年12月期比年平均17.6%増)、営業利益で1,118百万円(同22.3%増)を計画している。自社開発のBIMクラウドサービスの展開によって、設計戸数と1戸当たりのサービス単価を引き上げる計画である。
BIMクラウドサービス
BIMクラウドサービスは、自社開発ソフトウエア「CAD2BIM」によって従来の設備設計を進化させた新サービスである。BIMクラウドサービスは、2022年12月期において一部の既存顧客に対して試験提供中であり、2022年12月期において本格導入予定である。
同社は、2022年2月時点でBIMに関連した人員を拡充している。2022年12月期において人員体制を整え、CAD2BIMだけでなく、意匠、構造、設備を含めた作図補助をフルBIM設計サービスとして提供する方針である。
BIMとは
BIMとは、Building Information Modelingの略称で、コンピューター上に作成した3次元CAD設計図に加え、建築物の名称、面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、建物の属性情報を持つ建物情報モデルを構築するシステムをいう。BIMでは、企画から基本設計、実施設計、施工などの建築段階だけでなく、施設管理、改修などの運用・管理段階まで情報を一元的に管理できる。BIMは一つのモデルを構成する全てのデータが連動しており、一部のデータ変更を行えば、平面図、立面図、断面図、屋根伏図、面積表、数量表など全てが自動修正される。
住宅建築業界におけるBIMの導入は、大手ハウスメーカーなどを中心に始まっている。BIMの導入状況は、以下の4つに分類できる。
LEVEL0:2次元CAD設計図を利用
LEVEL1:2次元CAD設計図に加え、属性情報のない3次元CAD設計図も活用
LEVEL2:属性情報を有する3次元CAD設計図を活用
LEVEL3:BIMモデルを建築物の運用・管理に活用
同社によれば、多くの住宅会社がLEVEL0の段階で、大手ハウスメーカーがLEVEL1、大手のゼネコン、大手設計事務所がLEVEL2の段階であるという。同社によれば、BIMを導入した場合、設計において3次元データや属性データを入力する必要があり、設計段階の作業負担が増大し設計コストの増加につながることが、BIMの導入を妨げているという。
BIMクラウドサービスの機能
同社は自社開発ソフトウエア「CAD2BIM」を用いて、従来の設備設計を進化させたサービスを展開する。CAD2BIMとは、2次元CAD設計図を自動で3次元CAD設計図へ変換するソフトウエアである。同社が設計した給排水設備などの設計図については属性データも自動で取り込むことができる。これにより、ハウスメーカーは、設計コストの増加なしでBIMのデータを利用することができる。
BIMクラウドサービスでは、設計図を3次元化することで、全ての給排水設備のプレファブ化(施工現場では組み立て作業のみとなるよう工場で部材などを加工すること)が可能になる。従来の2次元CAD設計図において、給水設備のプレファブ化は、柔軟性のある樹脂製の管を用いることで配管同士の干渉を確認せずに対応できていた。一方、排水設備のプレファブ化は、金属製の鋼管を用いる必要があり、配管同士の干渉の確認が必要で2次元CAD設計図でのプレファブ化が困難であった。BIMクラウドサービスでは、CAD2BIMを用い設計図を3次元化することによって、配管同士の干渉の有無などが確認可能となり、排水設備をプレファブ化できる。
プレファブ化の進展によって、施工現場の省力化、配送費の削減、中間商流の短絡化による部材の費用の削減が可能となり、ハウスメーカーの施工費用の低減につながるとしている。
現場施工費の省力化について、従来のサービスでは、排水設備の部材は施工現場で加工、調整し、組み立てる必要があった。排水設備のプレファブ化によって、施工現場での加工、調整が不要になり、組み立てのみで施工が可能となり、施工現場における省力化、現場施工費の低減を実現できる。
配送費の削減について、従来のサービスでは、排水設備に関しては、施工業者が資材販売店へ部材を注文し、部材毎に施工現場に配送していた。排水設備をプレファブ化することで、資材販売店を介さず部材を調達でき、給水設備と排水設備を1つの組み立てキットとして施工現場へ配送することが可能となる。
