*オープンイノベーションとは、内部(社内)のリソースだけでなく、外部(社外)のリソースも利活用して推進するイノベーションのこと。外部の研究開発機能や資本だけでなく、顧客もイノベーションを生み出す協業者として捉える。 **共創(Co-creation)とは、2004年、米国ミシガン大学ビジネススクール教授のC.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミが共著「The Future of Competition: Co-Creating Unique Value With Customers(邦訳:価値共創の未来へ 顧客と企業のCo-Creation)で提唱した概念と言われている。共創は、企業が様々なステークホルダーと協同してともに新たな価値を創造するという概念のCo-Creationの日本語訳。一企業だけで連続して競争優位性を生み出し続けることが困難な時代における企業のビジネスモデルである。
*MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信業者)とは、MNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者。移動通信サービスのための無線局を自ら開設する事業者)の提供する移動通信サービスを利用して、またはMNOと接続して、移動通信サービスを提供する電気通信事業者であり、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設しておらず、かつ、運用をしていない者。国内MVNOは同社含め100社超。なお、MNOはNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルの4社。 **IoT(Internet of Things)とは、様々な物体(モノ)が通信機能を持ち、それらがインターネットを経由して外部のサーバ(クラウドサーバ)に接続することで、遠隔操作やデータ(ビッグデータ)の収集などが可能となる仕組み。モノは、家電製品、家具、自動車、工場設備、構築物など種類を問わない。 ***M2M(Machine to machine)とは、機械と機械が直接通信してデータを交換する仕組み。ただしインターネットには直接接続しない。IoT以前から実用化されていた技術。エレベーターの遠隔監視、自動販売機の遠隔在庫管理、電力・ガスメーターの自動検針、高速道路の渋滞情報を知らせるVICS(道路交通情報通信システム)、ビルの空調、自動車の自動運転、など。IoT、M2Mともに、モノに取り付けるセンサーの性能と、それを結びつける通信技術がシステムの性能を決定する要因となる。
ネッツワイヤレスは、2018年7月より展開されている同社の高速VPNサービスに展開されている。同サービスは、Amazon Web ServiceやMicrosoft Azureなどのパブリッククラウド、同社の音声クラウドサービス基盤(ネッツボイスなど)などのクラウド基盤と顧客を直接接続する。閉域網であるため、高速・低遅延・高セキュリティのネットワークとなる。
要約
事業概要
NECネッツエスアイ株式会社(以下、同社)は、情報通信ネットワークや業務系ICTシステムの構築、施工、運用・保守サービスをワンストップで提供するシステムインテグレーター(SIer)である。2021年3月期現在、日本電気株式会社(東証1部:6701、以下NEC社)が議決権の51.48%を実質的に保有するNEC社の子会社である。同社の売上高は339,109百万円、営業利益は25,563百万円、営業利益率は7.5%(2021年3月期)。事業セグメントは、デジタルソリューション事業、ネットワークインフラ事業、エンジニアリング&サポートサービス事業などで構成される。2021年3月期のNEC社の連結売上収益の11.3%(過去10年平均9%)、営業利益の16.6%(同16%)を占め、NECグループの子会社では最大規模である。国内SIerにおいては売上高の規模で10位以内。顧客数は、2020年3月期時点で製造、サービス、金融等幅広い業種の企業や、通信業者、官公庁・自治体、社会インフラ事業者など10,000強。2021年3月期には、リモートワーク需要を取り込み、ウェブ会議システムの拡販により中小企業を中心に10,000社程度の新規顧客を獲得した模様である。
デジタルソリューション事業(2021年3月期の売上高125,960百万円、構成比37.1%、営業利益構成比38.6%):業務系ICTソリューションを一般企業を中心とした顧客に提供する(2021年3月期の売上構成比は一般企業が約6割、官庁・自治体が約2割、通信事業者が約1割など。当期についてはGIGAスクール案件により官庁・自治体の比率が上昇した)。システムインテグレーション(SI)サービスへの対価が一括計上されるフロー型ビジネスが全体の6割弱で、売上高の大半を占めるのは1件当たり100百万円未満の案件である。当セグメントの柱となっている事業は、2007年に事業化されたEmpoweredOffice事業である。これは、情報通信技術(ICT)とオフィス空間設計サービスを組み合わせた働き⽅改⾰の先駆的な取り組みであり、オフィスでの働き⽅からテレワークなどの場所と時間を越えた働き⽅へと領域を広げている。同社は、新型コロナウイルス感染症を背景に日本で普及したクラウド型ウェブ会議システムZoomを2017年から他社に先駆けて日本で発売した。また、感染症流行以前の2019年秋には各種クラウドサービスを活用した分散型ワークを自社において開始し、Zoomを中心に、顕在化したリモートワークニーズに対応して新規顧客を獲得している。全社ベースでは、同社の売上高に占める一般企業向けの構成比は、同事業の展開前は約3分の1(2007年3月期)だったが、2021年3月期は半分程度へと拡大している。同社が独自に切り開いた事業領域が同社の成長に貢献しているとSR社では理解している。
ネットワークインフラ事業(2021年3月期の売上高89,232百万円、構成比26.3%、営業利益構成比30.1%):電気・水道・ガス供給と並ぶ社会インフラである電話回線網、通信事業者のネットワーク(移動体通信基地局やコアネットワーク:基幹回線網)やテレビ放送網、消防・防災無線システムなどの社会を支えるICTシステムの構築を行う事業である。主な顧客は通信事業者、官公庁・自治体、その他公共サービス事業者(放送、鉄道、電力、水道など)である。フロー型ビジネスが売上高の中心であり、同社は、当事業セグメントにおいて、社会インフラ構築に求められる技術力を有していることが、他SIerとの違いを生んでいる。
エンジニアリング&サポートサービス事業(2021年3月期の売上高114,089百万円、構成比33.6%、営業利益構成比33.1%):同社が構築したシステムの運用、保守・管理、テクニカルサポート、ならびに施工を中心とする海外や地域の事業を執り行う。フロー型ビジネス(主に施工)が売上高の6割を占める。ストック型ビジネスの保守事業については、全国400ヵ所のサポート拠点などを整備して24時間対応の体制を敷く。同社はSIerに区分されるが、施工領域を手掛ける当セグメントの存在が、他のSIerに対する差別化要因となっている。その施工力が、NEC社以外のベンダーとのネットワーク構築(施工)事業の拡大にも結実しているとのことである。
業績動向
2022年3月期実績は、受注高336,759百万円(前期比0.0%減)、売上高310,334百万円(同8.5%減)、営業利益23,181百万円(同9.3%減)、経常利益23,550百万円(同7.6%減)、親会社に帰属する当期純利益15,021百万円(同4.6%減)となった。GIGAスクール案件やメガソーラープロジェクトなど、2021年3月期の大型案件などの一過性要因を除いた実質ベースでは、売上高は同8%増であった。
2023年3月期会社予想は、売上高330,000百万円(同6.3%増)、営業利益26,000百万円(同12.2%増)、経常利益26,000百万円(同10.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益15,300百万円(同1.9%増)である。DX技術を活用した新しい働き方(ニューノーマルな働き方)に対する需要は、引き続き企業向け分野においては拡大する見込みである。通信事業者向け分野では5G本格化に向けた設備投資は堅調に推移するものと予想する。
同社の強みと弱み
SR社では、同社の強みは、1)NECグループの事業基盤(ブランド、顧客、技術)を自社事業に活かすことができること、2)SIerでありながら通信建設事業者としての技術力と施工力を併せ持つこと、3)働き方改革のソリューションを自社オフィスで実践し顧客に販売するポジティブスパイラルによってノウハウを蓄積していることと理解している。
また、同社の弱みは、1)保守サービスにおけるフィールド作業などにおいて外注依存度が高いと推測され、それが利益率を押し下げている面があること、2)2019年に開始したプラットフォーム型のクラウドサービスが同種サービスの市場の中では後発であり知名度が低いこと、3)将来的には海外事業の拡大を目指しながらも必要なリソース(人材やノウハウ)を十分に蓄積できていないため、今後の成長のためには重要と考えられる業務系ICTソリューションの海外展開が停滞していること、とSR社では捉えている(本項後述)。
主要経営指標の推移
注1:表の値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注2:同社は2020年6月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施。上表では2011年3月期の期首に当該株式分割が行われたと仮定してEPS、BPSを算定。
注:表の値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注1:表の値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注2:同社は2020年6月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施。上表では2011年3月期の期首に当該株式分割が行われたと仮定してEPS、BPSを算定。
注1:表の値が会社資料と異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
注2:同社は2020年6月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施。上表では2011年3月期の期首に当該株式分割が行われたと仮定してEPS、BPSを算定。
直近更新内容
2023年3月期~2025年3月期中期経営計画「Shift up 2024」を発表
NECネッツエスアイ株式会社は、2023年3月期~2025年3月期の3ヵ年を期間とする中期経営計画「Shift up 2024」を発表した。
(リリース文へのリンクはこちら)
基本戦略
本中期経営計画において、同社は以下の3つの基本戦略を実践する。
基本戦略1 オリジナルな価値創造を加速
DXにおけるコンサルティングからサービス、プラットフォームまでを事業ブランド「Symphonict」のもとで幅広く提供するとともに、顧客やパートナーとの共創実践を通じてイノベーションの創発を加速し、独自の価値提供モデルを構築する。
基本戦略2 課題解決力の高度化
企業や自治体、通信事業者などそれぞれの業種の課題に応じ、DXと次世代ネットワークを組み合わせた最適なサービスを提供するとともに、気候変動課題の対策・改善に寄与する事業を創出し、サステナブルな社会価値の創造を目指す。
基本戦略3 “全社”のDXネイティブ化
業務のDX化を推進することで、品質・スピード・生産性・収益の向上を実現するとともに、それらをリファレンスモデルとして確立し、顧客への提供を目指す。同時にこれらを担う人材の育成にも注力する。
経営目標
上記に加えて、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)それぞれの取り組みを推進することが同社の企業価値の持続的な向上につながると考え、非財務指標を掲げた。本中期経営計画期間で達成すべき目標として「高度人材の育成」「エンゲージメントスコアの向上」を、長期的な目標として「女性管理職比率の向上」「温室効果ガス排出量の削減」を新たに設定した。
*エンゲージメントスコア:社員と企業の愛着心や信頼関係を数値化したスコア
韓国の通信機器メーカーHFR社に出資
NECネッツエスアイ株式会社は、韓国の通信機器メーカーであるHFR, Inc.(韓国証券取引所 230240)に出資したことを発表した。
(リリース文へのリンクはこちら)
HFR社は、韓国の通信事業者向けに5G製品の提供や、韓国におけるローカル5G製品の提供を行っており、韓国国内で一定の市場を有している通信機器メーカーである。同社はHFR社の発行済株式の4.5%(607,006株)を保有することになる(出資金額は非開示)。
同社は、2022年2月にHFR社と業務提携契約および販売店契約を締結した。同社はローカル5Gおよびプライベートネットワーク関連製品の国内独占販売権を獲得して、2022年6月より受注を開始する予定である。同社は今回の出資によりHFR社との連携を強固にし、日本市場における同社のローカル5G事業の更なる強化、拡大に努める、としている。
業績動向
四半期実績推移
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
*表の数値が会社資料とは異なる場合があるが、四捨五入により生じた相違であることに留意。
2022年3月期通期実績(2022年4月28日発表)
概要
2022年3月期通期実績
決算のポイント
受注高は前期比0.0%減となった。受注額が減少した主な要因は、2021年3月期の大型案件の効果の剥落(GIGAスクール案件:約29,000百万円)、半導体や部材不足による影響(約5,000百万円)、子会社の非連結化(2021年3月期第2四半期以降:約1,500百万円の受注減)、である。一方、増加した要因は、DX事業(働き方改革分野)・通信事業者向けインフラなど(約35,500百万円)の需要増である。2021年3月期の大型案件などの一過性要因を除いた実質ベースでは、受注高は前期比12%増であった。
売上高は前期比8.5%減収となった。DX事業・通信事業者向けインフラなど(約24,000百万円)が増収要因となった。一方、減収要因はGIGAスクール案件の剥落(約28,000百万円)、メガソーラープロジェクト(約11,000百万円)、半導体や各種部材不足(約12,500百万円)、子会社の非連結化(約1,500百万円)である。2021年3月期の大型案件などの一過性要因を除いた実質ベースでは、売上高は前期比8%増であった。
営業利益は前期比9.3%減となった。営業利益率は7.5%と、前期と同じであった。減益要因はGIGAスクール案件の剥落(約3,000百万円)、半導体や各種部材不足(約2,500百万円)、ミャンマーの政情不安による影響(約1,800百万円)、新事業開発などによる体制強化に伴う販管費の増加(約1,900百万円)であった。一方、増益要因は、DX事業、通信事業者向けインフラの売上高増加(約4,900百万円)、高付加価値や効率化による収益性の改善(約2,000百万円)であった。
なお、2022年1月に修正した通期会社予想に対する達成率は、受注高が100.5%、売上高が99.1%)、営業利益が103.0%、経常利益が103.3%、親会社株主に帰属する当期純利益が103.6%であった。
セグメント別実績
デジタルソリューション事業
売上高は、110,344百万円(前期比12.4%減)となった。注力領域であるDX技術を活用した働き方改革に関連したICTサービスは拡大した。一方で、GIGAスクール案件の剥落(約14,500百万円)、連結されていたグループ会社を非連結化した影響(約1,500百万円)、サービス提供型へのビジネスモデル転換に伴うリードタイムの長期化、の影響があった。
営業利益は13,047百万円(同5.2%減)、営業利益率は11.8%(前期から0.9ポイント上昇)となった。ビジネスモデルの転換が進展した結果、収益性が改善した。
なお、修正した通期会社予想に対する達成率は、受注高が97.4%、売上高が97.6%、営業利益が96.6%であった。
ネットワークインフラ事業
売上高は96,426百万円(前期比8.1%増)となった。半導体や各種部材不足の影響があったが、通信事業者向け、社会公共インフラ分野が拡大した。