中間商流の短絡化による部材の費用の削減について、上述の通り、従来のサービスでは、排水設備に関しては、施工業者が資材販売店へ材料を注文してきた。プレファブ化によって、部材の調達において資材販売店を介さず部材メーカーまたは部材商社から部材を調達できる。これにより、中間商流を短絡化し部材の費用を抑えることができる。
同社は、後述の通りBIMクラウドサービスへの切り替えによってサービス単価を引き上げる計画である。同社によれば、サービス単価の引き上げ後であっても、現場加工費や現場施工費等の低減効果によって、ハウスメーカーの排水設備の設計から施工までの費用を約15%引き下げることができるという。
この他、フルBIM設計サービスとして、大手ハウスメーカー向けの構造躯体も含めたBIM設計受託サービスを開発中であるという。同社は2021年7月に執行役員として金柾昍氏を起用した。金氏は、株式会社エヌ・シー・エヌ、AIS総合設計株式会社、株式会社日建設計、BIM用ソフトウエア開発最大手のオートデスク株式会社において、建築設計プロセスにおけるBIMの導入と実践、社内基盤構築に従事してきた。同社は、金氏をBIMの事業部長とすることで、フルBIM設計サービスの開発加速を図る。加えて、同社はBIMに関連したオペレーター等の人員も拡充しており、2022年12月期中には大手住宅会社からのフルBIM設計サービスを受託できる体制が整う見通しであるという。
D-TECH事業の売上高
2025年12月期において、売上高4,300百万円(2021年12月期比年平均17.6%増)を計画している。給排水設備設計の設計戸数は130千戸(同10.2%増)、サービス単価は33千円(同3.5%増)を前提としている。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2021年12月期実績と比較した年平均増減率。
設計戸数(給排水設備設計)
2025年12月期における給排水設備設計の設計戸数は130千戸(2021年12月期比年平均12.9%増)を計画している。注文住宅を取り扱う大手ハウスメーカーなどの既存顧客の設計戸数は、2020年12月期から2025年12月期まで年間80千戸で推移する。既存顧客の設計戸数は横ばいで推移するが、新規顧客の獲得による設計戸数(2025年12月期において50千戸)の増加によって、D-TECH事業の設計戸数が増加する計画である。
既存顧客の給排水設備設計の年間設計戸数80千戸のうち、2023年12月期までに40千戸をBIM設計に切り替える。
新規顧客の開拓では、2025年12月期において設計戸数50千戸の受託を目指す。集合住宅への取り組みを強化するほか、分譲住宅へ進出する。営業対象として、集合住宅や分譲住宅を取り扱う住宅会社の中でもエネカリの取扱店契約のある住宅会社に対する営業活動に注力する。
サービス単価
同計画におけるサービス単価は、サービスの種別や顧客の属性により異なるが、2025年12月期におけるサービス単価(1戸当たり売上高)は33千円(2021年12月期比年平均4.1%増)となる。
既存顧客のBIMクラウドサービス単価は45千円としている。2次元CAD設計図による既存サービスのサービス単価は25千円から28千円であり、BIMクラウドサービスへの切り替えによってサービス単価が20千円程度増加する。
新規顧客のBIMクラウドサービスのサービス単価は30千円としている。新規顧客は集合住宅や分譲住宅を取り扱う住宅会社であり、注文住宅と比較して、給排水設備設計の定型化が進んでいる。そのため、注文住宅を中心とした既存顧客のサービス単価を下回る。
D-TECH事業の営業利益
2025年12月期において、営業利益で1,118百万円(2021年12月期比年平均22.3%増)を計画している。営業利益率は26.0%(2021年12月期比3.8ポイント上昇)としている。BIMクラウドサービスは、2次元CAD設計図による既存サービスと比較し自動化を推進できることから、設計人員の増加を抑制でき、営業利益率の上昇につながるとしている。
H-M事業
2025年12月期において売上高で3,800百万円(2021年12月期比年平均29.6%増)、営業利益で1,026百万円(同37.4%増)を計画している。CRMクラウドサービスの展開と継続的な機能拡充によって、ハウスメーカー、居住者、修理業者にとっての利便性を引き上げる。利便性の向上を背景に、D-TECH事業とのクロスセルを推進し、管理戸数の増加を図る。その他、分譲住宅系や鉄道系の住宅会社など新規顧客の開拓にも取り組む。
2022年12月期以降は、後述の通り三井物産株式会社との合弁会社であるMEDX株式会社(2022年2月設立)によって、サービスの強化と営業対象を拡大し、成長加速を図っている。
CRMクラウドサービス
CRMクラウドサービスは、居住者、同社、修理業者のコミュニケーション(修理依頼受付、修理日程調整、修理完了報告)のほか、家歴(建築・設備設計図面、定期点検や修理の履歴等)の蓄積、分析、共有、居住者への情報配信が可能なサービスである。2021年12月期において、既存顧客へのトライアル運用を開始する予定である。
CRMクラウドサービスの機能
CRMクラウドサービスでは、コミュニケーションをスマートフォンのアプリ等を介して効率化できる。従来は、主に電話を使って同社のカスタマーセンターで居住者からの修理依頼を受け付け、同社から修理業者に対して修理を依頼し、その後、修理業者と居住者が電話で修理日程の調整を行っていた。CRMクラウドサービスでは、居住者がスマートフォンのアプリを、修理業者のカスタマーセンターがCRMシステムをそれぞれ導入し、情報を共有することでコミュニケーションを効率化できる。
CRMクラウドサービスを用いることで、家歴を蓄積、分析し、住宅会社や設備機器メーカーなどと共有できる。同社が従来から蓄積してきた家歴をCRMクラウドサービスに移管し、分析を行うことで、機器ごとの故障の発生率などを把握できる。中長期的には、AIを使った分析を行い、故障時期の予測を目指すとしている。
CRMクラウドサービスにおける居住者向けアプリに対して、同社はトラブルの自己解決支援コンテンツを配信予定である他、ハウスメーカーなどによる点検情報や災害情報の提供も行う予定である。自己解決支援コンテンツではD-TECH事業のBIMのデータを活用し、居住者の使用中の機器の修理方法を配信する。この他、修理業者の作業者向けアプリを開発し、BIMのデータを活用した修理手順の配信や修理業者の受付担当者と作業者間のコミュニケーションの効率化も可能にする方針である。
同社は、修理業者の作業者向けのアプリ、住宅会社および設備機器メーカーに対する家歴のAI分析結果の共有など一部のサービスを有料オプションとする計画である。
MEDX株式会社によるサービス拡充および営業対象の拡大
MEDX株式会社は同社および三井物産株式会社が共同で2022年2月に設立した合弁会社である。MEDXでは、住宅産業向けCRMプラットフォームサービスおよびカーボンニュートラルデータ統合サービスを展開する予定である。
CRMプラットフォームサービスは、同社のCRMクラウドサービスを基に、三井物産の知見および事業ネットワークを生かして企業による販売促進機能を組み込み、機能を拡充したサービスである。MEDXでは、同社が取引がある戸建を取り扱う住宅会社の他、三井物産の営業ネットワークを生かし、マンション管理会社、住宅設備メーカー、電気・ガス・鉄道などのライフラインを提供する企業に対してもサービスを提供する方針である。MEDXがCRMプラットフォームサービスを提供する場合、同社はコールセンターに関するサービスを受託することとなり、H-M事業の成長加速につながる。
カーボンニュートラルデータ統合サービスは、同社のBIMクラウドサービスに二酸化炭素排出量のデータを組み込み、建築に関連した二酸化炭素排出量の算出を行うサービスである。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のスコープ3(サプライチェーンのCO2排出量算出)への対応ニーズのある企業に対し、サービスを提供していくとしている。
H-M事業の売上高