営業利益は10,254百万円(同10.4%増)、営業利益率は10.6%(前期から0.2ポイント上昇)となった。半導体や各種部材不足の影響があったが、主に増収効果により、増益となった。
なお、修正した通期会社予想に対する達成率は、受注高が100.9%、売上高が98.4%、営業利益が102.5%であった。
エンジニアリング&サポートサービス事業
売上高は98,116百万円(前期比14.0%減)となった。運輸・交通分野などは増収であった。しかし、メガソーラープロジェクト(約11,000百万円)やGIGAスクール関連(約13,500百万円)の売上高が減少したことや、半導体不足による影響、が減収要因となった。
営業利益は9,117百万円(同22.8%減)、営業利益率は9.3%(前期から1.1ポイント低下)となった。減益となった主な要因は、半導体不足による影響、ミャンマーの政情不安を受け、通信インフラ設置プロジェクトの遂行における費用の増加、であった。
なお、修正した通期会社予想に対する達成率は、受注高が103.7%、売上高が101.2%、営業利益が101.3%であった。
過去の四半期実績と通期実績は、過去の財務諸表へ
2023年3月期通期会社予想(2022年4月28日発表)
四捨五入で生じる相違により表の数値が会社資料と異なる場合がある。下期会社予想(下期会予)は上期と通期の会社予想の差分(SR社試算)
2023年3月期通期会社予想の概要
同社は、引き続きICTに対する需要は堅調に推移するものと考える。一方で、新型コロナウイルス感染症や半導体や各種部材不足の影響、さらには世界情勢の悪化などの不透明感が継続するものと予想する。
企業向け分野においては、DX技術を活用した新しい働き方(ニューノーマルな働き方)に対する需要が引き続き拡大すると見込む。この新しい働き方は、引き続き官公庁への拡大が期待される。通信事業者向け分野では5G本格化に向けた設備投資は堅調に推移するものと予想する。官庁・自治体、公益関連においては、減災等都市基盤高度化に向けた投資が底堅く推移するなかで、まちづくりなどへのDX活用の取り組みが徐々に動き出すと見込む。
年間配当は1株当たり46.00円(前期は43.00円)と、16期連続増配を計画する。同社はDOE(自己資本配当率)を考慮して配当額を決定し、一時的な業績悪化に影響されない安定的な株主還元を目指す。DOEは、2020年3月期までは3.8%を基準として配当水準を決定していたが、2021年3月期は4.5%、2022年3月期から5.0%を目安に引き上げた。
中期経営計画「Beyond Borders 2021」(2020年3月期~2022年3月期)
同社は、2019年5月8日に、2022年3月期を最終年度とする3ヵ年の中期経営計画「Beyond Borders 2021」(以下、当中計)を策定し、2021年3月期をもって2年が経過した。同社は、2021年5月7日の決算説明会において同中計の進捗状況を以下の通り説明した。
中期経営計画の進捗状況
数値目標の早期達成
2022年3月期(最終年度)の目標であった売上高、営業利益等の目標値を、2021年3月期において達成した。同社は2022年3月期の業績予想をもって中計最終年度の目標値としている(従前の目標値は後段参照)。
想定外の要素
同社は、中期経営計画策定時点では、新型コロナウイルス感染症拡大によるICT投資の先送り、同影響によるDX関連投資の顕在化、GIGAスクール案件の収益への貢献のいずれも織り込んでいなかった。数値目標の早期達成の背景には、新型コロナの悪影響を上回るDX関連ならびにGIGAスクール案件の取り込みがあったと同社は説明している。
顧客・事業基盤でも、当初想定以上の拡大があったと同社では認識している。まず、従来から顧客基盤であった官公庁・自治体向けのサービスにおいて、GIGAスクール案件による文教市場を事業領域に加えた。
また、DX関連(働き方改革関連ICTサービス)では、従来の顧客基盤ではなかった中小企業から、Zoomを中心とするリモートワーク用商材の受注を獲得した。同社のDX関連事業の顧客数は、2020年3月期末に約1,200社だったものが、2021年3月末には約15,700社へと、14,500社増加した。このDX顧客増については、過半が新規の顧客であり、その多くは中小の顧客層と見られ、販売単価もZoomライセンスを中心とした少額のものが多いが、同社では今後、アップセル・クロスセルによる客単価上昇を図っていくとしている。
定性目標の進捗状況
DXと5G
同社では、当中期経営計画において、DX関連事業の拡大、ならびに第五世代移動通信システム(5G)を基盤とする通信ネットワーク整備に注力するとしている。
DX関連事業においては、上記の通り想定以上の顧客基盤の拡大があった。また提供価値(サービス)においては、働き方改革ならびにまちづくりの視点で、新たな顧客向けのサービスを拡充しているとのこと。多くの新規顧客(中小企業)はウェブ会議システムZoomの提供を契機に同社顧客となっている。今後は、他のクラウドサービス(Wrike、Docusignなど)の提供や、複数のクラウドを連携させて使いやすくするマルチクラウドサービスを推進していくとしている。
事業力の強化(収益性改善の取り組み)
同社では、中計開始から2ヵ年が経過した2021年3月期時点で、全社ベースの粗利率(売上高総利益率)が18.9%(中計開始前年の2019年3月期は17.2%)、営業利益率は7.5%(同4.6%)と、いずれも上昇した。営業利益率は、中計最終年度の目標値である6.5%を上回った。
同社は、収益性改善に繋がる効率化・コストコントロールとサービスの高付加価値化の両面で、成果があったとしている。
効率化・コストコントロールにおいては、組織再編効果の最大化(リソース効率の向上)と、自社における働き方改革の推進(DXを活用した生産性向上策の自社実践)により、リソース効率が改善、プロジェクト品質の向上に結び付いたとのこと。
サービスの高付加価値化では、顧客・パートナー企業・スタートアップ企業などとの共創によるサービスの投入によって、DX需要を取り込み、DX関連受注の拡大や収益率向上という成果を出した。また、自社実践を通じた業務改善ノウハウを持つ自社スタッフによるコンサルティングの強化にも取り組んでいる。これも受注採算の向上に貢献するとのことである。
参考:中期経営計画のこれまでの数値目標(2019年5月8日発表時点)
最終年度である2022年3月期において、売上高310,000百万円(2020年3月期実績303,616百万円)、営業利益20,000百万円(同16,245百万円)、営業利益率6.5%(同6.5%)、ROE10%以上(同8.7%)としている。売上高、各利益ともに過去最高の業績を目指す。
収益率引き上げの方策として、組織再編によるリソース集約効果の発現に加え、デジタルソリューション事業においては、クラウド型サービスを中心とするDX事業(本項後述)に注力し、エンジニアの人数や作業時間(工数)に連動する現在のフロー型ビジネスから、サービスの対価が売上高に計上されるストック型ビジネスを拡大し、それによりさらにフロー型事業を拡大させる事業へと収益モデルの転換を図る。
デジタルソリューション事業セグメントでは、当中計前の2019年3月期時点で売上高の40%(約40,000百万円)だったストック型ビジネスを2022年3月期までに同60%(66,000百万円)とし、営業利益率の改善を図る。
実績
目標
(年平均)
中期経営計画の基本戦略(定性目標)
中期戦略を実現するための基本戦略は以下3点。
「デジタル×5G」時代に向けた競争力・成長力強化
「デジタル×5G」とは、第五世代移動通信システム(5G)を基盤とする通信ネットワーク上で、先端デジタル技術を基盤とするデジタルトランスフォーメーション(DX)サービスが展開されること。
主な取り組み
2018年4月に立ち上げた全社横断的の「DX事業」の売上高拡大
第5世代移動通信システム(5G)技術確立への足場づくり
「DX事業」の売上高拡大
DX事業とは、主管する事業セグメントを問わず、CAMBRICと呼ばれる以下の技術を基盤とするソリューションの総称。
CAMBRIC:クラウド(Cloud)、人工知能(AI)、モビリティ(Mobility)、ビッグデータ(Big Data)、ロボティクス(Robotics)、モノのインターネット(IoT:Internet of Things)、サイバーセキュリティ(Cyber security)
DX事業の受注高は中計初年度の2020年3月期に約6,000百万円となった。セグメント別の内訳は、デジタルソリューション事業が約8割、ネットワークインフラ事業とエンジニアリング&サポートサービス事業で約1割ずつとなった。同社は、2021年3月期には全社合計で9,000百万円を、中計最終年の2022年3月期に15,000百万円の受注獲得を目指す。
デジタルソリューション事業セグメントでは、DX事業拡大を通じて、2019年3月期に40%だったストック型ビジネスの売上高シェアを、2022年3月期までに60%にする目標を掲げている。
同社は、DX事業の新ブランドSymphonict(シンフォニクト)を2019年10月に立ち上げ、同ブランド名の元でDX事業のサービスラインナップを拡充していく。
Symphonictとは、自社実践と顧客との共創を通じて生み出したデジタルサービスによって働き方やまちづくりを変革し、企業や自治体・社会インフラをはじめとする様々な顧客の「デジタルシフトによる価値創造・課題解決」を実現する同社の事業ブランド。
幅広いデジタル技術・サービスから独自に選定・組み合わせ、ベストプラクティスとしてサービスを提供。
様々なクラウド(SaaS・PaaS)やコミュニケーションツールを繋ぎ、プロセスの自動化や省人化、統合データの活用を実現。
様々デバイス・センサーからクラウドまでをセキュアにつなぎ、働き方からまちづくりまで幅広いデジタルシフトを支え、社会と企業のサステナブルな発展に貢献
出所:同社資料よりSR社作成
5G技術確立の足場づくり
同社は今中計期間を、2023年3月期以降の5Gサービス本格化を見据えた準備期間と位置付け、4GLTE品質の改善を行いつつ、ネットワークのマイグレーション(5Gへの移行)拡大に対応した技術の深耕と施工能力の確保に取り組む。
コアネットワーク領域においては、5G化によってネットワークの仮想化が進むことに対応し、製品SIからソフトウェアSIへ対応領域の拡大を図る。
5G基地局の建設に関しては、同社とKDDI株式会社(東証1部:9433)との合弁企業K&Nシステムインテグレーションズ株式会社(KNSI社、非上場)*が執り行う。KNSI社を軸として、DX活用による構築の効率化などを推進し、KDDI社の基地局のシェア拡大を目指す。
ローカル5Gについては、通信事業者の基地局からコアネットワーク構築まで手掛けるインフラ構築力とDX基盤やデジタルサービスの創出、提供力を活かし、社会課題解決型ビジネスの創出を図る。
ローカル5Gインフラ導入に際しては、ライセンスバンドであるローカル5Gの免許申請から、各種設計、構築・施工、保守・運用までワンストップでサービスを提供する。
また、社会課題解決サービスの創出を、実証実験を通じ推進し、自治体、公益企業などのパブリック市場やオフィスビルをはじめとするエンタープライズ市場への提案を強化していく。まずは、同社が強い自治体・CATVマーケットや働き方改革分野から具現化を進める。現在、同社では、これらの有効な活用事例を積み上げることを目指し、徳島県関連施設の通信環境整備を目的にローカル5G網の構築や、三井不動産と共同で日本橋室町三井タワーでの実証実験の取組みを積極的に進めている。今後、これらの事例をベースに「DXサービス」と「5G」を融合したビジネスモデルを構築し、各市場への展開を図ることで、今後3年以内の事業の本格立ち上げを目指す。
先端技術・新しい事業を創出する基盤、仕組、体制強化
主な取り組み
ビジネスデザイン統括本部をバリューチェーンの最上流に新設
オープンイノベーション*・共創**による先端技術の導入
ビジネスデザイン統括本部をバリューチェーンの最上流に新設
2019年4月に旧来本社の管理部門や各事業セグメントに分散していた研究開発や事業開発の機能・人材を一つの本部に集約する形で設置。全社の技術戦略や新たなビジネスの企画、パートナリング、アライアンスを担う。人員数も設立当初から拡大している模様。
同社は2020年11月に、新川崎R&Dセンター(神奈川県川崎市幸区)「テクニカルベース」の稼働を開始。5Gビジネスの本格展開に向け、関連技術の評価・検証、人材育成などの機能を持たせる。
同本部は研究開発のほか、同社独自のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「ネッツ・イノベーション・ベンチャー有限責任事業組合」も所管。
同社はCVCを通じてベンチャー企業に対する投資を行う。
同投資はキャピタルゲインを目的としない。
オープンイノベーションと共創による先端技術の導入
CVCについては、運用額500百万円でスタートし、2020年11月時点で以下4社のスタートアップ企業へ融資が実施済み。
Boomtown(米):2018年4月出資。オムニチャネル対応のコンタクトセンターとオンサイトサポート網とを組み合わせた次世代サポートサービス事業を展開するスタートアップ企業。
savioke社(米):2018年7月出資。ホテルや医療向けに活用できる自動配送ロボット技術を有する。
インターメディア研究所(日):2018年9月出資。静電容量コード技術を用いた製品を開発。同社の電子スタンプデバイスは他社製品と比べ秘匿性の高い認証基盤として活用できるとのこと。
ALE社(日):2018年10月出資。2020年に世界初の「人工流れ星」を実現する衛星の開発を目指す宇宙スタートアップ企業。
2019年にはシリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタルへの出資もしくはパートナーシップ契約を締結した。
2019年4月にSozo Venturesへ出資、同年5月にPlug and Play Tech Centerとパートナーシップ契約を締結した。CVCはアーリーステージの企業に焦点を当てるが、ベンチャーキャピタルとの連携は、主にレイターステージのベンチャー企業の発掘を目的としている。
同社はビジネスパートナーとして、国内にサプライチェーンを持たないベンチャー企業に対して、全国的な営業網、施工、保守、物流網など同社のサプライチェーンを提供するとしている。
NECネッツエスアイグループ全体でのイノベーション加速
主な取り組み
事業セグメントの再編
分散型ワークの導入と首都圏オフィスの再編
事業セグメントの再編
これまで企業向け、通信事業者(キャリア)向け、官公庁・自治体・公益事業者(社会インフラ)向けといった市場や顧客ごとの区分だった事業セグメントを、類似の技術を集約したセグメントに再編。
デジタルソリューション事業本部:業務系ICTソリューション事業のための技術を集約
ネットワークインフラ事業本部:キャリアインフラや社会インフラ関連ソリューション事業のための技術を集約
エンジニアリング&サポートサービス事業本部:各事業本部がそれぞれで保有していた施工能力、技術者を集約
なお、再編以前の体制は以下の通りであった。いずれの事業本部も施工機能と研究開発(R&D)機能を保持していた。
企業ネットワーク事業本部:主に企業等のオフィス向けICTソリューション提供ならびに施工、R&D
キャリアネットワーク事業本部:キャリア向けのICT基盤構築ならびに施工、R&D
社会インフラ事業本部:官庁・自治体や公益法人(放送・電力など)向けICTインフラ構築並びに施工、R&D
分散型ワークの導入と首都圏オフィスの再編(詳細はセグメント別事業概要の項を参照)
2019年10月の分散型ワーク(テレ/リモートワーク)を開始。これに伴い、首都圏7ヵ所にサテライトオフィス「アクティビティベース」を設置。本社フロア面積は60%削減。
コーポレートスタッフの過半がテレワークや、自宅から30分程度のサテライトオフィスで勤務する体制を構築。
同社は、感染症対策も兼ねるこの自社実践の成果を同社サービスに反映し、顧客に提供していく。
日本橋室町三井タワー「イノベーションベース」(東京都中央区日本橋)に、新設したビジネスデザイン統括本部を配置。ここにベンチャー企業との共創を推進する機能と人材を集約した。
同社が2030年に向けて目指すこと