2025年12月期において、売上高3,800百万円(2021年12月期比年平均29.6%増)を計画している。計画の前提として、2025年12月期において、管理戸数は4,000千戸(同25.7%増)、管理戸数1戸当たり売上高は950円(同3.1%増)を想定している。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2021年12月期実績と比較した年平均増減率。
管理戸数
2025年12月期において、管理戸数は4,000千戸(2021年12月期比年平均25.7%増)となる計画である。D-TECH事業で設計サービスのみを受託し、H-M事業での取引がないハウスメーカーに対してクロスセルを行い、管理戸数の増加を図る。その他、分譲住宅系や鉄道系の住宅会社などの新規顧客の獲得にも注力し、管理戸数の増加を図る。
D-TECH事業とのクロスセルの推進によって2025年12月期までに1,600千戸の管理戸数の増加を図る。同社によれば、D-TECH事業で設計を受託中のハウスメーカーであっても、その大半が同社へカスタマーセンター業務を委託せず内製化している。内製化している場合、同社にカスタマーセンター業務を委託すると余剰人員が生じることが、同社のサービスを導入する上での妨げとなっている。同社はCRMクラウドサービスによってハウスメーカーにとっての付加価値を高め、H-M事業でのハウスメーカーからの受託につなげる計画である。同社によれば、D-TECH事業で設計したが、H-M事業においてカスタマーセンター業務を受託していない戸数が4,200千戸存在するという。同社は、このうち2025年12月期までに1,600千戸の受託を目指すとしている。
分譲住宅系や鉄道系の住宅会社などの新規顧客の獲得に注力する。居住者に対する情報配信など上述の付加価値の高さを活かし、2025年12月期までに新規顧客で1,000千戸の受託を計画している。
既存顧客の管理戸数は、通常は顧客であるハウスメーカーの販売活動に伴って増加するが、同計画では保守的に、2020年12月期以降増加しない想定としている。
管理戸数1戸当たり売上高
2025年12月期において、管理戸数1戸当たり売上高は年間950円(2021年12月期比年平均3.1%増)を計画している。管理戸数1戸当たり売上高は、既存顧客と新規顧客(D-TECH事業とのクロスセルを含む)で以下の通り想定している。
既存顧客の管理戸数1戸当たり売上高は、2025年12月期において857円(同0.5%増)と計画している。2020年12月期以降、概ね横ばいで推移する。
新規顧客の管理戸数1戸当たり売上高は、2025年12月期において1,000円としている。修理業者の作業者向けのアプリや住宅会社に対する家歴のAI分析結果の共有などの一部のサービスを有料オプションとすることで、既存顧客と比較し新規顧客の管理戸数1戸当たり売上高が増加する。
H-M事業の営業利益
2025年12月期において、営業利益で1,026百万円(2021年12月期比年平均37.4%増)を計画している。営業利益率は27.0%(2021年12月期比5.6ポイント上昇)となる。2021年12月期において、金沢オペレーションセンターの開設やCRMクラウドサービスの開発に関連した費用を計上し、営業利益率の低下要因となった。2025年12月期においては、これらの影響が剥落し、2020年12月期並みの営業利益率に回復する計画である。
E-Saving事業
2025年12月期において売上高で1,900百万円(2021年12月期比年平均24.4%増)、営業利益で114百万円(同44.8%増)を計画している。持分法による投資利益は、TEPCOホームテック株式会社の業績成長によって200百万円(2021年12月期は72百万円の損失)となる。エネカリおよびエネカリプラスの販売拡大による施工戸数の増加によって、増収増益を計画している。
エネカリおよびエネカリプラス
エネカリとは、居住者が月額利用料を支払うことで、初期費用無しで太陽光発電システム、蓄電池、電気給湯器、IHクッキングヒーターなどの省エネ機器を利用できるサービスである。契約期間(10年または15年)終了後は無料で継続利用でき、契約期間中であれば機器や設置工事に対する保証や自然災害補償を受けることもできる。居住者は、エネカリの導入によって災害に対する備えができる他、電力の使用状況次第では、エネカリの利用料と光熱費の合計が導入前の水道光熱費を下回る可能性もあるという(詳細は事業概要「エネカリの概要」を参照)。