同社が「実現したい社会像」は「より快適で便利なコミュニケーション社会」である。その上で同社の「ありたい姿」を「パートナーとの共創で新しいバリューチェーンをプロデュースするコミュニケーションサービス・オーケストレーター」と記している。
「オーケストレーター」とは、様々なパートナーとの共創により、様々な技術を基盤とするサービスを顧客に合わせて最適な形に組み合わせて提供することを意味する。オーケストラの指揮者のイメージである。これは同社が創造する価値が、多様な技術の革新的な組み合わせから生まれることを表現している。
コミュニケーションの定義
コミュニケーションとは、「社会生活を営む人間の間に行われる知覚・感情・思考の伝達。言語・文字その他視覚・聴覚に訴える各種のものを媒介とする」と定義されている(広辞苑より)。
ただ同社は、旧来の定義を超えて、人と人だけでなく、人とモノ、モノとモノ、また、海底から宇宙までの、全てのコミュニケーションを事業領域と捉えている。また、人と人においては、場所や時間にとらわれずに、イノベーションにつながるような自由闊達な議論を可能にするコミュニケーションを目指している。そのために、ハード、ソフト両面の先端技術に加え、自社実践でノウハウを得た制度面の変革も、コミュニケーションを高める手段として重視している。
同社はコミュニケーションについて、人間が人間たるために必須のものであり、コミュニケーションの発展がすべての社会課題の解決に繋がるものであると考えている。
事業内容
ビジネスの概要
企業概要
同社は、日本電気株式会社(東証1部:6701、以下NEC社)が議決権の51.48%を実質的に保有するNEC社の子会社であり、通信建設工事を祖業とするシステムインテグレーター(SIer)である。企業、通信業者、官公庁・自治体、社会インフラ事業者などに、情報通信ネットワークや業務系ICTシステムの構築、施工、運用・保守サービスをワンストップで提供する。
同社は、コアネットワーク(基幹通信網)*の構築や移動体通信基地局の建設などにおいて、通信事業者とのSLA(サービス品質保証)を達成する技術力を有する。同時に、同社は情報通信技術(ICT)とオフィス空間を融合する働き方改革ソリューション「EmpoweredOffice事業」を2007年から進める、同分野のパイオニアでもある。
2020年3月期末時点の顧客数は製造、サービス、金融等幅広い業種の企業や、通信業者、官公庁・自治体、社会インフラ事業者など10,000強。2021年3月期には、リモートワーク需要を取り込み、ウェブ会議システムの拡販により中小企業を中心に10,000社程度の新規顧客を獲得した模様である。
沿革
1953年に日本電気株式会社(東証1部:6701、以下NEC社)の工事部門が独立して設立された。同社の祖業はNEC社の顧客に対する通信設備工事である。同社はNEC社との連携を維持しつつも、インターネットの普及とともにNECとの協業分野以外の市場を切り開き、独自の業務系ICTソリューションビジネスを収益の柱に育てた。
同社は現在、NEC社が議決権の51.42%を実質的に保有するNEC社の子会社である。2021年3月期現在、NEC社連結売上収益の11.3%、営業利益の16.6%に相当する。
同社は、1953年の分離独立から、NEC社のネットワークインフラ事業において通信事業者の局舎や企業・官公庁のビルなどにNEC製電話交換機を施工する機能を担ってきた歴史を持つ。
2021年3月期現在の同社の売上高の約3割がNECグループ向けもしくはNEC社経由での請負事業である。
同社はNEC社との連携を維持しながらもマルチベンダー志向を強め、NEC社との協業分野以外の独自の市場も切り開いてきた。同社の売上高に占めるNEC関連の割合は過去10年で約5割から約3割へ低下した。
社名の変遷:1953年「日本電気工事株式会社」、1980年「日本電気システム建設株式会社」、2005年「NECネッツエスアイ株式会社」
現社名「NECネッツエスアイ」の由来:「ネッツ(Nets)」はネットワークスの略語(Networks)。ネットワークシステムのみならず、人と人、企業と企業の結びつきも表す。「エスアイ(SI)」はシステムインテグレーションの略語。同社が従来から得意とするネットワークシステムを発展させ、さらにIT技術などを付加し、顧客のニーズに合わせ、様々なシステムインテグレーションを提供する、という意味が込められている。
事業セグメント
同社業績の事業セグメント別内訳は、デジタルソリューション事業(2021年3月期の売上高構成比37.1%、同営業利益構成比38.6%)、ネットワークインフラ事業(同26.3%、同26.1%)、エンジニアリング&サポートサービス事業(同33.6%、同33.1%)、その他(情報通信機器の仕入販売、同2.9%、同2.2%)で構成されている。
デジタルソリューション事業では、主に業務系ICTプラットフォームに関するシステムインテグレーションを、企業、官公庁、自治体など幅広い顧客向けに行う。2021年3月期の売上高と営業利益はともに同社の事業セグメントの中で最大となった。代表的な事業は、ペーパーレス化やテレワークを可能にする働き方改革ソリューションEmpoweredOffice事業である(後段で詳述)。同社が独自に切り開いた事業である。
ネットワークインフラ事業では、主に通信事業者、官公庁、自治体、その他社会インフラを提供する事業者向けにICTシステムや有線・無線通信ネットワークの構築を行う。代表的な事業は、通信事業者向けコアネットワークのシステムインテグレーションや基地局設置、自治体向け消防救急システムや防災無線、防災用映像・監視システムの構築、テレビ局の放送設備やCATVインフラの整備などである。
エンジニアリング&サポートサービス事業では、同社が構築したシステムの運用、保守・管理、テクニカルサポート、ならびに施工を中心とする海外や地域の事業を執り行う。同社が提供する国内外のICTシステムの施工と、保守、運用・監視、テクニカルサポートサービスなどを執り行う。なお、東日本、西日本の地域拠点における事業もICTシステムの施工を中心としていることからこのセグメントに属している。防災無線や消防救急システム・高速道路の通信ネットワークの施工と、日本全国のサポートサービス基盤を活用したICTシステムの施工、保守・運用サービスなどが代表例である。
ビジネスモデル
売上高
同社は、顧客の情報通信システムの構築、施工、保守、運用等を受注し、そのサービスへの対価を売上高として計上する。全社ベースでは、売上高(受注高)の約7割はSI/構築などのフロー型ビジネスで、基本的には、案件毎に、機器やプロジェクトに携わる技術者の人数と納期を基準とした工数(人数×時間)をベースにしたビジネスである。残り約3割が保守や運用、アウトソーシングなどのストック型ビジネスであり、月額で対価を受け取るビジネスである。
受注単価のボリュームゾーンは100百万円未満の案件である。受注から売上計上までの期間は概ね3か月程度。施工を伴う数億円から数十億円単位の事業では工期が数年に及ぶケースもある。
デジタルソリューション事業では、ストック型ビジネスの割合が全社平均を上回る5割弱(2021年3月期)。同セグメントでは、売上高が一括計上されるオンプレミス*のシステム構築のウェイトが下がる見込みであり、より収益性の高いクラウド型サービス**などのストック型ビジネスへの移行を進めている。
クラウド型サービスの取り扱い拡大により受注単価が低下し、短期的には、売上高が伸び悩むとSR社では理解している。例えばインターネット回線を利用したテレビ会議システムZoomのライセンス料は数万円程度(ビジネスライセンス:10ライセンス)。同社はZoom等で獲得した新規顧客に対するクロスセル・アップセルを通じて顧客単価の上昇の機会を探るとする。
ネットワークインフラ事業では、フロー型ビジネスの割合が約8割である。コアネットワークや基地局等移動体通信ネットワーク、社会インフラに関わるネットワークなどインフラ構築が中心である。高度なシステム保守などはネットワークインフラ事業で行うが、それ以外は通常の保守サービスはエンジニアリング&サポートサービス事業の全社共通サービス基盤を使う。
受注単価は官公庁や自治体などを発注者とした一般競争入札により決まるケースが多い。一件当たりの受注額は、大型のものでは1,000百万超の案件もある。
エンジニアリング&サポートサービス事業のうち、施工事業は工数をベースとしたフロー型ビジネス。一方、運用・監視、保守サービスはストック型ビジネスである。フロー型ビジネスの売上高構成比は全社平均並みとのことである。
コスト構造
同社によれば、コスト構造は、機器材料費、外注費、その他費用などである。内訳は概ね三分の一ずつである。
同社グループ外への外注費は、システムインテグレーション、施工、保守と、同社バリューチェーンの上流から下流までのいずれでも発生しているとSR社では理解している。
24時間体制の保守サービスについては、同業他社においては9割以上を外注するケースがみられる。同社でも、保守サービスにおけるフィールド作業などにおいて一定部分を外注に依存しているとSR社では理解している。
同社では一層のコスト構造強化のため、施工事業ではプロジェクト管理に携わる人材育成を通じた内製化、保守業務では同社グループ企業のNECネッツエスアイ・サービス株式会社(非上場)への集約を通じた内製化に取り組むとしている。
2020年3月期に販管費の「その他」が前期比3,300百万円増加。同期に開始したテレワーク勤務「分散型ワーク」に伴うサテライトオフィスの設置など、一過性のオフィス再編費用2,000百万円が計上された。
NEC社との関係
概要
同社は1953年にNEC社の工事部門が分離して設立された。2021年3月期末現在、NEC社は同社の議決権の51.42%を保有している。NEC社が顧客から受注したICTシステムの一部は、同社がその構築ならびに保守サービスをNEC社から請け負っている。NEC社は現在、同社が顧客に提供するICTシステムを構成する情報通信機器のメインサプライヤーである。
同社とNEC社との協業分野
同社設立時から1980年代までの同社事業は、ほぼすべてがNEC社との協業(NEC社からの請負)である通信建設工事であった。しかも、一時期はそのうち約半分が海外での通信インフラの構築と施工工事の時代もあった。
国内事業では、通信事業者向けのNEC製局用交換機や無線・伝送機器の設置や保守、放送事業者向けのNEC製通信機器を使用したインフラの構築、施工、保守、が主な事業であった。
NEC社からの請負工事の割合は、同社設立時はほぼ100%だったが、同社が独自に市場を開拓していくにつれて低下し、2021年3月期時点では、NEC社向け売上は、請負工事やNEC社向けのサービスを合わせて同社売上高の約3割になっている。
現在の協業事業の中心領域は、引き続き官公庁、自治体、通信事業者向けの通信インフラ構築である。ただ、同社によれば、事業領域の住み分けが進んでいるとのこと。
NEC社はミッションクリティカルな分野(社会インフラ)や、それを供給する顧客(中央官庁、公益法人、金融機関など)に注力する一方、同社は、NECとの協業分野に限定せず、独自に市場を広げている。
同社とNEC社との取引関係
NEC社は、同社が顧客に提供するICTシステムを構成する情報通信機器のメインサプライヤーである。また、NEC社が顧客から受注したICTシステムの一部の構築並びにサポートサービスを、同社はNEC社から請け負っている。
2021年3月期に同社(単体)がNEC社から仕入れた機器等は44,404百万円である。内訳はネットワーク関連機器(特に電話交換機)やNEC製機器の保守部品など多岐にわたると説明している。
同社はNEC社よりシステムインテグレーション、施工、保守など、各種事業を請け負っている。2021年3月期の同社の売上高のうち約1割がNECグループ向け、2割がNEC経由の売上高となっている。
提供価値と顧客
提供価値
同社が顧客に提供する基本的な価値は、第一に、コミュニケーションを成り立たせるためのキャリアグレードの通信ネットワーク、第二に、通信ネットワークを基盤として構築される業務系ICTソリューションである。
キャリアグレードの通信ネットワークとは、通信事業者(キャリア)が利用できる性能・信頼性を持つ通信ネットワークである。同社のようにネットワーク構築を担う事業者には、機器単体の機能や耐久性だけではなく、一部が停止しても通信サービス全体を停止させないシステムを設計・構築する能力や、障害の際の速やかな対応能力が要求される。
同社は通信事業者向けコアネットワーク(基幹通信網)の構築や移動体通信基地局の建設などを手掛けてきたことで、通信事業者とのSLA(サービス品質保証)を達成する水準の技術を有している。
障害対応については、同社は、全国400ヵ所以上の拠点からエンジニアが対応するサービス網を構築している。
同社の業務系ICTソリューションとは、情報通信技術(ICT)とオフィス空間設計を組み合わせ、業務効率化、コスト削減、コミュニケーション円滑化を通じて、創造性を高める働き方を実現するものである。例えば、従来、紙中心であった情報のデジタル活用である。これにより、オフィス内の書類の専有面積を削減し、書棚や壁を撤去することができるとともに、デジタル活用によりコミュニケーションの円滑化が進み、創造性を高める働き方に繋がると同社は説明している。
同社は、オフィスレイアウト、照明・空調設備、オフィス什器、社内制度等マネジメント手法のコンサルティングを含む総合的なソリューションを提供してきた。これが、2008年3月期に本格稼働を開始したEmpoweredOffice事業である。2021年3月時点では、オフィス内のみならず、オフィスから離れて働くテレワークなど時間と場所を越えた働き方改革に発展している。例えば同社では、自宅から30分圏内のサテライトオフィスを活用した「分散型ワーク」などの新しい働き方の実践に取り組んでいる。
同社の特徴は、自社開発やNEC製品にこだわらないマルチベンダーであること。多様な機器、ソフトウェアの組み合わせを自社において試行し、自社実践の成果を反映したソリューションが、顧客への提供価値となる。
顧客
同社によれば、2020年3月期時点で、同社の顧客数はNECグループを含む企業、官公庁・自治体など、10,000強。2021年3月期には、リモートワーク需要を取り込み、ウェブ会議システムの拡販により中小企業を中心に10,000社程度の新規顧客を獲得した模様である。
売上高構成比
2021年3月期の最終需要者ベースの売上高構成比は、一般企業45%、官公庁・自治体25%、通信業18%、NECグループ9%、海外3%であった。当期についてはGIGAスクール案件により官庁・自治体の比率が上昇した。一般企業には、主に流通・サービス業、金融業、製造業、放送業などが含まれる。
EmpoweredOffice事業の開始前の2007年3月期と2020年3月期を比較すると、一般企業向けの売上高が1.8倍、70,700百万円増加した(SR社試算)。2020年3月期の一般企業向けの売上高構成比は52%と過半を占めた。
官公庁向けも39%増(14,500百万円増)となり、売上高構成比は2%ポイント上昇した。
同じ期間に、通信業向けの売上高は16%減、NECグループ向けは同41%減、海外向けは同30%減となった。
2021年3月期:セグメント別売上構成比
2021年3月期は、デジタルソリューション事業における官公庁向けの売上構成比が前年の7%から20%へと上昇した。同期の特需であったGIGAスクール案件が同11%となった。一方、一般企業(製造業、商業・サービス業、金融業など)向けは2020年3月期の69%から、2021年3月期は59%へと低下した。前述のGIGAスクールによりセグメント売上が大きく増えた中で、孫会社非連結化の影響があった。
バリューチェーン
同社が提供価値を生みだし、顧客に提供するためのバリューチェーンは、上流から下流にかけて、【研究開発・事業開発】→【営業】→【企画・コンサルティング、設計、構築】→【施工、運用・監視、保守サービス】で構成されている。その概要は以下の通り。
【研究開発/事業開発】ビジネスデザイン統括本部
中長期的な技術戦略およびDXなどの先端技術活用のビジネス開発・事業化の推進、各種ソリューションの自社実践の管理、研究開発、技術実証、CVC等による事業投資の実施、研修など
【営業】営業統括本部
国内の企業、通信事業者、官庁・自治体、公共・公益事業者(放送、電力、鉄道など)、海外顧客に対する営業活動
【企画・コンサルティング、設計、構築】デジタルソリューション事業本部ならびにネットワークインフラ事業本部
業務系ICTプラットフォームに関するシステムインテグレーション、キャリアグレード(高品質)の大規模かつ広域なICTインフラに関するシステムインテグレーション(首都圏以外の顧客へのシステムインテグレーションはエンジニアリング&サポートサービス事業本部が主管)