2022年2月には、新サービスであるエネカリプラスの受付を開始した。エネカリプラスはエネカリ同様に省エネ機器の定額利用サービスであるが、契約期間中の省エネ機器の所有権は東京電力エナジーパートナー株式会社が有する。このため居住者は売電収入を得ることはできないが、エネカリプラスではエコキュート(自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機)の導入を前提とした専用の電力プランを利用でき、エネカリと比較し利用料と光熱費の合計を抑制できる。TEPCOホームテックは、エネカリプラスにおいてエネカリ同様に設置工事に対する収益を得る。
E-Saving事業の業績計画
2025年12月期において売上高で1,900百万円(2021年12月期比年平均24.4%増)、営業利益で114百万円(同44.8%増)を計画している。
脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界的潮流となる中、2021年8月には経済産業省や国土交通省が、2030年までに住宅の約6割に太陽光発電システムを設置する目標を設ける検討を始めるなど、日本国内での取り組みも加速している。その中で、同社はTEPCOホームテックと協業し、東京電力グループのブランド力を生かしてエネカリの販売拡大に注力する。
東京電力ホールディングスが2021年8月に発表した「第四次総合特別事業計画」によれば、小売事業における主要な取り組みの一つとして、エネカリを中心とした太陽光発電システム、蓄電池、宅内の電化の提案を挙げている。2022年3月期から2031年3月期の10年間で需要開拓電力量9,700百万kWh以上、電化メニュー契約件数820千件以上の増加を目指すとしている。
施工戸数は、2025年12月期において2,400戸を計画している。このうち、既存住宅が1,200戸、新築住宅が1,200戸と想定している。同社は、1戸当たり売上高は792千円と想定している。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2021年12月期実績と比較した年平均増減率。
*同社は2020年3月にシステムハウスエンジニアリング株式会社(現株式会社ENE‘s)を連結子会社化した。2020年12月期において、E-Saving事業の業績は株式会社ENE‘sの9ヵ月間の業績である。
持分法による投資利益の計画
2025年12月期において、持分法による投資利益は200百万円(同76.6%増)を計画している。TEPCOホームテックの業績拡大によって、持分法による投資利益が増加する計画である。
2025年12月期において、TEPCOホームテックは12,000戸の施工を目指し、このうち既存住宅が6,000戸、新築住宅が6,000戸である。
2025年12月期の1戸当たりの売上高は833千円と想定している。1戸当たりの売上高は機器ごとに異なり、太陽光発電システムは1,000千円、蓄電池は1,000千円、エコキュートは500千円である。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*CAGRは2020年12月期実績と比較した年平均増減率。
事業内容
事業概要
同社は、D-TECH事業およびH-M事業を主要事業とする。D-TECH事業においては、同社は低層住宅(戸建住宅、2階建以下の集合住宅)の給排水設備の設計などを行う。H-M事業においては、住宅のメンテナンス等に関するカスタマーセンター業務を受託する。加えて、同社は2020年12月期に住宅の省エネルギー化に関する施工を行うE-Saving事業を新設した。E-Saving事業においては、東京電力ホールディングス株式会社(東証1部 9501)と連携し省エネ機器設置事業を行う。
2021年12月期において、D-TECH事業は売上高構成比47.9%、調整額控除前営業利益構成比64.4%、H-M事業は同28.7%、同37.2%、E-Saving事業は同16.9%、同3.3%、システム開発事業は同6.6%、営業損失38百万円であった。