【施工・運用・保守】エンジニアリング&サポートサービス事業本部
情報通信システムの施工・エンジニアリングサービスの提供、各事業本部が提供する各種システムに関する保守、運用・監視等のサポートサービスの提供
セグメント別事業内容
デジタルソリューション事業(2021年3月期売上高構成比37.1%、営業利益構成比38.6%)
デジタルソリューション事業では、主に業務系ICTプラットフォームに関するシステムインテグレーションを、企業、官公庁、自治体などに行う。2021年3月期の売上高と営業利益はともに同社事業セグメントで最大である。
代表的な事業は、オフィス環境とICTを融合した働き方改革ソリューションEmpoweredOffice事業である。同社が、NEC社との協業を通じて蓄積した通信技術と顧客基盤を利活用し、自社実践を強みとして独自に切り開いた市場だ。現在の働き方改革に結び付くソリューション事業を2007年から開始したことや、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(以下Zoom社、NASDAQ:ZM)のクラウド型ウェブ会議システムZoomの国内販売代理店第一号となったこと(2017年)に、同社の先見性が表れている。
2021年3月期のEmpoweredOffice事業(働き方改革ソリューション)は、セグメント売上高の約半分を占めるとSR社では理解している。
同セグメントでは企業の内線電話を繋ぐ構内交換機(PBX)の据付、保守を長年執り行ってきた。NEC製PBXの国内シェアは5割超と同社はみている。PBXの事業は、企業に対する働き方改革ソリューションの展開にも貢献している。
EmpoweredOffice事業の意義
同事業は、自社実践の成果を基盤として、2007年から事業化された。業務系ICTソリューションに、オフィスの空間設計に関するソリューションを融合する。
同社の業務系ICTソリューションは、特定の業務・業種に特化するものではなく、すべての業務で円滑なコミュニケーション(情報の共有や伝達)を実現するためのシステムの提案、構築である。顧客の属性を問わないこと、同社の通信技術が提供価値の基盤となっていることが特徴である。
同ソリューションは、実際にはICT領域だけでなく、ペーパーレス化によるフロア面積の創出、空調・照明の設置、セキュリティ対策、フロアレイアウト設計(導線の設計)、什器・引越業者手配など、非ICT領域にも踏み込む。これは、顧客企業の労働生産性の向上に結び付けるのが狙いである。ここに同社の独自性が表れている。
同社は、モデルルームではない自社の実際のオフィスを顧客に公開し、同事業のメリット、デメリットを顧客が直接評価できるようにしている。同事業開始から13年後の2020年3月期時点で、見学者は累計60,000人となった模様。
2016年3月期にEmpoweredOffice事業の売上高は44,000百万円、全社売上高構成比16%となった。2019年3月期の売上高は、同社公表の伸び率を基にSR社で試算すると56,000百万円で、セグメント売上高の55%、全社売上高の20%を占めた。2020年3月期~2021年3月期も、2019年3月期と同程度の構成比であったとSR社では理解している。
オフィス内からオフィス外へ
元来オフィス内のソリューションであったEmpoweredOffice事業は、オフィスから離れて働くテレワークなど、場所と時間を越えたソリューションに発展している。
同社はテレワークについて、2015年に自社導入の検討を開始し、2017年7月に全社で導入した。
2019年10月からは、本社勤務社員の通勤時間を30分以内とするためのサテライトオフィス「アクティブベース」を首都圏7ヵ所に開設し、「分散型ワーク」を開始した。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響も加わり、2020年2月末からは、本社スタッフの大半がテレワーク勤務となっている。
「分散型ワーク」は感染症対策との兼ね合いで注目されるが、本来の趣旨は、オフィスへの通勤を前提とした働き方の見直しにある。同ソリューションは、都心への一極集中の回避、通勤ラッシュというストレスからの解放という、社会課題に応えるものであると同社は説明する。健康経営の実践により従業員の幸福感が高まり、それがイノベーションの創出にも繋がると同社では考えている。
働き方改革関連ソリューションの内容
サービスの大枠は、テレワーク、オフィス移転・リニューアルソリューション、共創ワーク、ノーペーパー/文書管理である。2020年3月期を初年度とする中期経営計画において、さらにDX領域、特にクラウドのエコシステム構築を通じた事業の拡大を図っていく考えを示した。
テレワークは、同社が実践する「分散型ワーク」の技術とノウハウを顧客に提供する事業。複数のクラウドサービスを利活用し、以下に例示したようなテレワークの制約要因を克服できると同社は説明する。
進捗管理とコミュニケーションの制約を克服:ZoomとWrike、Slackなどで、コミュニケーションと業務管理を実施し、進捗・課題・成果を可視化(見える化)する。
社員の体調・出勤場所の円滑な管理:Slack、Workato、Kloudspotなどで、チームメンバーの出勤場所や体調の確認が可能。社員はアプリ(Slack)上で、出勤場所と体調を示すボタンを押すだけでよい。
契約書など紙文書の電子化による日常業務プロセスの改善(テレワークをし易くする):DocusignとBoxで、契約締結書の電子化に移行中。紙の契約書での印刷・郵送、承認回付・押印をクラウド化し、捺印や承認のための出社を不要とした。また、保管・ファイリングを自動化し、作業時間(工数)削減を実現できる。これにより、同社は、例えば、調達部門において年間約8,000件の契約書類のペーパーレス化が実現できる。この結果、従来2~3週間を要していた契約処理を1~2日に短縮し、印紙代を年間約130万円削減できる。
オフィス移転・リニューアルソリューションは、単なる引越や改装とそれに伴うネットワーク移設ではなく、オフィスづくりのコンサルティング、空間デザイン、ICTネットワーク構築、セキュリティシステム、設備工事・ファシリティにまで至る。
コンサルティング:どこでどのように仕事をするかというワークスタイルと、どのようなICT環境をつくるかの両面から顧客の計画をサポートする。オフィス移転・リニューアルの専任コンサルティングチームを、EmpoweredOffice事業の開始と合わせ社内に組織。
空間デザイン:働き方や省エネ・省スペース化、ICT活用まで考慮したオフィス空間をデザインする。同社の実践ではオープンなコラボレーションエリア、フリーアドレスを採用したワークエリアなどがつくられている。
ICTネットワーク構築:IP電話やスマートフォン、タブレット端末、テレビ会議システムなどオフィスに係わるICTネットワークを構築する。同社はビデオ会議システムPolycom、Web会議システムV-CUBEの販売代理店でもある。
セキュリティ:情報セキュリティと入退管理・映像監視などのフィジカルセキュリティを導入。顧客の企業データ等はデータセンター(S-iDC)にて保存、管理する。
設備工事・オフィスファシリティ:電源・空調や電話・LAN配線などの設備工事のほか、オフィス什器の設置も行う。
共創ワークとは、場所や時間などの制約や固定化された会議スタイルから解放され、いつでもメンバーがつながり意思決定・議論・コラボワークをスピーディかつ柔軟に実現する新しい働き方と同社は定義する。
クラウド型ウェブ会議システムZoomなどの映像コミュニケーションツールが共創ワークのコミュニケーションの基盤となる。Zoomはインターネット回線を用いるテレビ会議システムである。
同社はZoomを活用したSmoothSpace2を提供する。これは遠隔地同士の執務空間(人を含む)が等身大且つリアルタイムに映るディスプレイを用いた、空間接続ソリューションである。利用者同士が離れた空間にいても、同じ空間にいる感覚でコミュニケーションが可能となる。
ノーペーパー/文書管理のソリューションは、以下5つ。同社は、システムの設計・構築までワンストップで行う。
AI-OCR・RPA連携サービス:AI inside社のAI-OCR*ソリューションDX Suiteを用いて手書きの文字情報をデータ化し、RPA**によりその文字情報を自動的に抽出・入力するシステム。
NIAS(NEC Information Assessment System):肥大化したファイルサーバをスリム化する
ALog ConVerter:サーバへのアクセス履歴として出力された生ログ(アクセスログ)を収集・解析し、翻訳変換を行うことで「ユーザーの操作履歴を見える化する」サーバアクセスログ監査ソフトウェア
文書管理コンサルサービス:同社専門家によるコンサルティングを通じた顧客事業所の文書管理規程の見直しからペーパーレス化、文書管理システム導入、オフィス移転やリニューアル、働き方改革に向けたプロセスの見直し、社内ルールづくりを支援する。
SmoothMeeting:タブレット端末を利用した会議ソリューション。本ソフトウェアがインストールされた管理サーバが会議資料をPDFデータに変換し、会議出席者はWi-Fi(無線LAN)経由でタブレット端末に会議資料を転送する。
参考:構内交換機(PBX)とは
構内交換機とは、複数の電話回線(電話機)を相互接続して電話網を形成するために用いられる。具体的には、電話機同士の内線通話や、内・外線の転送を可能にする。
電話交換機(PBX)がない状態では、個々の電話をそれぞれ公衆回線と繋ぐため、社内電話でも公衆回線料金がかかる。通話の転送はできない。
電話交換機(PBX)には、オンプレミス型(レガシーPBX)、IP型(IP-PBX)、クラウド型がある。
オンプレミス型は、レガシーPBXと呼ばれ、最も古くから利用されている。
インターネットではなく、公衆電話回線を利用する。複数拠点を持つ企業では、拠点間で内線を利用するための設定が必要となる。また、オフィスのレイアウト変更、席替え、移転時にはPBX本体を移動する作業や、電話番号ごとの接続の再設定が必要となり、その分コストが掛かる。
一方、レガシーPBXのメリットは、構内に電話回線が引かれている場合には、セキュリティのリスクがあるインターネット回線を使用せず内線と外線を利用できる点と、PBX内臓バッテリーや電話回線からの給電により、停電時にも一定の時間は利用できる点である。
IP-PBXは、IP電話機*で従来のPBXと同じ機能を実現するものである。
インターネット回線を用いるため、電話回線を開通する必要はない。インターネットが導入されている企業であれば、社内LANにIP-PBXを接続するだけで内線電話網が構築でき、電話線の配線工事が不要となる。IP-PBXには、構内に電話交換機に変わるルータを設置するハードウェア型と、IP-PBXの機能を持つソフトウェアをサーバにインストールするソフトウェアタイプがある。
IP-PBXはインターネット回線を利用し通信を行うため、拠点毎のインターネット回線の月額料金、プロバイダ料金、外線通話にかかる通話料金などのコストが発生する。停電時には使用できない。
クラウド型では、サービスを提供するベンダーがクラウド上にサーバを設置し、サービスを利用する企業はインターネットを通じてそのサーバにアクセスする。
レガシーPBXのように、物理的な機器を設置する必要がなく、またクラウドサービスであるため、自社サーバにソフトウェアをインストールする必要もない。
クラウド上のサービスを利用することで、利用する回線数や機能などを導入後に自由に変更できる。社員個人のスマートフォンなどの端末を内線として利用する設定も可能となる。
一方で、月額料金やオプション利用料などが発生する。停電時には使用できない。
1990年代に創業した新興SIerと同社の違いは、同社が、古くから残る構内交換機(レガシーPBX)と最新のシステムを繋ぐノウハウを持つ点にある。
ネットワークインフラ事業(2021年3月期売上高構成比26.3%、営業利益構成比30.1%)
ネットワークインフラ事業では、主に通信事業者向けにコアネットワーク(基幹通信網)や移動体通信基地局の構築、官公庁、自治体、その他社会インフラ(電力、鉄道、放送など)を提供する事業者向けにICTシステムや有線・無線通信ネットワークの構築を行う。設立以来およそ70年にわたり手掛けてきた事業で、NEC社との協業も多い分野である。
顧客別では、通信事業者、および官公庁や自治体向けの売上高が相対的に大きい。2020年3月期は、官公庁・自治体向けの構成比は24%で全社平均17%を上回るとSR社では理解している。自治体向けの防災無線・防災用監視システムの構築、ケーブルテレビ局向け放送インフラの整備、民間企業向けのIoTシステムの構築(工場や店舗)などを執り行っている。
ネットワークインフラ事業は、同社の祖業以来のネットワーク構築力を活用できること、NEC社の顧客基盤を活用できること、が特徴である。
同セグメントが持つ技術は、同社の業務系ICTソリューションの基盤でもある。その技術の具体例としてネッツワイヤレスが挙がる。これはモバイル回線を用い、インターネット回線を経由しない閉域網を構築するものである。同社はこれを、工場、店舗、オフィス向けIoT/M2Mソリューションと組み合わせて展開している(後述)。
通信ネットワーク事業の沿革
同社は通信建設工事を祖業としている。1953年の設立当初は、NEC社との協業によるNEC製の電話交換機(局用交換機)や無線・伝送機器の据付工事と放送インフラの構築が主な事業であった。1954年の初の海外事業もフィリピンの電話交換機の据付工事であった。
同社は、無線技術を活用する防災事業に1960年代から進出。1959年の伊勢湾台風を受けて1961年に制定された災害対策基本法が契機となり、同社はNEC社との協働で、全国の自治体の防災無線システムの構築事業を展開してきた。
一般に、災害への備えにおいては、情報伝達が確実に行える堅牢な通信網の確保が要求される。堅牢とは不測の事態でも機能が停止しないこと。無線には、災害時に物理的に切断しないメリットがある。同社はNEC社と連携して、全国自治体の防災システムの無線化を担ってきたという実績がある。
防災システムにおいては、それを設置する構造物の堅牢さも求められる。災害発生の可能性が高い現場付近に防災システムを設置する場合には、一から構造物を建設する必要がある。建設事業者でもある同社は、中継所の場所の選定に伴う現地環境・地質調査、中継所の設計、資材調達、建設をワンストップで行ってきた実績を持つ。
消防分野では、NECグループのシェアは5割程度とSR社では理解している。
1990年代後半になると、通信事業者の携帯電話サービス拡大に伴い携帯電話基地局設置工事を請け負うようになった。
同社は2018年に設立したKDDI社との合弁企業KNSI社を通じて、KDDI社向けに、4G LTEサービス拡充と5Gサービス本格化を見据えた基地局建設事業を推進している。
通信技術の例:ネッツワイヤレス
同事業は、同社が2015年10月に開始した、インターネット回線を経由しない閉域網での法人向けMVNO*サービスである。IoT**/M2M***ソリューションと組み合わせる回線サービスである。導入実績は計300社以上で、業種は製造業、流通業、物流業、公共・官公庁、不動産、医療、金融など多岐にわたる。
同社は、通信回線網の構築だけでなく、機器の評価検証、キッティング、デリバリー、運用・保守などのサポートサービスも統合的に提供する。
IoT/M2Mを活用するシステムでは、デバイスやセンサーなどの機器、アプリケーション開発、ネットワーク設計、システム設置・施工、データをやり取りする移動体通信(無線)回線が必要である。ネッツワイヤレスは最後の回線に該当する。
IoTでは、一般にインターネットに接続されるシステムが構築される。ネッツワイヤレスはインターネットに接続しない閉域網であり、セキュリティの要求が高い用途に合致するネットワークとなる。なお、通信にはNTTドコモの回線を用いる。同サービス専用の独占帯域で他のユーザーからの影響がない通信環境を提供するとしている。
ネッツワイヤレスは、2018年7月より展開されている同社の高速VPNサービスに展開されている。同サービスは、Amazon Web ServiceやMicrosoft Azureなどのパブリッククラウド、同社の音声クラウドサービス基盤(ネッツボイスなど)などのクラウド基盤と顧客を直接接続する。閉域網であるため、高速・低遅延・高セキュリティのネットワークとなる。